フランセス・イエイツ 『薔薇十字の覚醒 ― 隠されたヨーロッパ精神史』 山下知夫 訳

フランセス・イエイツ 
『薔薇十字の覚醒
― 隠されたヨーロッパ精神史』 
山下知夫 訳


工作舎 
1986年7月30日 第1刷
1987年2月1日 第2刷
440p 図版(モノクロ)32p 
著者略歴・訳者紹介1p
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価3,914円(本体3,800円)
エディトリアル・デザイン: 西山孝司



本書「訳者あとがき」より:

「本訳書の底本は、Frances Amelia Yates, "The Rosicrucian Enlightenment" 1972, Routledge & Kegan Paul である。」


イエイツ 薔薇十字の覚醒 01


帯文:

「魔術と
カバラと
錬金術

F・イエイツ
「科学革命」の
謎に挑む!

F・ベーコン
デカルト
ニュートン
ライプニッツ
キルヒャー
ケプラー
彼らも薔薇十字団員だった!?

図版32頁
色刷り付録 薔薇十字宣言 収録。」



カバーそで文:

「一七世紀、
新・旧教諸国間の抗争が絶えないヨーロッパに
突如とどろきわたった薔薇十字宣言。
それは「魔術(マギア)とカバラと錬金術(アルキミア)を原動力に、
独自のユートピアに基づく新時代の幕開けを告げていた。
その背後に潜むのは知識の秘密結社、薔薇十字友愛団。
彼らの「見えない革命」は、
ルネサンスと科学革命の時代をつなぐ、
隠されたヨーロッパ精神史を形づくる……。」



目次:



第1章 王家の婚礼 王女エリザベスとファルツ選帝侯の結婚
 婚礼に秘められた意味
 テムズ川とライン川の合流
 祝宴の終わりとファルツ統治のはじまり
 一七世紀文化の光輝
第2章 ボヘミアの悲劇 ファルツ選帝侯フリードリヒ五世の凋落
 悲劇への伏線
 ボヘミア王位継承
 ファルツ選帝侯の誤算
 三〇年戦争の端緒を開く
 ルネサンスと啓蒙主義の間の空白
第3章 薔薇十字運動の潮流 ジョン・ディーからボヘミアの悲劇へ
 アンドレーエと『化学の結婚』
 アンドレーエが生きた時代
 「福音軍事同盟」にはじまる
 歴史の鍵を握るアンハルト侯
 ジョン・ディーの影響
 薔薇十字とボヘミアの悲劇
第4章 ふたつの薔薇十字宣言 『名声(ファーマ)』と『告白(コンフェッシオ)』
 薔薇十字友愛団の結成
 ディーの『聖刻文字の単子(モナス・ヒエログリフィカ)』との関係
 寓意と象徴の物語
 薔薇十字思想批判
 反フリードリヒ諷刺文書
 ボヘミアの千年王国構想
第5章 第三の薔薇十字文書 『C・ローゼンクロイツの化学の結婚』
 寓意画に描かれたハイデルベルク城
 ローゼンクロイツが巡る幻想の七日間
 ローゼンクロイツのモデルとは?
 『化学の結婚』が象徴するもの
第6章 薔薇十字哲学の代弁者たち ロバート・フラッドとミハエル・マイヤー
 薔薇十字プロパガンダを進めた出版業者
 フラッドとマイヤーの著作
 フラッドの薔薇十字哲学
 ヘルメス的ルネサンス再興
 マイヤーに流れるディーとブルーノの伝統
 薔薇十字国家ファルツ
第7章 ドイツの薔薇十字騒動 その隆盛と終焉
 薔薇十字宣言への熱い反応
 目に見えない薔薇十字学院
 友愛団の支持者たち
 宗教的立場を超えた結社
 薔薇十字運動終焉の秘密
第8章 フランスを襲った薔薇十字恐慌 流言と論争
 薔薇十字友愛団に対する魔女狩り煽動
 ヘルメス的伝統の中での位置づけ
 メルセンヌ=フラッド論争
 デカルトと薔薇十字友愛団
 デカルトの後半生にまつわる謎
第9章 イギリスでの薔薇十字展開 フランシス・ベーコンとその著作
 ベーコンの「学問と霊知の友愛団」構想
 薔薇十字運動とベーコン哲学の符丁
 ジェームズ一世治下の思想活動
 薔薇十字寓話『ニューアトランティス』
 失楽園以前のアダムへの回帰
第10章 イタリアの自由主義者と薔薇十字宣言 パオロ・サルピからトマソ・カンパネラへ
 イギリス=ヴェネチア外交事情
 『名声(ファーマ)』に併録されたボッカリーニ文献
 ブルーノ=ボッカリーニ=カンパネラ
 閉じられた普遍的改革の扉
第11章 アンドレーエの薔薇十字解釈 キリスト教協会の結成とユートピア都市構想
 演劇的表現としての薔薇十字友愛団
 譬喩に塗り込められたアンドレーエの真意
 アンドレーエの創造したユートピア都市
 「キリスト教協会」の実態
 薔薇十字の夢の継承
第12章 コメニウスとボヘミア薔薇十字騒動 『世界の迷宮』に描かれた顛末
 ハイデルベルク時代のコメニウス
 ファルツ侯に対するコメニウスの印象
 コメニウスが見た薔薇十字騒動
 薔薇十字への失望と幻滅
 福音主義的敬虔さの中への逃避
 天使からの「万有知(パンソフィア)」を得て
第13章 目に見えない学院から英国学士院(ロイヤル・ソサエティ)へ 薔薇十字運動の新たな展開
 フリードリヒ五世の死と王妃のその後
 王妃エリザベスが継承したもの
 イギリスに広まる新たな改革の予感
 歴史はくりかえす
 英国学士院(ロイヤル・ソサエティ)来歴
 魔術=科学的伝統の分離
 英国学士院(ロイヤル・ソサエティ)創立の隠された背景
第14章 薔薇十字的錬金術へのアプローチ アシュモールとニュートン
 一七世紀イギリスの錬金術復興運動
 アシュモールのジョン・ディー弁護
 錬金術に関心をよせたニュートン
 大英博物館の薔薇十字写本
第15章 薔薇十字主義とフリーメーソン 秘教的ルネサンスの遺産
 薔薇十字友愛団は実在したか?
 もうひとつの秘密結社の存在
 建築史とフリーメーソン神話
 エリザベス朝の秘教的影響
 ルネサンスと科学革命を結ぶ運動
第16章 薔薇十字啓蒙運動 歴史から消えた一時代
 歴史的枠組としての薔薇十字
 薔薇十字の魔術的要素
 科学の進歩を導いた宗教的立場
 薔薇十字友愛団とイエズス会の共通項
 薔薇十字の覚醒にむけて

薔薇十字宣言 
 『友愛団の名声(ファーマ・フラテルニタティス)』
 『友愛団の告白(コンフェッシオ・フラテルニタティス)』
補遺 薔薇十字宣言 書誌学的な注

原注
訳注
薔薇十字運動参考系図
薔薇十字運動参考年譜

訳者あとがき

索引
著者・訳者紹介



イエイツ 薔薇十字の覚醒 02



◆本書より◆


「この本が扱う時代は、前後に多少のずれはあるが、ほぼ一七世紀の初頭に限られている。ここで論じられるのは、「薔薇十字宣言」として一般に知られている一七世紀の初めにドイツで出版された文書と、それらの文書の歴史的な背景である。それ以後現在もふくめて「薔薇十字」を自称してきた運動については、論及の対象からまったくはずした。」
「たしかに一七世紀の初めに「薔薇十字啓蒙運動」と呼んでしかるべき運動が存在した。本書はまさにそのことを扱おうとしているのだ。
「「薔薇十字」は、ヨーロッパの文化史のなかで、ルネサンスと、いわゆる一七世紀の科学革命とをつなぐひとつの段階を表わしている。ルネサンスのヘルメス=カバラ的伝統は、この段階で錬金術というもうひとつのヘルメス的伝統の影響をうけることになる。「薔薇十字宣言」とは、その段階のひとつの表われであり、「魔術(マギア)とカバラと錬金術(アルキミア)」の組み合せを、実際そこで謳われているように、新しい啓蒙運動に向かう原動力として描くのである。」

「『化学の結婚』は(中略)錬金術的な幻想小説であり、元素融合の基本的イメージである結婚、すなわち花婿(スポンスス)と花嫁(スポンサ)の合体のイメージを用いている。さらに死のテーマ、すなわち元素が金属変成の過程でかならず経なければならないニグレドのテーマにも触れている。こうした錬金術的結婚や錬金術的な死、あるいはまた「錬金術師(キミスト)」の作業を象徴あるいは隠蔽している獅子や処女を、目に見える形で示した挿絵なら、同時代のミハエル・マイヤー派の錬金術的寓意画が提供してくれるだろう。物語の錬金術的な基盤は、その一日すべてが錬金術的な作業に費されるという一事によっても強調されている。
 むろんこの寓意物語は、魂における再生や変貌の過程を象徴する精神的なものである。錬金術はつねにこうした二重の意味をふくむものであるが、この場合ディーの「単子(モナス)」の図によって導入された精神的錬金術のテーマは、きわめて深遠なものである。登場人物の動きのほとんど数学的ともいえる厳密さの中には、『聖刻文字の単子(モナス・ヒエログリフィカ)』の理論の完全に忠実な反響をすら見るべきかもしれない。」

「フラッドの『両宇宙誌』は大雑把にいうなら、ルネサンスの魔術(マギア)とカバラに次の要素を加味して紹介したものといえるだろう。その要素とはパラケルススによって発展した錬金術(アルキミア)と、その伝統にジョン・ディーがもたらした展開とである。もしかりに薔薇十字宣言を、魔術(マギア)とカバラと、ジョン・ディーやパラケルススのもたらした錬金術(アルキミア)の新発展に基づく、改革への請願が語られている空想物語と解釈するならば、フラッドの哲学はまさに「薔薇十字」哲学、すなわち現代風に改められたルネサンス哲学とみなすことができる。」

「フラッドが完全な哲学体系を構築しようとしていたのに対して、マイヤーはおもに錬金術の寓意画を通じておのれの思想を表わした。しかしいずれにせよ彼らの哲学はともにディーの影響を受け、強固なヘルメス的基盤を備えていた。ヘルメス・トリスメギストスやエジプトのヘルメス的真実に対するマイヤーの崇拝ぶりも、フラッドのそれに少しも劣らない。フラッドとマイヤーは、他の何を表わしていようとも、なによりもまずヘルメス哲学者であり、初期ルネサンスの最初のヘルメス哲学の衝撃力が一部で衰えかけていた時代に、まさに一種のヘルメス的ルネサンスを代弁していたのである。」

「フラッドとマイヤーに関する本章の研究は、このふたりの「薔薇十字」哲学者がいずれも、ファルツのフリードリヒ運動の軌道上に位置していたことを示そうと試みてきた。」
「ファルツではまさしく一文化が形成されつつあったのだ。それは直接ルネサンスに由来するものだが、より新しい流れをともなっており、まさに「薔薇十字」的という形容詞によって定義されうるような文化であった。
 このような深い潮流が渦巻くその中心にいた君主こそ、ファルツ選帝侯フリードリヒであった。そしてその流れの推進者たちは、彼らの目標の政治=宗教的表現を、ボヘミアの冒険へ向かう運動のうちに求めていたのである。今のわたしの見方によれば、フィリップ・シドニーやジョン・ディーやジョルダーノ・ブルーノといった人物のまわりでくり広げられた前時代の神秘主義的運動のすべてが、アンハルト侯によるフリードリヒ擁立プロパガンダにおいて頂点をむかえようとしていたのである。
 フリードリヒ運動がこれらの深い潮流の原因だったわけではないし、それらの潮流の唯一の表現というわけでもない、けれどもフリードリヒ運動は、これらの潮流に政治=宗教的な表現を与えようというひとつの試み、つまりヘルメス的改革の理想をひとりの実在の君主を中心に実現させようという試みだったのである。この運動は、数多くの隠された水脈をただひとつの流れの中に統合させようとした。イギリス伝来のディーの哲学や神秘的騎士道が、ドイツ神秘主義の潮流と合流することになった。新しい錬金術は宗教的不和を合一するはずであった。そしてそれは「テムズ川とライン川の結婚」への隠喩という倍音をともなって、「化学の結婚」にひとつの象徴を見いだしていたのだ。」

「近代のベーコン研究家は、薔薇十字文献に通じておらず、それは彼らの研究にふくまれることもないし、思想史や科学史の正当な一分野として認められてもいない。しかし『名声(ファーマ)』や『告白(コンフェッシオ)』が忘却の彼方に沈む以前に『ニューアトランティス』を読んだ人々は、ニューアトランティスの住民の中に、ただちに薔薇十字友愛団やその目に見えない学院を認めたことだろう。」
「ニューアトランティスの世界には、この世のものならぬ性質がある。なるほどそれは科学革命の到来を予言するものかもしれないが、その予言は近代精神にのっとったものではなく、他の関連の中で行なわれているのである。ニューアトランティスの住民は学問の大復興を達成し、したがって失墜以前の楽園におけるアダムの状態に回帰したかに見えるのだ――これこそベーコンと薔薇十字宣言の作者の双方にとって進歩の目標であった。」

「薔薇十字団員は実在するのか。(中略)わたしにいえるのは次のことくらいである。すなわち、わたし自身の調査の及ぶかぎりでは、宣言が公刊された時期ならびに騒動の吹き荒れていた時期に、「薔薇十字団」を名のり、組織立ったグループとして実在していた秘密結社の証拠を発見することができなかったことである。(中略)そのうえ、薔薇十字宣言は世間に挑発的に放たれた、まったく公然たる声明であった。秘密結社の第一目標がみずからを秘密に保つことである以上、これほど劇的に振る舞い、みずからを公表するのは、実在の薔薇十字的秘密結社としては奇妙な行動といわなければならないだろう。
 宣言はむしろ、ある世界に関する、ユートピア的神話の形をとった啓蒙運動の布告と見るべきであろう。その世界では、ほとんど精霊にも比すべき啓蒙化された存在が、善行を施し、病いを癒し、自然科学や技術の分野の知識を広め、失寵以前の楽園の状態に人類を復帰させようと務めているのだ。したがって、これらの文書の裏に実在の秘密結社を仮定するのは、単なる通俗的誤解にすぎなかったのである。そして宣言の起草者は、この誤解に手を焼いていたふしがうかがえる。ヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエは、クリスチャン・ローゼンクロイツとその友愛団が虚構であることをはっきりさせるために、多大の努力をはらわなければならなかった。
 にもかかわらず、宣言の布告から、現実的な何かが浮かびあがってきたのをわれわれは見てきた。薔薇十字友愛団はなるほど虚構であったが、彼らはある実体、すなわちキリスト教同盟やさまざまな協会を創設しようと試みた人々のグループを暗示していた。
 この問題の正しい見方は、「実在の」薔薇十字団の捜索を諦め、そのかわりに薔薇十字運動が秘密結社の形成を示唆したかどうかを調べることであろう。学者は自分の発見をたがいに伝え合い、会合を開いて協力すべきであるという『名声(ファーマ)』の著者の勧告の中には、後に英国学士院に具体化されるような学問の進歩をめざす協会の構想がこめられていたことはすでに見た通りである。それでは宣言には、かつて実在し、今も実在している国際的秘密結社、すなわちフリーメーソンの構想または青写真もこめられていたのだろうか。」

「この本で行なった調査に対するひとつの見方は、それがヨーロッパ史の失われた時代を発掘したと見る見方である。われわれは地層を掘りさげる考古学者のように、一七世紀初頭における三〇年戦争勃発直前の表面上の歴史の下に、ひとつの文化全体、ひとつの文明全体を発掘した。それは視界からかき消されていたが、短期間であるからといっていささかも重要性が減ぜられるものではなかったのである。われわれはそれを、薔薇十字的文化と呼ぶことができるだろう。そして多くの観点からそれを検討することができるはずである。
 その文化に対するひとつの見方は、その薔薇十字的な側面やディーの衣鉢を継いでいる面で、それが海外で継続されたエリザベス朝だったとする見方である。エリザベス朝は、イギリスルネサンスの栄光に包まれたその婚礼の記憶も生々しいファルツ選帝侯とその花嫁とともに、ドイツとボヘミアへわたったのである。」
「ここにわれわれは、ヨーロッパ的諸伝統の交錯や関連を見ることができる。それらはファルツにおける薔薇十字時代が歴史から消えたために、われわれから見失われたいたものである。この時代をあらためて再構成するなら、さらに多くの関連が明らかになるにちがいない。」



イエイツ 薔薇十字の覚醒 03




こちらもご参照下さい:

アンドレーエ 『化学の結婚 付・薔薇十字基本文献』 種村季弘 訳・解説
種村季弘 『薔薇十字の魔法』
































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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