森洋子 『ブリューゲルの「子供の遊戯」』

「あるテーマのもとで考え出される社会風俗、民衆生活と祝祭行事、その季節における種々の農事などを「百科全書的」というか、「づくし的」に描出しようとする姿勢は、まさしくブリューゲル絵画の特質なのであった。」
(森洋子 『ブリューゲルの「子供の遊戯」』 より)


森洋子 
『ブリューゲルの「子供の遊戯」
― 遊びの図像学』


未來社 1989年2月25日第1刷発行/1999年7月15日第7刷発行
478p 折込口絵(カラー)1葉
A5判 角背紙装上製本 カバー
定価7,500円+税
装釘: 戸田ツトム



本文中図版(モノクロ)多数。「サントリー学芸賞」受賞。


森洋子 ブリューゲルの子供の遊戯1



本書「序」より:

「フィリップ・アリエス(中略)はこれまで見落とされていた社会史の側面、すなわち中世から近世にかけて大人の社会が子供をどう捉え、子供にどのような感情を抱いていたかを分析した。その結果、明らかにされたことは、近代でいう意味の子供期は一六、一七世紀まで存在せず、子供の法的な保護もなかったことである。子供は小さな大人として、共同体の中に組み入れられていた。」
「本書はブリューゲルの「子供の遊戯」の比較文化史的研究を行ない、中世、近世初期の「子供観」に対して大きな影響力をもったアリエス解釈の修正を提唱するものである。さらにこの作品に描かれた九一種類の個々の遊びを分析することで、(一)子供の遊戯が一六世紀後半に絵画の主題として登場してきた時代背景、(二)フランドルだけでなく、広く北ヨーロッパにも共通する伝承遊びとそれらの関係、今日では知られざる当時の遊びの内容や遊具の作り方とその意味、(三)中世や近世初期の文学で詠われた遊びのアレゴリーとの関わり、(四)遊ぶ子供に興味をもつ同時代人の意識、などの諸点がある程度、解明されるであろう。だがブリューゲルのこの作品の分析だけでは十分とはいえない。そこで、この作品を歴史的にも位置づけるために、本書の最終章において、西洋美術史にみられる子供の遊びの系譜を、古代ギリシャから一七世紀まで、それぞれの時代の遊戯論と関連させながら論じた。」



森洋子 「ブリューゲルの子供の遊戯」 2


目次:

口絵 ピーテル・ブリューゲル「子供の遊戯」


第一章 ブリューゲルの「子供の遊戯」、その作品成立の背景
 一 ブリューゲルとアントウェルペン
  1 生涯の大半を過ごした都市
  2 国際商業都市となる
  3 めざましい文化活動の都市
 二 ブリューゲルの略伝
 三 「子供の遊戯」の来歴
 四 「子供の遊戯」の様式的特徴
 五 「子供の遊戯」の人物配置と色彩
 六 作品解釈の諸説
  1 「子供の遊戯」の百科全書説
  2 「幼年期」の寓意画説
  3 大人の愚行の縮図説
  4 大人の世界の鑑(かがみ)説
  5 新しい解釈の提言
 七 季節にみる子供の遊戯
第二章 「子供の遊戯」の図像学
 1 お手玉遊び
 2 人形遊び
 3 人形の家
 4 祭壇ごっこ
 5 梟の巣箱
 6 水鉄砲
 7 仮面遊び
 8 ブランコ遊び
 9 くるみの風車遊び
 10 シャボン玉遊び
 11 小鳥遊び
 12 ガラガラ遊び
 13 石が脚にあたるぞ
 14 洗礼ごっこ
 15 目隠し鬼ごっこ
 16 子供椅子
 17 「いくつもっている」または「奇数か偶数か」
 18 棒馬
 19 子守りごっこ
 20 太鼓と縦笛
 21 お粥(ブレイ)のかきまぜごっこ
 22 輪回し(男子用)
 23 輪回し(女子用)
 24 樽栓の穴から叫ぶ
 25 シーソー(樽揺らし)
 26 風船(豚の膀胱)遊び
 27 尻打ち
 28 牡山羊、牡山羊よ、ふらつくな
 29 お店屋さんごっこ
 30 ナイフ立て
 31 煉瓦積み遊び
 32 髪の毛むしり
 33 昆虫を捕える
 34 ヴォラールト運び
 35 帽子、帽子を脚の間から
 36 兎跳び
 37 線の上での引っ張りっこ
 38 足蹴り
 39 噛みタバコ転がり
 40 梨の木になる(逆立ち)
 41 でんぐり返し
 42 柵をよじ登る
 43 柵の上でお馬乗り遊び
 44 花嫁行列ごっこ
 45 目隠し鍋たたき
 46 低い竹馬
 47 目隠し鬼のスリッパとり
 48 ひと山に当てる、塔にむかって投げる
 49 ぐるぐる回り
 50 高い竹馬
 51 ぶらさがり(横木に回転する)
 52 棒立て(バランスごっこ)
 53 肥った仔牛、または袋のかつぎごっこ
 54 投げ独楽
 55 鞭独楽
 56 私の青い塔の中に誰がいるの
 57 カタカタ鳴らし
 58 風車(かざぐるま)で槍合戦
 59 穴掘り
 60 砂山へ駆け登る
 61 砂山から駆け降りる
 62 スカートを膨らませる
 63 木登り
 64 浮袋(豚の膀胱)で泳ぐ
 65 足を水に浸す
 66 川辺から泳ぐ
 67 泳いだ後で
 68 ボール遊び
 69 おしっこ
 70 指骨遊び
 71 短棒投げ
 72 ボールを穴の中へ
 73 小猫ちゃん、小猫ちゃん、王様の椅子、または王様の退位ごっこ
 74 地下室の扉を登る
 75 取っ組み合い
 76 壁さんに玉をぶつける
 77 宗教行列ごっこ
 78 ねずみの尻尾ごっこ
 79 訪問ごっこ
 80 先頭の子供に従え
 81 ベンチから押し落とせ
 82 馬ちゃん、牛ちゃん、仔牛ちゃん
 83 ボール隠し
 84 馬のベヤールトとヘーム伯の四人の子供たち
 85 洗礼者聖ヨハネの祝火
 86 焚木運び
 87 松明運び
 88 戸口の前で歌う
 89 散歩
 90 吹流しをなびかせる
 91 籠をぶらさげる
 まとめ 作品全体の展望
  (一) 普遍的な遊び
  (二) 伝承遊び
  (三) ヨーロッパの宗教、歴史に関する遊び
  (四) 生活様式に関連する遊び
  (五) フランドル独特の遊び
  (六) 遊びの関連性
  (七) 遊びの場
  (八) 表現様式
第三章 西洋美術における子供の遊戯
 一 古代ギリシア・ローマ――遊びは子供にとって有益
 二 中世――区別しにくい子供と大人の遊び
 三 ルネサンス
  1 時祷書に彩飾された一二ヵ月の子供の遊戯
  2 人生の第一時期「幼年期」のアレゴリー
  3 運動の重視
  4 子供をみるブリューゲルの眼
 四 一七世紀――遊びの寓意性
  1 子供の遊戯は大人への教訓
  2 コルヴェン遊び――自己の目標設定
  3 凧上げ――虚無の風
  4 小鳥遊びと鳥籠
  5 タイル画にみられる子供の遊戯
結論

あとがき
参考文献



森洋子 「ブリューゲルの子供の遊戯」 3



◆本書より◆


「ブリューゲルはまず、「幼年期」のアレゴリーを念頭におき、それから民俗学者のように丹念にフランドルの遊びを収集し、失われつつある遊びの広場を画面のうえで復活させながら、同時代の人々に改めて遊びの本質を問うたのであろう。」

「主な遊びの場は広場であるが、子供たちはそのほかにもいたるところに、それぞれの遊びに適した“場”を見出している。例えば、道路、少し離れた野原や小川、家の中、戸口、壁、中庭や柵などである。いや市庁舎のような公共建造物でさえ、正面玄関、階段、アーケードの石畳、側壁、階上の開口部など、子供によって遊び場として占拠されている。こうしてみると、画家は子供というものはどんな場所でも遊びの場にし、(中略)遊びとそのルールを考え、遊具も簡単な工夫で作ってしまう不思議な創造性をもつことに注意を喚起したかったのではなかろうか。」


「22 輪回し(男子用) Hoepelen (フランドルでは reep)
 「輪回し」は大抵古い樽の箍(たが)を使用し、材質としては、柳の枝や栗の木で、形も丸いものや一本の棒を輪にしたものなどがある。(中略)この遊びはすでにギリシャやローマ時代にも知られており、鉄製の輪が使われていたらしい。しかしブリューゲルの時代では木製の箍であった。というのは一六世紀の言語学者キリアーンも出版業者プランタンもこの遊びを「木製の輪」 circulus ligneus と呼んでいたからである。」
「この遊びは輪が思いがけない場所に転がったりするため、一七世紀、子供が道路で輪回しをするのを禁じた法令があった。ドローストによると、最古と思われる例は一四五六年のドルトレヒトの禁止令。さらに一四八五年に、同市で「ポルツィ・ランツィと叫びながら、道路で輪回しをしてはならない」という法令を出している。「ポルツィ・ランツィ」というのは、輪回し合戦のときの両軍があげる「掛け声」だった。
 ところで、輪回しは一七世紀においても戸外の遊びとしてひじょうにポピュラーで、オランダの詩人ヴォンデルは娘の死に際し、こう謳っている。

  元気な子供の群れにともなわれ
  街中を
  カランカランと音立てて
  輪を回していった……

 遊び方はきわめて単純で、このブリューゲルの画面(中略)にみられるように、子供たちは片手に短い棒をもって、輪をたたきながら転がすのである。」

「26 風船(豚の膀胱)遊び De Varkensblaas
秋も深まると、農夫たちは豚を森に連れて行き、どんぐりの実で肥らせ、やがて一一月か一二月に畜殺する。ブリューゲルの他の作品、例えば、「ベツレヘムの人口調査」にしても、前景左に豚の畜殺・血抜きがみられる。そしてその側で一人の子供が豚からとり出された膀胱を早速ふくらませている。(中略)こうして畜殺された動物は解体され、(中略)冬期の食料として保存される。解体したとき得られる豚や牛の膀胱は、すぐにふくらませて乾燥させる。豚の膀胱は元来、豆やそら豆を保存する壺代わりの役割もするのだが、他方、子供たちはそれを風船のようにして遊ぶのを楽しみにした。ブリューゲルの「子供の遊戯」でも、男の子が豚の膀胱をいっしょうけんめいにふくらませている。」


























































































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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