ウォルター・クレイン 『書物と装飾 ― 挿絵の歴史』 (高橋誠 訳)

ウォルター・クレイン 
『書物と装飾
― 挿絵の歴史』 
高橋誠 訳


国文社 
1990年11月5日 初版第1刷発行
1991年4月15日 初版第2刷発行
418p(うち別丁口絵11p) 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価3,811円(本体3,700円)
装幀: 平野甲賀



本書「訳者解説」より:

「本訳書(中略)は〈アーツ・アンド・クラフツ〉の装飾デザイナー、挿絵画家ウォルター・クレイン(Walter Crane, 1845-1915)の主著 The Decorative Illustration of Books Old and New (London: G. Bell & Sons, 1896)を全訳したものである。」
「本書は、(中略)一八八九年に「芸術協会」の席で講演した「カンター・レクチャー」をもとにしたものだが、(中略)新しい章(第四、五章)を大幅に追加し、当時最新の動向にも目を配った構成からなっている。本書は一八九六年の初版以後、一九〇一年、一九〇五年に増補改訂版が刊行され、(中略)第四、五章にはさらに新しい文章が加えられた。翻訳の底本は原則的に初版に拠ったが、(中略)追加・訂正がある場合はそれに従った。なお改訂版には初版に見当たらない図版も付加されているため、それも本訳書に掲載した。」



図版(モノクロ)152点。各章末に訳注。
クレイン自身による挿絵図版も多数掲載されています。


クレイン 書物と装飾 01


目次:

口絵
 1 六世紀アイルランド 『ケルズの書』 (カラー)
 2, 3, 4 一四世紀イギリス 『アランデル詩篇書』 (モノクロ)
 5 一四世紀フランス 『フィリップ・ド・コミーヌからリチャード二世に宛てた書簡』 (モノクロ)
 6, 7 一五世紀フランス 『ベッドフォード時祷書』 (モノクロ)
 8 一五世紀イギリス 『薔薇物語』 (モノクロ)
 9 一五世紀イタリア 『聖歌楽譜書』の頭文字 (モノクロ)
 10, 11 一九世紀日本 『北斎漫画』 (モノクロ)

序文
第三版への覚え書き

第一章 原始時代に始まる挿絵と装飾衝動の展開
――第一期の装飾的挿絵である中世彩飾写本について

第二章 一五世紀における印刷技術発明以後
――第二の過渡期にある装飾的挿絵について

第三章 一六世紀以後における書物デザインの装飾感覚の凋落
――現代における復活について

第四章 最近の書物における装飾的挿絵の発展
――現代における印刷芸術の復活について

第五章 書物の装飾と挿絵のデザインに関する一般的原則
――書物の構成、活字配列、ページ・デザインについて

訳者解説――「花の詩人」W・クレイン
索引



クレイン 書物と装飾 02



◆本書より◆


「本書で扱う装飾と挿絵のテーマは広範囲に及び、おそらく他の芸術形態よりも人間の思想と歴史に深くかかわっている。だから、それをあらゆる側面から包括的に扱うのはきわめて困難だろう。したがって、芸術的側面を解明するのに必要である以上には、歴史的・尚古的観点から論ずるつもりはない。主として、書物デザイン、もっと厳密にいえば書物のページに応用されたデザインの問題を、その芸術的側面から取りあげたいと思う。書物のページに見られる挿絵デザインについては、さまざまな時代と国から選択した典型的な作品の図版を使って説明したいと考えている。
 筆者自身が書物デザイナー、イラストレーターであるため、自分の仕事のテーマは当然ながら、装飾と挿絵に絞られていた。人生の大部分、そのテーマと実践的に取りくんできたといっても差しつかえないだろう。したがって、筆者の達した結論は、個人的思想や経験に色どられ、影響を受けたとしても当然である。そうなると、本書の結論はそれらの結果に基づいているといってもよいだろう。」

「われわれ現代人は資材が厖大に増加したため、急速に安価な書物を大量生産できるようになったことを自慢し、印刷機械の威力に満足を感じている。(中略)いわゆる「暗黒時代」である中世の写本の数は、現在と比較してみればたしかに少ない。しかし、それらの中世写本は歴史の荒波にも耐え、その書を所蔵していたひとの心にたえず美と喜びを与えてきたという事実を忘れないほうがよいだろう。祈祷書は単にお祈りのための書ばかりではなく、挿絵本でもあった。それは、聖なる社(やしろ)、世界を映し出す小さな鏡、花苑の中の聖所のようなものでもあったのだ。」

「ところで、私が力強い輪郭、平塗りの色(フラット・カラー)、どっしりとした黒の量塊(マッス)を使うようになったのには、多くの要因があげられるが、中でもとくに日本の浮世絵版画の影響力が大きかったと思う。この浮世絵版画は、ある海軍大尉が日本からの珍しい土産品として私に贈ってくれたものだった。当時一八七〇年ごろから私は子供向けの絵本の挿絵を描いていたが、それはこの浮世絵版画から学んだ力強い輪郭、平塗りの色、黒の量塊の使い方をさまざまに応用した成果なのである。」

「本当に美しい書物の挿絵を描くには、的確な構想(プラン)、ページの版面の均衡、比例関係、嵩、それに、活字との関係といった装飾面の問題を考慮することが重要だと思う。」
「書物の挿絵は、気まぐれに素描を集めたもの以上でなければならないと思う。書物をデザインするには、書物の理念そのものである構成的・有機的要素は無視できない。したがって、書物の本質を成す不可欠の部分として、挿絵をデザインするとき、その全体との有機的関係を無視してしまうのでは、とても芸術的とは言えないだろう。
 しかし、筆者は装飾的挿絵が唯一の方法でしか生み出せないというつもりはない。もしそんなことにでもなれば、装飾的挿絵の方面で独創性や、個人的感情は圧殺されてしまうだろう。芸術には絶対的なものなどはない。断定はできないが、いかなるデザインにおいても、ある条件は認めなければならないと思う。しかも、不承不承認めるばかりではない。ゲームをしようとする前にその規則に従うように、進んでその条件を受けいれなければならないのだ。
 スポーツやゲームは規則と条件のおかげで、独特の個性や魅力が加わってくる。その規則と条件によって、最大の快楽と鋭い興奮が最終的に生まれるのだ。ちょうど、芸術や手工芸に課せられた条件や限界を守ると、製作するものは限りない喜びを体験し、それを見る者は美しい作品を鑑賞できるのと同じことなのだ。」

「すでに述べたように、「デザイン」には最終的な規範も絶対的基準もない。デザインというものは、ある要素をたえず組み換え、調整と修正をくり返し、もとの要素を変成することすらあるのだ。想像力の生み出す一種の化学作用が、形、量塊(マッス)、線、嵩を変容させ、たえず新しい組み合わせが展開していく。とにかく、、個々の芸術的問題が提起されるごとに、それを臨機応変に解決しなければならない。それぞれの問題が変貌していき、そのたびに新しい質問が発せられるので、特定のケースにあてはまるような絶対的な規則も原理も立てることができないことになる。もっとも、習慣から編み出された、ある一般的な指導原理が大きな価値を持つとはいえる。その原理を地図とコンパス代わりに使えば、デザイナーはある程度進路を取ることができるからである。」







































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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