『折口信夫全集 第廿三巻 作品 3 詩』 (中公文庫)

「あゝ わが目 盲ひよかし」
(釋迢空 「息」 より)


『折口信夫全集 第廿三巻 
作品 3 詩』
 
編纂: 折口博士記念古代研究所
中公文庫 Z 1-23

中央公論社 昭和50年11月10日初版/昭和62年3月30日再版
476p あとがき28p 目次1p 
文庫判 並装 カバー 定価680円
正字・正かな



折口信夫は面白いな。
コカイン中毒でゲイの国学院教授、というのはそれほどめずらしくもないですが、スサノオをキリストと重ね合わせつつ感情移入したり、極度の潔癖症のくせに乞食や放浪者にあこがれたりするところがおもしろいです。
ちなみにわたしの卒論(未提出)は「『死者の書』と『ドグラマグラ』の比較研究」でした。
というわけで、折口信夫の、というか、釋迢空の詩をよんでみました。


折口信夫全集23-1


本書「あとがき」より:

「全集第廿三巻は「作品」第三とし、詩集、即ち『古代感愛集』・『近代悲傷集』・『現代襤褸集』の三冊を收録した。」
「『古代感愛集』は最初昭和二十二年三月、靑磁社から公刊した。」
「その後著者はこの本を解體、同二十七年五月に、(中略)編輯し直して角川書店から再刊した。(中略)全集には角川書店本を収録した。」
「『近代悲傷集』は昭和二十七年五月、角川書店より刊行。」
「『現代襤褸集』は、全集において初めて公刊された詩集である。書名は著者が生前に決めておいたものではない。」
「『現代襤褸集』には、著者は別に『現代饗宴集』という書名も考へてゐた。『現代襤褸集』と決したのは、全集の編輯に際して編者等が著者の意圖を察して假に定めたまでである。」



目次:

古代感愛集
 追悲荒年歌
 乞丐相
 幼き春
 干瀨の浪
 伊平屋の村
 古びとの島
 夏日感傷 四章
 はつくさ
 おもの ちしる
 松風の村
 遠野物語
 足柄うた
 かぞへうた
 雄勝の山
 應報
 山尋ね
 飛鳥の村
 香具山にのぼりて
 おほやまもり
 淡海歌
 聲澄む春
 月しろの旗
  一 海の幻
  二 月しろの旗
  三 海の賓客
  四 南風
  五 島の神 洋の神
  六 佐敷小按司

近代悲傷集
 北京のやかれ
 獨逸には 生れざりしも
 地下水
 飛行機
 飛行機 二
 外光
 外光 二
 なつぐさ
 葎
 陸羽西線
 橋ある水
 やまと戀
 しかすがに ひとり思へば
 世代の女
 世代の女 二
 ゆき
 斷雲
 人拐ひ
 數ならで
 繁華の幻
 しをれぐさ
 笹子の彼方
 三田飄眇集
 あすたぽぼの夢
 はかなしごと
 筑紫の奧
 掏児
 沙丘
 山上
 自轉車
 白
 もの忘れ
 斷章
 饗宴の記憶
 夏幻想
 新盆
 冬くさ
 天地
 餘目
 海の幻
 智慧
 新憲法
 あきくさ
 靑年
 半日
 父の島 母の島
 母を讚ふ
 贖罪
 すさのを
 天つ戀
 愉悦
 夢の剽盗
 神 やぶれたまふ
 きずつけずあれ
  近代悲傷集追ひ書き

現代襤褸集
 雲
 春汗
 日本の戀
 歎きの繪
 暗渠の前
 俯瞰
 息
 最上君の幻影
 平凡
 平凡 二
 童話
 童話 二
 童話 三
 水中の友
 關の扉
 花道で
 三十代の選手
 堀君
 堀君 二
 堀君 三
 堀君 四
 山居
 ごろつき仙人
 鎭魂頌
 田無の道
 まぼろし源氏
 生滅
 古き藝文
 八事の鐘
 水底
 輝く窓
 堀君の訃報
 弔辭
 正法眼藏
  嘘 一
  嘘 二
  洗濯 一
  嘘 三
  洗濯 二
  嘘 四
 失題
 秋の家
 枯れ枝
 蜑が家
 夕藤
 朧夜
 田うゑ歌
 茶のかをり

あとがき (折口博士記念古代研究所)



折口信夫全集23-2



◆本書より◆


『古代感愛集』より:

「かぞへうた」より:

「歌よまぬ世の常びとの、
たぬしけく世に經る見れば、
我ひとり さびしからめや。
かくばかりすべなき思(モ)へば、
歌こそは、一期(イチゴ)の病ひ ―。
 しきしまの 倭の國に、
  古き世ゆもちて傳へし 病ひなるべき」



『近代悲傷集』より:

「贖罪」より:

「すさのを我 こゝに生れて
はじめて 人とうまれて ―
ひとり子と 生(オ)ひ成(ナ)りにけり。」
 ちゝのみの 父のひとり子 ―
  ひとりのみあるが、すべなさ

天地は いまだ物なし ―
山川も たゞに默(モダ)して
 草も木も 鳥けだものも
 生ひ出でぬはじめの時に、
  人とあることの 苦しさ ―。」

「わがあぐる産聲(ウブゴエ)を聞け。
 老い涸れて 四方にとゞろく ―。
わが息に觸りぬるものは ―
 青山は枯れて 白(シラ)みぬ。
 大海はあせて 波なし。

我が力 物をほろぼす ―
憤恚(イキドホロ)し 我が活(イ)き力(ヂカラ)
 わが父や 我を遁(ノガ)ろへ、
 我や わが父に憎まえ、
  追放(ヤラ)はれぬ。海(ワタ)のたゞ中

わたつみの最中(モナカ)に立ちて
 我は見ぬ。わが周圍(モトホリ)を ―
 我は見ぬ。露膚(アカハダ)われを ―
 我は見ぬ。わが現(ウツ)し身(ミ)を ―
  吠えおらぶ我が 足掻(アガ)きを ―

更に見ぬ。わが生みの子の
 八千つゞき 八よろづ續き
  穢れゆく血しほの 沈澱(ヲドミ) ―。
  あはれ其(ソ)を あはれ其奴(ソヤツ)らを
  豫(アラカジ)め 亡しおかむ ―。
  物皆を 滅亡(ツクシ)の力 我に出で來よ」


「すさのを」より:

「我が耳や わが聲聞かず
 たゞに聞く けだものゝ聲 ―
さびしさは わたのけだもの
 もの欲(ホ)りて泣き哮(タケ)ぶらし ―。」

「高天(タカアメ)の 我が姉よ ―。
今助(ス)けに來よ。わがいろ姉(ネ) ―。
 わが咽喉は 火と燃えたり
 たゞ欲りす。乳汁(チシル)のしづく」



『現代襤褸集』より:

「春汗」:

「春さきは しがぁなんぞ 銜(クハ)へて
かなしみを ほき出すやうに
 森の中から やつて來る男 ―。
 その泥沓を 脱いで まああがれ

娘の肌に 汗ばむ喪服 ―
 そいつは 暗過ぎる。
出窓は がらすの
くらくらする陽炎だ ―」


「生滅」:

「 ざあつと言ふ音 ―。
とてつもなく ひろがつたおれの翼
おれは 空を渡つてゐる ―。
 眞白な總身(ソウミ)を叩いて 飛ぶ白鳥だ。

でも おれの、昔から持つた悲しみを
だれが 知つて居よう ―。

何かかう 明りのさす地層のなかに ―
 蚯蚓でゐたをとゝひだつた ―
 さうだ ―。目がなくて
仰(アフム)いた口だけが ものを考へてゐたおれだ ―

 きのふは 空想のない犬で 氣樂にゐた。
 腹のくちくなるだけの 日々(ニチヽヽ)に飽き飽きした。
 いつそ おれが 消えてなくなればよいと思へた ―。
 死にきることの出來ない 生物(セイブツ)に生れついて…

 たゞ飽きることだけが、能力だつた ―。
 あきた瞬間 ひよつくり 思ひがけないものになり替る。
この白鳥の身も 明日は 飽きてしまふだらう ―。
 飛んでとんで、飛びくたびれたら
 今度は 岩山の苔に なつてゐるかも知れない。

死にきれないおれ
 死にきれないことを 考へるにも あきあきしてゐるおれを
  だれも もう かまつてくれるな」



「近代悲傷集 追ひ書き」より:

「斷簡十篇 ― 初版感愛集所收 ― 及び其と事情を同じくしてゐる未發表の作品は、そのまゝ埋沒することにした。別に惜しいと言ふほど、苦勞をした記憶のない作物だからである。ものに憑かれたやうな心持ちから出來たものだからと言つて、さう輕く見るのは、殊に詩などの場合、考え直さねばならぬことも屡ある。が、人に賴まれて作つたやうな氣持ちの、重くもたれかゝつてゐる作品などは、後味がいつまでも快くないから、除きたくなつたのである。其なら一層、こんな物も省けばよいにと、人には思はれるものもまじつて居ないではなからうが、自分には自分で、棄てられない理由や執著などもあつて、殘した氣持ちは察してほしい。詩や歌の場合、私など、さうさう他人を對象としてばかりは、作つて來なかつたからである。」





































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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