干宝 『捜神記』 (竹田晃 訳/平凡社ライブラリー)

「この怪物は名を患と申しまして、憂(うれ)いから生まれ出たものでございます」
(干宝 『捜神記』 「東方朔」 より)


干宝 
『捜神記』 竹田晃 訳

平凡社ライブラリー 322/か-19-1

平凡社 2000年1月24日初版第1刷発行
614p
B6変型判 並装 カバー
定価1,600円+税
装幀: 中垣信夫
カバー画: 竜に乗って天降る仙人(漢画像石『金石索』)

「本著作は、一九六四年一月「東洋文庫」の一書として平凡社より刊行されたものである。」



干宝 捜神記


帯文:

「東洋文庫から待望の平凡社ライブラリー化
怪異は語らずにはいられない
霊妙不可思議な出来事、
集めに集めた464の小話集。」



カバー裏文:

「怪を志(しる)す〈志怪〉というジャンルが
流行した中国六朝時代は、幻術の名人、
墓から生き返る娘、冥界との交流、
千年を生きる狐の変化、といった怪異の
数々が饒舌に語られた。
東晋の歴史家干宝が記した本書は、
六朝志怪の代表作であり、
中国小説の祖といわれる。」



目次:

捜神記原序

巻一
 1 神農
 2 雨神
 3 繳父(ようほ)
 4 寧封(ねいふう)子
 5 ふしぎな松の実
 6 彭祖(ほうそ)
 7 師門(しもん)
 8 木彫りの羊
 9 王 子喬(しきょう)
 10 冠(かん)先
 11 琴高(きんこう)
 12 陶安公
 13 石を穿(うが)って仙道に入る
 14 魯少千
 15 八人の老人
 16 冥土の父母
 17 ふしぎな鴨
 18 薊子訓(けいしくん)
 19 乞食小僧
 20 平常生
 21 左慈
 22 于吉(うきつ)の復讐
 23 変幻自在
 24 徐光
 25 変化の術
 26 神符の秘法
 27 ふしぎな蚕
 28 董(とう)永とその妻
 29 鉤弋(こうよく)夫人
 30 杜蘭香
 31 成公智瓊(ちけい)

巻二
 32 にせの化物を退治した話
 33 成都の大火
 34 術くらべ
 35 趙昞の祠(ほこら)
 36 徐登と趙昞
 37 東海君
 38 流血の惨事
 39 失せた神通力
 40 謝糺(きゅう)
 41 奇術
 42 扶南王
 43 宮中の行事
 44 招魂
 45 死んだ妻をたずねた話
 46 試された男
 47 巫女(みこ)の観察
 48 夏侯弘
 
巻三
 49 七個の璧(へき)
 50 霊妙な膏薬
 51 許季山の易断
 52 出世の予言
 53 家つきの妖怪
 54 北斗星と南斗星
 55 二人の死骸
 56 井戸のなかの亡者
 57 淳于智(じゅんうち)の鼠退治
 58 桑の木に掛けた鞭
 59 狐が鳴いた時
 60 ふしぎな猿
 61 小豆(あずき)の精
 62 生き返った馬
 63 妖蛇のたたり
 64 白牛現わる
 65 三つの予言
 66 亡夫の明察
 67 ふしぎな皮袋
 68 ぶち犬の効験
 69 足にはいりこんでいた蛇
 70 のどにつまっていた蛇

巻四
 71 風神・雨神
 72 渭水の女
 73 泰山神の娘
 74 泰山府君
 75 河伯
 76 河伯の娘と結婚した男
 77 華山神の使者
 78 廬山(ろざん)の神
 79 廬山神の娘
 80 狐石廟
 81 宮亭廟
 82 驢鼠(ろそ)
 83 青洪君
 84 黄石公
 85 燓(はん)道基
 86 降(くだ)って来た神
 87 火事の予告
 88 竃(かまど)の神
 89 膏糜(あぶらがゆ)
 90 ふしぎな石
 91 神になった男

巻五
 92 神になった蒋子文
 93 蒋侯神のお召し
 94 蒋侯廟の神像
 95 神に愛された女
 96 神助
 97 嫁の神様
 98 赤い筆
 99 冥土の使者
 100 李(すもも)の種子
 101 湧き出した井戸

巻六
 102 ものの変化と吉兆・凶兆
 103 山が動けば
 104 亀に毛が、兎に角が生えれば
 105 馬が狐に化ければ
 106 いさごむしの襲来
 107 土地の異変
 108 多産
 109 竜の誕生
 110 公子の亡霊
 111 蛇が喧嘩をすれば
 112 竜が喧嘩をすれば
 113 柱にまきついた蛇
 114 馬の怪異
 115 女が男に変れば
 116 五本足の牛
 117 十二人の大男
 118 井戸のなかの竜 (その一)
 119 馬に角が生えれば (その一)
 120 犬に角が生えれば
 121 人間に角が生えれば
 122 犬が豚と交われば
 123 烏(からす)と鵲(かささぎ)が喧嘩をすれば
 124 奇形の牛 (その一)
 125 城外の蛇と城内の蛇
 126 鼠が踊れば
 127 大石が立てば (その一)
 128 木の葉に現われた文字
 129 冠をかぶった犬
 130 鶏の怪異
 131 人事のうらにひそむもの
 132 木の葉の怪異
 133 倒れた木がふたたび立てば
 134 鼠が木に巣をかければ
 135 犬の怪異
 136 鳥が巣を焼けば
 137 大魚が現われれば
 138 木の枝の怪異
 139 宮中の馬に角が生えれば
 140 燕が雀を生めば
 141 三本足の馬
 142 木が蘇生すれば
 143 泣いた胎児
 144 西王母の祭り
 145 男が女に変れば (その一)
 146 死者が蘇生すれば (その一)
 147 奇形が象徴するもの
 148 三本足の烏
 149 宮中に蛇が現われれば
 150 肉が空から降れば
 151 亡国の装(よそお)い (その一)
 152 牛から生まれた鶏
 153 霊帝の園遊
 154 長い上衣と短い袴
 155 妻が夫を食えば
 156 壁のなかの人
 157 木の怪異
 158 おんどりに変っためんどり
 159 頭が二つ (その一)
 160 白衣の大男
 161 草の怪異
 162 頭が二つ (その二)
 163 雀の首
 164 魁櫑(かいらい)と挽歌
 165 北邙(ぼう)山
 166 死者が蘇生すれば (その二)
 167 男が女に変れば (その二)
 168 娘の予言
 169 木が血を流せば
 170 鵲巣(しゃくそう) 鳩居
 171 ふしぎな馬
 172 巨大な雛
 173 大木が折れれば
 174 大風が吹けば
 175 五穀の変種
 176 大石が立てば (その二)
 177 死者が墓から出て来れば
 178 上厚下薄

巻七
 179 馬の紋様の石
 180 亡国の装い (その二)
 181 胡(えびす)の料理
 182 鼠に変った蟹
 183 井戸のなかの竜 (その二)
 184 二本足の虎
 185 もの言う死牛
 186 屋根の上の鯉
 187 靴の型
 188 縛り髻(まげ) (その一)
 189 晋世寧
 190 毛織物の服
 191 折楊柳
 192 馬に角が生えれば (その二)
 193 婦人の装飾品
 194 涙を流した鐘
 195 一人両性
 196 男に変った娘
 197 子を背負う大蛇
 198 町に血が流れれば
 199 雷神の怒り
 200 杖の流行
 201 乱痴気騒ぎ
 202 石の襲来
 203 宮中に現われた男
 204 牛がものを言えば
 205 ふしぎな草履
 206 光を放つ戟(ほこ)
 207 妾の子
 208 人間が異種の子を生めば
 209 犬がものを言えば
 210 蝘鼠(えんそ)
 211 異様な木
 212 豚が人の子を生めば
 213 生箋のひとえ物
 214 無顔こう(漢字: 巾+合)
 215 奇形の双生児
 216 冤罪に陥れたたたり
 217 奇形の牛 (その二)
 218 天変地異
 219 奇形の牛 (その三)
 220 奇形の馬
 221 異様な女
 222 ふしぎな火事
 223 縛り髻(まげ) (その二)
 224 儀仗に花が咲けば
 225 羽扇
 226 木のうろの蛇

巻八
 227 舜帝
 228 湯王の雨乞い
 229 太公望
 230 武王の威光
 231 劉邦興る (その一)
 232 劉邦興る (その二)
 233 陳宝祠
 234 四百年後の予言
 235 火星人の少年
 236 神の予言

巻九
 237 四つ児の誕生
 238 二匹の赤い蛇
 239 石に変った鳥
 240 張氏の帯留め
 241 ふしぎな老婆
 242 戸外の声
 243 ふく(漢字: 服+鳥)鳥の賦
 244 犬に噛み殺された鳥
 245 公孫淵の死
 246 諸葛恪(かく)の死
 247 豚肉を食う生首
 248 行方不明になった賈充
 249 神との約束
 250 邸内の血

巻十
 251 天にのぼった夢
 252 月の夢太陽の夢
 253 三本の禾(いね)の夢
 254 天から銭を借りた夢
 255 蟻の穴の夢
 256 ふしぎな着物
 257 さそりの夢
 258 太守の妻の夢
 259 亡帝の怒り
 260 北斗門の馬
 261 二人同夢
 262 叔父の病気

巻十一
 263 誠意は石をも貫く
 264 弓の名人
 265 あおうみがめ退治
 266 首の仇討
 267 首無し太守
 268 返された贈り物
 269 碧玉に化した血
 270 東方朔
 271 至誠天に通ず
 272 いなご退治
 273 いなごと県知事
 274 白虎の墓
 275 川の中のふしぎな木
 276 曾子の孝心
 277 周暢(ちょう)の真心
 278 真冬の鯉
 279 跳ね出た大魚
 280 楚僚(そりょう)継母を救う
 281 すくもむし
 282 にしき蛇の肝
 283 子を捨てて母を養う
 284 掘り出した粟
 285 玉田
 286 虎に噛まれた夢
 287 温かい席
 288 涙で枯れた木
 289 白鳩郎
 290 孝女のたたり
 291 孝女の奇蹟
 292 命を捨てて姑を救う
 293 病にうち勝った兄弟愛
 294 相思樹
 295 水になった子供
 296 望夫岡
 297 追い出された嫁
 298 死体と話した長官
 299 死友
 
巻十二
 300 変化の摂理
 301 賁羊(ふんよう)
 302 地中の犬
 303 山中の怪
 304 慶忌(けいき)
 305 雷神
 306 ろくろ首
 307 虎に化けた亭長
 308 〓(漢字: 犭+叚)国
 309 刀労鬼
 310 冶(や)鳥
 311 人魚
 312 不吉な泣き声
 313 山都
 314 蜮(よく)
 315 鬼弾
 316 みょうがのききめ
 317 犬蠱(こ)
 318 缸(かめ)のなかの蛇

巻十三
 319 霊泉
 320 山を裂く
 321 四つの鑊(かく)
 322 燓(はん)山

 323 洞穴の水
 324 湘江の洞穴
 325 亀化城
 326 城門の血
 327 馬の足跡
 328 劫火(ごうか)の名残り
 329 長寿の家
 330 呉王の膾余(かいよ)
 331 長卿
 332 飛び帰る銭
 333 蜾〓(漢字: 虫+羸)(から)
 334 木蠧(ぼくと)
 335 針鼠
 336 火浣布(かかんふ)
 337 陽燧(すい)と陰燧
 338 焦尾琴
 339 蔡邕(さいよう)の竹笛

巻十四
 340 蒙雙氏
 341 蛮夷の起源
 342 夫餘王東明
 343 鵠蒼(こうそう)
 344 虎に育てられた子供
 345 野猫と鸇(はやぶさ)に育てられた子供
 346 羌(きょう)族の英雄
 347 蛇の孝心
 348 城を築いた蛇
 349 羽衣(はごろも)の人
 350 馬の恋
 351 月の精
 352 媚草
 353 鶴の夫婦
 354 鳥の女房
 355 亀に変った母親 (その一)
 356 すっぽんに変った母親
 357 亀に変った母親 (その二)
 358 老人の怪

巻十五
 359 生き返った許婚(いいなずけ) (その一)
 360 生き返った許婚 (その二)
 361 冥土の縁
 362 冥界との交流
 363 速足(はやあし)の男
 364 天界の剣
 365 天の酒倉の役人
 366 「司令官殿が縛られる!」
 367 死神の手先
 368 二度死んだ男
 369 金の輪
 370 漢の官女
 371 墓から出て来た女
 372 墓に閉じこめられた女中
 373 馮(ふう)貴人
 374 豪華な墓
 375 白狐のたたり

巻十六
 376 疫病神
 377 挽歌
 378 幽霊は存在するか
 379 幽霊は実在した
 380 泰山の知事
 381 狐竹君
 382 他郷の亡骸(なきがら)
 383 水に濡れた棺
 384 幽霊の訴え
 385 曹公の船
 386 帰って来た亡者
 387 顔の黒点
 388 幽霊の襲来
 389 琴を弾く幽霊
 390 孫と化物
 391 酔った幽霊
 392 血が通った木馬
 393 幽霊を売った男
 394 夫差(ふさ)の娘
 395 墓のなかの王女 (その一)
 396 墓のなかの王女 (その二)
 397 幽婚
 398 宿場の怪
 399 死女の傷

巻十七
 400 漢直帰る
 401 大志貫徹
 402 妻の釵(かんざし)
 403 蘇家の怪
 404 盗まれていた膏薬
 405 手におえぬ化物の話
 406 夜道の怪
 407 度朔(どさく)君
 408 竹のなかの福の神
 409 白髪の化物
 410 服留鳥
 411 山頂の果実
 412 脳のなかの蛇

巻十八
 413 枕としゃもじの怪
 414 杵(きね)の怪
 415 木から出た牛
 416 樹神の助け
 417 木の怪退治
 418 煮て食べた木の精
 419 陸上を走った船
 420 客に化けた古狸
 421 千年の狐
 422 誤って父を殺した話
 423 畔道の女
 424 承塵の上の神
 425 消えた下男
 426 大胆な男
 427 頭と足をとり違えた化物
 428 狐博士
 429 鹿の前脚
 430 堤防の娘
 431 消えた羊
 432 白犬のいたずら
 433 酒屋の老犬
 434 門前の役人
 435 怪異に動じない人
 436 追って来た女
 437 鼠の予言
 438 蠍(さそり)と雄鶏(おんどり)と雌豚
 439 豚の府君と狸の部郡

巻十九
 440 大蛇を退治した娘
 441 司徒府の蛇
 442 蛇の訴訟
 443 川のなかの女
 444 亀と鰐(わに)の怪
 445 孔子と大鯰(なまず)
 446 小人の葬列
 447 千日の酒
 448 運命の神
 
巻二十
 449 竜の恩返し (その一)
 450 虎の恩返し
 451 鶴の恩返し
 452 黄雀の恩返し
 453 隋侯珠
 454 亀の恩返し
 455 竜の恩返し (その二)
 456 蟻の恩返し
 457 忠犬 (その一)
 458 忠犬 (その二)
 459 獄中の螻蛄(けら)
 460 猿のたたり
 461 鹿のたたり
 462 蛇のたたり
 463 蛇の仇討
 464 繭のたたり

解説 (竹田晃)




◆本書より◆


「8 木彫りの羊」より:

「西周の葛由(かつゆう)は、蜀(四川省)の羌(きょう)族の出身である。周の成王のころ、木を彫って羊をつくるのが好きで、それを売っていたが、ある日、自分でつくった木の羊に乗って蜀に行った。蜀の王侯貴族たちが、あとを追って行くと、かれは綏(すい)山にのぼった。綏山には桃の木がたくさんあり、峨眉山の西南に位して、頂きも知れぬほど高い山である。葛由について行った人びとはそれきり帰らずに、一人残らず仙道を会得した。」


「21 左慈」より:

「曹公は怒って、心中ひそかに元放を殺そうと考えた。そして元放が曹公の家に来たとき、逮捕しようとすると、ぱっと壁の中へ逃げこんだまま姿を消してしまう。そこで懸賞金をかけ、捜索させた。ある人が町で元放を見つけたので、つかまえようとしたが、町じゅうの人がみな元放と同じ姿になり、どれが本物やら見わけがつかなくなってしまった。
 その後、陽城山のあたりで元放を見かけた人があったというので、また追いかけた。すると羊の群の中へ逃げこんでしまう。曹公はとてもつかまえられぬとあきらめたから、羊の群に向かってこう言わせた。
 「曹公は殺そうと考えておられるのではない、あなたの術を試してみるおつもりだったのだ。もうわかったから、どうかお目にかかりたい」
 すると一匹の年とった牡羊が前足を折り曲げ、人間のように立ちあがりながら声を出した。
 「さりとはご性急な」
 そこで人びとが、
 「あの羊だぞ」
 と、われ勝ちに駆け寄ったところ、数百匹の羊が全部牡羊になってしまって、そろって前足をかがめ、人間のように立ちあがりながら声を出した。
 「さりとはご性急な」
 それで、どれをつかまえたらよいのか、ついにわからなくなってしまった。」



「22 于吉(うきつ)の復讐」より:

「孫策が揚子江を渡って許県(河南省)を攻めようとして、于吉(うきつ)を伴って行った。ちょうど、ひどいひでりの時で、どこへ行っても焼けつくような暑さである。孫策は部下の将兵をせきたてて船をいそがせ、時には朝早くから甲板に姿を見せて督励した。ところが、将軍や役人の多くが、于吉のまわりに集まっているのを見たので、ひどく腹を立てた。
 「わが輩を于吉より軽く見る気か! わしよりさきにあいつのきげんをとるとは」
 と、すぐさま于吉をとり押えて引き出させ、叱りつけた。」
「部下に命じて、于吉を縛り、床(ゆか)にころがして日にさらし、雨乞いをさせて、
 「お前の祈りが天に通じて、正午までに雨を降らせることができたら、許してやろう。さもなければ切って捨てるぞ」
 と言った。
 すると、にわかに雲が立ちのぼり、ちぎれ雲が集まって、びっしりと空に立ちこめた。そして正午に近づくころ、大雨が一時に降りそそぎ、支流の谷川には水が満ち溢れた。
 将兵たちは大喜びで、このぶんなら于吉は許されるにちがいないと、連れ立って祝いに出かけたところが、孫策は、于吉を殺してしまっていた。将兵たちは憐れみながら、于吉の骸(むくろ)を埋葬した。
 その夜、突然に、ふたたび雲が起こり、骸を覆った。翌朝近よって見ると、骸はいずこともなく消えていた。
 さて孫策は、于吉を殺してからというもの、一人でいると、きまって于吉がそばにいるような気がする。心の底からおびえきった孫策は、どうやら頭がおかしくなってしまった。
 その後、孫策は戦傷を負ったが、その傷がようやくなおりかけたころ、鏡を手にとって傷を見ようとすると、鏡の中に于吉がいるではないか。ふり向いてみたが姿はない。鏡と背後を再三見くらべた末、鏡をなぐりつけて絶叫した。同時に、傷あとが割れて口を開き、孫策はたちまち死んでしまった。」



「24 徐光」より:

「呉のころ、徐光という人があって、いつも町へ出ては術を使っていた。
 あるとき瓜を売る商人に一つくださいと頼んだが、商人はやらなかった。すると光は種子だけをもらい受け、地面を掘って埋めた。と、見る見るうちに瓜が芽を出し、蔓がのび、花が咲き、実がなった。光はそれをもぎ取って食べ、見物人にも分けてやったのである。そのとき商人が自分の売物をふり返ると、全部なくなっていた。」



「27 ふしぎな蚕」:

「園客は済陰(山東省)の人である。なかなかの美男子だったから、近所の人で、娘を嫁に、と願う者が多かった。しかし園客は一生妻を娶らなかった。
 日ごろ五色の香草の種子をまき、数十年たってからその実を食べていた。すると、突然五色のふしぎな蛾が香草にとまった。園客はそれをつかまえて、布の上にのせたところ、蛾はその上に蚕を生んだ。
 やがて養蚕の季節になった。ある晩、神女が来て、園客を手伝って養蚕の仕事をし、香草を蚕の餌として食べさせた。その結果、百二十個の繭ができたが、大きさは酒甕(がめ)ほどもあり、一つの繭から繰る糸は、六日から七日もかかってやっと尽きるほどであった。糸を全部繰り終ると、神女は園客といっしょに、天上へと舞いあがって、それきりゆくえが知れなかった。」



「80 狐石廟」:

「宮亭湖のほとりに狐石廟という廟がある。
 あるとき、一人の行商人が都へ行く途中、その廟のあたりを通りかかった。すると、二人の少女が現われて、
 「私たちに糸で編んだ靴を二足買って来ていただけませんか。お礼は十分にしますから」
 と言う。そこで商人は都に着くと、上等の糸で編んだ靴を買い、箱も買っておさめた。ついでに、自分も小刀を買い、同じ箱のなかに入れておいた。
 さて都からの帰り道、廟のなかに箱をおき、線香をたいて立ち去ったが、小刀を取り出すのは忘れてしまった。
 ところが、それから船に乗って川のなかほどまで出ると、突然一匹の鯉が船中に跳びこんで来た。その鯉の腹をさいてみると、忘れて来た小刀が出て来たのであった。」



「326 城門の血」:

「由拳県(浙江省)は、秦代の長水県である。始皇帝のとき、この地方に、

  お城のご門が血によごれ、
  お城は沈んで湖になるぞ

 という童歌(わらべうた)がはやった。一人の老婆がこれを耳にして、毎朝城門の様子をさぐりに出かけたが、門衛の隊長が怪しんで縛ろうとしたので、老婆はわけを話した。その後、隊長は犬の血を城門に塗りつけた。老婆はその血を見るなり逃げ去ったが、急に大水が出て、県城は水につかってしまいそうになった。このとき、主簿の幹という者が知事のところへ報告に行くと、知事は言った。
 「その方(ほう)はなぜ魚になってしまったのだ」
 すると幹も、
 「知事閣下も魚になっておられます」
 と言ったが、町はそのまま沈んで、湖になってしまった。」



「378 幽霊は存在するか」:

「阮瞻(げんせん)は字を千里という。日ごろから幽霊は存在しないという主張を持っており、誰も彼を言い負かすことができなかったので、この理論は、幽明の道理を正しく説明できるものだと、つねづね自信を持っていた。
 あるとき一人の男が名を名乗り、瞻の家を訪問して来た。あいさつがすむと物の道理についてすこし話しあったのだが、客はたいそう弁舌の才能がある。瞻は議論の相手になっていたが、やがて話は幽霊や神のことになり、大議論の応酬が始まった。そして客はとうとう言い負かされたと思うと、顔色を変えて言い出した。
 「幽霊とか神とかいうものは、古今の聖賢がいずれも言われていることです。それをあなただけが、どうしてないとおっしゃるのか。このわたくしが幽霊なのですぞ」
 それから異形の姿に変じ、あっというまに消え失せた。瞻は黙りこんでいたが、たいそうにがにがしげな顔色であった。そして一年あまりたったころ、病気にかかって死んだ。」



「410 服留鳥」:

「晋の恵帝の永康元年(三〇〇年)、都でふしぎな鳥を捕えたが、名前のわかる者はいなかった。趙王倫は使いの者にその鳥を持って町や村などをまわらせ、人びとに尋ねさせることにしたが、その日のうちに、宮殿の西にいた子供がこの鳥を見て、
 「服留鳥だ」
 と言った。使いの者がもどって報告すると、倫はもう一度子供を探させた。子供が見つかったので、宮殿に連れ帰り、鳥を籠に閉じ込めて、子供といっしょに部屋のなかに入れておいた。ところがあくる日行ってみると、子供も鳥も消えうせていた。」



「428 狐博士」:

「呉中(江蘇省)の地に一人の書生がいた。白髪で胡博士と呼ばれ、弟子たちに学問を教えていたが、あるとき、とつぜんいなくなった。
 九月九日に、士人たちが連れだって山に登り、遊んでいると、どこからともなく本を講義している声が聞こえて来た。そこで下男に命じて探させたところが、空(から)の墓穴のなかにたくさんの狐がずらりと並んでいて、人影を見るとすぐに逃げ出したが、そのなかの年老いた狐だけは逃げなかった。それが白髪の書生だったのである。」



「463 蛇の仇討」:

「邛都(きょうと)県(四川省)に、一人の老婆が住んでいた。貧乏で一人暮らしの女だったが、食事のたびに、頭に角のある小さな蛇が寝台のあたりへ出て来る。老婆は哀れに思って、食べものを与えていた。
 こうしているうちに蛇は次第に大きくなり、とうとう一丈あまりにもなった。ところが、この県の知事がよい馬を持っていたのを、蛇がのみこんでしまったので、知事はたいそう腹を立て、蛇を出せと老婆を責め立てた。老婆が、
 「寝台の下におります」
 と言ったので、知事はすぐにそこを掘らせたが、掘れば掘るほど穴は大きくなるばかりで、蛇の姿は見えない。知事は八つ当たりを始め、老婆を殺してしまった。すると蛇は人間にのり移って、
 「どうしてわしの母親を殺したのだ。母の仇を討ってやるぞ」
 と、知事をどなりつけたが、その後は夜な夜な雷や風のような音が聞こえるようになったのであった。
 それから四十日ばかりたって、町の人たちは顔を見あわせると、みなが驚いた顔をしながら、
 「お前の頭には、どうして魚がのっているのだ?」
 と言いあった。そしてその夜、五里四方が町ぐるみ一度に陥没して、湖となってしまったのである。
 土地の人たちはこの湖を陥湖と名づけた。ただ老婆の家だけは無事で、今でも残っている。漁師たちは魚をとりに出たとき、必ずその家へ泊まることにしているが、風が出て波が荒れたときでも、この家のそばにいれば平穏で事故がない。風がないで水のすんだ日には、城郭や櫓(やぐら)などの整然と沈んでいるさまが、今でも見えるという。
 今、水が浅くなったときには、土地の人びとは水にもぐって昔の木を拾いあげるが、堅くて光沢があり、色は漆(うるし)のように黒い。近ごろでは物ずきな人びとがそれを枕にするので、進物として用いられている。」
















































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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