中野美代子 『『西遊記』XYZ』 (講談社選書メチエ)

「『西遊記』では、悟空がそのような、せまい窮屈な空間のなかに閉じこめられる話が、くり返し語られております。」
(中野美代子 『『西遊記』XYZ』 より)


中野美代子 
『『西遊記』XYZ
― このへんな小説の迷路をあるく』

講談社選書メチエ 455

講談社 2009年12月10日第1刷発行
243p 
四六判 並装 カバー 
本体1,600円+税
装幀: 山岸義明
 


本文中図版多数。


本書は、道教の煉丹術思想に基づく明刊本『西遊記』のシンメトリー構造と数字のトリックを論じた岩波新書『西遊記 ― トリック・ワールド探訪』の続編です。XYZは三つの「未知数」を表わしており、西遊記の登場人物(キャラクター)たちの記号(キャラクター)としての意味を読み解くのがXの章、西遊記の「並列構造」を論じ、『西遊記』世徳本が成立した万歴年間は『本草綱目』や『三才図会』などの百科事典(類書)が刊行された時代であり、「森羅万象をカテゴリーごとに分類してから記述するという類書の方法」が『西遊記』にも取り入れられていることを論じるのがYの章。『西遊記』世徳本の、故事を列挙した、原文でそのまま読んでも無意味なような詩が、音通字(同じ発音で異なる文字)で置き換えるとウラの意味があらわれてくる、というのは興味深いです。Zの章では、西遊記の「入れ子」構造が検討され、ひょうたんや壺中天から「地球空洞説」にまで筆は及んでいます。



中野美代子 西遊記XYZ1


帯文:

「なぜやたらと詩ばっかりなのか?
なぜいつもどこかにもぐりこむのか?
中国史上
もっとも「けったいな」
奇書を縦横無尽に解読」



カバー裏文:

「『西遊記』はただの冒険小説ではなかった!
孫悟空・猪八戒や怪物たち、
あるいはおびただしい作中詩やダジャレに
秘められたシンボリズムを縦横無尽に読解し、
中国的思考の迷宮を踏破する。」



目次:

はじめに
I 登場人物とは何か?
   1 史実から虚構への三蔵の旅
    2 だれがお経を授けたのか?
     3 シンボル体系としての孫悟空
II 「ならべる」世界
   1 万歴はおもしろい
    2 百科事典もどきの詩詞
     3 事典からウラの迷路へ
      4 網の目状の迷路
       5 「地口(じぐち)好きの猪八戒
        6 「余分な孫(そん)」は役たたず
         7 「ならべる」けれども立体構造
III 「もぐりこむ」世界
   1 洞窟のなかの洞窟
    2 「閉じこめられる」器物(うつわ)
     3 「もぐりこむ」他者のからだ
      4 モチーフも「もぐりこむ」
むすび

あとがき
 回文による本書あとがき




◆本書より◆


「登場人物とは何か?」より:

「それでは石と金属との関係はどうなっているのでしょうか。明刊本『西遊記』と同時代のすぐれた博物誌である李時珍(りじちん)の『本草綱目(ほんぞうこうもく)』の巻八「金石部」の冒頭に、金石についての美しい総論があります。すなわち、「石とは、気の核であり、土の骨である。大きければ岩巌となり、細(こま)かければ砂塵となる。その精(エッセンス)が金となり玉(ぎょく)となる」。石卵から生まれた孫悟空がしだいに金属と化していくストーリーは、当時の金石観と一致していることを示しておりますね。」

「数字における陰陽の関係は(中略)金・白虎・鉛などが配当された西に位置する孫悟空は陽(男)であり(中略)東に位置する猪八戒は陰(女)であるという、おどろくべき隠喩(メタファー)を生むにいたります。猪八戒は、周知のように、やたらに好色な雄ブタであること疑いありませんが、それはオモテのストーリーでのこと、ウラにかくされたシンボル体系のなかでは雌性を担い、あくまで雄性のシンボルを託された孫悟空と、観念的な性的結合をいとなむことになるのです。
 男女の性的な結合は、その結果として、赤んぼを産みおとします。赤んぼ、すなわち嬰児。この「嬰児」も、煉丹術において頻出する重要な用語で(中略)丹のことを、主として意味します。『西遊記』においては、ほかならぬ三蔵法師を指すことが多いのですが、それは、弟子たちのなみなみならぬ協力のおかげで、三蔵がめでたく西天取経の大業をなしとげることを、指しているわけです。」

「こうしてみますと、『西遊記』の登場人物の多くは、絶対的な死をまぬかれ、シンボル体系のなかで論理的にうごかされている連中だということがわかります。にもかかわらず、三蔵なり孫悟空なり猪八戒なりの個性らしきものが、じつに巧みに描かれているのですが、取経をめでたく終えるころになると、その個性もシンボル体系の論理によってフェイド・アウトいたします。」



「「ならべる」世界」より:

「明刊本の至るところに顔を出す長たらしい退屈な詩詞は、自然現象やら風景やら、戦いのありさまやら(中略)、その場の物語の展開とは直接的な関係のないことをもずらずらと「ならべて」いるのが多いのですが、この列挙のエネルギーは、明刊本とほぼ同時期に輩出した百科事典すなわち類書を生みだしたエネルギーとほぼ等質なのではないでしょうか。いい換えれば、分類ということを大前提にして成立したものが、類書なのです。」
「一九八〇年から三十年がかりで刊行された『中国大百科全書』(中略)は、伝統的な類書に倣(なら)って、ジャンル別になっております。」
「ちなみに、日本の『大百科事典』(平凡社)で『西遊記』を引きますと、サイヤン・採油(さいゆ)・西遊記(さいゆうき)・最尤推定法(さいゆうすいていほう)・蔡邕(さいよう)・崔庸健(さいようけん)・在来種(ざいらいしゅ)・……などとならんでおります。サイヤン(フランスの労働運動指導者)・蔡邕(後漢の文人)・崔庸健(金日成に次いで序列第二位だった北朝鮮の軍人)は人名ですが、最尤推定法とは統計学の用語らしいです。
 それにしても、なんたる支離滅裂なならびかたでしょう! 欧米の百科事典も、『ブリタニカ』にせよ『ラルース』にせよ、すべてアルファベット順ですから、いわば世界の秩序をめぐる知識体系を徹底的にぶちこわすものでした。ことばやことがらを、すべて平等に、そのスペルでならべるというのは、世界の秩序を宗教的に、あるいは政治的に把握し管理している教会や王権の側から見ると、とんでもないことだったからです。」

「『西遊記』においてもっとも長い列挙は、最終の第百回のぎりぎり最後に見える、六十三人もの仏神たちのお名まえです。そこには、(中略)三蔵法師と、孫悟空・猪八戒・沙悟浄・龍馬の師弟五人衆も悟りに達し証果(しょうか)を得たというわけで、凡胎を脱し仏神に位置づけられ、そのリストに加えられているのですが、かれらがそのリストのどこに位置づけられているかを見ると、なかなか興味深いものがあります。」
「つまりは、この仏神たちの名の列挙は、表面はいかにも純粋に仏教的でありながら、じつはその仏教的な秩序をひそかにこわしてしまおうという、道教徒のがわのたくらみが隠されているように思われます。」
「仏教的な秩序は、こうしてめちゃめちゃにこわされてしまいました。第百回の末尾における六十三人の仏神の名の列挙は、そのことをひそかに暗示しつつ、似而非(えせ)「仏教的世界」を完結させたのでした。」



中野美代子 西遊記XYZ2


著者は頻繁に、こんなふうに、「わかりやすく図式化」してくれるのですが、ぜんぜんわかりやすくないです。





























































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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