パウル・シェーアバルト 『小遊星物語』 (種村季弘 訳/平凡社ライブラリー)

「時代と生国の現実に根づいた(自然主義的)風俗作家もしくは郷土作家ではない。ということは、何を発言しても根も葉もないホラ、裏付けのない大言壮語と受け取られてしまう。『宇宙の輝き』のアダム少年のように、何をいっても誤解されてしまうほかないのである。」
(種村季弘 「訳者あとがき」 より)


パウル・シェーアバルト 
『小遊星物語 
付・宇宙の輝き』 
種村季弘 訳

平凡社ライブラリー 80 し-5-1

平凡社 
1995年1月15日初版第1刷
373p 
B6変型判 並装 カバー
定価1,200円(本体1,165円)
カバー: ブルーノ・タウト『アルプス建築』(1919)より、「星の系」
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル

Paul Scheerbart : Lesabéndio: Ein Asteroidenroman


「本著作は一九六六年五月初版刊行の
『小遊星物語』(桃源社)の改訳に、
新訳の「宇宙の輝き」を併載したものです。」



シェーアバルト 小遊星物語


カバー文:

「パラス星を舞台に繰り広げられる法外な建築事業の結末は………
星界とガラスに憑かれた宇宙造形家=建築詩人の綺想溢れるユートピア小説。
幻の傑作の改訳に、愛すべきメルヘン『宇宙の輝き』を併載する。



目次:

小遊星物語
 第一章~第二十五章
宇宙の輝き――太陽のメルヘン

平凡社ライブラリー版 訳者あとがき
解説――言葉の永久機関 (高山宏)




◆本書より◆


「小遊星物語」より:

「空はすみれ色だった。星は緑色だった。そして太陽もまた緑色だった。
 レザベンディオは吸盤脚を大きくひろげ、険しく切り立ったぎざぎざの岩壁にからみつけると、もとはといえばゴム状の円筒に吸盤脚をつけただけのその躯ごと、すみれ色の大気の中へと五十メートルあまりも突兀とそそり立った。
 レザベンディオの頭部は虚空でいちじるしい変化を遂げた。ゴム状の頭皮はいっぱいにひろげた雨傘のようにひろがり、それからゆっくりとすぼまった。すると顔が見えなくなった。こうして頭皮は前方に穴のあいた一本の円筒をかたちづくったが、この円筒の底には顔があって、その両眼から二本の長い望遠鏡のような仕掛けがせりあがり、レザベンディオはこれを使って空の緑色の星々を、まるで手にとるように目のあたりに眺めることができるのだった。」

「「ぼくらの星の鉛鉱脈の中にある、例の大きな胡桃、あれだってまだずいぶん秘密を抱えてる。」」
「この胡桃については、あるまことに特殊な事情がからんでいたのである。すなわち胡桃の中には未来のパラス人が隠れているのである。」
「パラス人をもっと殖やしたければ、鉛鉱脈の中で探した胡桃の殻を砕きさえすればよかった――すると胡桃一個について一人のパラス人がそこから跳び出してくるのだった。」
「破殻したばかりのパラス人が最初に話した言葉は、かならず書きとめられることになっていた。小パラス人は一人ひとり、他のものとくらべようのない新しい話をするのがつねだったのである。」
「幼年者たちは、彼らが住んでいた世界の話をした。すると聴き手の大人たちはいつも、この幼年者たちは一人ひとり、次の幼年者とはまるでべつの世界に住んでいたのではないかという感じがしてくるのだった。かぎりなく長いあいだ長い円筒のなかに住んでいて、その円筒のなかの遠近構造を延々と話し続ける男がいるかと思うと――次の男はなにやら肌触りの湿っぽい雲しか知らなかった――かと思うとめらめらと燃えさかる炎の話をするものもあった。炎といえば、他の天体でならいざ知らず、これはパラスでは絶対にお目にかかれないものだったのだ。幼年者たちのあいだにはまた、これまたパラスには見られない水の塊のなかに住んでいたと主張するものもあった――ところでおびただしい量の液体という観念について言えば、パラス人たちは、なにからなにまでパラスとはちがう近隣のいくつかの小遊星の観察を通じてはじめてそういう観念を得たのである。」



「平凡社ライブラリー版 訳者あとがき」より:

「世紀転回期前後のベルリンの一隅に、ボヘミアン文士たちのたまり場、カフェ「黒い仔豚」があった。」
「一九〇〇年前後の文学的ファッションは、いうまでもなく自然主義である。「黒い仔豚」のボヘミアンたちはしかし、反時代的な反自然主義の旗印を掲げた。シェーアバルトもその例に洩れない。」

「当然のことながら世間的には無名である。生前からして「忘れられた作家」であった。」
「二十世紀初頭に登場しながら、実証主義的十九世紀を一世紀跳び超えて十八世紀につながると公言する反時代的作家はしかし、時間を超えるだけではなく、空間をも超えた。とりわけオリエントの文化が彼の情熱の対象だったのである。」

「時代と生国の現実に根づいた(自然主義的)風俗作家もしくは郷土作家ではない。ということは、何を発言しても根も葉もないホラ、裏付けのない大言壮語と受け取られてしまう。『宇宙の輝き』のアダム少年のように、何をいっても誤解されてしまうほかないのである。居直ってホラ吹きの小説を書いた。」

「オリエント文化に対する信仰告白は、さらに次のことばにも見える。「私はついぞヘレニズム的感性を知らなかった――むしろ東方的に感じたものだ――東洋は人間よりむしろ神々と怪物に親しかったのである」。
 ヘラス的「人間」よりは「神々と怪物」に親しみがあるという。『小遊星物語』の随所に登場する怪物めいた星の生物、というよりは星という生物の怪物性が想い起こされる。のみならずパラス星人やクィッコー星人が人間よりは怪物に近い存在として描かれているのは一目瞭然だろう。」



































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本