泉鏡花 『鏡花全集 巻廿六』

「公子: 人間に其(それ)が分るか。
博士: 心ないものには知れますまい。詩人、畫家(ぐわか)が、しかし認めますでございませう。」

(泉鏡花 「海神別莊」 より)


泉鏡花 『鏡花全集 巻廿六』

岩波書店 昭和17年10月15日第1刷発行
/昭和50年12月2日第2刷発行
782p 目次2p 
四六判 丸背紙装上製本 貼函
定価2,600円
正字・正かな/本文総ルビ

月報26(16p):
「山海評判記」再讀(下)(福永武彦)/泉鏡花と原抱一庵(手塚昌行)/鏡花自筆原稿解析1(鈴木勇)/お千世の額(花柳章太郎、昭和17年8月『鏡花全集巻二十五』月報より再録)/鏡花小説校異考(二十五)(村松定孝)/編集室より/図版2点(「山海評判記」時事新報、小村雪岱画/昭和11年4月明治座の舞台稽古にて)



巻二十五、二十六は戯曲を収録しています。


目次:

紅玉 (大正2年7月)
海神別莊 (大正2年12月)
戀女房 (大正2年12月)
湯島の境内 (大正3年10月)
錦染瀧白糸 (大正5年2月)
日本橋 (大正6年5月)
天守物語 (大正6年9月)
山吹 (大正12年6月)
戰國茶漬 (大正15年1月)
多神教 (昭和2年3月)
お忍び (昭和11年1月)
かきぬき




◆本書より◆


「海神別莊」より:

「美女: だつて、貴方、人に知られないで活(い)きて居るのは、活きて居るのぢやないんですもの。
公子: (色はじめて鬱す)むゝ。
美女: (微醉の瞼花やかに)誰も知らない命は、生命(いのち)ではありません。此の寶玉(はうぎよく)も、此の指環(ゆびわ)も、人が見ないでは、些(ちつ)とも價値(ねうち)がないのです。
公子: それは不可(いか)ん。(卓子(テエブル)を輕く打つて立つ)貴女(あなた)は榮耀(ええう)が見せびらかしたいんだな。そりや不可(いか)ん。人は自己、自分で滿足をせねばならん。人に價値(ねうち)をつけさせて、其に從ふべきものぢやない。(近寄る)人は自分で活(い)きれば可(い)い、生命(いのち)を保てば可(い)い。然(しか)も愛するものとともに活(い)きれば、少しも不足はなからうと思ふ。寶玉とても其の通り、手箱に此を藏すれば、寶玉其(そ)のものだけの價値(かち)を保つ。人に與(あた)ふる時、十倍の光を放つ。唯、人に見せびらかす時、其の艷(つや)は黑く成り、其の質は醜く成る。」

「公子: (中略)こゝに來た、貴女は最(も)う人間ではない。
美女: えゝ。(驚く。)
公子: 蛇身(じやしん)に成つた、美しい蛇に成つたんだ。」
「公子: 一枚も鱗はない、無論何處も蛇には成らない。貴女は美しい女です。けれども、人間の眼(まなこ)だ。人の見る目だ。故郷に姿を顯(あらは)す時、貴女の父、貴女の友、貴女の村、浦、貴女の全國の、貴女を見る目は、誰も殘らず大蛇と見る。」



「山吹」より:

「夫人: (吻(ほつ)と息して)私、何(ど)うしたんでございませう、人間界にあるまじき、淺ましい事をお目に掛けて、私何(ど)うしたら可(い)いでせうねえ。」

「夫人: (中略)えゝ、こんなぢや。
 激しく跣足(はだし)に成り、片褄(かたづま)を引上ぐ、」
「夫人: 世間へ、よろしく。……然(さ)やうなら、……」












































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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