ウー・ホン 『屏風のなかの壺中天』 (中野美代子/中島健 訳)

「ひとりの紳士、おそらくは文人か道士であろうひとりの男が竹製の低い寝椅子に寝そべっている。目は閉じているが、その幅ひろの顔には表情があり、どうやら夢を見ているようだ。画家はその夢は描かなかったが、その夢を、床の間(アルコーブ)ふうの衝立一面に描かれた果てしない波という催眠力のある画像に変えた。」
(ウー・ホン 『屏風のなかの壺中天 より)


ウー・ホン 
『屏風のなかの壺中天
― 中国重屏図のたくらみ』 
中野美代子・中島健 訳


青土社 2004年3月20日第1刷印刷/同30日発行
355p 口絵(カラー)8p 著者・訳者略歴1p
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価4,400円+税
装幀: 高麗隆彦



本書「訳者解説」より:

「本書は、Wu Hung, The Double Screen: Medium and Representation in Chinese Painting (London: Reaktion Books, 1996) の全訳である。」
「ここでウー・ホン教授は、画像提供(イメージ・ベアリング)の物体(オブジェクト)という概念を示す。image-bearing とは、画像(イメージ)を支える、あるいは帯びるということだから、平たく言えば、画像を「何に(どのようなもの(オブジェクト)に)描いているか」という即物的な観点であろう。思えば、いままでの美術史は、「何を描いているか」「いかに描いているか」を考察するのが主流であった。」



本文中図版(モノクロ)197点。


中野美代子訳 屏風のなかの壺中天1


帯文:

「隠す
遮る
囲む。

シカゴ大学発、
鮮烈な視点の
中国絵画論。

衝立という
絵画形式に
中国文化が
閉じこめた
入れ子の宇宙。
メタピクチャー
の策略。」



中野美代子訳 屏風のなかの壺中天2


目次:

序 衝立(スクリーン)とは何か
 空間と場所
 枠どりと図案化
 平面と媒体
 絵画空間と喚喩
 詩的空間と隠喩

I 《韓煕載夜宴図》
 テクスト包囲網を打ち破れ
 では絵そのものを
 画巻または絵巻物
 のぞきの視線

II 内なる空間および外なる空間
 ダブル・スクリーン――重屏
 女性像をもつ衝立
 だまし絵と魔術

III 内なる世界および外なる世界
 山水画の衝立
 内なる世界および外なる世界
 大衆化と標準化
 個の主張とステロタイプ
 ある「狂士」の衝立

IV 皇帝の選択
 《雍正十二妃行楽図》あるいは《十二美人図》
 女たちの空間
 皇帝の仮面舞踏会

V メタピクチャー
 メタピクチャーおよびメタ=メタピクチャーとは?
 『西廂記』一六四〇年閔斉伋本の挿絵

「もの(オブジェクト)」としての絵画――日本の読者へ (ウー・ホン)
訳者解説 (中野美代子)



中野美代子訳 屏風のなかの壺中天3



◆本書より◆


「序 衝立とは何か」より:

「この研究において著者が例としてとりあげるものは、衝立である。(中略)衝立は一つの物体(オブジェクト)であり、絵画の媒体(メディアム)であり、絵画的な表象であり、またそれらのすべてでもある。言い換えるなら、ある一つの構造物としての衝立は、三次元の空間を占めるとともに空間を区切り、芸術の一つの媒体としては、絵画に理想的な平面を提供する。じっさいのところ、衝立はむかしから記録されている最古の絵画フォーマットの一つであった。そしてまた、絵画に表現されたものとしての衝立は、中国の美術のそもそものはじめからして、中国人が大好きな画像の一つだったのである。」


「II 内なる空間および外なる空間」より:

「かれ(引用者注: 周文矩)は、中国絵画においてもっとも魅力的な構図の一つとされる「ダブル・衝立(スクリーン)」すなわち重屏(ちょうへい)を創案したことで有名なのだ。フリア美術館所蔵の《重屏図》の一ヴァージョンは、前景にぐるりと集まった四人の男たち、碁を打ったりそれを観戦したりしており、ひとりの小姓が侍立しているという図柄である。この連中もまた、高く黒い帽子をかぶった顎髭の男を中心とする。この男は、中央に陣どっていること、目立つ服装をしていること、やや厳格そうな表情をしていることなどからもわかるように、明らかにあるじである。この男の背後には一枚パネルの大きな衝立がある。そこに描かれているのは、とある家庭の情景だ。顎髭の男がいる。おそらくその客間のあるじであろうが、いまはよりくつろいだ奥にひっこんだ。そして、四人の女たちにかしずかれつつひろい榻(とう)の上で横たわっているところ。女ふたりが榻のかたわらのベッドのしたくをし、ひとりが毛布をはこび、ひとりが男のうしろで指示を待つという次第だ。この第二のグループも、やはり衝立のフレームに囲まれているのだが、その三曲の衝立には山水が描かれているのである。」
「周文矩の絵画のもとのすがたというものは、どこにでも立てられる衝立に貼ってあったものであった。つまりは「重屏」された画像は、べつの衝立の、がっちりした木の枠のなかに出現したのである。」
「そのヴィジュアルなトリックは、錯覚をもたらす空間およびヴィジュアルなメタファーのためにデザインされた。この画家は、ありとあらゆる手をつくして、衝立の前の情景と衝立に描かれた情景とをともに現実らしく見せるべく試みたが、同時にかれは、この二つの情景をば、衝立のがっしりした枠で分離した。鑑賞者はしたがって、枠のなかの家庭の情景は絵空ごとにすぎないということに気づくのである。鑑賞者がさきほどの混乱を乗り越え、「そうか! 衝立のなかのできごとは、ほんとは、幻影なんだ!」と叫ぶとき、かれは、それがより大きな幻影のなかの幻影にすぎないということを忘れてはいないだろうか。より大きな幻影とは、この絵画まるごとにほかならない。かれは無意識のうちに、衝立の前景に描かれた人物や「もの」を現実世界の一部であるかに見えるようにしたこの画家の凝ったレトリックに巻きこまれたのだ。かくて、完璧なるだまし絵が完成したのだった。」






































































































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

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好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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