冨原眞弓 編・訳 『トーベ・ヤンソン短篇集』 (ちくま文庫)

「そもそも道なんかつくる必要があるだろうか。あってもなくても、行きたいところには行けるのだ!」
(トーベ・ヤンソン 「夏について」 より)


冨原眞弓 編・訳 
『トーベ・ヤンソン短篇集』
 
ちくま文庫 や-29-1

筑摩書房 2005年7月10日第1刷発行/2006年4月10日第2刷発行
286p 付記1p
文庫判 並装 カバー
定価880円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン・彩色: 祖父江慎
装画: トーベ・ヤンソン



本書「解説」より:

「本書は既刊の短篇集四巻から編んだ傑作選(アンソロジー)である。文庫への再録にあたって、必要に応じた改訳をおこなった。「子ども時代」「創作」「奇妙な体験」「旅」「老いと死の予感」という五つの主題(モティーフ)を設定し、ゆるやかな統一感をもたせて配列した。」


本書付記より:

「この短篇集は、〈トーベ・ヤンソン・コレクション〉(全8冊、筑摩書房)からセレクトした、ちくま文庫のオリジナル編集です。」


ヤンソン 短篇集


カバー裏文:

「トーベ・ヤンソンにはムーミン作家として以外の、魅力的なもう一つの顔がある。「ああ、あの作品はここから生まれたのか」と思わず読者を納得させる、子供のこだわりと大人のユーモアやペーソスがない交ぜになった味わい深い作品群。多岐にわたる短篇の中から、その特徴を示す際立った作品を選んで一冊に編み、ヤンソンの世界の奥行きと背景を伝えるベスト・セレクション。」


目次:

◆子ども時代
夏について
往復書簡
カリン、わが友

◆創作


愛の物語
自然のなかの芸術
リス


◆奇妙な体験

ショッピング
植物園

◆旅
汽車の旅
見知らぬ街
時間の感覚
リヴィエラへの旅
軽い手荷物の旅

◆老いと死の予感
聴く女
事前警告


解説 虚構と現実のはざまで (冨原眞弓)




◆本書より◆


「夏について」より:

「道をつくることにした。(中略)道はずいぶん曲がりくねってしまった。(中略)道はせますぎたうえ、ぐるりと円をかいてしまったらしい。ほとんどはじめとおなじ場所にもどってきた。こういうこともある。だけど、そもそも道なんかつくる必要があるだろうか。あってもなくても、行きたいところには行けるのだ!」

「屋根裏に秘密の小部屋をつくった。(中略)部屋ができたとき、台所から灯油ランプをもちこみ、暗くなってから灯をともした。(中略)おとなたちが屋根裏の階段をあがってきて、こういうことをしてはいけない、小屋ごとぜんぶ燃えてしまうから、という。ランプがあるふりをしてあそびなさい、どんな子どももおもちゃの家をつくるとそうするものだ、とも。これには頭にきた。わたしは「どんな子ども」なんかじゃない。わたしはわたしであって、このわたしが家をつくったのだ。ランプつきの。そんなわけで、わたしは小部屋をあとにした。」



「往復書簡」より:

「ヤンソンさん
 とても長い時がたちました。五か月と九日になりますが、返事をくださいませんね。
 わたしの手紙はとどいたのでしょうか。」
「あなたの足元に坐って学びたい。
 旅をするためにお金を貯めています。」

「ヤンソンさん
 ずいぶん長い旅なのですね。
 あなたが旅にでてからもう六か月以上になります。
 もうそろそろ帰ってこられるでしょうか。」

「ヤンソンさん
 いつか手紙を書いてくださったとき、フィンランドは夏で、
 あなたはあのさびしい島でくらしていました。
 その島にはめったに郵便がとどかないということでした。
 わたしの手紙はいちどきに何通もうけとったということですか。
 ボートが島をとおりすぎて、近よってこないのは、とても気分がいい、
 とあなたはいいます。
 でも、いまフィンランドは冬になろうとしています。」

「ええ、そうですね、たくさんの年をかさねる必要はない、
 物語を書きはじめればいい、書かなくてはならないから
 書くのです。知っていること、感じていること、または
 憧れているもの、自分の夢について、
 そして知られていないものについて。ああ、
 大好きなヤンソンさん。ほかの人のことを気にしない、
 どう思っているのか、わかってくれているのかなんて気にしない。
 そうすれば語っているあいだ、ただ物語と自分自身だけが問題になる。
 それでこそ、ほんとうの意味で孤独になれるのですね。」
「聞いてください、ヤンソンさん、
 いつあなたに会いにいっていいかを教えてください。
 お金をためました。」

「ヤンソンさん
 すばらしい手紙をありがとうございました。」
「作家の書いた本のなかでこそ作家と出会うべきだ、
 というのはすてきな考えです。」
「元気で、長生きしてください。」



「カリン、わが友」より:

「いまわたしはひとつの考えにとりつかれている。イエスさまとユダのことだ。イエスさまはユダが自分をうらぎることをちゃんと知っていた。ユダがなにをするかは前もって決められていて、神さまが決めた以上、ほかのことをするわけにはいかなかったはずだ。そのあとでユダが首をつって世界一の極悪人になることも決まっていた。そう、わたしはいいたい、それじゃあんまりだと。それからこうも考えた。あんなにおそろしい思いをして、あんなにつらい良心の苦しみをあじわったのだから、ユダはゆるされたのかもしれないと。ぎりぎりの瞬間に悔いあらためる者は、神さまとイエスさまからゆるされるという話だから。」




































































































































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