西郷信綱 『古事記注釈 第三巻』

「古事記がもっぱら民族主義的にまつりあげられてきたのは周知のとおりだけれど、視線や問いかたをもっと冒険的に変えて眺めるならば、これほどインターナショナルな契機が押しあいへしあいしている作も他にあまりないということになりそうである。」
(西郷信綱 『古事記注釈 第三巻』 より)


西郷信綱 
『古事記注釈 第三巻』


平凡社 1988年8月25日初版第1刷発行
449p 折込系図1葉
A5判 丸背布装上製本 貼函
定価5,562円(本体5,400円)
装幀: 原弘



第一巻「凡例」より:

「一、本書は古事記伝を前提とし、また踏襲している点があるので、対照しやすいよう段節の区切りかたもほぼそれに準じることにした。」
「一、本文も古事記伝を底本とし、真福寺本その他を以て校訂した。」
「一、校注は必要最小限にとどめ、本文の解釈にかかわるものは注釈の条でとりあげた。底本もその他の諸本も誤っていると考えた場合は、私見を以て改めた。」
「一、古事記をどう訓み下すかには未解決の問題が多く、今なおそれは不安定な状態にある。(中略)私はまだ何ら確信らしいものが持てないので、古事記伝の訓みを軸とし、諸家の説によってそれを多少手直しするという程度にとどめた。」



目次:

第十八 神武天皇(神倭伊波礼毘古命)
 日向から東へ
 槁根津日子
 日下の蓼津
 熊野の荒ぶる神
 八咫烏
第十九 神武天皇(続)
 兄うかし・弟うかし
 久米歌
 久米歌(続)
 久米歌(続々)
 邇芸速日命
第二十 神武天皇(続々)
 丹塗矢の話
 伊須気余理比売
 当芸志美美の謀反
 神八井耳の系譜
 ミサザキ
第二十一 綏靖天皇(神沼河命)から開化天皇(若倭根子日子大毘毘命)まで
 綏靖天皇
 安寧天皇
 懿徳天皇
 孝昭天皇
 孝安天皇
 孝霊天皇
第二十二 綏靖天皇から開化天皇まで(続)
 孝元天皇
 開化天皇
 開化天皇(続)
第二十三 崇神天皇(御真木入日子印恵命)
 系譜
 大物主神
 三輪山神話
 タケハニヤスの反乱
 「初国知らしし天皇」
第二十四 垂仁天皇(伊久米伊理毘古伊佐知命)
 系譜
 系譜(続)
 サホビコ・サホビメの乱
 サホビコ・サホビメの乱(続)
 ホムチワケの誕生
第二十五 垂仁天皇(続)
 もの言わぬ子
 出雲大神のたたり
 鳥取部その他を定む
 送り返される女
 タヂマモリの話
第二十六 景行天皇(大帯日子淤斯呂和気)
 系譜
 大碓命
第二十七 景行天皇(続)
 兄を殺す
 倭建命の熊曾討伐
 出雲建を討つ
 草なぎの剣のこと
 野火の難
 弟橘比売
 「あづまはや」
 筑波問答
第二十八 景行天皇(続々)
 美夜受比売のこと
 伊吹山の神
 一つ松
 思国歌
第二十九 景行天皇(続々々)・成務天皇(若帯日子)
 八尋白智鳥
 白鳥の御陵
 倭建命の系譜
 成務天皇
第三十 仲哀天皇(帯中日子)
 系譜
 神功皇后の神がかり
 神託
 新羅を侵す話
 鎮懐石のこと
第三十一 仲哀天皇(続)
 香坂王・忍熊王の乱
 気比大神
 酒楽の歌

系図



西郷信綱 古事記注釈



◆本書より◆


「第二十四 垂仁天皇」より:

「伝本が一致しているからといって、日本語としてのありかたからそれを疑ってみることをしないならば、一種の呪物崇拝に堕ちることになりかねない。(中略)少くとも、本文への忠誠さのあまり、逆に(中略)誤りを犯す場合があることを、肝に銘じておかねばなるまい。むろん文献学的 fallacy の他、国文学的な、歴史学的な、また民俗学的な fallacy も少くない。それはただ一つの(引用者注: 「ただ一つの」に傍点)規律にのみ服し、普遍性をかえりみようとしないところに生じる誤謬である。」


「第二十八 景行天皇(続々)」より:

「学者の律儀さを笑うかのごとく、古事記はすこぶることばの遊戯心に富む。つまりそこでは、普通名詞と固有名詞との間の壁がことばの音によってやすやすと乗りこえられ、普通名詞が固有名詞に変身し、しかも両者が反響しあうことを止めぬといった形で話が展開する。」


「第二十九 景行天皇(続々々)・成務天皇(若帯日子)」より:

「記と紀でヤマトタケルの像がかなり違っていることはすでに触れたところだが、紀においてこの人物がほとんど独立性をもたぬ、景行天皇の代理人になり終ったのは、天皇の権威の立場からのみ彼を描こうとしているためである。それにひきかえ古事記のヤマトタケルは、その「建く荒き情(ココロ)」ゆえに天皇と対立し、そして天皇に追放され、ふたたび故郷の大和へ還ることのできぬ一人の英雄(引用者注: 「英雄」に傍点)として存在する。ここにいう「英雄」は概念上、「天皇」の反措定である。そういった「英雄」の概念が、古事記のヤマトタケルを考えるには必要になると思う。それにしても一篇の、右にいう意味での英雄物語を創り出すことが、古事記にどうしてできたのだろうか。それに答えることは難しい。しかしそのさい少くとも、古事記が書紀のような国家の正史ではなく、壬申の乱に勝った天武の個人的な発意ともいえるものにもとづき、一つの世界にたいする回想として作られたこと、そして王権的秩序の制度化、その急速な発展とともに「建く荒き情」または英雄的なものは、いうなれば悲劇的に圧殺されてゆかざるをえぬという過程がしばしば経験されたであろうこと、この二点だけは忘れたくない。げんに例えば、近江朝にたいし壬申の乱を惹き起こし烈しくたたかった大海人皇子は多少とも英雄的といえる存在だったが、それに勝利し天皇になったとき、かれは支配秩序の作り手・担い手になるほかなかった。」































































































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