谷川健一 『続 日本の地名』 (岩波新書)

「狼は古代から「大神」と呼ばれ「大口(おおくち)の真神(まかみ)」と称号をたてまつられ、尊崇された。秦大津父(はだのおおつち)が狼を「汝(いまし)は是貴(かしこ)き神にして、麁(あら)き行(わざ)を楽(この)む」と言った話が「日本書紀」に記されている。かしこき神とは邪悪さと賢明さを兼ね備えており、そのために人間から畏怖される神という意である。」
(谷川健一 『続 日本の地名』 より)


谷川健一 
『続 日本の地名
― 動物地名をたずねて』

岩波新書 559

岩波書店 1998年5月20日第1刷発行
xi 224p 
新書判 並装 カバー 
定価640円+税



本書「はじめに」より:

「私は民俗学を神と人間と動物の間の交渉の学と心得ている。そのために動物に関する生態民俗や神話伝承に心を傾け、その延長上に動物地名に対しても、並々ならぬ関心を抱きつづけてきた。長年にわたるたびの途次、動物地名に触れて心の動くことがしばしばあった。本書はその中でもとりわけ注目した動物地名を紹介したものである。この中には、折にふれて発表した文章に加筆訂正したものもまじっていること、また本書中の地名の行政区分は、原則として訪問時のものを採っていることを、あらかじめお断わりしておく。」


本文中図版(モノクロ)多数。


谷川健一 続日本の地名


カバーそで文:

「地名はいつも私たちに不思議な興趣を呼び起こす。とりわけ狼森、犬卒塔婆、狐塚、磯鶏、猫魔ヶ岳といった動物地名が鮮やかな記憶を焼き付けるのは、これらの地名が古くからの伝承や信仰、人々の暮らしと深く結び付いて心の奥底の思いをかきたてるからに違いない。アイヌ地名から南島地名まで日本全国のさまざまな動物地名を訪ねての旅。」


目次:

はじめに

第一章 海彼の来訪者
 [クジラ]恵美須浦(えびすうら)
 [クジラ]鯨油開(げいゆひらき)
 [クジラ・イルカ]鯨伏郷(いさふしごう)と海豚鼻(いるかばな)
 [イルカ]大漁湾と血浦(ちぬら)
 [アシカ]海獺(あしか)島・海鹿(あしか)島
 [トド]トド鳥とトッカリモイ
 [サケ]助川と鮭川
 [サケ]気多(けた)
 [イトウ]喜良市(きらいち)
 [アメノウオ]鰀目(えのめ)
 [ウグイ]鰄淵(かいらげふち)
第二章 先祖としての動物
 [ナマズ]鯰
 [ニべ]鰾谷(にべたに)と腹赤(はらあか)
 [エイ]永尾(えいのお)
 [サンショウウオ」安口(はだかす)
 [サンショウウオ]ウンナンソウ
 [ウナギ]ウンナン
 [オカミ]おかみ
第三章 冥界の案内者
 [ニワトリ]磯鶏(そけい)
 [ニワトリ]鷲宮(わしのみや)
 [ニワトリ]鶏塚(にわとりづか)
 [ウ]鵜川(うかわ)
 [ウ]鵜浦(うのうら)
 [ハクチョウ]久々湊(くぐのみなと)と久々江(くぐえ)
 [モズ・ミソサザイ]百舌鳥野(もずの)と雀部(さざきべ)
第四章 畏きもの
 [オオカミ]狼河原(おいぬかわら)
 [オオカミ]狼森(おいのもり)・狼沢(おいぬさわ)
 [オオカミ]狼煙(のろし)
 [ヘビ]蛇草(はくさ)
 [マムシ]丹比(たじひ)
 [ヘビ]パウ崎とピャウナ崎
 [ヘビ]長邑(ながむら)と宇賀(うか)の郷
 [ヘビ]美馬(みぬま)
 [ヘビ]蛇穴(さらぎ)
 [ヘビ]竜ヶ水(りゅうがみず)
 [ヒキガエル]ワクド石・ゴトビキ岩
 [ムカデ]百足(むかで)山
 [ムカデ]小野猿麻呂
第五章 ヨモノ
 [カッパ]猿猴(えんこう)川と川子沢(かわこざわ)
 [サル]猿ヶ石川
 [サル]猿のつく地名
 [キツネ]狐塚(きつねつか)・稲荷穴(とうかあな)・十日(とうか)ノ窪(くぼ)
 [キツネ]狛森
 [ネズミ]鼠宿(ねずみしゆく)・鼠坂(ねんざか)・鼠(ねず)ヶ関(せき)
 [ネズミ]鼠蔵(そぞう)島とエルムコタン
 [ネズミ]鼠谷(よめたに)
第六章 人の暮らしとともに
 [ウシ]特牛(こつとい)
 [ウシ]牛窓(うしまど)と牛転(うしまろび)
 [ウシ]妹背牛(もせうし)と六角牛(ろつこううし)
 [ウマ]池月沼と生月鳥
 [イヌ]犬卒塔婆(いぬそとば)
 [イヌ]犬島
 [イヌ]小犬丸(こいぬまる)
 [イヌ]犬川(いんがー)
 [ネコ・イヌ]猫と野良犬
 [ネコ]猫又山
 [ネコ]猫魔ヶ岳
 [ネコ]猫の目
第七章 狩の幸
 [イノシシ]曾(そ)の峯(たけ)
 [イノシシ]ツナギとカクラ
 [シカ]鹿子(かこの)水門(みなと)
 [シカ]射目前(いめざき)
 [シカ]鹿越(しかごえ)・鹿追(しかおい)
 [シカ]無鹿(むしか)
 [クマ]露熊山(つゆくまやま)
 [クマ]熊成峯(くまなりのたけ)
 〔クマ・ハヤブサ]熊襲(くまそ)の穴と隼人塚(はやとつか)
第八章 翼あるもの
 [タカ]御巣鷹(おすたか)山
 [カモメ]鴎
 [ウトウ]善知鳥(うとう)
 〔カイツブリ]鳰(にお)の海と鳰崎(におざき)
 [ウグイス]法吉(ほほき)
 [ウソ]鶯平(うそびら)
 [ハト]鳩間島(はとましま)と鳩離島(はとぱなりしま)
 [ホオジロ]一青(ひとと)と黒氏(くろじ)
 [ツル]鶴子(つるし)山
 [トキ]東金(とうがね)
第九章 河海の生き物
 [シャコガイ]阿坂
 [シジミガイ]志染(しじみ)
 [カイ・フナ]貝鮒(かいふな)
 [ホッキガイ・カラスガイ]母恋(ぼこい)と美唄(びばい)
 [サバ]鯖神峠
 [キビナゴ]きびなあじろ
 [タコ・ムカデ]たこしまと蜈蚣島(むかでじま)
 [ワニ]鰐浦(わにうら)

おわりに




◆本書より◆


「猫の目」より:

「能登半島の西海岸にある石川県羽咋(はくい)市を旅行したことがある。交通信号のある十字路に差しかかった時、ふと前方を見ると「猫の目」という地名が表示してあった。」
「昔、邑知潟(おうちがた)が海であったころ、漁船や稲をはこぶ船が往来し、羽咋市の柳田(やないだ)と呼ばれる場所に差しかかると、闇夜でも二つの燈が見えた。そこには家が二軒しかなく、その燈火がまるで猫の目のように見えたということから、そのあたりを「猫の目」と呼ぶようになったという。」
「ところで、私がなぜ「猫の目」という地名について興味を抱いたかを一言申し添えておこう。
 昔、時計のない時代には、猫の瞳孔の開き具合を見て、おおよその時刻を計るということがおこなわれていた。瞳孔は光の分量が多ければ小さく開き、少なければ大きく開く。当然のことだが、太陽が天頂に輝く時に瞳孔はもっとも小さくなる。江戸後期の学者、谷川士清(ことすが)の「和訓栞(わくんのしおり)」には猫眼の歌といって「六つ(午前六時、午後六時)丸く、四八(午前十時、午後二時)瓜ざね、五(午前八時)と七(午後四時)と玉子となりて、九つ(正午)は針」とある。
 鹿児島市にある旧島津藩主の別邸の磯(いそ)公園を歩いている時、猫神を祀る小祠に出会ったことがある。立て札の説明文に、島津義弘が文禄の役で朝鮮に出兵した時、猫七匹を連れて、彼の地に渡った。時刻を見るためであった。そのうち二匹が生きて帰ったので、その霊を祀ったと記されている。今でも六月十日の時の記念日には、鹿児島市の時計商たちがここに集まって、祭をおこなっているという。」










































































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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