渡邊昌美 『フランス中世史夜話』 

「メリュジーヌは嘆いた。(中略)そして窓がまちに跳び乗ると、たちまち有翼の大蛇と化した。塔のまわりを三度めぐり、窓を通り過ぎる度に悲しげに鳴いたが、やがていずかたともなく飛び去った。」
(渡邊昌美 「蛇体の妃」 より)


渡邊昌美 
『フランス中世史夜話』
 

白水社 
1993年2月10日 印刷
1993年2月25日 発行
226p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,000円(本体1,942円)
装幀: 田淵裕一



本書「あとがき」より:

「本や史料を読んでいると、大抵は本筋とは関係なしに、印象に残る言葉や文章に出合うことがある。そういう言葉を思い出すまま、それを手がかりに書き連ねて見た。」
「一九八七年四月号から翌年三月号まで、同じ題で白水社の雑誌『ふらんす』に連載した。本書中の比較的短い一二編がその時のもので、ごく僅かの手直しを加えてある。その他は新たに書きおろした。



図版(モノクロ)5点/カット46点。


渡辺昌美 フランス中世史夜話 01


帯文:

「騎士道、聖者伝説、海底に消えた都、魔法を使う法王の話など、興味深いエピソード、あまり知られていない逸話を、中世史料とくに年代記に即して語る。赤々と燃える暖炉の傍らでの一夜の楽しい語りのごとき中世史譚の数々。」


帯背:

「中世史譚の玉手箱」


目次:

騎士のおそれ
建国者コナン
海底の都
大帝の墳墓
魔法を使う法王
死者の巻物
騎士気質
絵巻物
僧院
クリュニーの栄光
白い兄弟たち
院長シュジェ
十二世紀の群像
ジェヴォーダンの魔獣
パン屋の一ダース
紋章
暗夜のつどい
蛇体の妃
幽明の境
亡霊
黒い聖母
東方の博士たち
審問の教科書
死の季節
リュブロンの惨劇
話好き

あとがき



渡辺昌美 フランス中世史夜話 02



◆本書より◆


「ジェヴォーダンの魔獣」より:

「一七六四年年夏の初め、ランゴーニュの近くで羊飼いの少年が食い殺された。これが発端で、以後頻々と被害があいつぐ。翌年三月にはジャヴォル村で九歳のフランソワが襲われた。「今朝運ばれて来たのを見ると、頭の骨は噛み砕かれ、肺も心臓も食い尽くされていた」、と村の司祭が書いている。牛を連れて帰った八歳のジャンは自宅の門口で哀れな目にあった。「叫び声に驚いて父親が出てみると、獣が何かを引きずるのが見えた。人を集めて森に踏み込んだところ、まず子供の木靴、次には帽子、そして最後に子供が見つかった。子供は噛まれていた。連れ帰ったが、間もなく絶命した。様子から見て、獣は子供をもてあそんだとしか考えられない」。これは役人の報告である。
 一七六七年までの二年半の間に、約百人の死者が出ている。ほとんどが年少者で、しかも女児が多い。地理的にはジェヴォーダン六八名、オーヴェルニュ三〇名、ヴィヴァレーとルエルグ各一名、つまりフランス中南部山地の大部分にわたっている。
被害の集中発生という点でこの事件が異例なのは確かだが、それよりもそれが引きおこした恐慌状態の方にこの事件の特色がある。実は当時、誰もこれを狼害とは考えなかったので、一頭の巨大な「けだもの」が広大な領域を疾風のように駆けめぐっていると思ったらしい。」
「狼群の間に狂犬病が蔓延したというのが実態だったらしいが、狼害の記録は何もこの時突然出現するわけではない。有名な『パリ市民の日記』一四二一年の記事には、「昨今の狼どもはひどく飢えていて、夜間町々に入り込んで害をなす。しばしばセーヌその他の川を泳ぎ渡る。墓地を掘り起こして埋葬したばかりの死者や、市門に吊された刑死者の屍(しかばね)に跳びついて脚を食い切る。女子供の食われたことも稀ではない」とある。狼は『日記』に何度か登場するが、一四二三年にはパリの街路を疾駆しているし、一四三九年にはサン・タントワーヌ門付近で一四名を襲った化け物狼「クールトー」の記事がある。」
「ジェヴォーダンの狼に新しい型の農民文化の形成を見たのは歴史家ル・ロワ・ラデュリである。農山村に行商人が浸透し、特に絵入りの小冊子、いわゆる青表紙本(リーヴル・ブルー)が流布するようになった結果、農民の空想力が活発化して恐慌となったので、「魔獣」はいわばマス・メディアの産物だというのである。別の歴史家ドロールは、戦乱や飢饉で社会の活力が低下する時に狼が出現する。狼は一つの社会が病んでいるかどうかを計るバロメーターだ、と言った。つまり、人間社会は人々が思うような確固たる基盤の上どころか、自然との危うい均衡の上に立っているので、少しでも均衡が破綻すれば狼、とりもなおさず自然が侵入して来るというのである。」



「パン屋の一ダース」より:

「十一世紀の初め、「トゥルニュスの市場では、おぞましくも人間の肉を獣肉同様に調理して売る者があった」という有名な話がある。この時はよほどの大飢饉だったらしい。「神の怒りから逃れるには神にすがるほかはないのだから、森の木の根を掘り、流れの水草をむしって食った末、万策尽きた。今思い出しても、果たして信じられるだろうか。あの悲惨な時代は回想するだに厭わしい。物狂おしいまでの飢渇の果てに、歴史に稀なる残虐行為が繰り拡げられた。人が人を貪り食ったのである。公道で旅人を襲い、手足を引き裂き、火に焙って食べた。故郷を捨てて逃れる者に宿を貸し、夜中に喉笛を掻き切って糧とした。また、卵や菓子で子供をおびき寄せては飢を満たした。至るところで死骸を掘り出しては陰惨な饗宴に供した」。」


































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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