種村季弘 『江戸東京《奇想》徘徊記』 (朝日文庫)

「どうもいけない。つい小さいものへ、小さいものへと目が行きがちになる。」
(種村季弘 「本所両国子供の世界」 より)


種村季弘 
『江戸東京《奇想》徘徊記』

朝日文庫 た-44-1

朝日新聞社 
2006年7月30日 第1刷発行
341p 
文庫判 並装 カバー 
定価700円+税
カバー装幀: 間村俊一
カバー装画: 三代広重

「本書は二〇〇三年十二月、朝日新聞社より刊行された。」



本書「あとがき」より:

「たまたま二〇〇一年九月から「サライ」のお誘いがあって、ひさしぶりの東京徘徊に乗り出した。四半世紀ほど留守にしていた東京はすっかりさま変わりしている。本文中にもしばしば嘆息したが、まるで外国を歩いているよう。めずらしい発見もあり、驚きも幻滅もありで、前後二年に及ぶ三十回の連載をたのしんだ。
 しかし連載が終わってみるとなんだか物足りない。一回四百字六、七枚の原稿枚数では毎度書き足りない思いがしていたのである。そこで暇にまかせてすこしずつ書き加えているうちに次第にそちらの作業にはまり込み、気がついたときには初稿の四倍くらいにふくれ上がっていた。その結果である本書は、だから事実上の書き下ろしに近い。」
「巻末に西田成夫編になるガイドブックが付されているので、新東京名所見物案内としてご利用されたい。」



「付録」中に写真図版60点、「江戸名所図会」その他図版8点。


種村季弘 江戸東京奇想徘徊記 01


カバー裏文:

「当代きっての博覧強記にして粋人である種村季弘をガイドに、厳選された東京の裏町30を闊歩。ポストモダン臭一色になった東京のアスファルトを一枚一枚剥がすと、江戸や明治の名残が顔をのぞかせる。ありきたりの東京案内では満足できないすべての都市愛好者に贈る、ゼイタクな旅をまとめた東京ガイダンス。」


目次:

1 碑文谷の蓮華往生
2 目黒の近藤富士
3 品川逍遥
4 川崎・大師河原の「水鳥の祭」
5 森ケ崎鉱泉探訪記
6 人形町路地漫歩
7 上野山・寺と公園
8 墨堤綺談
9 深川南北漫歩
10 永代橋と深川八幡
11 本所両国子供の世界
12 亀戸天神社と柳島妙見
13 築地明石町と清方
14 根津権現裏と谷中
15 柴又帝釈天と新宿
16 北千住往来
17 淺草六区
18 吉原紅燈今昔
19 立石の要石、仲見世
20 中野の象小屋犬屋敷
21 神楽坂の仇討ち
22 伝通院と「外科医」の池
23 中山道板橋宿
24 飛鳥山の花見、王子の狐
25 大塚坂下町儒者棄場
26 大塚一つ目小町物語
27 池袋モンパルナス
28 池袋二業地の家
29 愛宕山「路地奥」再訪
30 新橋アンダーグラウンド

付録 
 東京三十の街 徘徊の手引き (文: 西田成夫/写真: 三好弘一 ほか)
 東京三十の街 徘徊地図

あとがき

解説 (西田成夫)



種村季弘 江戸東京奇想徘徊記 02



◆本書より◆


「人形町路地散歩」より:

「ことほどさように人形町界隈の路地は、明治大正生まれの人たちにとっては過ぎにし日々の思い出が幻灯画のように浮かび上がる夢の環境だったのだろう。そこには一六銀行こと質屋という手軽な金融機関があり、うまいもの屋があって、人間国宝クラスの職人と美人芸者がいて、どうかするとランチエ(金利生活者)のすね者がいたりする。そしてそういう町がそのまま豪勢なサロンのような場になっていて、独立国のようによその土地から隠されている。そんな何でもありの路地横丁パラダイスはもうないが、残り香ぐらいはうっすらと漂っている。」


「本所両国子供の世界」より:

「戦後すぐの両国駅は房総方面に行く買い出しの乗客でごった返していた。中学生のわたしも大きなリュックサックにさつまいもをぎゅうづめにして、炎天下の無蓋列車で熱中症になりかけながら両国駅に着いて長い長いコンコースをよたよた歩いていると、女連れの図体のバカでかい進駐軍兵士に蹴飛ばされた。リュックのさつまいもを背にひっくり返り、カブト虫みたいに仰向けになって手足ばかりバタつかせていると、のっぽは「ヘイ。ガッデム」とかなんとかいいながら、ガムをペッと吐き出して行ってしまった。
 そういえば芥川龍之介も、叔父さんが若い頃に百本杭のあたりで釣りをしていると、通りすがりの新徴組(江戸市中取締の浪士組)の侍にやにわに喧嘩を売られる話を書いている。新徴組はいきなり鞘当てをしてから、文句があるなら抜けとばかりに挑発してきたそうである。相手は雲突くばかりの大男だった。叔父さんは後ろ向きに小さくなり、気がつかなかったようなふりをしてやりすごした。
 これで見ると両国では、むやみに図体の大きいやつが肩で風を切っているように思える。
 さあ、しかしどうだろう。山東京伝の『骨董集』は、凧や人形や独楽(こま)といったおもちゃおもちゃした小さなものを好んで話題にした随筆集で、その京伝がいまは回向院の一隅に眠っている。それに両国橋を浅草橋方面に渡れば人形屋がずらりと並んでいる人形問屋街だ。蔵前にかけては文房具と玩具の問屋街がえんえんと続いている。やはりここは子供の世界なのではないか。
 帰りがけに人形問屋の吉徳(よしとく)にお邪魔して、日米のお人形交歓時代の日本人形を拝見させてもらった。ついでに活(いき)人形の名人平田郷陽(ごうよう)作の桜子ちゃんという名の人形と並んで写真を撮らせてもらう。
 もう成長はいい加減たくさん。力ずくののっぽは新徴組や進駐軍におまかせしたい。こちらはいっそ元の小人の正体をあらわして、桜子ちゃんの寸法に戻ってしまいたいものだ。」



「あとがき」より:

「ご覧のように偏屈な東京徘徊ながら、たまたま戦前、戦中、戦後を生きて、いままたポストモダン東京を赤毛布(アカゲット)漫遊記的にうろついている身には、いささか面当てじみたその偏屈を通すのがこたえられないのである。いたずらに馬齢をけみした徘徊老人の特権は、東京という空間の旅が幼少年時の過去にさかのぼる時間の旅でもあることで、無目的にうろつきながらも、それと知らぬ間に失われた時を求める旅になっているのであれば当人としてはよろこばしい。」
























































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

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趣味: 図書館ごっこ。

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将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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