『稲垣足穂全集 第十巻  男性における道徳』

「彼は、私がもうとっくに死んでいたことに、気が付かなかったのだろうか?」
(稲垣足穂 「私の祖父とシャルル・パテェ」 より)


『稲垣足穂全集 第十巻 
男性における道徳』

Classiques de Inaguaqui Taroupho 10

筑摩書房 2001年7月25日第1刷発行
555p 目次3p 
20.2×14.2cm 
並装(フランス表紙) 本体カバー 函 
定価5,400円+税
編者: 萩原幸子
装幀: 吉田篤弘・吉田浩美(クラフト・エヴィング商會)

月報10 
8p 18.7×11.7cm
タルホの葉巻箱: 王と王妃 King & Queen
タルホ・ヴァリアント・セレクション: 花月幻想――biographically (抄)(初出「作家」昭和37年6月号)
星の声(萩原幸子): 助手を呼ぶ
 


本全集「凡例」より:

「一、本全集は、稲垣足穂自身が昭和四十三(一九六八)年に作成した目録を基本に編んだものである。
一、改題、増補、改作、合併、編入、改訂をくり返した作品については、その経過を巻末の「解題」で明らかにし、本文には基本的に最終稿とみなされる作品を収録した。」
「一、『稲垣足穂大全』(中略)に稲垣足穂自身が追加訂正を書き込んだものについては、それを最終稿とした。
 また、『大全』以後の『増補改訂 少年愛の美学』にも、刊行後大幅な加筆訂正がなされており、それを最終稿に、「ロバチェフスキー空間を旋りて」は大幅に加筆訂正した生原稿を最終稿とした。
一、表記は、原則として、新字、新かな遣いとした。」



本書「解題」より:

「本巻には、昭和四十四年四月、日本文学大賞を受賞以後の、足穂晩年の長篇作品とエッセイを主として収録し、昭和三十年代のエッセイ二篇を加えた。」


目次:

男性における道徳
物質の将来――エッセー風の創作
フウテン族の曲率――聖者への途
廻(めぐ)るものの滑稽(こっけい)
我が黙示録 アルコール幻覚
二十五歳までに決定すべきこと
     ☆
パテェの赤い雄鶏(おんどり)を求めて――オブジェ的自伝
私の祖父とシャルル・パテェ――懐かしの活動写真
鼻高天狗はニセ天狗
轣轆
鉛の銃弾――我が青春期のモザイク
生活に夢を持っていない人々のための童話
     ☆
痔(じ)の記憶
佐藤春夫を送る辞
真鍮(しんちゅう)の砲弾――オナニー的世界
天守閣とミナレット――a capricco

解題 (萩原幸子)




◆本書より◆


「男性における道徳」より:

「又、一度、渋谷道玄坂上に住んでいた頃、関西学院で自分よりも一級下だったY君がやってきて、数日の滞在中に、軽微な頭脳発作を起した。西宮から彼のお父さんが迎えにやってきて、それから一週間ほど青山脳病院のお世話になったが、このY君を見舞に行った日、円柱が立ち並んだ甃(いしだたみ)の廊下を通り抜けながら、私は向って左側の特別室の内部で、玉突き台くらいの大テーブルに向って、その周囲をあっちへ行き、こちらに戻ったりしてぐるぐる歩き廻りながら、テーブルのおもてに伸べられた白紙に向って、コンパスと定規を動かしている、堂々とした白髪の西洋人を目にとめた。ホワイトロシアの中将とかで、こうして毎日、軍艦設計に余念がないのだとの話であった。これは本物の気狂いであるが、やはり男性的ダンディーの中に数え入れてもよかろう。(この白髪白髯(はくぜん)の老紳士が、即ち私の作品の随所に出てくる「コリントン卿」なのである。精神病院の廊下に並んでいた円柱の柱飾りがイオニアかドーリアかは知らなかったが、取りあえずコリント式だと見立てたことに基いている)」


「私の祖父とシャルル・パテェ」より:

「伊藤整はかつて私についていった。「稲垣足穂は死ぬのが遅れたよ」と。彼は、私がもうとっくに死んでいたことに、気が付かなかったのだろうか? 『ハインリッヒ・フォン・オフテルディンゲン』の中に、ハインリッヒとツィアーネの対話として、次のようなのがある。「いつからここに居るの」「お墓を出てきてから」「なに、もう死んだのだって?」「そうでなければどうして生きてこられたでしょう」」


「轣轆」より:

「半沢氏が語った酒臭い轢死体は、私に別なことを思い当らせた。
 ある午後四時頃に、新宿の盛り場の歩道ぎわに土下座して、埃まみれになりながら、「済みません済みません」と行人に向って頭を下げていた、酒気プンプンとした中年男のことである。彼が其後(そのご)どうなったかは知る由もないが、ちょうどそれと同様なことを私はこの数年前に耳にした。自分の現今の住居の桃山南口から西へ二つ目の中書島駅近くの路傍でお辞儀を繰返していたアル中氏が、ついにその翌日の明方に、中書島伏見桃山間の鉄路に飛び込んでしまったのである。私はこの両者の身の上に同情を禁じ得ない。只彼らと自分との相違は、自分は表へ匍い出して皆様に謝罪するどころの話でないということだ。」



























































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本