ロード・ダンセイニ 『短篇集 妖精族のむすめ』 (荒俣宏 編訳/ちくま文庫)

「なにね、またひとつ世界が終わっただけのことさ」
(ロード・ダンセイニ 「歌の復活」 より)


ロード・ダンセイニ 
『短篇集 妖精族のむすめ』 
荒俣宏 編訳

ちくま文庫 た-4-1

筑摩書房 1987年7月28日第1刷発行
370p 文庫判 並装 カバー
定価580円
装幀: 安野光雅
カバー装画: S.H. Sime (「The Sword of Welleran」より)
挿画: S・H・シーム

「この作品集は、『ダンセイニ幻想小説集』(一九七二年六月二五日、創土社刊)と『ペガーナの神々』(一九七五年三月三〇日、創土社刊)を元に再編集したものである。」



挿画(モノクロ)11点。


ダンセイニ 妖精族のむすめ


帯文:

「野獣に変身する神、突然発狂する都市――華麗な幻想的短篇傑作集。」


カバー裏文:

「ダンセイニの幻想小説が描き出す世界は、永遠が瞬時よりはかなく過ぎ去り、神々が野獣に変身し、瀕死の魂が神秘というオアシスを求めてさまよい、繁栄をきわめた都市は突然発狂する。華麗で倦怠感に充ちた虹色の幻想世界へと誘う、短篇小説20余編を収める。S・H・シームの神秘的な挿画を付す。」


目次:

妖精族のむすめ
サクノスを除いては破るあたわぬ堅砦
ケンタウロスの花嫁 (山田修 訳)
老門番の話
女王の涙をもとめて
サルニダクの慈悲 (野村芳夫 訳)
三人の文士にふりかかった有り得べき冒険
バブルクンドの崩壊 (佐藤正明 訳)
アンデルスプラッツの狂気
海を望む峰ポルターニイズ
ベツムーラ (鏡明 訳)
ギベリンの宝蔵 (佐藤正明 訳)
宝石屋サンゴブリンドの平穏ならざる物語とかれにくだされた運命 (佐藤正明 訳)
かれはいかにして予言の告げたごとく有り得べからざる都市に至ったか (山田修 訳)
赤道の話
オットフォードの郵便夫
エメラルドの袋
追剥
ヴェレランの剣 (佐藤正明 訳)
カルカッソンヌ (山田修 訳)
五十一話集
 約束
 カロン
 牧神(パン)の死
 ギゼーのスフィンクス
 めんどり
 風と霧
 いかだを作る人
 職人
 客
 死とオデュセウス
 死とオレンジ
 花の祈り
 〈時〉と商人
 小さな市
 草の生えない草原
 蛆虫と天使
 歌のない国
 最新のもの
 デマゴーグとドゥミ=モンド
 大きなケシの花
 薔薇
 金の耳飾りをつけた人
 カルナ=ヴートラ王の夢
 嵐
 勘ちがい
 ウサギとカメの競走に関する驚くべき真相
 不滅者
 教訓的な小話
 歌の復活
 街角の春
 敵はいかにしてトルーンラーナを訪れたか
 負け試合
 ピカデリーを掘り取る
 火災のあと
 市(まち)
 死の食物
 さみしい偶像
 テーベのスフィンクス(マサチュセッツ)
 報酬
 葉緑(はみどり)の街に起こったできごと
 あぜを掘る人
 エビのサラダ
 亡命者の帰還
 自然と時
 くろうたどり(ブラックバード)の歌
 使者たち
 背の高い三人の息子
 和解
 風景
 牧神(パン)の墓
 詩人と大地の対話

解説 この世のかなたの物語 (荒俣宏)



ダンセイニ 妖精族のむすめ2



◆本書より◆


今回は、「五十一話集」収録作より、本書所収の荒俣宏訳と、河出文庫版ダンセイニ短篇集『最後の夢の物語』所収の安野玲訳、およびダンセイニによる原文(「Fifty-One Tales」)を並べて引用しておきたく存じます。


「大きなケシの花」より:

「かれはいった、「ケシが大きく育ちすぎて、神々や妖精を殺してしまった。その香りが世界じゅうを窒息させ、また世界がもっていた美のちからを、根からすっかり吸いあげてしまった」そこでわたしは、どうしてその詩人が、古謡(ふるうた)などとたわむれながら、このなつかしい丘にすわっているのか、そのわけを訊いてみた。
 かれは応えた、「なぜならば、横笛の調べはケシの成長をおさえるからね。笛の音がなければ、ケシはもっと早く成長したろう。それにな、わしの一族が丘で横笛を吹かなくなってしまえば、多くの人が地上に迷い、どのみちすがたを消してしまうか、あるいは恐ろしい結末に遭うかするにきまっている。だからわしたちは、あのアガメムノンの手間を省いたと思っているよ」



「巨大な罌粟」(安野玲 訳)より:

「詩人はいった。「罌粟がぐんぐん大きくなって、神々や妖精たちを殺(あや)めている。これの香りは世界の息を詰まらせ、根は世界から美の力を吸いつくす」そこで、どうしてこの懐かしい丘の上にいて古い曲を笛で吹いているのか、わたしは詩人に訊いてみた。
 すると詩人は答えた。「この曲は罌粟には毒なのだ。この曲がなければ、こいつはもっと早く大きくなる。わが輩(ともがら)がそこかしこの丘の上で笛を吹くのをやめれば、人間は世界じゅうをさまよいあるいて迷子になり、あるいは恐ろしい最期を迎えるだろう。アガメムノンを救ってやったのもわれらだったと思っているよ」」



「The Giant Poppy」より:

「He said: "The poppy has grown apace and is killing gods and fairies. Its fumes are suffocating the world, and its roots drain it of its beautiful strength." And I asked him why he sat on the hills I knew, playing an olden tune.
 And he answered: "Because the tune is bad for the poppy, which would otherwise grow more swiftly; and because if the brotherhood of which I am one were to cease to pipe on the hills men would stray over the world and be lost or come to terrible ends. We think we have saved Agamemnon."」



「薔薇」より:

「この世からロンドンがあとかたもなく消えてなくなったあと、敗北したはずの原野が、終戦とともに帰還する亡命者のように復活するとき、花たちが何か美しいものをそこに見つけて、昔のことをすっかりと思い返してくれればいいがな、とわたしは願う。なぜなら、わたしたちはこのあさぐろい古都を、もはやすこしも愛していないから。」


「薔薇」(安野玲 訳)より:

「願わくは、ロンドンがあとかたもなく消え去って、追いやられていた野山が、戦いすんで流浪の民がもどるようにもどってくるとき、あそこを思い出すよすがとなる美しいものがなにか残っていますように。人間はあの薄汚れた古い都のことを、少しは愛おしいと思っているのだから。」


「Roses」より:

「I hope that when London is clean passed away and the defeated fields come back again, like an exiled people returning after a war, they may find some beautiful thing to remind them of it all; because we have loved a little that swart old city.」


「歌の復活」より:

「「これはいったい何なのです?」わたしは、神々のあいだでハミングしている者にそう訊ねかけた。
 「なにね、またひとつ世界が終わっただけのことさ」と、かれは応えた、「そして白鳥たちが、歌の賜(たま)わりものを神々に返しにやってきたのさ」」



「歌は還りて」(安野玲 訳)より:

「「これはなんなのです?」神々のうちでもやさしげなおひとりにわたしは尋ねた。
 「世界がひとつ終わっただけのこと」その神はそういわれた。「そして、白鳥たちが神々に歌の贈りものを返しにきたのだよ」」



「The Return of Song」より:

「"What is it?" I said to one that was humble among the gods.
  "Only a world has ended," he said to me, "and the swans are coming back to the gods returning the gift of song."」



「葉緑の街に起こったできごと」より:

「長く家に籠っていると、よく肝臓をやられるというけれど、そうしたことはもしかしたら気持の問題なのかもしれない。しかし、雨の日になると、彼女の魂はかならず深い奈落に落ちてしまうから、それが原因になって、そうした愉快で不思議な生きものたちがほんとうに地獄の近くまで上ってくると彼女が考えても、それはものごとの道理には反しないようだ。それにもうひとつ、とりたてて善い目的があるわけでもないのに煙草なんか喫ったのがいけなくて、彼女は、あのモレスヒル街とそこに住む口ごもりがちな老人のことを、知らずに心の内で創りあげてしまっていた。」


「リーフィグリーン街の災い」より:

「そう、もしかしたら家に長く閉じこもっているのが肝臓によくない影響をおよぼすのかもしれないし、そういうことは魂の問題なのかもしれないが、雨降りの日というと地獄の底のあの愉快な生きものどもが見えてしまうほどに彼女の心が深く沈むのはまちがいのないところで、それに、煙草を吸ってみてもなんのよいこともなく、かくして彼女はモウルズヒル街ともぐもぐしゃべる老主人のことを思い出したというわけだった。」


「The Trouble in Leafy Green Street」より:

「Now it may be that long confinement to the house affects adversely the liver, or these things may be of the soul, but certain it is that on a rainy day her spirits so far descended that those cheerful creatures came within sight of the Pit, and, having tried cigarettes to no good end, she bethought her of Moleshill Street and the mumbling man.」


「くろうたどりの歌」より:

「そのとき、杖にすがった漂泊(さすらい)の老人が通りかかったので、くろうたどりは話をやめて飛んでいってしまった。詩人はその老人に、くろうたどりのすばらしい物語を話した。
 「それは新しい歌だったのかね?」と、老いたさすらい人がいった。
 「いいえ、ちっとも。遠い昔に神さまが創ったものですよ。わたしがまだ若かったころは、くろうたどりたちがみんなでいつも歌っていた歌ですよ。そしてその歌は、たしかにそのころ新しかったのです」」



「くろうたどりの歌」(安野玲 訳)より:

「そのとき老いた旅人が杖にすがって通りかかり、くろうたどりは飛び去った。詩人は老人にくろうたどりの奇跡の物語を話して聞かせた。
 「その歌ができたてだとおっしゃるか?」と旅人はいった。「とんでもない。そりゃうんと昔に神さまがおつくりになったのだ。わしの若いころにはどんなくろうたどりでも歌っておったよ。その当時はできたてだったがのう」」



「The Song of the Blackbird」より:

「And an old wanderer walking with a stick came by and the blackbird flew away, and the poet told the old man the blackbird's wonderful story.
 "That song new?" said the wanderer. "Not a bit of it. God made it years ago. All the blackbirds used to sing it when I was young. It was new then."」



















































































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本