高橋和巳 注 『李商隱 中国詩人選集 15』

「滄海月明珠有涙
藍田日暖玉生烟
滄海(そうかい) 月(つき)明(あき)らかにして珠(たま) 涙(なみだ)有(あ)り
藍田(らんでん) 日(ひ)暖(あたた)かにして玉(たま) 烟(けむり)を生(しょう)ず」

(李商隠 「錦瑟」 より)


高橋和巳 注 
『李商隱 
中国詩人選集 15』

編集・校閲: 吉川幸次郎/小川環樹

岩波書店 昭和33年8月20日第1刷発行/昭和44年4月10日第9刷発行
223p 口絵(モノクロ)2p 折込地図1葉
新書判 角背布装上製本(薄表紙) 機械函
定価220円

付録 (4p):
李商隠に関する逸話(高橋和巳)/吟詩(清水茂)/図版(モノクロ)1点



本書「解説」より:

「李商隠の詩は凡そ五百数十篇ある。勿論、この選集もその十分の一ほどを選択加注したものにすぎない。」
「彼の詩はその性質からして他の詩人に比して甚だ多くの脚注を必要とする。それ故に、力作であっても過大な注釈に限られた紙数の多くをさかねばならぬ作品や、なお暫くは定解を求め難いものははぶかれねばならなかった。」



李商隠 中国詩人選集1


目次:

解説

錦瑟(きんしつ)
房中曲

歌を聞く
曲江
楽遊原(らくゆうげん)
重ねて聖女祠を過(よぎ)る

無題 (颯颯たる東風 細雨来る)
無題 (昨夜の星辰 昨夜の風)
無題 (相見る時難く別るるも亦難し)
無題 (重幃(ちょうい) 深く下す 莫愁(ばくしゅう)の堂)
中元に作る
常娥(じょうが)
碧城三首
無題 (情を含む 春 晼晩(えんばん))
無題 (聞道(きくな)らく 閶門(しょうもん)の萼緑華(がくりょくか))
無題 (八歳にして偸(ひそ)かに鏡に照(う)つし)
無題 (来るとは是れ空言 去って蹤(あと)を絶つ)
無題 (鳳尾(ほうび)の香羅(こうら) 薄きこと幾重(いくちょう)ぞ)
無題 (何(いずれ)の処(ところ)か哀箏(あいそう)は急管に随(したご)う)

牡丹

李(すもも)の花
日日
霜月(そうげつ)

春日 懐(おもい)を寄す
秋日晩思

西亭
幽居 冬の暮

少年

辛未(しんぴ)七夕

劉司戸蕡(りゅうしこふん)に贈る
劉蕡を哭す
令狐郎中(れいころうちゅう)に寄す
杜司勲(としくん)

潭州(たんしゅう)
桂林
荊門(けいもん) 西より下る
揺落
夜雨 北に寄す
涼思
天涯
北青蘿(ほくせいら)
僧壁に題す

宮詞(きゅうし)
漢宮詞(かんきゅうし)

賈生(かせい)
茂陵(もりょう)
籌筆駅(ちゅうひつえき)
南朝
北斉
景陽の井
隋宮
馬嵬(ばかい)

驕児(きょうじ)の詩
行きて西郊に次(やど)る作 一百韻
韓碑(かんぴ)

年譜
跋 (吉川幸次郎)
略図



李商隠 中国詩人選集2



◆本書より◆


高橋和巳による「解説」より:

「フランスのある寓話に、ある貧しい少年が、魔法使いから一つの青い玉を授かった話がある。その玉は、耐え難い不幸に襲われた時に覗くと、世界の何処かで、いま自分が経験するのと同じ不幸を耐えている見知らぬ人の姿が浮んでくる。その少年は、その玉を唯一の富とし、その映像にのみ励まされて逆境に耐えてゆく。李商隠が夥しい故事を羅列するとき、それは概ね、彼の意識に浮んだ青い玉の像だと解してよい。それ故にまた、そこに表現される意味が享受者の精神の玉に何らかの像を結べばそれで充分であり、それ以上の穿鑿は必ずしも必要とはしない。それが文学なる人間のいとなみが持つ最大の効用であるだろうから。」


「碧城三首 其の一」:

「碧城十二曲闌干
犀辟塵埃玉辟寒
閬苑有書多附鶴
女牀無樹不棲鸞
星沉海底當窗見
雨過河源隔座看
若是曉珠明又定
一生長對水精盤

碧城(へきじょう) 十二(じゅうに)曲闌干(きょくらんかん)
犀(さい)は塵埃(じんあい)を辟(さ)け 玉(たま)は寒(かん)を辟(さ)く
閬苑(ろうえん) 書(しょ)有(あ)り 多(おお)く鶴(つる)に附(ふ)す
女牀(じょしょう) 樹(き)として鸞(らん)を棲(す)ましめざる無(な)し
星(ほし)の海底(かいてい)に沈(しず)むは窓(まど)に当(あた)って見(み)え
雨(あめ)の河源(かげん)を過(す)ぐるは座(ざ)を隔(へだ)てて看(み)る
若(も)し是(こ)れ 暁珠(ぎょうじゅ) 明(めい)又(ま)た定(さだま)らば
一生(いっしょう) 長(なが)く対(たい)せん 水精盤(すいしょうばん)

 崑崙(こんろん)山の碧い霞のたちこめるその仙人の館は、十二曲りもの渡り廊下の曲折する豪壮さである。その館の中は、塵除けの不思議な海獣の角が置かれて清らけく、光かがやきつつ熱をも発する宝玉が備えられて、部屋はいつもあたたかい。
 その庭園、閬風(ろうふう)苑には、雲中高く飛ぶ鶴がかわれていて、しばしば手紙を寄せる使者となる。また、その名も艶めかしい女牀山には、梧桐の樹ごとに、鸞(らん)がすんでいる。
 もしことづてを得て、鸞(らん)のようにそこに住みえたなら、あけがた、星星が西方の大海、そのあおい水底に沈んでゆく有様も、その碧城の窓から望むことができる。そしてまた恋人同志は、雨雲が彼方の東の河源のあたりの空を雨降らしながらよぎるのを、座を隔てて眺められるのだ。
 きらきらと輝く暁の真珠、その真珠のきらめきが、やがてまた一つに凝集して太陽の輝きとなって一定するように、――たとえば夢幻の中に、ぴかぴか光る情念の光彩が、もし一つの現実の光に凝集するならば、私は生涯にわたって、他の一切を忘却し、水晶盤のような愛の透明さにだけ向い合っていてもいい、と思う。」



「北靑蘿」:

「殘陽西入崦
茅屋訪孤僧
落葉人何在
寒雲路幾層
獨敲初夜磬
閒倚一枝藤
世界微塵裏
吾寧愛與憎

残陽(ざんよう)は西(にし)のかた崦(えん)に入(い)り
茅屋(ぼうおく)に孤僧(こそう)を訪(とぶろ)う
落葉(らくよう) 人(ひと)何(いず)くにか在(あ)る
寒雲(かんうん) 路(みち)幾層(いくそう)
独(ひと)り敲(たた)く初夜(しょや)の磬(けい)
閒(しずか)に倚(よ)る一枝(いっし)の藤(とう)
世界(せかい) 微塵(みじん)の裏(うち)
吾(われ)寧(な)んぞ愛(あい)と憎(ぞう)とをせんや

 夕日が遙か西の彼方の山に没する頃、私は茅ぶきの山寺に独り住う僧を訪(とぶら)った。
 あたりには枯葉が散り、ここはおよそ人の気配からは隔絶されてある。ふりかえれば、冬の寒寒した雲が、幾層にも重って山道をおおっている。
 他には物音はなく、ただ、僧のたたく磬(けい)の音だけがあたりに響き渡る。そして、僧はものしずかに一本の藤の杖によりかかって立ちつくす。
 ああ、たしかに、この世界における人間の存在は、何ほどの価値もなく、ひと時風に舞う微(こま)かい塵のようなものに過ぎない。しかるにまたどうして私は、愛と憎しみに拘(こだ)わって、我れと我が心を苦しませ続けるのか。」



李商隠 中国詩人選集3






























































































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