ロード・ダンセイニ 『世界の涯の物語』 (中野善夫ほか訳/河出文庫)

「ともに来たれ、賢明なるがゆえにロンドンに倦怠を感じている紳士淑女の方々よ。
ともに来たれ。
わたしたちの知る世界の何もかもにうんざりしている者よ。
ここに数々の新たな世界があるのだから。」

(ロード・ダンセイニ 『驚異の書』「序文」 より)


ロード・ダンセイニ 
『世界の涯の物語』 

中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子 訳
河出文庫 タ-1-1

河出書房新社 2004年5月10日初版印刷/同20日発行
373p 文庫判 並装 カバー
定価893円(本体850円)
デザイン/カバーフォーマット: 粟津潔
カバーデザイン: 坂野弘美
装画: シドニー・H・シーム
Lord Dunsany : The Book of Wonder (1912) & Tales of Wonder (1916)



本書「訳者あとがき」より:

「ダンセイニが幻想的な作品を発表するようになったのは一九〇五年の The Gods of Pegana (『ペガーナの神々』)が最初である。このとき、挿し絵を描いたのがシドニー・H・シーム(Sidney H. Sime 一八六七―一九四二年)である。その後もシームはダンセイニの本に挿し絵を描き、なかには挿し絵が先にあって、それを見たダンセイニが想像力を喚起されて作品を書いたものもあるという。そういう切っても切れない関係にあるダンセイニとシームであるから、本書にもオリジナル短篇集に掲載されたシームの挿し絵をすべて収録した。」


挿絵(モノクロ)16点。


ダンセイニ 世界の涯の物語


カバー裏文:

「現代ファンタジーの源流であり、いまなお魔法のきらめきを失わない特別の作家ダンセイニの初期幻想短篇集二冊を完全収録。盗賊サンゴブリンドに下された過酷な運命。〈絶無の都〉へいたると予言された子供の旅。老人から買った魔法の窓が見せたもの。水夫が偶然知った海の秘密……。神話的な物語に、ユーモアに満ちたほら話が織りまぜられた珠玉の三十三篇。」


目次:

I 驚異の書
 序文
 ケンタウロスの花嫁
 宝石屋サンゴブリンド、並びに彼を見舞った凶運にまつわる悲惨な物語
 スフィンクスの館
 三人の文士に降りかかった有り得べき冒険
 偶像崇拝者ポンボの身の程知らずな願い
 ボンバシャーナの戦利品
 ミス・カビッジと伝説(ロマンス)の国のドラゴン
 女王の涙をもとめて
 ギベリン族の宝蔵
 ナス氏とノール族の知恵比べ
 彼はいかにして予言の告げたごとく〈絶無の都〉へいったのか
 トーマス・シャップ氏の戴冠式
 チュー・ブとシーミッシュ
 驚異の窓
 エピローグ

II 驚異の物語
 序文
 ロンドンの話
 食卓の十三人
 マリントン・ムーアの都
 なぜ牛乳屋(ミルクマン)は夜明けに気づいたときに戦慄(おのの)き震えたのか
 黒衣の邪(よこしま)な老婆
 強情な目をした鳥
 老門番の話
 ロマの掠奪
 海の秘密
 アリが煤色の地(ブラック・カントリー)を訪れた顛末
 不幸交換商会
 陸と海の物語
 赤道の話
 九死に一生
 望楼
 こうしてプラッシュ・グーは〈誰も行こうとしない国〉にやってきた
 チェスの達人になった三人の水夫の話
 流浪者クラブ
 三つの悪魔のジョーク

訳者あとがき (中野善夫)
ロード・ダンセイニ著作リスト




◆本書より◆



「ケンタウロスの花嫁」より:

「しかし、人の血のなかには潮(うしお)がある。そう、太古より変わらぬ潮路(しおじ)がある。それはどうやら黄昏に通じていると見え、名も知れぬ島々から海が流木を運んでくるように、どれほど遠くの土地からでも美しいものにまつわる風聞を運んでくるのだ。人の血をおとなうこの大潮は、その血脈の神話的な領域から、伝説から、古きものから生まれでる。それは人を森へと、丘へといざなう。そして、人は太古の歌を耳にする。だからこそ、世界の涯(はて)の人里離れた山脈ではぐくまれたシェパラルクの伝説の血が、はかない黄昏だけが知っていて蝙蝠(こうもり)だけが託される風聞にかきたてられたのかもしれぬ。なんといっても、ケンタウロスは人よりもなお伝説に近いのだ。」


「老門番の話」より:

「この男の名前はジェラルド・ジョーンズであり、長いことロンドンから出たことがないということだった。だが、たった一度だけ、子供の頃に北の荒野を旅したことがあるという。あまりにも昔のことなのでどうやって旅したのかは思い出せないが、ともかく彼は(中略)その荒野を一人で歩いたことがあるのだそうだ。目の前に広がるのは御柳擬(ぎょりゅうもど)きとヒース、それに羊歯(しだ)ばかりであった。ただ、遙か彼方の夕日近く、わずかに見える丘のあたりに、小さくおぼろげに人里らしきものが見えていた。日が暮れるにつれ霧があたりに立ちこめ丘をすっかり覆ってしまったが、男は荒野を歩き続けた。やがて彼は谷間にたどり着いた。荒野の中程に口を開けた小さな谷で、両崖が驚くほど切り立っている。腹ばいになり、(中略)谷間をのぞき込むと、遙か谷底の方に一軒の小屋と庭園があるのが見えた。その庭園の、一面に背丈より高い立葵(たちあおい)の茂るなか、一人の老婆が木製の椅子に腰掛け、黄昏のなか歌をうたっている。その歌は男の心をとらえ、のちにロンドンに戻ってからも記憶にとどまりつづけた。そして、その歌がよみがえるとき、彼はいつも黄昏に思いを馳せた――ロンドンの街ではお目にかかれないようなやつだ――荒野をのんびりと吹き抜けるやわらかな風や、せわしなく飛び回る蜂の羽音が再び彼の耳に響き、街の喧騒から解放されるのだ。」
「のちに彼はもう一度北の荒野へ赴き、あの小さな谷間を見つけたのだが、庭園に老婆の姿はなく、あの歌をうたうものは誰もいなかった。そして二十年前の夏の宵に聞いた、日々記憶から薄れつつあるあの老婆のうたう歌への哀惜の念が男の頭を悩ませたせいか、(中略)早くに老け込んでしまった。そしてついに物思いが哀惜の念しか生み出さず、年とともに仕事のむなしさを受け入れられるようになると、まじない師の意見を仰ぐ決心をした。さっそく彼はまじない師のもとに赴き、自分の悩みを、特にかつて聞いたあの歌のことについて打ち明けたのだ。「そして」と男はいった。「世界中のどこに行ってもあの歌を聞くことができないのです」
 「無論、世界中のどこでも無理であろう」まじない師は答えた。「だが、世界の涯を越せばたやすく耳にすることができるはずじゃ」そして男に向かって、どうやら汝は時の流れに毒されておるようだから、世界の涯で一日過ごしてはどうかとすすめた。」
































































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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