村上陽一郎 『ペスト大流行 ― ヨーロッパ中世の崩壊』 (岩波新書)

村上陽一郎 
『ペスト大流行
― ヨーロッパ中世の崩壊』
 
岩波新書 黄版 225

岩波書店 
1983年3月22日 第1刷発行
1986年5月20日 第6刷発行
iv 192p 索引4p 
新書判 並装 カバー 
定価480円



図版(モノクロ)多数。


村上陽一郎 ペスト大流行 01


カバーそで文:

「十四世紀中葉、黒死病とよばれたペストの大流行によって、ヨーロッパでは三千万近くの人びとが死に、中世封建社会は根底からゆり動かされることになった。記録に残された古代いらいのペスト禍をたどり、ペスト流行のおそるべき実態、人心の動揺とそれが生み出すパニック、また病因をめぐる神学上・医学上の論争を克明に描く。」


目次:

序 ペストの顔

一 古代世界とペスト
 ペストの記録
 最初のペスト文学

二 ヨーロッパ世界の形成とペスト
 ペストのヨーロッパ
 変る中世社会

三 黒死病来る
 黒死病前夜
 どこから来たのか

四 恐怖のヨーロッパ
 ボッカチォの描く世界
 大流行の諸相

五 さまざまな病因論
 黒死病以前の病因説
 十四世紀の病因論争
 なぜ伝染するのか

六 犠牲者の数
 雨の降る日には糖蜜を
 死者の推定

七 黒死病の残したもの
 隔離政策の出現
 ユダヤ人迫害
 鞭打ち運動

八 黒死病以後
 中世の崩壊
 沈黙の祈り
 その後の大流行

あとがき
主な参考文献
索引



村上陽一郎 ペスト大流行 02



◆本書より◆

「まとまったペスト大流行のルポルタージュ文学として、おそらく最も初期であり、かつ冷静、正確、観察力の鋭さと表現の簡潔さなど、ほとんど文学的香りさえ漂わせた著作を、われわれはすでにこの六世紀のコンスタンティノープルにもっているのである。『ペルシア戦役史』のなかで著者プロコピオスの筆が描き出すペスト流行の有様を、ここに再現してみよう。」
「まず人間の形をした雲の幻影を見た人びとが数多く現われた。(中略)自ら部屋に閉じ籠って親しい友人とも口をきかず、仮に誰かがその部屋に入ってきても、何も聞えないふりをするものもあった。(中略)直接に幻影を見るという形で病気にかからなかったものにも、その幻影が夢の中に現われて、白昼にそれを見た人たちと同じように、苦しみを与えた。
 あるいは、黄泉の国から自分を呼びこもうとする大きな声が、自分の名前を叫ぶ幻聴を聞いた人もあった。どんな形ででも幻影を見ないで済み、あるいは恐ろしい幻聴を聴かなくて済んだ人は、どのようにして病にかかったのだろうか。
 あるものは、床から起き上がろうとして、またあるものは歩いている間に、さらには仕事をしている間にも、突然発熱が起った。」
「あるものは深い昏酔に陥り、あるものは狂気に駆られた。苦しみはどちらも同じだった。昏酔に陥った人びとは、睡りこけたようになり、日常の振舞いをすっかり忘却したようだった。看とってくれる人がいれば、彼らも食物を摂ったが、看病する人がなければ、食をとることさえ忘れて、餓死するほかはなかった。あるものは譫妄状態に陥り、不眠に悩まされ、殺される妄想に脅えて、激しい恐怖にさいなまれ、絶望的な叫びをあげて、どこかへ逃れようとするのだった。」
「看護人が人びとの同情を惹くのは、彼らもまた極度に消耗するからなのだった。彼らは、ベッドから落ちて床でのたうち廻っている患者を、いちいちベッドに戻さなければならない上に、せっかくベッドに戻しても、窓から身を投げようとしたり、水を見つけて渇きからではなく狂気から(というのも、多くの人びとが海水に身を投じたからである)、水中に身体を浸そうとするのを、力ずくで、ベッドの上に抑え込んでいなければならなかったからであった。」
「死者の尊厳を認めるいかなる儀礼も、もはや行われなくなっていた。遺体は、普段のように、葬列や祈祷や、歌で送られることもなくなっていた。ついには死者を海に運び投げ棄てるだけで十分だと考えられるに到った。」

「ギ・ド・シォリアクの療法
  鳥類の肉、若い豚の肉、年老いた牛の肉、さらに普通の牛豚でも、肥大したものの肉などは食してはならない。スープは、胡椒、生薑(しょうが)、丁子などで味つけしたものを飲むのはよい。昼寝は有害であり、夜寝(やす)むときは明方までぐっすりと眠るのはよい。朝食では、飲物を控えるべきである。夕食は日没一時間前に摂るのがよく、飲物は朝食のときよりは多く飲んでよい。食事とともに摂る飲物は、軽く純粋なブドウ酒に、水を五分の一ほど混じたものを用うべきである。
  新鮮な果物、乾燥した果物をブドウ酒とともに食べるのは悪くはない。ビート類などの野菜は、生のままでも調理をしても害がある。夜分から明方三時までは決して外出してはいけない。露にあたる危険があるからである。小型の川魚だけは食べてもよい。
身体を使い過ぎるのはよくない。普段よりも身体は温め気味にしておくのがよい。天水を料理や飲水に使うことは厳禁である。雨模様の外気に身体をさらすのは有害である。雨の降る日には、夕食後少量の糖蜜を摂るべきである。
  肥った人には日光浴を禁ずべきである。ブドウ酒は十分吟味されている限り、機会多く飲むべきであるが、一回量は少量にとどむべきである。オリーヴ油を調理に用いることは非常に危険である。断食や過度の節食、精神不安、激怒、過度の飲酒、これらすべて有害である。入浴も避けるべきである。」




こちらもご参照下さい:

ヒルデ・シュメルツァー 『ウィーン ペスト年代記』 進藤美智 訳
デフォー 『ペスト』 平井正穂 訳 (中公文庫)


































































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