『澁澤龍彦全集 別巻2』

「ますます観念的になり、ますます「人生は夢」という意識は強くなって……やがて夢をみるように死んでゆくでしょう。」
(「澁澤龍彦氏に聞く」 より)


『澁澤龍彦全集 別巻2』
〈サド裁判〉公判記録/対談/座談会/インタヴュー/談話/澁澤龍彦年譜/著作年譜/書誌/著作索引

編集委員: 巖谷國士/種村季弘/出口裕弘/松山俊太郎

河出書房新社 1995年6月15日初版第1刷印刷/同26日発行
768p 索引37p 口絵
20.6×15.6cm 丸背布装上製本 貼函
定価7,800円(本体7,573円)
装幀: 菊地信義

月報24(16p):
インタヴュー「胡桃の中と外」平出隆(詩人) 聞き手: 巖谷國士/図版(モノクロ)3点

正誤表



目次:

口絵 1985年2月(57歳) 自宅にて (撮影: 宮澤壮佳)

〈サド裁判〉公判記録
 検察側証人喚問
 弁護側証人喚問
 被告人特別尋問

対談 一九六二―八七年
 毒薬と裁判(関根弘)
 まりことおじさま(加賀まりこ)
 快楽主義とエロティシズム(丸山明宏)
 鏡花の魅力(三島由紀夫)
 タルホの世界(三島由紀夫)
 エロチスム・死・逆ユートピア(野坂昭如)
 芸人根性で権力を愚弄しちゃえ(野坂昭如)
 奇才・澁澤龍彦(種村季弘)
 ピグマリオニスム――人形愛の形而上学をめぐって(四谷シモン)
 三島由紀夫――世紀末デカダンスの文学(出口裕弘)
 澁澤龍彦氏に聞く(池内紀)

座談会 一九五八―六七年
 大江健三郎の文学(江藤淳・篠田一士・澁澤龍彦)
 性は有罪か――チャタレイ裁判とサド裁判の意味(伊藤整・大岡昇平・奥野健男・澁澤龍彦・白井健三郎・中島健蔵・埴谷雄高・福田恆存)
 巣づくり 性の思想(澁澤龍彦・奥野健男・村松博雄・森本和夫・福田善之)

インタヴュー 一九六八―八二年
 エロス・象徴・反政治――サド裁判と六〇年代思想
 60年代とサド裁判はパラレルだ!
 メルヘンの世界とは……――澁澤龍彦編『暗黒のメルヘン』
 原型に遡る形象思考
 INTERVIEW THIS
 作家訪問
 『唐草物語』――オブジェに彩られた幻想譚
 おつまみ作法
 土方巽インタビュー 肉体の闇をむしる……(聞き手・澁澤龍彦)
 金子國義への美少女についての10の質問(聞き手・澁澤龍彦)

談話 一九六四―八六年

解題 (巖谷國士)

澁澤龍彦年譜 (巖谷國士)
著作年譜
書誌

著作索引




◆本書より◆


「ピグマリオニスム」より:

「シモン 澁澤さんは、ベルメールの人形をポンピドゥでご覧になったんですか。
澁澤 ええ、見ました。
シモン ぼくは本物はまだ見ていないんです。金井美恵子が、あれはもう芸術じゃない、犯罪そのものだって言っていました。だから、ぜひとも見なさいといったけど、でも、見なさいといったってね。
 普段から、ベルメールの人形を見るってわけにはいかないけど、たまに写真でちらっと見たりすると、やっぱりすごいなと思いますね。アバンギャルドじゃないですね。
澁澤 うーん、そこのところがねぇ……。
シモン 前衛ふうっぽいけれども、ちょっと違う。写真集が出たけれども、あれはすごかったですね。
澁澤 だからシュールレアリストっていうのは、あまりアバンギャルドじゃなくて、変な病気みたいな人たちが集まったんじゃないですか。
シモン そうですね。インポテンツとか……。
澁澤 みんな病気なんじゃないですか。シュールレアリストのいい人というのは、だいたいそうじゃないの。ダリもそうだし。でも、それを集めて、変なあれをつくったブルトンというのも、すごいですね。よく集めましたね、ああいうのを。
 この前シモンが、「才能というのは、変態の度合に正比例する」って手紙に書いてきたでしょう。それは、ベルメールの写真集を見たときに感じたわけでしょう。
シモン そう思いましたね。
澁澤 でも、その前に、たとえばモリニエがあるとか、いろんなものがあるから、そういうふうに思ったわけね。
シモン そうですね。フィニーだって、やっぱりそうだと思う。
澁澤 バルチュスだって、そうだしね。あそこらへんの人たち、みんなそうでしょう。
シモン やっぱり、おかしいですね。
澁澤 モリニエって、いま生きているのかしら。
シモン 自殺しています。
澁澤 エーッ、モリニエが自殺した? それは初めて聞いた。
シモン 大家さんに「ちょっとそこらへんまで出かけますから」って、鍵を預けて、ピストルで一発ポーンて。評論家連中は、それまでは二束三文のシュールレアリストといっていたのが、死んだあとは、ポンピドゥで展覧会をやるような……。
澁澤 ああ、そう。みんなそういう扱いだね。
シモン あの人はまた特殊ですね。特殊のなかのまた特殊という感じ。
澁澤 シュールレアリストで、いい作家はみんなそうですよ。でも、シュールレアリスムの旗じるしでよく集まったね。
シモン すごいね。だから、ブルトンもちょっとはそうじゃなかったんでしょうか。
澁澤 やっぱり、一種の気違いでしょう。
シモン 正比例してたんじゃないですか。だから、何となくわかり合えたというか。でなかったら、ああいうことないですよね。
澁澤 要するに、二十世紀の前衛運動とか何とかといっても、病気の人が集まったわけだ。
シモン 診療所ですね、あそこは。診療所主義というか。ブルトン松沢に集まった、絵の上手な人たち(笑)。作品行為でもって治療したんでしょう。
澁澤 そうです、そうです。まったくそのとおりだね(笑)。あれが作品を描かないと、みんな犯罪をやっていたんじゃないですか。
シモン たまに発病もあったでしょうね、休憩時に。それで、あっ、これはいけない、作品にそれを……。だから、よかったんでしょうね。
澁澤 自殺した人がいっぱいいるしね。」
「澁澤 デュシャンもそうとう変だったんじゃないかね。
シモン やっちゃってますからね、ああいうことを。
澁澤 だって、あれ、変だよ。だって、最後にあんなにのぞいて……。のぞき屋ですね。普通じゃないね。
シモン 豚革か何かをはったようなね。でも、ベルメールとかを見ても、本人そのものが通常の好色家というふうにも……。
澁澤 全然好色家じゃないです。むしろ、反対でしょう。アンチ・エロチカーですね。まあ、観念だな。
シモン それで、猥褻じゃないというか、そのもの自体が……。
澁澤 コーネルって、生きてるの。
シモン いいですね、コーネルって。
澁澤 日本で展覧会をやったでしょう。
シモン あの人のはかわいくて好きだな。ザリガニとか何とかって。
澁澤 だからシュールレアリスムというものを、まったく違った見地から評価し直すべきだと思うんだ。
シモン 二十世紀の前衛運動ということじゃなくて、もっと病理学で。
澁澤 うん。だって、みんなそうだもの。
シモン フロイトも噛んでいるでしょう。運動のひとつのポイントというか。
澁澤 フロイトにみんな影響されたということを言っているけれども、そういう影響されやすい人が集まってきて、やったということじゃないかしら。
シモン 要するに、治癒の方法を求めて……(笑)。
澁澤 そうそう、求めたわけよ(笑)。
シモン 瀧口(修造)さん、どう思うだろうね。
澁澤 あの人もいっしょに変態にしちゃえばいいじゃない。
シモン 瀧口さんも治癒の方法を求めたんでしょうね。何ともいえない鉱物嗜好がありますね。
澁澤 そう。だから、身もふたもなくなっちゃうけど、シュールレアリスムって、そうじゃないかと思うな。死んだあとになって、それが分ってくる。」

「シモン ぼくは夢があるんですよ。何もしないで、お坊さんになっちゃって日本全国を……。何でもいいんですよ。ストイックなそういうところにあこがれますね。
澁澤 エーッ。
 それはダメだな。きっと実現しないと思うよ、永久に。
シモン でも澁澤さん、どう思いますか。人間て、死んだときに、エーッ、何だ、この世は実はこうだったのかって、そんなことは絶対にあり得ないと思いますか。
澁澤 そんなこと、おれはあまり考えないな。死後のことは絶対に考えない。
シモン 澁澤さんは昔、「死イコールゼロ」ということを言っていましたね。
澁澤 それはゼロでしょう。」



「澁澤龍彦氏に聞く」より:

「池内 中国とか、日本とか、こっちのほうに関心が少しお変わりになったのは、旅行のあとぐらいからですか?
澁澤 やはり三島さんが亡くなってからですね。ヨーロッパ的な二元論にいや気がさしたのかもしれない。もう絶対主義はうんざりですね。老荘思想のほうがずっといいです。」

「池内 お年を意識なさることはありますか。
澁澤 やはり人間はつねに変わってますね。(中略)もう先が見えてきたという感じはします。それに大きな病気をしたし、回転ドアをぐるりと廻したように、病気によっても人生観は変わったと思いますね。ますます観念的になり、ますます「人生は夢」という意識は強くなって……やがて夢をみるように死んでゆくでしょう。」



「巣づくり 性の思想」より:

「澁澤 日本には即身成仏のミイラがあるでしょう、あれはニルバーナ原則の標本だね。羽黒山とか月山の方で、真言密教の坊さんが、五穀絶ち、十穀絶って、植物ばかり食べ、次第に食物を減じ、最後に骨と皮のミイラになって死んでしまう……。それから補陀落といって海の中にはいって行くやつ。」
「奥野 船で南へ南へと進んで行って死ぬんだね。要するに、快楽原則は単純なエゴイズムとは違って、個体の保存を越えて、死に至り自分が滅亡してもかまわないほど快楽を追求するのですね。」

「澁澤 女が子供を産むということは、勤めを果せば死ぬことと同じだな。」



「談話 私の仕事部屋」より:

「よく原稿はどこででも書けるという人がいますが、僕は絶対この場所でなければダメですね。机、椅子はもちろんすべてにこだわりを持つ方ですから……。本の置き方ひとつにしても気になるので掃除は年に四、五回しかしませんよ。長年、夜と昼がまったく逆の生活をしていますのでここに居る時はほとんど深夜です。やはり夜の方が落ちついていいですね……。ただ、鎌倉に住んでいますので、時に東京に出かけなければいけない用事があると体調を整えるのが大変ですよ……。」


「談話 世紀末を見る目」より:

「ところで、世紀末を深刻に意識した十九世紀は、芸術や美学、人生上の態度としてダンディズム、デカダンス、洗練などを生み出したが、もう一つ見落とせない特徴は、根源に還ろうという強い志向です。ここでいう根源とは歴史の源流あるいは生存の源流の意味です。たとえば人類の原型復帰としての両性具有や幼児退行願望が例にあげられるでしょう。」
「この両性具有はユートピア、黄金時代への夢であり、逆に退行願望は衰滅への意志ともとれますが、いずれも爛熟が秘める本質をきわめて暗示的に象徴しているように思えます。」

「初めに言ったように、僕は衰滅を愛する精神の方に親近感を覚えるし、そうした世紀末精神は、新しいものをつくり出すための肩ヒジ張った自己主張などより強じんであると信じているけれど、最後にちょっと毒のある話をしておきたい。
 虚無という言葉がありますね。しかし、太古のように人間が自然や生命のリズムに従って生きている限り、そのありようは楽しくて、虚無なんて心のどこにも生まれて来ない。言い換えれば、虚無は文明が成立するための前提条件なんです。(中略)つまり、世紀末であろうとなかろうと、こうした虚無から逃れられないのが現代の文明の宿命だということです。」















































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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