ロード・ダンセイニ 『時と神々の物語』 (中野善夫ほか訳/河出文庫)

「熱気でむせ返る赤道近くの低地では、お化けのような蘭が風に揺れ、鼠ほどの大きさの甲虫が天幕のロープにとまり、夜になると蛍が小さな流れ星のように空を切って飛び回っている。この低地を発(た)った旅人たちは、仙人掌(サボテン)の森を三日間歩き続け、ついには大羚羊(れいよう)が棲む開けた平野にいたった。」
(ロード・ダンセイニ 「ブウォナ・クブラの最後の夢」 より)


ロード・ダンセイニ 
『時と神々の物語』
 
中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子 訳
河出文庫 タ-1-3

河出書房新社 2005年9月10日初版印刷/同20日発行
565p 「収録作品」1p
文庫判 並装 カバー
定価850円+税
デザイン: 粟津潔
カバーフォーマット: 佐々木曉
カバーデザイン・彩色: 坂野弘美
装画: シドニー・H・シーム



本書「訳者あとがき」より:

「河出文庫のダンセイニ短篇集第三弾である本書は、The Gods of Pegana (一九〇五年)と Time and the Gods (一九〇六年)、そして Tales of Three Hemisphere (一九一九年)の全作品、および生前単行本未収録だった短篇十一篇を収録している。また、(中略)原書に収められていたシドニー・H・シームの挿し絵も全点収録した。」


挿絵(モノクロ)18点。


ダンセイニ 時と神々の物語


カバー裏文:

「神々とは〈運命〉と〈偶然〉の賽(さい)ころ勝負の勝者のためマーナ=ユード=スーシャーイが造った戯れであり、世界はマーナの目覚めとともに消える幻に過ぎない。美しくも残酷な異境の神話を描いた極北のファンタジー・続篇『時と神々』完訳をおさめた初の完全版。
他に『三半球物語』等を収めた、ダンセイニ幻想短篇集成第三弾。」



目次:

I ペガーナの神々
ペガーナの神々
鼓手スカールのこと
天地創造のこと
神々の〈ゲーム〉のこと
神々の詠唱
キブ、あるいは〈ありとしある世界の命の送り手〉の御言葉
シシュ、あるいは〈時間の群をあやつる破壊者〉について
スリッド、あるいは〈海に御霊を宿す者〉の御言葉
ムング、あるいは〈ペガーナと縁のあいだの死の長〉の御業
神官の詠唱
リンパン=トゥング、あるいは〈喜びと歌人の神〉の御言葉
ヨハルネス=ラハーイ、あるいは〈ひとひらの夢と幻の神〉のこと
進行の神ルーン、および千万の地神のこと
地神の叛乱
終わりを見つめる目のドロザンドのこと
沙漠の目
神でも獣でもないもののこと
預言者ヨナス
預言者ユグ
預言者アルヒレス=ホテップ
預言者カボック
海辺でユーン=イラーラにふりかかった災いのこと、および〈日没の塔〉建立のこと
神々がシディスを亡ぼされた次第について
インバウンがアラデックの地で一柱を除くすべての神々に仕える大預言者となった次第について
インバウンがゾドラクに見えた次第について
ペガーナ
インバウンの独白
インバウンが王に死のことを語った次第について
ウードのこと

滅びの鳥と〈終わり〉

II 時と神々
序文
時と神々
海の到来
曉の伝説
人間の復讐
神々が睡ったとき
存在しない王
カイの洞窟
探索の悲哀
ヤーニスの人々
神々の名誉のために
夜と朝
高利貸し
ムリディーン
神々の秘密
南風
時の国で
世界を哀れんだサルニダク
神々の冗談
預言者の夢
王の旅

III 三半球物語
ブウォナ・クブラの最後の夢
オットフォードの郵便屋
ブゥブ・アヒィラの祈り
東の国と西の国
小競り合い
神はいかにしてミャオル・キ・ニンの仇討ちをしたか
神の贈り物
エメラルドの袋
茶色の古外套
神秘の書
驚異の都市
われわれの知る野原の彼方
 版元の覚え書き
 第一話 ヤン川を下る長閑な日々
 第二話 〈見過ごし通り〉のとある店
 第三話 ペルドンダリスの復讐者
 
IV その他の物語
谷間の幽霊
サテュロスたちが踊る野原
秋のクリケット
もらい手のない〈国の種〉がヴァルハラから持ち去られた事の次第
電離層の幽霊
おかしいのはどこ?
古い廊下にいる幽霊
白鳥の王子
ペリプル師への啓示
誓ってほんとうの話だとも
夜も森で

訳者あとがき (中野善夫)




◆本書より◆


「預言者の夢」より:

「私はアルデロンの谷にある神々の罌粟の原で睡(ねむ)っていた。夜、月が低く空にかかっている頃に神々が集まってきて話し合う処である。私が夢見たものは、〈秘密〉であった。
 〈運命〉と〈偶然〉が興じていた〈ゲーム〉が終わった。すべてが終わった。希望も涙も、後悔も悲哀も、人間が涙を流したことも、覚えてもいないようなことも、王国も小さな庭も、海も世界も月も太陽も。残っているものは何もなく、色や音もなかった。
 そのとき、〈運命〉が〈偶然〉に云った。「我らの古い〈ゲーム〉をもう一度始めようではないか」ふたたび、彼らは勝負を始めた。それまで何度も繰り返されてきたときのように、神々を駒に使って。だから、それまでに起きたことは何もかもふたたび繰り返されるだろう。同じ国の同じ川岸で、同じ春の日に陽光が不意にまぶしく輝き、同じ水仙の花がふたたび開き、同じ幼児がそれを摘むだろう。その間に流れた一兆年の歳月を惜しむこともない。昔馴染みの顔がまた姿を見せ、慣れ親しんだ溜まり場はまだ失われない。あなたと私は夏の日の午後、太陽が天頂と海の間に立つ頃に、以前よく出逢った庭でいま一度巡りあうだろう。」



「王の旅」より:

「羊や牛の番をしながら、キスネブはよく夢を見ていました。他の者が眠っているときに、キスネブはふらふらと歩いて人々が入ろうとはしない森の縁まで行くことがよくありました。フルンの国の長老たちは、キスネブが夢を見ているときつく叱りましたが、それでも、キスネブはまだ他の男たちと同じような人間で、仲間たちとの付き合いがありました。が、とうとう、これから私がお話ししようとしている日がやって来たのです。(中略)キスネブと私は家畜の群れの近くに坐っていて、彼はフルンの国の端で暗い森が海と出会うところを長いこと見つめていました。」
「キスネブは他の者と一緒に四人の王子たちのいる市場に来ませんでした。独りで野原を渡って森の縁に行ったのでした。
 翌朝、キスネブに不思議なことが起きました。朝、野原からやって来たキスネブに会った私は、羊飼い仲間の叫び声で挨拶をしました。私たちはそうやって互いに呼び合うのです。しかし、彼は応えませんでした。それで、私は立ち止まってキスネブに話しかけました。それでも彼は一言も答えなかったので、私は腹を立てて彼を置いて立ち去りました。」
「私たちは、こう云いました。『キスネブは狂っている』そしてキスネブの邪魔をするものはおりませんでした。」
「キスネブは毎晩森の縁の野原にただ独り坐っていました。
 そんなふうに、キスネブは何日もの間、誰にも話しかけず、誰かが無理やり話をさせようとすると、神々が遠い黄昏と海の彼方から森へやってきて坐る時間に、毎晩神々の声を聴いているのだと云いました。だから、もう人間とは話をしないのだと。」















































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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