『稲垣足穂全集 第十二巻  タルホ一家言』

「人間も雨が降っても走らないようになったら、お仕舞いですぞ。」
(稲垣足穂 「よりどり前菜(オルドーブル)」 より)


『稲垣足穂全集 第十二巻 
タルホ一家言』

Classiques de Inaguaqui Taroupho 12

筑摩書房 2001年9月25日第1刷発行
480p 目次12p 
20.2×14.2cm 
並装(フランス表紙) 本体カバー 函 
定価5,400円+税
編者: 萩原幸子
装幀: 吉田篤弘・吉田浩美(クラフト・エヴィング商會)

月報12 
8p 18.7×11.7cm
タルホの葉巻箱: こより Koyori
タルホ・ヴァリアント・セレクション: 星と人の話(初出「報知新聞」大正13年4月)
星の声(萩原幸子): 病床で
 


本全集「凡例」より:

「一、本全集は、稲垣足穂自身が昭和四十三(一九六八)年に作成した目録を基本に編んだものである。
一、改題、増補、改作、合併、編入、改訂をくり返した作品については、その経過を巻末の「解題」で明らかにし、本文には基本的に最終稿とみなされる作品を収録した。」
「一、『稲垣足穂大全』(中略)に稲垣足穂自身が追加訂正を書き込んだものについては、それを最終稿とした。
 また、『大全』以後の『増補改訂 少年愛の美学』にも、刊行後大幅な加筆訂正がなされており、それを最終稿に、「ロバチェフスキー空間を旋りて」は大幅に加筆訂正した生原稿を最終稿とした。
一、表記は、原則として、新字、新かな遣いとした。」



本書「解題」より:

「本巻には、第十三巻『タルホ拾遺』収録作品を除き、本全集第一巻から第十一巻までに未収録の作品とエッセイを発表順に収録した。」


目次:

友人の実見譚(じっけんたん)
シャボン玉物語
鸚鵡(おうむ)の一件 最近の佐藤春夫氏
藤の実の話――退屈で困っている二人の青年の間に交された一片
マイ・サンマー・ハウス 夏座敷
三人に会った日
云わして貰(もら)います
南京花火物語
来(きた)るべき東京の余興
神戸漫談
Y-dan
美学
かもめ散る
海浜漫談
僕の立場から
ラリイシーモン小論
タルホ五話――クリスマスの夜の前菜
大谷先生の話
相馬先生の問題――世の教育家諸氏にたずねる一篇

ラリイの夢
黒猫と女の子
ソシァルダンスに就(つい)て
妄執(もうしゅう)
滑稽(こっけい)二つ
新道徳覚書
海べの町
STAR PITCHER
PREFACE
習作――佐藤春夫氏「海辺の望楼(ぼうろう)にて」の一部分
牡蠣(かき)――Aさんとその恋人の話
タイトルに就(つい)て
HOSHINOさん
     ☆
タルホ一家言
或(あ)る倶楽部(クラブ)の話
カオルサンの話
大変です
天文台
第三半球物語
月星(げっせい)六話 (チミちゃんの手帳から)
WC
『ラリイ将軍珍戦記』を観て
『田園の憂鬱(ゆううつ)に就(つい)て
彗星一夕話(すいせいいっせきわ)
鹿が沈んだ淵(ふち)
新選組のような顔
訂正及(および)創造に就(つい)て
飛行機及(および)ポオによる一例
偏見と誤謬(ごびゅう)
手帖から
やけくそ三つ
Pちゃんと西洋人
ハイエナ追撃
空中世界
或(ある) Krafft-Ebing な挿話(そうわ)
T氏と街
A MERRY-GO-ROUND
まるい山々と鳥 会津若松の印象
詩集『こわれた街』の会
ラリー・シーモンの芸風
鉛筆奇談
人としての春夫先生
長方形の箱
前髪論
一寸角の紙で後始末をする法
黄色い冊子 日本超現実主義の運動
岡田君のような作風は
自動車の宙返りその他 機械と文芸
映画のつまらなさ
スフィンクスと青い火玉
蓬莱(ほうらい)問答
蓄音器の逆行について
星じるしエロナン見本帖
印度(インド)の神様のいたずら
怪談
LE SIMULTANITE
MAGIC BOX――物理学とお化に就て
著者への書翰(しょかん) 笠野半爾氏へ
螺旋街(らせんがい) THE SPIRAL CITY
真面目な相談
明石から
月夜の不思議
空の寺院
ピエトフ
奇妙なフィルムの話
時計奇談
兎(うさぎ)の巣
早春抄
石川淳と JUNE BAG
格子縞(こうしじま) A Sketch
よりどり前菜(オルドーブル) 1
よりどり前菜(オルドーブル) 2
僕とライオン
新月抄
カツギヤノモクベエサン
道草の大家 佐藤春夫
善海(ぜかい)
     ☆
河馬(かば)の処刑
松風
緑金の蛇
美少年時代
日本の美少年 続E氏との一夕
宇治の景色
エーロスの道
春風澱江(でんこう)歌
かつら男
宇宙感覚
わらべ唄――ムソルグスキー変奏曲
「沈黙の塔」への憧(あこが)れ――京都の学生ら
難波の春
グッドナイト! レディース――TOR-ROAD FANTASIA
わが明治時代
武石(たけいし)記念館
京都タワーがなぜ悪い!
熊野の鷹
模型極楽
五人の死者
芭蕉(ばしょう)の葉
冬のうた
歯欠け男
旧友への返信
糖尿病所感
ふんどし談義
キネマの月巷(ちまた)に昇る春なれば――我がはたち代
「タイル」方丈記
飛行機の句と硝子(ガラス)の靴(くつ)
星の都
触背美学
プラトーン以後 (我が受賞の弁)
現代の魔道
殻(から)の中の月
デカンショ節 流行歌
裸形執筆
「新青年」発表作品への回顧
目鼻が付いた天体たち
王と王妃
稲垣足穂作品集について
国夫平木氏を推す
一年我見
私の夏=蕪村の夏
近ごろ思うこと
あいまいメガネ
海港奇聞
津田画伯の回想
桃山だより
続アドラティ=バウァナ
桃山の桃
ノアトン氏の月世界 浪花の思い出
モナリザの秘密はその「不貞美」にある
雄鶏(おんどり)と三日月――わが内なる商標記
ドサクサ飲酒

解題 (萩原幸子)




◆本書より◆


「妄執」より:

「「わたしは、自分の命を守るために仇討の心のみじんもないわたしをたおしたかれを毛頭うらんでいるのではございません。それはこののちかれが、父に加えて子までを討ったことによって得た心の重荷をおうてゆくことによってもゆるされていいのでございますし、それがたしかなのはわたしが杉の梢から見下したときかれの顔にみとめたもだえの影によってもわかるのでございます。ただふり返るときに、ひたすらに考え思うことによっておこなって行ったわたしの生涯は、あまりにもあっけないものではなかったろうかという一つにかかわっているのでございます。仇敵をゆるし自分の死もみとめて高いところにのぼろうとしたとき、わたしはこのたましいが云いようなく晴れやかなものであっただけに、またこのあまりに執着のない一生というものがあってもよかったろうか、世のあらゆる人々のようにもっといきどおりにくみかなしみにとらわれた方がほんとうではなかったろうか、人というものが死にのぞんでこんなに地上について冷たくてもよいのであろうかとの懸念をふとうかべたのでございました。こうしているうちにも、わたしのたましいはその雲霧を何の造作もなく切りひらいてゆきそうなのでございます。それは今ここにお話していることさえかなりな苦しみとなってかんぜられるのによってもあきらかなことでございます。このわたしのたましいにとっては、あの男があの男の生き方を受けもったように、自分も自分の生き方を受けもったにすぎぬのであり、みんなは大きな一つのながれのうちにあるものであることを、わかりすぎるほどわかっているのでございますが、あの男があの男になりきれぬなげきがわたしたちの世界のことにかかっているならば、ここにわたしがわたしになりきれぬまよいも、あるいはわたしの見のがしていた地の上のおきてというようなものにかかっているのではございませんでしょうか。そのためわたしは高いところへのぼるまえに自分ならぬ地上のひとりから『お前の生涯はそれでよかった』との一言の裏がきが求めたさにその二つの力のあいだにみずから止っていたのでございます。」」


「MAGIC BOX」より:

「あなたは、夜の街などで、通りすがりに侘(わび)しい電燈に照らされている露路の奥をチラッと見たり、又、キラキラした店先などで、或(ある)驚ろくべきものを見たように思われる事がないであろうか? それは何であるかはよく解釈されないのだが、私たちには何となしに気懸(きがか)りであって、それで引返して来る時もう一ぺんそこに注意を払う。するとそこは何でもない所なのである。私はずっと以前、白い幕に向って坐っていた事を覚えている。その幕には所々しみがついて、それが考え様によって何にでも、鳥や木や又器物のように見えて面白かった。この幕の両側にはガスのマントルが燃えていて、青白い光がそのしみを照らしているのである。しかし私はこの時は、そんなものでなく、活動写真というものを見るために此処(ここ)へ来ている筈(はず)であった。それなのに待てど暮らせど一こうにそれらしいものは出て来ぬのであった。私は「いつ始まるか」「いつ始まるか」と云っていたが、そうすると私の傍らにいたお母さんかそれとも他の誰であったか判らない人は、「もうじき」「もうじき」と云うような事ばかし云っていた。けれども更に時間が経っても何事も起らない。色々なものに見えるしみをガスが淋しく照らしているだけなのである。私には何だか、こうしている事がずっと以前からの事であったように思われて来た。そしてこれから何百年も何千年も、果もなくこうして何事も起らない白い幕を見ているのではなかろうかと考えられた。」


「現代の魔道」より:

「日本天狗は保元物語に初めて登場する。これは僧服烏喙(うかい)のきわめて格調の高い存在である。なおこういう天狗僧正に狐の首が付いたのがあることを注意しよう。こんなわけで、天狗もその初めは決してあんなワイセツな張形天狗でなかったことが判るのである。
北条高時の周囲に群がり寄せている天狗も、クチバシをそなえた青天狗、すなわち烏天狗だったことはご存じの通りである。」
「サイケ調よ、ヒッピー族よ、フーテン派よ、ゲバルト諸兄よ。同じやるなら白峰権現すなわち我が崇徳上皇の、舌を噛(か)み、血を吐き、その血をもって自らの写経の軸ごとに書き入れた「願くは大魔王となりて天下を悩乱せん。謹みて五部大乗経を以て悪道に回向(えこう)せん」のそれであらんことを!」

































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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