Marcus O'Dair "Different Every Time: The Authorised Biography of Robert Wyatt"

"Your madness fits in nicely with my own
Your lunacy fits neatly with my own - my very own
We're not alone"

(Robert Wyatt "Sea Song")


Marcus O'Dair
"Different Every Time:
The Authorised Biography
of Robert Wyatt"


Serpent's Tail, London, 2014
464pp, 24x16cm, hardcover, dust jacket
Jacket Design: Peter Dyer



ロバート・ワイアットの伝記が出たのでさっそく買ってよんでみましたが、うっかりしてブログで紹介するのを忘れていたので、さくさくと紹介したいとおもいます。
音楽ユニット「Grasscut」のメンバーでもある音楽評論家のマーカス・オデアーが、ロバート・ワイアット本人の協力のもとに書き上げた大冊の公式バイオです。同じタイトルの二枚組ベスト盤CD(「Different Every Time」)もリリースされていて、ゲスト参加曲で構成されるディスク2にはワイアットが著者のユニットで客演した 「Richardson Road」も収録されています。
本書は二部構成になっていて、第一部(サイド1)は誕生から転落事故までの、主にドラマーとしての活動期間、第二部(サイド2)はそれ以後、車椅子生活を余儀なくされてからの、主にヴォーカリストとしての活動期間――奥さんのアリフィー(Alfreda Benge)との共同作業の時期――を対象としています。
巻末には簡略なディスコグラフィーとネット上のサイトや動画などへのリファレンスがあります。本文中図版(モノクロ)多数。
ワイアットのレコーディングやギグの詳細については、1993年刊行のマイケル・キング(Michael King)著『ロング・ムーヴメンツ(Wrong Movements : A Robert Wyatt History)』を参照されるとよいです。


different every time 1


different every time 2


目次:

Introduction by Jonathan Coe

SIDE ONE: THE DRUMMER BIPED
1. THIS IS THE FIRST VERSE
George and Honor, London and Kent
2. MEMORIES
Deia and The Wilde Flowers
3. CLARENCE IN WONDERLAND
Mister Head and The Soft Machine
4. LIVING IS EASY, HERE IN NEW YORK STATE
Touring with Hendrix: the Softs implode in America
5. ZYXWVUTSRQPONMLKJIHGFEDCBA
Volume Two and a Pataphysical introduction
6. ON A DILEMMA
Moon in June and upside-down jazz-rock
7. AT LEAST I WON'T BE SHOT FOR SINGING
The End of an Ear and moonlighting with The Whole World
8. I MAY PLAY ON A DRUM
Matching Mole - and Robert meets Alfie
9. FIGHTING FOR A SOCIALIST WORLD
The Little Red Record and calling time on Matching Mole
10. FOLLY BOLOLEY
Venice and the fall

SIDE TWO: EX MACHINA
11. DIFFERENT EVERY TIME
Rock Bottom and marriage to Alfie
12. I'M A BELIEVER
Drury Lane, Top of the Pops and Henry Cow
13. SILENCE
Other people's records and the CPGB
14. FOREIGN ACCENTS
The Rough Trade singles
15. DIVING FOR DEAR LIFE
Shipbuilding and Work in Progress
16. THE AGE OF SELF
Old Rotetnhat: English as a foreign language
17. CP JEEBIES
Dondestan: Pataphysical postcards from Louth
18. THE WINTER OF OUR DISCOTHEQUE
Shleep and the thaw after a very long winter
19. SPEECHLESS
A moment in heaven on London's South Bank
20. HOPE CAN STILL FEEL PRETTY GOOD
Cuckooland: ditties from the Fitties
21. THAT LOOK IN YOUR EYES
Comicopera and getting on the wagon
22. WHAT'S NEW ?
The eight bars Robert got right

Discography
Wyatt Online
Notes and Sources
Photo Credits and Thanks
Index



different every time 3



「モダニズムにつねに関心を抱いてきたワイアットがアルフレッド・ジャリに親近感を覚えるのは当然だ。ジャリの凶暴で不遜なユーモアは今日に至るまでワイアットのものの考え方に影響を与えている。滑稽であるということはイノチガケの業だ(being funny is a serious business)というワイアットの言明は、ジャリのパタフィジック哲学のこの上ない要約である。ワイアットは肩をすくめて言う、「結局のところ、人生を受け入れる唯一の方法は、人生を冗談として捉えることだ。」」

「「マイク(ラトリッジ)とヒュー(ホッパー)の演奏のどこが好きだったのかというと、その演奏スタイルは名づけようがないからなんだ。ジャズでもないしロックンロールでもない。自分自身で探究して辿り着いたスタイルなんだ(It was just this *thing* that they explored.)。僕が知っているほかのミュージシャンは、要するに、ジャズの伝統とか、アヴァンギャルドの伝統とかに属していたり、プログレふうだったりする。僕が欲しかったのは別のもので、頭のなかにあるんだけど、それを明確に表現することはできない。まだ存在しない音楽。名前のない音楽なんだ。」



ソフト・マシーンはしかし、初期のダダ的ポップセンスを失い、テクニカルなジャズ・ロック志向を強めていく。他のメンバーについていけなくなったワイアットは疎外感にうちひしがれ、バンドを離れることになる。


「「ソフト・マシーンをやめることになって、僕は「孤児」になってしまった。ソフト・マシーンのことを家族のように思っていたんだ。」
「「ソフト・マシーンが僕を厄介払いすることに決定したのは当然だと思う。僕は「できることはすべてやったつもりだけど、それだけでは足りなかったんだ」と考えたが、それは僕の人生で何度も繰り返されるテーマになった。」」
「ソフト・マシーンを追い出されたことは、背骨を折ったことよりトラウマになっているとロバートは言う。幻痛(phantom pains)の原因は肢ではなくてバンドなのだ。「いまだに悪夢をみるんだ。みんなといっしょにステージにいるんだけどなにを演奏すればいいのかわからなかったり、曲名や演奏する順番を思い出せなかったり、バンドのメンバーが僕のことを知らなかったりとかね。」



そして慢性鬱病で自殺未遂常習者で破滅型のワイアットは、アル中になったり、マルクス主義者になったり、ステージ恐怖症になってしまったりと、いろいろあるけど省略します。
ロバート・ワイアットは窓から転落して車椅子生活を余儀なくされたことを、天啓と受けとっていたのではなかろうか。よくあるような、障害を「チャンス」と見てそれを「乗り越える」というようなハッピーな方向ではなく、障害によって道を閉ざされることによって、外部から背負わされていた義務を放棄できるようになって、見失いつつあった本来の自分に戻ることができた、という意味でです。たとえばワイアットの転機となった名作アルバム「ロック・ボトム(Rock Bottom)」のテーマが、太古の海中の生命への回帰であったように。


「「ロック・ボトム」には子どものような、というかむしろ胎児的なクオリティがある。ロバートは言う、「初期の段階の胎児には鰓があって、次には尻尾があって、というように、羊水の小宇宙のなかで進化は繰り返される。生命は水中で始まって、最初の発展は水中で起った――まだ僕らが人類と呼ばれる前にね。そしてある種のアートは、理性とか合理主義とかでは得られないそうした感覚に由来しているのではないか。アートは、進化したつもりでいる人類の内部に存在する動物(animal inside the sophisticated human)の再発見なのではないか。」
「クレーやピカソが年を取るにつれて子どもっぽい絵を描くようになるのはとても感動的だし興味深いことだ。テクニックの放棄。ジャズの歴史でも、たとえばオーネット・コールマンが弾き方を知らないのにヴァイオリンを演奏したりとか。とても勇気がいることだ。」



different every time 4



Grasscut - Richardson Road




David Gilmour - Comfortably Numb (Meltdown 2001)




「メルトダウン」コンサートのキュレーターを依頼されたロバート・ワイアットは、ステージ恐怖症でしたが、旧友ギルモアに説得されてやむなく舞台袖でヴォーカルを披露するはめに。本書にはそのへんの詳細も書かれています。



こちらもご参照下さい:
Michael King "Wrong Movements : A Robert Wyatt History"
三木成夫 『生命形態学序説 ― 根原形象とメタモルフォーゼ』













































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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