『南方熊楠全集 第三巻 雑誌論考 I』

「二十六、七年前、東牟婁郡三輪崎の村外れ漁夫の家に、件(くだん)を檻に入れて養う。それはその家に生まれた子、成長しても白痴で獣のごとく這うのみ。」
(南方熊楠 「件」 より)


『南方熊楠全集 第三巻 
雑誌論考 I』

監修: 岩村忍/入矢義高/岡本清造
校訂: 飯倉照平

平凡社 1971年11月29日初版第1刷発行/1991年3月20日初版第11刷発行
618p xiii 口絵(モノクロ)4p
A5判 丸背布装上製本 貼函
定価6,000円(本体5,825円)
装幀: 原弘



本書「凡例」より:

「本全集は、南方熊楠が公表した論考、随筆、英文著述、ならびに未公表の論考、手稿類などを集大成することを期した。」
「国内で、著書として、あるいは雑誌に発表された文章は、内容がはなはだしく重複する一、二の例外を除き、すべて収録する。また新聞に掲載された文章も、主要なものは収録する。」
「外国の刊行物に発表された英文著述および未公表の英文論考は原文で収録する。」
「書簡は、学術的および伝記的に重要な内容をもつものを、入手しうる限り、完全な形で収録する。」
「その他、未公表の論考、手稿類、日記の一部、年譜、著述目録索引を付載する。」
「表記は原則として「現代かなづかい」に改め、送りがなも(中略)読解の便をはかって付加し、大部分の接続詞、副詞、助詞なども、漢字をかな書きに改めた。」
「漢字は、当用漢字、同補正案、人名用別表にある字体は、これを使用し、また一部の俗字、同字などで現在常用されないものは、通用のものに改めた。」
「引用文は、(中略)可能な限り原典と照合、校訂した。また漢文の引用文は「読み下し文」に改め(中略)た。読み下しには飯倉照平が当たり、(中略)入矢義高が校閲した。」

「本書(第三巻)は、続刊の第四巻、第五巻とともに、諸雑誌に掲載された論考(英文論考を除く)を収録する。(中略)同一テーマでより紙数の多いものが新聞に連載されたものは、第六巻に譲った。」
「テキストは原則として著者手沢の初出雑誌を用い、著者の「書きこみ」をなるべく生かした。」



目次:

凡例

「東洋学芸雑誌」
 オリーヴ樹の漢名
 ダイダラホウシの足跡
 寄書
  ペストと鼠の関係
  「桜の記」
  動物の保護形色
  言葉のかずかず
  幽霊に足なしということ
  人名を氏の義に連ねて命ずること
  飛行機の創製
  「鼠の嫁入り」の話について
 質問
  ホトトギスについて
  本邦産淡水生紅藻について
  再び本邦産淡水生紅藻について
  梅について
  芸州吉田川の食用藻について
  油木について、並びにトネリコについて
  葉なき蘚について
  カシノキ数種について
  熊野産顕花植物および羊歯数種について

「早稲田文学」
 『大日本時代史』に載する古話三則

「人類学雑誌」
 涅歯について
 一枚歯――歯が生えた産れ児
 無言貿易
 雑報
  邪視のこと
  人名を読んで児啼きを止むること
  馬頭神について
  誕生日に小児の生い立ちを卜うこと
  仏経に見えたる古話二則
  魔除に赤色を用ゆ
  白馬節会について
  スペリカンスという遊戯
  月見の祝儀

「動物学雑誌」
 マンモスに関する旧説

「太陽」
 猫一疋の力に憑って大富となりし人の話
 支那民族北方より南下せること
 戦争に使われた動物

「人性」
 常世国について

「郷土研究」
 白米城の話
 針売りのこと
 橋の下の菖蒲
 栗鼠の怪
 陸奥女人の話
 わが子を生まんがために他子を養うこと
 孕婦の屍より胎児を引き離すこと
 小篇
  山人の衣服について
  羊の語源について
  頭白上人縁起
  山オコゼのこと
  赤山明神のこと
  シュンデコ節
  虱が人を殺した話
  ハマボウとハマゴウ
  秘しおった年齢を自分で露出した話
  蜘蛛を闘わすこと
  辻占果子
  蛙を神に供うること
  蓮燈
 紙上問答
  質問
  応答
 小通信
  川成と飛騨工の技を競べし話
  鬼子母神が柘榴を持つ
  鰌取り
  美人を出す地
  五郎四郎柴
  井鹿
  水量をもって年の豊倹を占うこと
  衣類を算える童戯
  若狭の人魚
  つるべおろし
  切飯の風習
  柱の穴
  家の怪
  みおろし
  歯のまじない
  レンコという遊戯
  杉樹酒泉のこと
  庭木が家より高く伸びること
  昔千軒あったという村
  モミナイという言葉
  ヌシという語
  山口君の「動物に関する壱岐の俗信」の一、二条
 『郷土研究』の記者に与うる書

「不二」
 陰毛を禁厭に用うる話
 蟹の卜占
 月下氷人
 虎に関する笑話

「風俗」
 ミイラについて
 雑報
  かんぼく
  王粛の逐鼠丸
  質問

「土俗と伝説」
 南方随筆
  棄老伝説について
  インドの賤民
  熊野と榎
  牛に引かれて善光寺詣り
  獅子舞いの起り
  あやかし
  幣束から旗さし物へ
  山鳥
  鳴かぬ蛙
  刀豆
  富士講の話
  赤山明神
  片葉の蘆
  第六天

「考古学雑誌」
 烏帽子の諸部の名称について
 衣服をキモノと呼ぶこと

「飛騨史壇」
 スノリについて
 小篇
  質問二則
  金森氏で賤ヶ岳に働きし勇士
  飛騨の踊
 
「集古」
 なぞなぞ
 謎々余言
 古来伝習男女間大和言葉
 なぞなぞの小唄
 軍配団扇
 軍配団扇の現われた時代について
 墓碑の上部に烏八臼と鐫ること
 鎖鎌について
 毘沙門の名号について
 再び毘沙門について
 小篇
  団扇の話につきて
  蛇に食いつかれぬ歌
  朝鮮の公孫樹
  徒歩運動について
  装飾として持つ杖
  徒歩運動古く日本にありしこと
  数え唄について
  手車の唱え辞
  南方姓の訓み方について
  勢力という悪業者

「民族と歴史」
 南紀特有の人名
 トーテムと命名
 出産と蟹
 民族短信民俗談片
  スッパとカニサガシ
  俘虜と賤民
  垣内
  岡西惟中の歿年
  藤白王子社畔の大楠
  件
  おばけ

「土の鈴」
 笹野才蔵の博多人形について
 三角の銀杏
 柱松について
 春駒の名義
 セノ木について
 資料短信
  紀州の瓦猿について
  蚯蚓幟
  『絵本満都鑑』の第十一図
  婚礼と餳
  陰陽石崇拝
  いびつ餅
  琉球の鬼餅
  田祭りの餅について
  繩掛地蔵
  蒟蒻問答について
  潮吹きの挽臼について

「性之研究」
 孕石のこと
 東洋の古書に見えたキッス
 鮮人の男色
 若衆の名義起因――僧同士の非道行犯

「現代」
 桑名徳蔵と橋杭岩の話

「同人」
 西施乳について
 牡丹を夏の花とするについて
 真田が謠について
 小篇
  春蝉について
  サネキという木

「日本土俗資料」
 餅を福と称うること

「民族」
 ひだる神
 フクラシバ
 椰子に関する旧伝一則
 シシ虫の迷信ならびに庚申の話
 水乞鳥のこと
 蜀黍について
 紀州田辺より
  杖の成長した話
  衣を隠された神女
  ミソサザイは鷹の一属
  虎杖をゴンパチということ
  人を土地に執着せしむる水

南方の学問的系譜と民族学 (大林太良)




◆本書より◆


「一枚歯――歯が生えた産れ児」より:

「それから世に鬼子ということあり。『奇異雑談』上巻一四章に、「京の東山獅子の谷の一村は小里なり。明応七年のころも地下人の妻、産の時奇異なる物を産むこと三度に及ぶ。一番の産には男子を産む、常の人なり、これ嫡子なり。二番の産には異形の物を産む、その形委(くわ)しくは聞かず。三番の産には槌の子を産む、目鼻口なきがゆえに、やがてこれを殺しおわんぬ。四番の産には鬼子を産む、産まれ落ちてすなわち大なること三歳の子のせいなり。やがて走りてあるくゆえに、父追っ懸け、取り詰めて膝の下に推しつけて見れば、色赤きこと朱のごとし。両の目のほかに、また額に一目あり。口広くして耳に及ぶ。上に歯二つ、下に歯二つあり。父嫡子を呼びて横槌を持ち来たれと言えば、鬼子聞きて父が手に噛みつくを、槌をもってしきりに打って叩き殺すなり。人集まりてこれを見ること限りなし。その死骸をば西の大路真如堂の南の山際の岸に深く埋みたり。その翌日野人三人、おのおの拗子(おうこ)をかたげて同道して行くに、岸の下に土動けるを見て、土竜(うごろもち)ありとて拗子の先にて突けば鬼子出でたり。」


「常世国について」より:

「古エジプトの墓中に、人の霊魂を鳥形に画けるものあるを見しことあり。耶蘇教徒の画に、天使、天童を鳥翅あるものに画けり。(中略)鳥は高く飛ぶものゆえ、動物中最高位のものとするは当然なり。バゴス人、雨候に諸鳥飛び去るを見て、これ吾人の祖先が、日常に照り、病なく、洪水なき国土に往くなり、と言う。古ドイツにも多少似たことあり。西アフリカ土人は、人の死屍に鳥を結びつけ、南洋諸島民は棺を鳥形にし、霊魂鳥に乗って上天すと信ぜり、と言えり。日本武尊白鳥の故事は誰も知るところなり。(中略)G. L. Gomme, 'Ethnology in Folklore,' (中略)に、死人の魂を飛ぶものと見立てしより、ついに鳥と虫を死人の托するところと信ずるに及べる例を挙げていわく、英国ヨークシャーの村民、夜飛ぶ蛾を霊魂と呼び、アイルランドの某地には蝶を祖父の魂と名づく。(中略)デヴォンシャーに、死して鳥に托するという一族あり。コーンウォールには、アーサー王死して鴉となり現存すと言い、ニッダーデールの鄙人は、洗礼受けず夭せし児の魂、夜鷹に寄ると言う、と。」


「わが子を生まんがために他子を養うこと」より:

「さて紀州のある町辺には、従前、子なき者が捨子を拾い養うて実子同様に親切なれば、必ず実子を産むと信ずる人が多い。(中略)二十余年前、予郊外を歩くと、小児が集まり噂しおる。尋ぬると、今ここで捨子が拾われた、と言う。女学教師か何かが私生児を産んだのを密約しておきて、子のない家の近所に捨てると、さっそくその家へ拾い取って養うたので、ほどなくその家に実子が生まれた。分け隔てなく二児を育てたが、いつとなく自分は他人の子ということを聞いたらしく、年長ずるに従い、怏々(おうおう)として楽しまず、数年前より無言となり、しばしば近処の人跡少なき林中に絶食して潜み、いわゆる神隠しの体となって、終(つい)に殃死したように聞いた。」


「秘しおった年齢を自分で露出した話」より:

「二代先の中村数馬は、背小さく、異(かわ)りたる声を使わず、そもそも若衆方となって舞台をふむこと三十八年のあいだ、風俗ついに変わることなき子供なり。公界(くがい)十二歳より勤めて、四十九歳の秋まで、孫ほどなる客にもだいてねられけるは、野郎始まりて例なき世語りとはなりぬ。」


「なぞなぞの小唄」より:

「一二〇六年ごろヘルマン伯の催しで、ワルトブルヒの謎の大会あり。この技の達人、唄で謎をかけ、またとき、負けた者は生命を失うたという。ベーリング・グールドの説に、古え体格不良の者を社会から除いたごとく、脳力の良否を謎で試したゆえ、謎を解きえずして命を失うた咄多く伝わる、謎の大会に首を賭した話もそんな古風の残ったものだろう、と。」


「墓碑の上部に烏八臼と鐫ること」より:

「英国ウィンチェスターよりアンドヴァーに往く道上に、「三人の室女(きむすめ)」と名づくる場処あり。(中略)三人してその父を毒殺した罪で、頸から下を土に生き埋めされ、通りかかった人は決して食物を与えるなと厳令された。しかるに、騎馬で来たった一人これを怜(あわ)れみ、何気ない体で食い残りの苹果(りんご)の心を投げやったのを、三女のうちの一女が食うて三日生存した。」


「件」より:

「維新前、坊間に行なわれた『世話千字文』という手習い本の注に、件(くだん)は人首牛身で云々とあったと記憶するが、確かならぬ。
 田辺町の歯科医(中略)いわく、二十六、七年前、東牟婁郡三輪崎の村外れ漁夫の家に、件(くだん)を檻に入れて養う。それはその家に生まれた子、成長しても白痴で獣のごとく這うのみ。顔はまるで牛で、人の体なり。ただし牛の毛は生えおらず。かかる者の言うことに偽りなきゆえ、証文に件のごとしと書く。その者臨終前に言うたことあり。聞き及んだが忘れた、と。」
































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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