窪田般彌 『幻影のフランス ― ロココから二十世紀へ』

「人間の営みといっても、ヴェネツィアの場合、それは勤勉とか生真面目を意味しない。サド侯爵は十八世紀を規定して「完全に堕落した世紀」と言ったが、ヴェネツィアの人間にとって、「仕事をしに行く」とは「快楽を探しに行く」と同義語である。」
(窪田般彌 「ヴェネツィア幻視行」 より)


窪田般彌 
『幻影のフランス
― ロココから二十世紀へ』


小沢書店 
1993年11月20日 初版発行
216p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,266円(本体2,200円)



本書「あとがき」より:

「以前にエッセー集『ロココと世紀末』(一九七八年、青土社)を出したが、その後に書いた私の文章も、いささか偏愛的な十八世紀から今世紀初頭にいたる詩人、作家、風俗、都市に関するものが多い。世紀末の詩人レニエは、彼が愛する往時のヴェネツィアを「幻覚の地」と呼んだが、私もまた関心を持った異国の土地の幻視行をしていたのかもしれない。」


窪田般彌 幻影のフランス 01


帯文:

「偏愛的ヨーロッパ論
十八世紀ロココ、〈雅びやかな宴〉の時代からアポリネールの二十世紀へ。ヴェネツィアやブリュージュなど、都市と風俗、そしてモーツァルト、ラフォルグらの詩・芸術をめぐる、幻視のなかのヨーロッパ。」



帯背:

「ロココから今世紀へ
都市と風俗、詩・芸術
偏愛的ヨーロッパ論」



窪田般彌 幻影のフランス 03


目次:

雅びやかな宴――ワトーとロココの夢 (「is」 第19号 1982年12月)
下着のイマージュ (「is」 第37号 1987年9月)
ドン・フワン伝説 (小学館 『モーツァルト全集』 第14巻 1993年3月)
ヴェネツィア幻視行 (白水社 『モーツァルト 十八世紀への旅』 第3巻 1984年10月)
非合理世界への出発――フランスの幻想文学I (白水社 『フランス幻想文学傑作選』 第1巻 1982年12月)
ロマン派の狂熱と幻想――フランスの幻想文学II (白水社 『フランス幻想文学傑作選』 第2巻 1983年2月)
ジュール・ラフォルグ 一八八〇年の落伍者 (早稲田大学 「比較文学年誌」 1984年3月)
死都ブリュージュ (集英社 『世紀末の美と夢』 第5巻 1986年11月)
アポリネール 1908~1912 (早稲田大学 「文学研究科紀要」 第27輯 1981年3月)
ミラボー橋の恋――ローランサンとアポリネール (白水社 『フランス文学にみる愛のかたち』 1986年4月)

あとがき
初出一覧



窪田般彌 幻影のフランス 02



◆本書より◆


「雅びやかな宴」より:

「だが、面白いことに、ジャン・アントワーヌ・ワトーはこうした時代の雰囲気とはおよそ無縁な人間だった。彼は「雅びやかな宴」の優雅と洗練を歌う詩人画家として時代のパイオニアとなったが、生まれは粋なパリっ子などではなく、ベルギー国境に近い北フランスの町ヴァランシエンヌの大工職人の息子だった。」
「ワトーは一七〇二年頃、殆ど一文無しでパリに出てきた。そして、そこでありついた仕事は僅かな報酬で描く模写であった。彼の伝記にははっきりしない部分が多いが、致死の病となった結核に取りつかれたのは、毎日スープばかり飲んで暮したこの時代のことであろうと推定されている。」
「あくまでも彼は観察者にすぎない。あれほど美しいロココ女性を描いた彼が、生涯を独身で送り、これといった女性関係のエピソードが一つも残されていないのは、ゴンクール兄弟の言う、「十八世紀が呼吸し、それによって養育され、生命を与えられた悦楽」とは実人生において極めて縁遠かったことの証明となろうか。」
「フランドル生まれのワトーは、北方人特有の内省的で、暗い人間であったらしい。」



「ヴェネツィア幻視行」より:

「十八世紀のヴェネツィアは、頽廃の極みに達した快楽の都であった。従って、ごろつき、詐欺師、悪漢、不良の類(たぐい)の天国であったとしても少しも不思議ではない。
 サン・サムエーレ座のしがないヴァイオリン弾きだった二十歳のヴェネツィア人ジャック・カザノヴァも、その頃は生活も荒れに荒れ、まさに正真正銘のごろつきの一人だった。」
「カザノヴァとその仲間たちは、夜中に市中を徘徊し、頭に思いつくかぎりの悪業と無作法の数々を、人の迷惑も考えずに実行した。
 例えば、個人の家々の岸辺につないであるゴンドラの纜(ともづな)を解いて楽しんだ。また、しばしば産婆をたたき起こし、しかじかの女がお産だからと嘘をついて送り出した。かつがれた産婆は、出向いた家の女たちから気違い扱いされた。同じようなことは医者たちにもなされ、開業医たちはしばしば安眠をさまたげられた。街々を歩きまわっては、家々の戸口にぶらさがっている鈴の紐を手当り次第に切っていった。非常に暗い夜には、一種の記念碑である大理石の大きな盤をひっくり返そうとした。鐘楼のなかに入りこめる場合には、全教区中に早鐘で火事だと警鐘を鳴らしたり、鐘という鐘の綱を断ち切ったりした。
 こうした夜の狼藉を遠慮なくやってのけるカザノヴァは、どうにも手がつけられない愚連隊の一員だった。
 だが、この程度の悪業は、当時の大学生も公然とやっていたことでもある。」
「要するに、しがないヴァイオリン弾き時代に、カザノヴァが夜な夜な行なっていた乱暴狼藉などは、(中略)爛熟しきったヴェネツィアのような国際都市に当然生まれてくる頽廃現象であろう。こうした頽廃現象を危険きわまりないものと言ってしまえばそれまでだが、だからといってヴェネツィア市民の生活が不安に冒されていたわけではない。治安はむしろよかったと言うべきであろう。」
「ヴェネツィアは(中略)パリとともに、生きる喜びを最も味わうことのできた土地であった。」


























































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