網野善彦 『続・日本の歴史をよみなおす』 (ちくまプリマーブックス)

「日本列島は、三千七百以上の島々から成り立っていますが、これらの島々はそれぞれ海によって結びついており、東西南北の海を通じてアジア大陸、東南アジアの島々、さらに南の島々とも、非常に早くから人や物の交流があったことがわかっています。」
(網野善彦 『続・日本の歴史をよみなおす』 より)


網野善彦 
『続・日本の歴史をよみなおす』
 
ちくまプリマーブックス 96

筑摩書房 
1996年1月20日 第1刷発行
1996年2月10日 第2刷発行
204p 目次3p
B6判 並装 カバー
定価1,100円(本体1,068円)
装幀: 南伸坊



本書と、『日本の歴史をよみなおす』(1991年1月刊)は、のちに合冊されて、ちくま学芸文庫『日本の歴史をよみなおす(全)』(2005年7月刊)として再刊されています。

本文中図版(モノクロ)多数。


網野善彦 続日本の歴史をよみなおす



カバー裏文:

「日本はほんとうに農業社会だったのか。
日本の社会はこれまで考えられていたより、
はるかに早くから都市的・商業的性格が強く、
貨幣経済が非常に発達していた。
海と非農業民を切り捨ててきた歴史をふり返り、
日本社会のイメージを根底から問いなおす。」



目次:

はじめに

第一章 日本の社会は農業社会か
 百姓は農民か
 奥能登の時国家
 廻船を営む百姓と頭振(水呑)
 村とされた都市
 水田に賦課された租税
 襖下張り文書の世界

第二章 海からみた日本列島
 日本は孤立した島国か
 縄文文化
 弥生文化
 西と東の文化の差
 古墳時代
 周囲の地域との交流関係
 「日本国」の誕生
 「日本国」の範囲
 海の交通と租税の請負
 金融業者のネットワーク
 諸地域での都市の成立

第三章 荘園・公領の世界
 荘園公領制
 塩の荘園、弓削島荘
 鉄・紙・漆の荘園、新見荘
 銭の流入
 請負代官の業務
 山臥の代官
 
第四章 悪党・海賊と商人・金融業者
 悪党と海賊
 「悪」とは何か
 一遍の教え――都市的な宗教
 貿易商人、事業家としての勧進上人
 村と町の形成
 海の慣習法

第五章 日本の社会を考えなおす
 「農人」という語
 「重商主義」と「農本主義」の対決
 新しい歴史像
 飢饉はなぜおきたのか
 封建社会とはなにか
 西園寺家の所領
 海上交通への領主の関心
 「重商主義」の潮流

あとがき




◆本書より◆


「日本の社会は農業社会か」より:

「これまでの歴史研究者は百姓(ひゃくしょう)を農民と思いこんで史料を読んでいましたので、歴史家が世の中に提供していた歴史像が、非常にゆがんだものになってしまっていたことは、疑いありません。これは江戸時代だけでなく中世でも同じですし、古代にさかのぼってもまったく同様です。百姓は決して農民と同じ意味ではなく、農業以外の生業を主として営む人々――非農業民を非常に多くふくんでいることを、われわれはまず確認した上で、日本の社会をもう一度考えなおさなくてはならないと思います。」


「海からみた日本列島」より:

「従来の見方では、(中略)稲作(いなさく)が日本列島にわたってきてからの列島社会は、基本的に農業、稲作を中心とするようになり、海によって周囲から隔(へだ)てられた島々の中で、自給自足の生活を営む孤立した社会であった、と考えられてきたと思います。しかしこの常識的な見方はじつはまったく偏(かたよ)っており、こうした日本列島の社会像は
誤った虚像(きょぞう)であるといわなくてはなりません。
 まず、海によって周囲から隔てられた島々というのは、ことの一面のみをとらえた見方です。たしかに海が(中略)障壁(しょうへき)の役割をすることのあるのは、もとより事実ですが、しかし、それは海の一面で、海は逆に(中略)柔軟(じゅうなん)な交通路として、きわめて重要な役割を果たしていたことも間違(まちが)いありません。
 日本列島は、三千七百以上の島々から成り立っていますが、これらの島々はそれぞれ海によって結びついており、東西南北の海を通じてアジア大陸、東南アジアの島々、さらに南の島々とも、非常に早くから人や物の交流があったことがわかっています。」

「弥生(やよい)文化は紀元前一世紀ぐらいから、列島東部にも面として入りはじめ、東北南部まで稲作が広がっていきます。ただこの場合も注意する必要があるのは、稲作が広がっていくことが社会の進歩であるというとらえ方はあくまでも西側のとらえ方で、それでは東の文化を正確にとらえることはできないと思います。
 列島東部の文化は、稲作を受け入れつつ、独自な文化を明らかに発展させており、西が先進で東が後進などとは簡単にはいえません。東に先進的な要素もおおいにあるので、それが国家の成立以後の歴史にもはっきり反映していきます。」

「さて、七世紀後半から八世紀初頭にかけて、ヤマトといわれたのちの畿内(きない)を中心として、東北と、南九州をのぞいた本州、四国、九州を支配下に入れた本格的な国家が、初めて列島に成立することになります。この国家が「倭(わ)」にかえてはじめて「日本」という国号を定め、王の称号(しょうごう)も天皇としたので、それ以前に「日本」、あるいは「天皇」の語を使うのは事実にそくしてみれば、完全な誤りといわなくてはなりません。
 たとえば、「旧石器時代の日本」「弥生(やよい)時代の日本人」という表現は明らかな誤りですし、『日本の歴史をよみなおす』でもいったように、「聖徳太子(しょうとくたいし)は倭人(わじん)であっても日本人ではない」ということを、これからも強調しておかなければならないと思っています。」

「しかし、東北のほぼ全域、さらに新潟(にいがた)―「越(こし)」の北部は、この国家の支配層の立場に立つと「蝦夷(えみし)」という異種族の住んでいるところで、国家の外にある地域なのです。北海道はもちろんのことですが、南九州も、「隼人(はやと)」といわれる異種族の住む地域と考えられていました。ここも「日本国」の外部だったわけで、この国家は成立後、ほぼ百年をかけて東北と南九州を侵略(しんりゃく)し、征服してこれを領土としたわけです。「日本」の侵略はなにも、秀吉(ひでよし)や近代以後の朝鮮(ちょうせん)半島や中国大陸にたいしてだけ行われたわけではありません。古代の「日本国」は、東北人、南九州人を侵略(しんりゃく)によって征服(せいふく)しているのです。
 ここに、この国家の古代帝国的(ていこくてき)な意識がよく現われています。日本国は自らの勢威(せいい)を広げるために、これらの地域を侵略して、自分の支配下に入れようとしたのですが、東北人はきわめて頑強(がんきょう)にこれに抵抗(ていこう)したため、ついにその最北部は最後までこの国家の支配下に入りませんでした。」

「十世紀後半に、ごく短時間で滅(ほろ)びてしまうとはいえ、関東八カ国と伊豆(いず)を基盤(きばん)に、太平洋の海の交通を前提にした平将門(たいらのまさかど)の王国、東国国家が誕生します。また西国の瀬戸内海(せとないかい)を中心とする「海賊(かいぞく)」といわれた海の領主たちの活発な活動の中で、藤原純友(ふじわらのすみとも)がやはり王朝から自立した動きを展開します。
 このころ新羅(しらぎ)でも海賊が動いていますが、純友の勢力は、これと連動していると推測してよいと思います。つまり、瀬戸内海から北九州、さらに朝鮮(ちょうせん)半島との間の緊密(きんみつ)な海上交通を基盤とした、大きな政治的な反逆がおこったわけです。
 前にものべましたように、太平洋の海上交通は早くから安定して活発だったので、将門と純友の間に情報の交流のあったことは十分に考えられますが、西国の藤原純友の勢力は淀川(よどがわ)をさかのぼって、都にも姿をみせており、将門は東北までおさえようとしていました。朝廷(ちょうてい)は未曾有(みぞう)の危機におちいっていたので、もしも将門が軽率(けいそつ)な戦争の仕方をして早死しなかったら、京都の王朝はふっ飛んでいたかもしれません。」



「悪党・海賊と商人・金融業者」より:

「十三世紀の末に描(えが)かれた『一遍聖絵(いっぺんひじりえ)』は、これまでは田畠(でんぱく)の耕作の場面がほとんど描かれず、やや変わった絵巻だと思われていたのですが、この絵巻は当時の都市、都市的な場そのものを描いているわけで、むしろこの時代の社会の潮流のひとつをよく表現していると思います。一遍の教えはまさしく都市的な宗教なのです。商人や金融(きんゆう)業者、それと結びついている女性、さらに「非人」といわれた人びと、一方の見方からは「悪」といわれ、穢(けが)れているとされつつある人びとのなかに、一遍の教えは広がっていったのだと思うのです。
 しかし逆に、こういう動きを我慢(がまん)ならないと考えている勢力も当然あったのです。大寺社の僧侶(そうりょ)や貴族、武家、とくに「農本主義」的な路線に立つ人びとは、一遍の布教や教団のあり方を天狗(てんぐ)の所業だとして真っ向から非難を加えます。この見方は『天狗草紙』という絵巻や『野守鏡(のもりのかがみ)』という歌論書によってはっきりわかりますが、穢(けが)れた女性たちを加えて集団をなして遊行(ゆぎょう)をし、「非人」を従えていることをきびしく批判しています。
 そこでは一遍(いっぺん)の教えは、「悪党」に支持されており、穢(けが)れた人びとを教団のなかに迎(むか)え入れ、女性と旅をともにするみだらな宗教で、天狗(てんぐ)にあやつられているのだというきびしい批判が展開されているわけです。これが「農本主義的」な政治と結びついていることはいうまでもありません。」































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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