FC2ブログ

種村季弘 『ハレスはまた来る 偽書作家列伝』

「連続的な過去から脱出するには別の過去、あるいは虚構の過去に根拠をもとめるほかはない。自然の母胎から生み出されたことを否認して、人工母胎をあらためてみずから作りだし、そこからもう一度生まれ直す、という厄介な手続きが、いずれにせよこれらの文化革新者たちには必要だった。」
(種村季弘 「顔のない偽書作家」 より)


種村季弘
『ハレスはまた来る 
偽書作家列伝』


青土社 
1992年3月18日第1刷印刷
1992年3月31日第1刷発行 
307p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,200円(本体2,136円)
装画: 平賀敬
装幀: 高麗隆彦



本書「初出誌一覧」より:

「本書は、季刊「AZ」(新人物往来社)一九九〇年十二号~一九九一年十八号に「贋物創始」の総タイトルのもとに連載した文章を骨子とし、単行本編集に際していくつかの雑誌に発表した文章を加え、他は書き下ろした。」


本書は2001年に学研M文庫から『偽書作家列伝』として再刊されています。美術作品の贋作者を扱った『贋作者列伝』の姉妹篇です。


種村季弘 ハレスはまた来る 01


帯文:

「書物の
仮面
舞踏会
ゲーテとの往復書簡を創作した女流作家、日本人も知らない日本の文豪ハレス・レンノスケ、偽のシェイクスピア劇を書いたロンドンの天才少年など、文学史の余白にのこる文学的変装の名優たちや、古文書や手紙を捏造し世界を瞞着した、仮面の作家たちの名演戯。」



帯裏:

「動機は
カネか、はたまた
名声欲か―― 。
大きく出て
民族感情発揚の
愛国心からか―― 。」



エーゴン・フリーデルが、ある劇評で「ハムスン Hamsun」と書いたら、まちがって「ハレス Haresu」と印刷されてしまった。ハレスは植字工の誤読の産物だから、そんな名前の劇作家は実在しないが、ハレスとは誰なのかと問われて、フリーデルは「ハレス」という評論を書いた。レンノスケ・ハレスは幕末の日本の劇作家で、世界的に有名だが、ドイツでは翻訳が出てないので君たちは知らないだろう。「私はまた来る」というのがハレスの最後の言葉だそうで、それが本書のタイトルの由来になっています。
 
フリーデルによれば、文化とは剽窃の産物であり、

「人類の全精神史は泥棒の歴史である。アレキサンダー大王はフィリッポスを盗み、アウグスティヌスはパウロを盗み、シラーはシェイクスピアを、ショーペンハウアーはカントを盗んだ。停滞が出現することがあるとすれば、その原因は盗み方が足りなかったせいである。」

ということになるので、浜の真砂は尽きるとも世に偽書作家の種は尽きまじ、というわけであります。


目次:

プロローグ 千の仮面舞踏会

I
Haresu はまた来る エーゴン・フリーデル
サタンの偽者 ヴィルヘルム・ハウフ
蚤と才女 ゲーテ偽作とベッティーナ・フォン・アルニム
天使と悪党の間 トマス・チャタトン
シェイクスピアを作る少年 W・H・アイアランド
偽温泉誌漫遊記 ルートヴィヒ・ホフマン

II
フランス万歳 ヴラン=ドニ=リュカ V.S. M・シャスル
ある錬紙術師の冒険 コンスタンティン・シモニデス
歴史を偽造する男 フリードリヒ・ヴァーゲンフェルト
王妃の真筆 マリー=アントワネットをめぐる偽書簡
寸借詐欺師キリスト マリー・ルイーゼ・ブラウン
二十世紀の錬金術師 フランツ・タウゼント V.S. ハワード・ヒューズ
肖像ノイローゼ症候群 ディプロマ詐欺師たち

III
ボヘミアの薔薇 ケーニギンホーフ手稿
贋物創始 ウラ・リンダ年代記
中世貸します コンスタンティヌス大帝贈与
偽書検閲官の偽書 ヴィテルボのアンニウス

エピローグ 顔のない偽書作家

あとがき
初出一覧



種村季弘 ハレスはまた来る 02



◆本書より◆


「エピローグ 顔のない偽書作家」より:

「古典は過去の産物である。それあるがゆえに、その結果たる現在の文化が存在する。建前はそうである。といって、かならずしも建前通りには行かぬ場合もある。根の浅い新興文化には根拠となる過去がまるでない、とはいわぬまでも相対的に乏しい。そこで、ときとして現在という結果から過去という原因を作り上げてしまう。原因と結果が転倒する。別の過去を選択、もしくは虚構する。」

「連続的な過去から脱出するには別の過去、あるいは虚構の過去に根拠をもとめるほかはない。自然の母胎から生み出されたことを否認して、人工母胎をあらためてみずから作りだし、そこからもう一度生まれ直す、という厄介な手続きが、いずれにせよこれらの文化革新者たちには必要だった。」

「ことほど左様に、偽書作家には過去の連続性という足場がない。彼は無底の空間にただよう。(中略)確固とした大地に足を着けていないので、足元すこぶる不安定、さまよえるオランダ人のように永遠に水上を船で行くか、落ちることのないイカロスのようにいつまでも空中をただよいつつ、いっかな大地に着地しない。かりに陸上にまぎれ込むとしても、道々の輩(ともがら)として一所不住のさすらい人になるほかはない。
 たまたま本書にもそんなはかなげな浮遊種族が集合した。所属する大地を足下から失った亡国の民、海賊(海洋貿易民族)、あるいはまだ所属というものを知らない年少者、すでに所属を失っているユダヤ人。ということは、古代ローマ再興にあこがれたヴィテルボのアンニウスや、海洋国家フェニキア史を虚構したヴァーゲンフェルト、チャタトンやW・H・アイアランドのような未成年、ユダヤ系作家エーゴン・フリーデルや、自国にいながらにして自国文化を剥奪されたハンカのような国内亡命者が、典型的な偽書作家の顔立ちをして登場してくる。正真正銘先祖伝来の家宝の巻物をすでに持っているのなら、なにもわざわざ苦労して偽書をこねあげるには及ばないのである。」

「しかしどうだろう。なかには地上の限界に拘束されない偽書作家もいてもいいのではないか。彼がそこから生まれてきた人工の無根拠が地上存在をはるかに超越して到達不能の遠方にあるので、だれも彼の語ったことばの偽りの根拠または無根拠を指摘して、それを偽書とも虚言とも断定できないような、そういう完全なる偽書作家というものもありうるかもしれない。グノーシス主義者の真の故郷である光の充溢の世界のことばで語るがゆえに、出来上がった作品をいくら分析しても、どこまでいっても地上存在としての作者人格に行き着かないか、あるいは光の充溢そのものに突き当たってしまうしかないような、そんな偽書が。
 ひょっとするとそれはもうとっくに何気ない顔をしてそこらに転がっていて、ただこちらが気がついていないだけなのかもしれない。」














































































関連記事
スポンサーサイト



プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本