吉野裕子 『蛇 ― 日本人の蛇信仰』 (ものと人間の文化史)

「脱皮とは古い皮を脱ぎ、外界に新しく生まれ出たことではあるが、外に出たように見えながら、実はそれと同時に新しいカラにこもっていることなのである。自分自身という穴の中にこもりなおしている。自身こそは世界の中央である。中央の穴にこもり、その穴を時が来ればつき破り、つき破りして生命を更新する。その動きは中央から中央である。中央に生命を重ねて行く。その様相は古代日本人(中略)にはまことにめでたいものと感得された。」
(吉野裕子 『蛇』 より)


吉野裕子 
『蛇 ― 日本人の蛇信仰』

ものと人間の文化史 32

法政大学出版局 1979年2月1日初版第1刷発行
xiii 240p 口絵6p(うちカラー1p) 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 定価1,400円
ブックデザイン: 梶山俊夫



あれも蛇 これも蛇 たぶん蛇 きっと蛇。
本文中図版多数。


蛇1


帯文:

「神蛇と巫女の交わりに発する原始シャーマンの世界に古代日本人の死生観の原型を探り、さらに蛇の「もどき」「見立て」として象徴化され、変形されるさまを樹木、鏡、剣、扇、笠等々の祭具の諸相に考証して、日本の祭りの根幹にありながら、忘れられた〈蛇〉の存在に光を当てる。」


帯背:

「隠された祭神」


蛇2


目次:



第一章 蛇の生態と古代日本人
 はじめに
 一、蛇の生態(高田資料による)
 二、ハブの生態(中本資料による)
 三、縄文土器にみる蛇の造型
 四、蛇の見立てのはじまり
  1 樹木と蛇
  2 山と蛇
  3 家屋と蛇

第二章 蛇の古語「カカ」
 はじめに
 一、カガチ
 二、カガミ
 三、「カガミ」と「カガチ」
 四、少彦名神の神格とカガミの舟
 五、カカシ
 六、ホウヅキ
 七、カカ
  1 大祓祝詞における「カカ」
  2 『風土記』にみる「カカ」
  3 『万葉集』にみる「カカ」(その一)
  4 『万葉集』にみる「カカ」(その二)
  5 民俗の中にみる「カカ」

第三章 神鏡考
 はじめに
 一、蛇と光り
  1 蛇の目の生態――その特異性
  2 八俣の大蛇の目の光り
  3 三輪山の蛇神の目の光り
  4 アジスキタカヒコネノ神と光り
  5 ヒナガヒメと光り
  6 蛇の目の光り
 二、神鏡
  1 鏡と蛇の目の相似性
  2 鏡と剣
  3 鏡に対する倭人の情熱
 三、神鏡と蛇
  1 栲幡皇女伝承
  2 鏡作部遠祖・アメノヌカト
  3 斎宮と蛇
  4 『朝熊山縁起』における神鏡と蛇
  5 鏡と梛
 四、古鏡と池
 五、古鏡と古墳
 六、『捜神記』における大蛇の目と鏡
 おわりに

第四章 鏡餅考
 一、正月の鏡餅
  1 文献にみる正月の鏡餅
  2 鏡餅私見――歳神(蛇)の造型としての鏡餅
  3 歳神の本質
  4 各地の歳神の共通点
  5 歳神と案山子の同一性
 二、鏡餅の種々相
  1 近江湖北のオコナイの鏡餅 
  2 三重県三重村生桑神社の鏡餅供進祭
  3 石見の鏡餅と蛇
 三、オキョウモリ考
 四、正月の丸餅

第五章 蛇を着る思想
 はじめに
 一、マヤ遺跡における蛇体の連続三角紋
 二、台湾原住民の祖先神造型にみる連続三角紋
  1 パイワン族創世記「太陽と百歩蛇」
  2 祖先神象徴の蛇体三角紋の彫刻板
  3 連続三角紋彫刻の木蛇(針磨き・糸こき)
 三、日本における蛇を着る思想
  1 装飾古墳壁画及び埴輪巫女像にみる連続三角紋
  2 蒲葵葉の着装
  3 蒲葵の簑笠
  4 蛇としての諸植物
  5 「裳」について
  6 修験道における蒲葵扇

第六章 蛇巫の存在
 一、日本における蛇巫存在の可能性
  1 装飾古墳の三角紋と巫女埴輪にみる三角紋
  2 蛇巫に関わる諸問題
  3 蛇の祭祀法
 二、蛇巫と蛇祭祀
  1 ヌカヒメ伝承(『常陸風土記』)
  2 箸墓伝説
  3 賀茂社創建譚
  4 三輪大物主神と丹塗の矢
 三、蛇飼養の記憶と仏教説話
 四、蛇巫の零落とトウビョウ
 五、蛇巫の遺したもの(民俗の中にのこる蛇祭祀)
  1 ヤスノ御器
  2 年桶(歳桶・棚桶)
  3 蛇神事に付随する「壺」と「箱」の祭祀
 六、ミシャグチ神
  1 蛇託宣の種々相
  2 諏訪神社上社の秘神
  3 ミシャグチ神とその祭祀
  4 「ミシャグチ」の名称の中に潜む蛇
  5 「ミシャグチ」の「チ」の推理
  6 「剣先版」に相似の小野神社の神代鉾
  7 佐奈伎鐸(サナギの鈴)
  8 小野神社の高鉾につけられた「鍵」
  9 蛇の全身の造型物としての高鉾
  10 鐸及び高鉾に関する私見のまとめ
  11 ミシャグチ神の「シャク」の推理
  12 ミシャグチ神祭祀の変遷
 
第七章 日本の古代哲学
 はじめに
 一、男祖先神としての蛇
 二、女祖先神としての蛇
 三、脱皮について
 四、仮屋
  1 日本人の世界観と清浄観
  2 産屋の原理(人生通過儀礼における仮屋)
  3 ミソギ私見
  4 年間儀礼における仮屋
 五、節折の儀
 六、荒世・和世と荒魂・和魂
 七、ムケのツイタチ

あとがき



蛇3



◆本書より◆


「蛇、このふしぎな生物と人類とのつきあいはきわめて古く、世界各民族はいずれも蛇を無視することはできなかった。」
「蛇は祖先神として尊崇されるか、敵として足元に踏みにじられるか、そのいずれかであった。万物の霊長として自らを深く恃(たの)む人類が、何故この蛇に関する限り、一歩も二歩もゆずって或いはこれを祖先神として信仰し、或いは最大の敵として関心を寄せずにはおられなかったのか。
蛇への敵視も、これを裏返せば畏れに発しているものと考えられ、所詮、人類の蛇に対する思念の深さを裏書きするものに過ぎない。このような現象の原因は一体何であろうか。
カール・セーガン著『エデンの恐竜――知能の源流をたずねて――』によれば、
 「人類は生物進化の最終段階にいるが、そうした人間の脳の中には、当然、その進化途上の各段階の生物であった時の部分もくみ込まれている。つまりR(爬虫類)複合体とよばれる脳の一番奥の部分は恐竜の脳の働きをしている。それを取まく大脳縁辺系は、哺乳類の祖先との共有であり、更に外側の新皮質は霊長類としての人間の理性を掌る。人間が人間たり得ているのは、脳の八五パーセントを占めるこの新皮質のおかげであるが、しかもなお脳はこの三位一体で構成され、根本的には三者の力のバランスの上に成り立っている。」
という。つまり人間の脳の中には明らかに恐竜という古代生物が生きているのである。まことにショッキングなことではあるが、動かし得ない事実であって、著者は、「竜(爬虫類)をこわがるとき、われわれは自分の一部をこわがっているのだろうか。」と問いかけている。
蛇その他の爬虫類に対して人類が懐きつづけて来た崇拝と嫌悪、或いは畏怖は、私どもの脳の最奥部に潜む恐竜に由来するのだろうか。それは人類の遠祖であると同時に、もっとも恐ろしい敵でもあったのである。
蛇をはじめとする一群の爬虫類に接するとき、このように畏れとも嫌悪ともつかないある種の反応を人は覚えずにはおられない。このような反応は、上述の理由によって一種の先天的反応と考えられ、億単位の進化の時間の彼方に厳然としてひかえている事実に由来する。」

「古代の日本人は蛇に対して強烈な信仰をもっていたが、その「擬(もど)き好き」「連想好き」の本性のままに、実に種々様々のものを、この蛇に見立てた。
これら蛇に見立てられた物核(ものざね)の中で、まずもっとも巨大なものは山で、彼らは寂然として聳える円錐形の山の姿に、身体の上に身体を重ねてじっと動かない蛇、つまりトグロを巻く蛇を見たのである。」

「日本の神祭において蛇縄、綱引きなど、縄が蛇を象徴する場合は非常に多く、縄の中でもっとも神聖視されるシメ縄も濃厚な雌雄の蛇の交尾の造型と私は推測する。」

「しかし私は「神が蒲葵の簑笠に身を隠して来る」というこの考え方に同意出来ない。
神に扮する人が蒲葵の簑笠をまとってくるのは、他ならぬ「蛇を着る思想」から出ていることで、神はその身を簑笠に隠しているのではない。むしろ人は蛇を象徴する蒲葵の簑笠を身にまとい、蛇に化して堂々と人の世に顕現するのである。」

「脱皮とはつねに間髪を入れず自分自身の殻にこもりなおすことである。自分自身のカラとはつまり自身が一つの穴そのものであることである。カニにしてもヘビにしても、脱皮した瞬間に新しい皮の中にこもっている。その新しい皮はまだ非常に柔らかく、したがって脱皮直後の動物はもっとも危険な状態にいるわけである。しかしいくら柔らかかろうと脆(もろ)かろうとその外皮はすでに新しいカラには違いない。脱皮とは古い皮を脱ぎ、外界に新しく生まれ出たことではあるが、外に出たように見えながら、実はそれと同時に新しいカラにこもっていることなのである。自分自身という穴の中にこもりなおしている。自身こそは世界の中央である。中央の穴にこもり、その穴を時が来ればつき破り、つき破りして生命を更新する。その動きは中央から中央である。中央に生命を重ねて行く。その様相は古代日本人(中略)にはまことにめでたいものと感得された。」







































































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Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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