セム・ドレスデン 『ルネサンス精神史』 (高田勇 訳)

「すでにくりかえし強調したとおり、印刷術は著しい影響を与えた。数多の人々にとっては、叡知をもたらす使者である書物を彼らの手もとに所有しておいて、自由自在に扱うことは、ほとんど奇蹟であった。彼らが、書物にわれわれには不可解な価値を与えているのを見ても驚くにはあたらない。世界も人間も書物の影響を受け、書物によって作り変えられることがあったのだから。これが幻影であったとしても、何と壮大な幻影であったことか!」
(S・ドレスデン 『ルネサンス精神史』 より)


セム・ドレスデン 
『ルネサンス精神史』 
高田勇 訳


平凡社 1983年9月14日初版第1刷発行
283p(うち別丁カラー図版8p)
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価1,800円
装丁: 木幡朋介



本書「解説」より:

「本書の原著はオランダ語で書かれており、het humanistische denken, Italië-Frankrijk 1450-1600 (『ヒューマニズムの思想、イタリア―フランス王国一四五〇―一六〇〇年』)がオランダ語版の書名である。訳者は英訳、独訳を参照しつつ仏訳を主として用い、各テクストに若干の相違がある場合は、その中から最良と思われるものを選んで訳した。」
「著者のセム・ドレスデン Sem Dresden は一九一四年に生まれ、アムステルダムとパリでフランス文学と哲学を修め、一九四七年ライデン大学フランス文学の教授に就任、今日にいたっている。」



本書「訳者あとがき」より:

「『ルネサンス精神史』は平凡社・世界大学選書のトップを切って一九七〇年に出版されて以来、(中略)他界評価をえて来た。しかし数年来品切れになっていて再刊を望む声が強かったところ、ここに装いも新たに刊行されるのは喜ばしい。。(中略)今回は旧版の校正もれを改める程度の改訂を施した。」


ドレスデン ルネサンス精神史1


目次:

序章

I イタリアのユマニスム
 ピコ・デルラ・ミランドラ
 ギリシア語研究
 写本の探索
 マルシリオ・フィチーノ
 プラトン=アリストテレス
 カバラ(ヘブライ神秘説)
 「学問的な宗教(ドクタ・レリギオ)」
 古典古代の復活
 寓意(アレゴリー)
 世界のなかの人間
 占星術
 文献学(フィロロジー)
 活動的な生活術
 学問と芸術

II エラスムス

III ユマニスムとフランス文学
 ユマニスムと福音主義
 マルグリット・ド・ナヴァール
 ラブレー
 ボナヴァンチュール・デ・ペリエ
 エチエンヌ・ドレ
 モーリス・せーヴ
 プレイヤード派

IV モンテーニュと冒険
 発見
 精神的冒険家
 モンテーニュ

V ルネサンスとユマニスム
 「ルネサンス」という言葉の定義
 ルネサンス以前のユマニスム
 一五世紀とその独創性
 「フマニタス」

年表
 イタリア=一三〇〇―一五八五年
 エラスムスの生涯とその作品
 フランス=一四七〇―一五九二年

解説 ユマニスムとはなにか (高田勇/1970年4月)
訳者あとがき (1983年7月20日)

参考文献
索引



ドレスデン ルネサンス精神史2



◆本書より◆


「一般に、人々はルネサンス人の特徴と思われる生きる喜びを、あまりにも強調しすぎた。そしてそこに再び中世と対立するものを見出していたのである。中世人が、その眼ざしを来世に向け、この世を涙の谷間と考えていたのに反して、ユマニストは人間と現世に向かう、というような中世観は、支持する余地がないことを示すのはやさしいであろう。(中略)なるほど、ルネサンスには強烈な生きる喜びを示す数多の証拠がある。けれども、これと全く同じ程度に郷愁と憂愁が見出されるであろう。ロレンツォ・デ・メディチの幾つかの詩、ミケランジェロの幾つかの彫像、無数の哲学的著作は、ある種の悲哀がユマニスムに浸透していることと、永遠の美と真実に対するある種の郷愁がそこにあらわれていることを証拠だてている。一五世紀には、呑気で思慮のない喜びは問題外である。それどころか、各人が自らの限界を感じていた。というのは、人間の可能性を極度にまで発展させねばならないということを意識していたからである。このようなわけで、人間は世界において占めうる位置と、なしうることとを発見するのである。」

「ユマニストたちがプロポーションと調和に対して示すことになる、ほとんど排他主義ともいえる絶大な趣味は、彼らの遠近法に対する意識と正比例する。アルベルティのごとき人の美学上の論文や、ニコラウス・クザーヌスやフィチーノのごとき人の神学的・哲学的瞑想など、どの領域においても、こうした興味は著しい重要性をおびる。プロポーションと調和は、すべての人々から同じ受け取り方をされないし、誰にも同じ基本的な意義を持ってはいないにせよ、これらは常に、そしてあらゆる面にあらわれている。あらゆる要素の相互間の結合より生まれる調和が、ユマニストの思想の主要な局面の一つであることに思いいたるなら、これはさほど驚くにはあたらない。ウィトルウィウスによって発見された建築術の法則に基づいて、これらの考え方を建築に発展させるにいたるのは、とりわけアルベルティである。建造物の調和、そしてそこから生まれる美は、全体を構成している各部分の調和から生まれる相互の秩序によって作られる。しかしフィチーノによると、このことは人間の霊魂の美についても真実なのである。霊魂においても同様に、さまざまな部分の統一は、神にほかならない絶対的統一に到達するか、さもなくばとにかくそれに似るのである。」

「この「人間的姿勢」、われわれ自身の生活である人間生活を完全に送るというこの理想、これは手をこまぬいていては達成されない。それには洞察と研究が必要である。人間研究 studia humanitatis に現代で一番ぴったりする言葉は「人文学」であるが、人間はいかにあるべきかということを人間の意識に理解させるものである。人間の性質を研究することにより、人間とは本来いかなるものかということが発見され、体験される。多くの点で、このフマニタスが書物と言葉とを通して人間のなかに浸透するということが、ユマニストの思想の特徴である。すでにくりかえし強調したとおり、印刷術は著しい影響を与えた。数多の人々にとっては、叡知をもたらす使者である書物を彼らの手もとに所有しておいて、自由自在に扱うことは、ほとんど奇蹟であった。彼らが、書物にわれわれには不可解な価値を与えているのを見ても驚くにはあたらない。世界も人間も書物の影響を受け、書物によって作り変えられることがあったのだから。これが幻影であったとしても、何と壮大な幻影であったことか! ペトラルカは手写本のまっただなかで暮らしていたが、それらは彼が読んだり書いたりするお手本であった。マキアヴェルリもしばしば具体的な政治問題のとりこになっていたにもかかわらず、やはりこのような生活を送っていた。そしてエラスムスはこれに輪をかけたくらいであったし、モンテーニュは彼の塔のなかにひきこもって、彼の書物のまっただなかで暮らしていたのである。」



ドレスデン ルネサンス精神史3








































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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