G・R・ホッケ 『マグナ・グラエキア』 (種村季弘 訳)

「おそらくイタリアの都市のなかでも、悲痛と至福の感情をこもごも授けてくれる無時間性の恍惚たる自由がここでほど強烈に感じられるような都市はほとんどあるまい。」
(G・R・ホッケ 『マグナ・グラエキア』 より)


G・R・ホッケ 
『マグナ・グラエキア
― ギリシア的南部イタリア遍歴』 
種村季弘 訳


平凡社 
1996年10月21日初版第1刷発行
340p 地図1葉
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,884円(本体2,800円)
装丁: 中垣信夫

Gustav René Hocke : Magna Graecia: Wanderungen durch das griechische Unteritalien, 1960



本書「訳者あとがき」より:

「マグナ・グラエキア、あるいは大ギリシア、またはメガレ・ヘラス。前八世紀頃からはじまったギリシア人たちの海外植民活動の成果、とりわけ南イタリアとシチリアに創設された植民市がそう呼ばれた。西のティレニア海側のナポリから、東のアドリア海側のマンフレドニア(フリードリヒ二世の長子マンフレートにちなんだ地名)にいたるまで、イオニア海を東南に望みながら、一人のドイツ青年マンフレートが遍歴する。マンフレートは、かつて栄えて今は地中や水底に沈んだ、あるいは古代や中世そのままの外観を残しつつ今のなかに当時をさりげなく沈めている都市(まちまち)を訪れ、かつての植民市と植民市をつなぐ街道を移動する。しかしそのマンフレートはあくまでも「体験の担い手」であって、この特異な「小説」の真の主人公が「マグナ・グラエキア」であることは、あらためて断るまでもないだろう。」


本文中図版(モノクロ)9点。
平凡社ライブラリー版(2013年)も出ています。


ホッケ マグナグラエキア 01


帯文:

「ナポリからマンフレドニアへ、神話的母権制から
ピュタゴラス=エレア学派を経てフリードリヒ二世の時代へ。――
主人公の足どりは、時空を超えて地中海世界の古層へと分け入り、
ヨーロッパ精神の生成・没落・再生の道を辿る。
マニエリスム研究の泰斗による学殖とヴィジョンに満ちた
層位学的・考古学的紀行小説。」



帯背:

「地霊との交歓
再生への予感」



帯裏:

「北方からラテン世界を見ていた師のクルツィウスの博大な教養を
受け継ぎながらも、クルツィウスとはほとんど逆方向といってよい
視点の変換が生じたのである。
南イタリア、それも地中海沿岸の古代ギリシア植民市から、
ときにはそれ以前の環地中海的原古層から、ヨーロッパ精神の
成立を捉え返すこと。……それが二十代後半の青年として
イタリア半島という長靴の底を旅していたホッケにひらめいた、
啓示のようなモティーフだった。
――「訳者あとがき」より」



目次:

著者によるまえがき

距離が置かれる
短い回想
最初の出会い
世界の頭(カプト・ムンディ)のヘアバンド
羽根の比喩
ユノの上なるマリア
二本の柱
小さな歴史
属州(プロウィンキア)がその魅力を示す
ピエートロとジュゼッペ
メタポントに花咲くもの
C伯爵家での最初の会話
ある研究者の肖像
クロトーネ、象牙とブルー
ピエートロが踊る
C伯爵家での第二の会話
クラーティの沼沢地にて
最後のシュバリス人
哲学的 間奏曲(インテルメッツォ)
C伯爵家での最後の会話
ターラントふたたび
不死鳥が石から舞い上がる
車室で一人の楽士が演奏する
ガリポリ、あるいは数の神秘主義
誘惑
聖母(マドンナ)
オートラント
レッチェの綺想曲(カプリッチョ)
卓上の会話
オペラ見物
タンクレドゥスの教会
ガラスの眼の聖母(マドンナ)
レッチェ――ブリンディジ特急(ディレッティシモ)
合理的様式(スティロ・ラツィオナーレ)
バーリのレオナルド
カステル・デル・モンテ
トラーニの薔薇
バーリからサレルノへ
エレア
ポセイドニア
最後の旅
死者の呪文

参考文献
訳者あとがき

マグナ・グラエキア全図



ホッケ マグナグラエキア 02



◆本書より◆

「顔のない無の安らぎがこの世界喪失の風土に君臨している。はるかな海の洋々たる水の上には、人間不在の世界以前の世界の海の上を飛ぶように燕が浮遊している。かつてここで歴史的生命が自然に遭遇したことがあった。以来、もっぱら無時間性ばかりが、それ自身のうちなるざわめきが、あのかなりぞっとするもの、記憶喪失が、ぐるぐるとへめぐり――どこも光だらけの大海原に盲いて消えてゆく。」

「この人間の動物誌をもふくむ島の町の魚市場をうろついている者たちは総じて、人間によりはむしろ海の妖怪に似ていた。鱗や鰭のある男たちを想像されるがよかろう。彼らは、気晴らしに大海原の幸(さち)をひろげ、吟味したり舌鼓を打ったりしながら、海中に潜り陸に上り、またしても潜る。」

「またしてもマンフレートには、かつては人間が万物との精神的結びつきをそれを通じて告知していた、あのヨーロッパの消え去った顔が、すべての事物の何かと何かの絆めいた性格に現在も残っているという気がした――ただしかなり多くの人の意識からはおそらく逃げてしまったのにちがいない。幻影は最初の日のようなはたらきをした。小さな、目に見えないもののためにも魂が感動に開かれていれば、小さな、目に見えないものは姿を現して絶望を祓ってくれる。見えない手があって、光のなかに書き込まれた比喩のようにそれを差し出してくれるのだ。」

「それともこんな見知らぬ人たちの間で蒸発してしまえたらどうだろうか? マンフレートの父親〔フリードリヒ二世〕が建てさせた、あまたある城塞の一つで隠者になっては? すべてのものをシャットアウトしては? 物乞いのパンと肉を食べて生きては? いっそ生きるのをやめてしまえば? ひたすら影うすく生きること。いいではないか。見捨てられた塔の部屋にただ一人! (中略)そしてこの忘れられたヨーロッパ南方の無名性のなかに埋没沈潜する。
 これこそは第二の安楽死めいた誘惑だった。ガリポリへ! いまや意志であり活動ですらある、死への憧憬。」































































































































































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