『澁澤龍彦全集 別巻1』

「烏滸がましい言草ですが、私は貴兄とは反対に、ますます無倫理の動物性に退行して行こうと考えています。」
(澁澤龍彦 三島由紀夫宛書簡より)


『澁澤龍彦全集 別巻1』
[滞欧日記]/未刊行旅行ノート/雑纂/書簡/アンケート回答/ロールシャハ・テスト/図版キャプション補遺

編集委員: 巖谷國士/種村季弘/出口裕弘/松山俊太郎

河出書房新社 1995年4月10日初版第1刷印刷/同20日発行
572p 口絵
20.6×15.6cm 丸背布装上製本 貼函
定価5,800円(本体5,631円)
装幀: 菊地信義

月報23(16p):
インタヴュー「直線の人“シブタツ” 2」三浦雅士(文芸評論家) 聞き手: 巖谷國士/図版(モノクロ)5点



目次:

口絵 1979年(51歳) 撮影: 酒井猛

[滞欧日記]
 I 一九七〇年 九月一日~十一月四日
 II 一九七四年 五月十六日~六月一日
 III 一九七七年 六月二日~七月六日
 IV 一九八一年 六月二十三日~七月二十三日

未刊行旅行ノート
 中近東旅行 一九七一年 九月二十一日~三十日
 沖縄・九州旅行 一九七四年 十一月五日~十三日
 北海道旅行 一九七五年 二月十三日~十八日

雑纂
  I 初期雑纂
 三崎のサカナよ……
 革命家の金言――サン・ジュスト箴言集
 編集後記
  II 拾遺
 ユイスマンのラテン文学論
 現代の不安を踊る
 塩ラッキョーで飲む寝酒
 愛の饗宴――ギリシア神話より
 きものの美学
 サディズム(『万有百大事典』)
 サド(『万有百科大事典』)
 遊び(『万有百科大事典』)
 サド年譜
 ヴィナス誕生 ボッティチェリ
 法華寺 十一面観音
 ギリシアのセミ
 ジュリーの花飾り
 美男美女の闘い――ビアズリー展から
 フップ鳥のごとく
 『思考の紋章学』(文庫版)あとがき
  III 未発表原稿
 サド侯爵の幻想
 サディストの文学――大江健三郎をめぐる評価の混乱
 ヴァイキング対インディアンの闘い
 吉野および熊野の記
 現代思潮社と石井恭二のこと
 魔法の壺の公開
 「世界文学集成」24巻試案
 ペローの童話について

書簡
 三島由紀夫宛
 磯田光一宛

アンケート回答 一九六一―八七年

ロールシャハ・テスト
 ロールシャハ・テスト――被検者=澁澤龍彦/検査者=馬場禮子
 明晰を意志する精神――対談=澁澤龍彦/馬場禮子
 テストのあとで

図版キャプション補遺

解題 (巖谷國士・種村季弘)




◆本書より◆


「サド侯爵の幻想」より:

「責苦に遭っているのは――とにかく無辜の囚徒なのだ。無辜の囚徒以外のものが、どうして責苦に遭うわけがあろう。実際、そういう時代でなかったら、革命の起る謂われがない。」


「アンケート回答」より:

「私は選挙もしなければ署名運動もしません。昭和二十年八月十五日から、団体行動をしないことを信条とするようになりました。この決意を変えるつもりはありません。」

「①異形の王権 網野善彦著(平凡社)
 私の漠然とした予感が、みごとな論理によって確証を得たような気がして、非常に感銘をふかくしました。」



「明晰を意志する精神」より:

「馬場 そういうところで、どうも観念と感覚というのが分かれていて、感覚的に出てきたもの、それを変形して観念的なものにつくりかえていくという連続性がなくて、感覚からきたものはそれはそれで、まあどちらかというと不快のほうへつながって消えていってしまう。美的なものというのはべつに幻想として観念的に構成されたものとして出てくるし、そこのところはつながっていないんです。
澁澤 そうかもしれませんね。
馬場 これはどういうことになるんでしょう。それはさっきの感情移入がなかなか始まらないとか展開していかないというようなこととも関係があるのか。
澁澤 やっぱり、あんまり現実と関わっていないのかもしれませんね。
馬場 直接的な情動の動きといいますか、それと……。
澁澤 よく、そういうこと言うじゃありませんか、「ついにあの人は現実と関わらずに死んじゃった」とか。
馬場 いえ、関わってはいるんだけども……。
澁澤 だいたい現実のいわゆる泥にまみれるとかいうのが、好きじゃないことは、これはまあ、はっきりしてますけどね。現実嫌悪症ですね。」

「馬場 もう一つ別のファクターとして幼児への同一化というのかしら、そういう面もあると思うんですけども。(中略)無害であるとか無邪気であるとかいうことは好き……凶悪さがないとか、少女だとか、虫とか、好ましいものというのが無害なもの、無邪気なもの、そういうものがありまして、それからもう一つ、さっきも言った衝動性としていわゆる男性衝動といいますか、が出てこないし、じゃ逆の倒錯的な衝動かというとそれも出てこないし、という出てこないというのが一つあって、そこで本人の同一化の対象というのがわりと無邪気なもの、無害なものというのが出てきたというところがあって、それでここのところが、女性でも男性でもないところへ自分を置いていらっしゃるような形というのが何かありはしないかなと。
澁澤 そうかもしれませんね。しかし、ぼくの文学的理想形態と、そんなにうまく合うものかな。(笑)」
「馬場 私はたとえば性的なものに対する関心が非常に強いんじゃないかとか、どっちかの、倒錯的にしろ男性的にしろ、何かの衝動が非常に強いというふうに出やしないかと思ったんですけれども、むしろそう出ないで、そういうものは非常に抑えられていて、バイ・セクシュアルだとも言えるし、どっちでもないとも言えるような、そういうところに身を置いてらして、両方を傍観者的に見ているようなね、そういう感じがあるので……。
澁澤 ぼくとしては、それは非常にスンナリ受けとれることなわけです。余りにも、だから……。
馬場 スンナリ受けとれすぎる。
澁澤 うん、ぼくの気持っていうかな、いつも考えてることが……。なるほどね、馬場さんとしては、そういうものを最初は予想してなかったわけですね。
馬場 そうです。
澁澤 フーン、そうか。(笑) それは先入見といいますか、ぼくに対する過大な期待といいますか……。
馬場 わたしは非常にグロテスクなものとかショッキングなものとか、そういうものに対する関わりが積極的に出てくるのじゃないかと。どうでしょう。
澁澤 いや、ぼくのことをそういうふうに誤解してる人がたくさんいるわけですよ。世間一般には。
馬場 そうそう。(笑) そうではないということが非常に証明されてしまうと思ったわけです。」

「澁澤 どうなんだろうな……。なにしろサドの専門家としては、ぜんぜんそういう反社会的衝動の全くない人がサドをやったわけですね。
馬場 ないというのは、表面的に。表面的にないからこそ、その強く抑えられているものはどこかに解放されなければならないわけで、なんらかのかたちで……というふうに考えるわけなんです。
澁澤 どうなんだろう。……それはあんまり抑圧しないほうがいいわけですか。
馬場 それを抑圧してどこへも出さなければ神経症になってしまうということにフロイト以来なっているわけですね。
澁澤 じゃあ、普通の人はどっかへ出してるわけですか。
馬場 ええ。
澁澤 へえ、ほんと?
馬場 (笑) 普通の人はって、どういう意味ですか。」

「澁澤 それはぼく、顕著にあります。つまりなにかに粘着して……ぼくは一ぺんこうだと思ったら、あんまり話題を変えるのも好きじゃないし、それからポンポン話題を変える人がいると、いらいらしますね。万年筆でも何でも、おなじものをいつまでも使います。(中略)……そうか、分離不安ね。
馬場 そうね、パッパッと状況が変るとか、好ましい対象が消えてしまうとか、そういったことに対する不安が強いということがあるんじゃないですかね。
澁澤 そうなんですね。それでまた、あまりその分離不安が露骨に出ちゃ困ると思って、また逆を言うのかな。」

「馬場 あまり苦労を感じてらっしゃらないようですね。
澁澤 そうですか。それじゃ苦労がないんですよ、きっと。」
「澁澤 考えてみりゃ、ぼくだっていろいろ苦労はしてますよ。そりゃ人間ですから、女性関係だって、いろいろ苦労してきてるしさ。
馬場 そりゃそうですけれども……。
澁澤 それで? もっとやればよかったと……そういやもっとやればよかったと、確かに思いますよ。やりゃあよかった。(笑) いつでもぼくは、投げちゃうからね、それがいけないんだよ。それは分ってますよ。」



「テストのあとで」より:

「ロールシャハ・テストについては、こちらに一応の予備知識がないわけではなかった。機会があれば、ぜひ一度やってみたいものだと思っていた。」
「しかし、いざ実際にやってみると、どうも結果はあまりうまく行かなかったような気がする。それは私自身が、なかなかリラックスせず、つい構えてしまう人間だからだろうと思う。しゃべるのが大の苦手で、自分の殻のなかへ閉じこもってしまう人間だからだろうと思う。とくに自分のことをしゃべるのは、恥かしいという気持が強くあるからだろうと思う。馬場さんの質問に答えて、機嫌よくいろいろしゃべっているようだが、(中略)我ながら苦しまぎれにしゃべっているのではないかという気がする。とても本当のことをしゃべっているようには思えない。
 しかし、いったい本当のこととは何だろうか。私は生まれてから一度も本当のことはしゃべったことがないような気もする。心理学に対する不信ではなく、しゃべることに対する不信が私にはあるのかもしれない、とも思う。
 説明するのが面倒くさくなって、途中であきらめてしまうという傾向が、どうも私にはあるようだ。」


























































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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