『シモーヌ・ヴェーユ著作集Ⅲ 重力と恩寵/救われたヴェネチア』

「荒野のなかを、ぼくは生涯さまよわなければならないのだろうか?
ぼくは夢を見ているのだろうか? とつぜん、人間であることを止めたのだろうか?
これまでもぼくは、現在あるようなぼくであったのかもしれない。」
「人間に逢わずに暮らすには、どこへいけばよいのだろうか?」

(シモーヌ・ヴェーユ 「救われたヴェネチア」 より)


『シモーヌ・ヴェーユ著作集Ⅲ 
重力と恩寵/救われたヴェネチア』
編集: 橋本一明・渡辺一民


春秋社 
1968年5月10日 第1刷発行
1987年6月20日 第8刷発行
413p 口絵i 
四六判 丸背クロス装上製本 貼函 
定価2,000円



「編者後記」より:

「この巻に収められている『重力と恩寵』と『救われたヴェネチア』の二篇は、きわめて性格を異にする二つの作品である。前者はヴェーユの死後、彼女の残した膨大な『ノート』をもとにギュスターヴ・ティボンの編んだものであり、後者はヴェーユがその生前完成を希っていた戯曲の未定稿だからである。」


ヴェイユがティボンに託した「ノート」の(ほぼ)全訳は、『カイエ』全四巻のうち第一巻~第三巻としてみすず書房から刊行されています。『カイエ』第四巻に収録された最晩年のノートは、それ以前には『超自然的認識』として刊行されていたものの(ほぼ)完全版ですが、そこには、本書にも収録されている、「救われたヴェネチア」のための覚え書が含まれています。


ヴェーユ著作集


目次:

重力と恩寵 (渡辺義愛 訳)
 序文 (G・ティボン)
 重力と恩寵
 真空と埋め合わせ
 真空を受け容れること
 執着から脱け出すこと
 真空を埋める想像力
 時間を放棄すること
 対象なしに欲求すること
 「私」
 遡創造
 消え去ること
 必然性と従順
 錯覚
 偶像崇拝
 愛
 悪
 不幸
 暴力
 十字架
 秤と梃子
 不可能なこと
 矛盾
 必然的なものと善とのへだたり
 偶然
 愛すべきものは不在である
 浄化作用をもつ無神論
 注意と意志
 訓練
 知性と恩寵
 読み
 ギュゲスの指輪
 宇宙の意味
 仲立ち
 美…
 代数学
 社会の烙印を
 巨獣
 イスラエル
 社会的調和
 労働の神秘

救われたヴェネチア (渡辺一民 訳)
 救われたヴェネチア 三幕の悲劇 (未定稿)
 『救われたヴェネチア』に関するノート

編者後記 (渡辺一民)



重力と恩寵2



◆本書より◆


「重力と恩寵」より:

「恩寵、それは下降の法則である。」

「あまりひどすぎる不幸に陥った人間は憐れんでさえもらえない。いやがられ、嫌われ、さげすまれる。」

「純粋に愛すること。それはへだたりを受け容れることである。自分自身と自分の愛するものとのあいだの距離をこよなく愛することである。」

「精神につきあたるもろもろの矛盾、それらだけが実在性の諸相である。それらは実在的なものを見分ける基準である。想像上のもののなかには矛盾はない。矛盾の有無によって必然性の有無がたしかめられる。」

「ほんとうの善はどんなものでも相矛盾する条件をともなう。だから、その結果、不可能である。注意をこの不可能にほんとうに集中し、そして行動する人は、善を行なうであろう。
 同じように、どんな真理にも矛盾が含まれている。
 矛盾はピラミッドの頂点である。」

「魂のふるまいのなかに相容れないものが同時に存在すること。ちょうど両側に同時に傾いている秤のように。それが聖性であり、小宇宙の実現であり、世界の秩序を模倣することである。」

「悪は善の影である。固体性と厚みをそなえた現実の善はすべて悪を投影する。想像上の善だけは影を投げかけない。
 すべての善はなにがしかの悪と結びついている。そこで、もし人が善をのぞみ、しかもそれにともなう悪を身のまわりに及ぼしたくないと思うならば、その悪を避けることはできないので、どうしてもそれを自分ひとりで背負いこまなければければならなくなる。
 したがって、この上もなく純粋な善を希求する場合は、いちばんひどい悪を背負いこむ覚悟を必要とする。」

「いちばん貴重なものは生存のなかに根をおろしていないことを知ること。このことはすばらしい。なぜ? それは魂を時間の枠のそとに投げ出すからである。」

「新しいことがらを理解するには及ばない。むしろ(中略)全身全霊を傾けて、明白な真理の理解にたどりつくよう心がけなければならない。」



「救われたヴェネチア」より:

「かつて人びとはぼくの言うことろに耳傾けた、話せば答えたものだった。
ぼくの言葉はぼくの意志を人びとのあいだにはこび、
ぼく自身人間だった。だがいまは獣のように
ぼくがこれほど切望しても、ぼくの声は理解されない。
ぼくの魂が哀訴するために、ほとばしり出ようとしてもいまは空しい。
ぼくの苦しみは黙りこくり、ぼくの罪はただうるさがらせるばかりなのだ。
ぼくのまわりのあの固い表情を、おののかせるものはもうなにもない。
そしてぼくの耳にする言葉もまた、ぼくには苦痛をあたえる雑音にすぎぬ。
だれひとり答えてはくれない。どのような運命がぼくのうえにしのびよったのだろう?
荒野のなかを、ぼくは生涯さまよわなければならないのだろうか?
ぼくは夢を見ているのだろうか? とつぜん、人間であることを止めたのだろうか?
これまでもぼくは、現在あるようなぼくであったのかもしれない。」

「もしこのさき生きのびようと望むのなら、ひとことで
日々の糧を拒否しあたえもする人びとを、しばしば
探し歩かねばならないだろう、つねにあらゆる場所で
ぼくの裏切りが知られてはいまいかと怖れながら。
旅をどのようにいそごうとも、噂はそれよりもはやく走り、
いかなる望みをいだこうとも、この地上でぼくは、
そのまえへ出ておののかずにすむ、そのような視線に出逢うことはあるまい。
人間に逢わずに暮らすには、どこへいけばよいのだろうか?
ああ、生きながらえ、しかも太陽を見ないですませることができるならば!
気違いになりそうだ。そんなに見つめられると、
あわれんでいってくれ、気違いにはなりたくないのだから。」

「友もなく名誉も奪われ、追放されてぼくは去る。
ぼくに期待できるものはもうないのだ、なにもかも奪われてしまったから。
どこへいったらいいのだろう? 裏切者をだれが迎えてくれようか、
ぼくの裏切りが救ってやった人びとすら、ぼくを追放するからには?」









































































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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