種村季弘 『詐欺師の楽園』 (河出文庫)

「彼の発明の才は、(中略)後年科学アカデミーによって顕彰されたが、お座なりの応用電気学的発見のほかには、現実的目的のために彼が自動装置を考案したことは一切なかった。すべてが少年の夢想であり、純粋な遊びであった。」
(種村季弘 「夢の機械魔術師」 より)


種村季弘 
『詐欺師の楽園』
 
河出文庫 126I

河出書房新社 
1990年7月25日初版印刷
1990年8月4日初版発行
283p 
文庫判 並装 カバー 
定価580円(本体563円)
デザイン: 粟津潔
カバーデザイン: BISE
カバー: M・エルンスト「百頭女」より

「単行本初版 学芸書林 一九七五年
新装版 白水叢書35 白水社 一九七九年
新装版 白水社 一九八五年」



本書「はじめに」より:

「本書の原型は主として『奇想天外』(一九七四年二月―九月)と『流動』(一九七四年十二月―一九七五年五月)の二誌に連載したものだが、連載中私はたえず旧著『ナンセンス詩人の肖像』を念頭に置いていた。『ナンセンス詩人の肖像』が言語的ニヒリズムの考察なら、本書は能動的ニヒリズムの現象学であり、前者が言語の原陰画に関わるものなら、後者は身振り(ジェスト)の陰画制作を心掛けたものだと言える。」


章扉図版4点、カット13点。


種村季弘 詐欺師の楽園


帯文:

「トリックスターの肖像
ヨーロッパのさまざまな詐欺師たちがまきおこした事件の数々……痛快エッセイ!!」



カバー裏文:

「「詐欺はインテリの犯罪である」 (ラインハルト・ハップレヒト)
「人間は詐欺をするべく作られた」 (E・A・ポオ)
「詐欺師とは私である」 (種村季弘)
ヨーロッパのさまざまな詐欺師たちがまきおこした事件の数々を軽快なタッチで物語り、愛すべきトリックスターたちの肖像を描き出す痛快エッセイ!! 『ぺてん師列伝』姉妹篇。」



目次:

はじめに――表層の人

I
贋エチオピア皇帝の訪れ――英国艦隊をコケにした悪漢ヴェア・コール
 エチオピア皇帝一行の英国艦隊見学
 提督ら「ブンガ・ブンガ!」とよろこぶ
 名女優ヴァージニア・ウルフ
 主謀コール稀代の悪巫山戯、死してなお人を欺く
バルムベックの王様――大盗賊団長アドルフ・ペーターセン
 スラム街バルムベックの英雄
 裏切られた純愛
 猿(ましら)のごとき大盗賊団ペーターセン一家
 もう一人のアドルフ・ヒトラー登場
ルーマニアの泥棒英雄――貴婦人総ナメのゲオルク・マノレスコ
 カードの天才少年
 ブーローニュ伯爵夫人との恋
 上流階級専門の宝石泥棒
 大泥棒アメリカへ渡る
 ルーマニアでの大歓迎
 黄金の腕折れて
モナ・リザ泥棒――無頼の王様アポリネール
 モナ・リザの失踪
 アポリネール逮捕さる
 ピカソは共犯か
 第一次大戦の予行演習
 真犯人はダヌンチオか
 誰がこの次にモナ・リザを盗む

II
詐欺師の哲学――薔薇十字団大幹部カザノヴァ
 女流錬金術師デュルフェ夫人
 魔術師カザノヴァのカブ-エリ
 薔薇十字団のいかがわしき大幹部
 夫人は「哲学の子」を宿して生まれ変る
華やかな鉄仮面――女装の剣士デオン・ド・ボーモン
 純潔な少年剣士ロシア宮廷に女装潜入
 王の機密局の女秘書
 女装のフェンシング試合
 ボーマルシェとの対決
大革命の時計師――国家陰謀の技師ボーマルシェ
 時計職人から王室へ
 ルイ十五世の秘密外交官
 金儲けの天才
 アメリカ独立戦争を演出する男
 『フィガロの結婚』の成功と上演禁止
 裏切られた革命の技師
夢の機械魔術師――史上最大の魔術師ロベール-ウーダン
 カリオストロの謎の後継者
 大魔術師トリーニと遭う
 機械狂・発明狂ウーダン
 ロベール-ウーダン劇場
 奇術よりは二月革命
 映画はウーダン劇場から生まれた

III
悪魔博士の正体――オカルト怪人シュレンク=ノッチング
 トーマス・マン霊媒実験にお熱
 マンの『オカルト体験』
 操られ浮揚するハンカチ
 船酔いにかかった臨席者
 アンチ・オカルトの文化人たち
二十世紀に蘇る救世主――奇蹟かペテンか ブルーノ・グレーニング
 呪われた赤ん坊
 グレーニングの奇蹟に集まる病人たち
 足萎えが立ち、癌は治る
 好色絶倫の救世主
 支持する会のスキャンダル
 イエスは再来したか
顔のない男――詐術と煽動のスーパー・カメレオン
 大英帝国下院議員、ハンガリー秘密情報局員、スパルタクス団幹部
 中国大陸に暗躍
 井上日召との出会い
 ナチス支持のチベットのラマ僧
 さまよえるユダヤ人
史上最大の贋金造り――ポルトガル乗っ取りのアルヴェス・レイス
 葬儀屋の息子、人生へ出発
 アンゴラの鉄道株の買い占め
 獄中で通貨偽造
 正式のニセ札印刷
 銀行も国家も植民地もいただき

IV
詐欺師の楽園――トリックスターたちの肖像




◆本書より◆


「はじめに」より:

「窃盗(シノビ)や強盗(タタキ)と違って、詐欺はシステムを逆手にとる犯罪技術であるから、インテリでなければできない、ホワイトカラー犯罪なのである。サギられる側の性格もこれを裏づけている。年齢的に詐欺の被害が多発するのは、男なら五十歳代から六十歳代にかけてが圧倒的な数に上る。未成熟のために詐欺に掛るのではないのである。豈(あに)計(はか)らんや世の仕来(しきた)りをきちんと身に着け、このシステムについての知識経験を生かして、あわよくば一発当てようと勃々たる野心を秘めている連中が、いちばんのカモなのだ。カモはシステムの操作にかなりの自信を持っている。年来の経験の賜である。さもありなん。ただ惜しむらくは、彼はシステムの内部で、市民階級の諸条件を手放さずに一攫千金を企む。そこが詐欺師のツケ目だ。こちらは市民階級の外部から、市民そっくりの他所(よそ)者としてやってきて、脂ぎった市民諸君の欲望をシステム通り、但し外部から操作して、造作なく逆手に取ってしまう。」
「かように詐欺はシステムの裏を掻く技術であるので、ぜひともシステムという前提が存在していなければならない。貨幣制度や家族制度、身分制度や美術という制度がもしもこの世になかったならば、金融詐欺も贋金造りも、結婚詐欺も贋作も、発生しようがないからだ。ちょうど修辞学や論理学がなければ詭弁も嘘言も成立しないのと同様である。
 システムがなければ存在しないという点では、詐欺師は彼のカモになる市民と同様である。但し、彼だけは余人とは異り、システムに保護されてシステムの内部にいるのではなくて、さもまことしやかにシステムのなかにいるふりをしながらシステムにたいして他所者としてやってくる。ちょうどフランスの構造哲学者が日本にやってきて、この国を「表徴の帝国」として見たように、である。とはいえ、ロラン・バルトが碧眼紅毛の毛唐として当然持っていた特権を持たない詐欺師は、より普遍的な異人として存在そのものを、意味されるものの皆無である「表徴の帝国」として記号化し、世界を「詐欺師の楽園」という劇場に変容せしめなければならないのである。彼は存在を表層化し、ついには表層しかない世界を作り上げて、その上で市松模様の盤上遊戯に打ち興じる。
 つまり、(究極の)詐欺師こそは記号論体系そのものと化しておのれの現実的有効性をことごとく剥奪された見かけ倒し、身振りと言語の純粋陰画なのだから、ここに照明を当てることによって世界像がにぎやかな陽画として浮び上がってくるはずである。
 私はそういうものとしての世界祝祭図を描こうとして、この本を書きはじめたような気がする。」










































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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