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フーケー 作/柴田治三郎 訳 『水妖記(ウンディーネ)』 (岩波文庫)

「どうか大目に見てやって下さいまし。これからもまだ不躾(ぶしつけ)なことをいたすかとも思いますが、あの子はちっとも悪気はないのですから。」
(フーケー 『水妖記』 より)


フーケー 作/柴田治三郎 訳 
『水妖記(ウンディーネ)』
 
岩波文庫 赤 32-415-1

岩波書店 
1938年10月15日第1刷発行
1978年5月16日第14刷改訳発行
1983年5月25日第21刷発行
165p
文庫判 並装 カバー
定価250円
Fr. de la Motte-Fouqué "Undine" (1811)



本書「解説」より:

「フーケーは、詮索ずきな読者からこの作品の典拠をきかれて、十六世紀スイスの錬金術士・医学者たるパラツェルズス Parafcelsus の地水風火の精に関するラテン語で書かれた古文献をあげた。なるほどそれには、「アダムに由来する人間」とは違って魂をもたない精のことが書かれている。――パラツェルズスは水精を、ラテン語の unda (波)に基づいてウンディーナ undina と名づけたが、ドイツではこれをウンディーネ Undine またはオンディーネ Ondine と、フランスではオンディーヌ ondine と呼んでいる。――水精は人間の女のような姿をしているが、魂がない。人間の男に愛されてその妻になると、魂をもつにいたる。夫はその妻を水辺または水上で罵(ののし)ってはいけない。その禁を犯すと、妻は永久に水中に帰ってしまう。しかし死別ではないから、夫は他の女を娶(めと)ってはならない。もし他の女を娶るならば、水精自身が夫の生命を奪いに現われることになっている。パラツェルズスはその証拠として、シュタウフェンベルクのニンフの物語をあげている。」


フーケー 水妖記


カバー文:

「湖のような青い瞳、輝くブロンド。子供をなくした老漁夫のもとにどこからか現われた美少女ウンディーネは、実は魂のない水の精であった。人間の世界にすみ、人間の男と愛によって結ばれて、魂を得たいとねがったのだ。――ヨーロッパに古くから伝わる民間伝承に材をとった、ドイツロマン派の妖しくも幻想的な愛の物語。」


目次:

その一 騎士が漁師(りょうし)のところへ来たこと
その二 ウンディーネが漁師の家へ来るようになったこと
その三 二人がウンディーネを見つけたこと
その四 騎士が森で出会ったこと
その五 岬における騎士の生活
その六 結婚式のこと
その七 新婚の夜ふけてからの出来事
その八 婚礼の翌日
その九 騎士が新妻をともなって帰ったこと
その十 町における騎士たちの生活
その十一 ベルタルダの聖名の祝日
その十二 天領の町を立ち去ったこと
その十三 リングシュテッテン城内の生活
その十四 ベルタルダが騎士とともに帰ったこと
その十五 ヴィーンへの旅
その十六 その後のフルトブラント
その十七 騎士の夢
その十八 騎士フルトブラントの婚礼の有様
その十九 騎士フルトブラントの葬式の有様

解説 (訳者)




◆本書より◆


「話なかばに騎士は低い小窓に、だれかが水を打ちかけているようなピチャピチャする音を幾度も聞きつけた。爺さんはその音のするたびに額(ひたい)に皺(しわ)を寄せていたが、はては一度にどっと注ぎかけられた水が窓枠(まどわく)の隙間(すきま)からさっと部屋の中にまでしぶきを散らした時には、とうとう腹を立てて、立ち上りざま、窓に向かって怒鳴(どな)りつけた。
 「ウンディーネ。悪戯(いたずら)もいいかげんにしなさい。それに今夜うちはお客さまだよ。」
 すると外は静かになったが、低い忍び笑いはまだ聞こえて来る。漁師は座に戻りながら言った。
 「どうか大目に見てやって下さいまし。これからもまだ不躾(ぶしつけ)なことをいたすかとも思いますが、あの子はちっとも悪気はないのですから。」」

「「なんでもよほど遠いところの生まれらしく、それから十五年にもなりますが、その子の素性は未(いま)だに皆目(かいもく)わからないばかりでなく、その子は昔も今もときどき奇妙なことを言い出しますので、まったく私たちのような者には、けっきょくこれは月の世界からでも降って来た子だろうとさえ思われるくらいでした。」」

「「私たちはその子のために良い名前を考えました。(中略)ところがあの子はこの名前を嫌いまして、両親からウンディーネと呼ばれていたのだから、この先もウンディーネで通したいと言い張ります。しかしその名前はどうも私には、暦にも載(の)っていない、外道(げどう)の名前のように思われましたので、町の司祭さんのところへ相談に参りました。司祭さんもウンディーネなどという名前は聞きたくもないと仰(おっ)しゃるのです。」」

「「魂ですって?」とウンディーネは司祭に向かって笑いながら言った。「本当に響きのいい言葉ね。じっさいたいていの人には、ありがたい、ためになる掟(おきて)かも知れないわ。だけど、魂のないものだったら、何で調子を合わせたらいいの? だって私がそうなのよ。」」

「「魂って可愛いものらしいのね。でもまた、何かとても恐ろしいものに違いないわ。司祭さま、本当に魂なんか、いつまでも無い方がいいんじゃないかしら?」」

「「魂って重い荷物に違いないわ。とても重いものに違いないわ。だって、そのかたちが近づいて来るだけでも、もう私には居ても立ってもいられないような心配や悲しみが影のように覆(おお)いかぶさって来るんですもの。いつもはあんなに軽い、楽しい気持でいられたのに。」」

「「あなたもきっとご存じと思いますけれど、地水風火の中には、あなたがたとほとんど同じ姿をしていながら、あなたがたには滅多に姿を見せることのない生物(いきもの)が住んでいます。焰の中にはサラマンダーという不思議な火の精がピカピカ光りながら戯れていますし、地面の底にはグノームといって痩(や)せこけた油断のならない土の精が住んでいます。森の中には風の仲間の森の精が飛び廻っていますし、また湖水や川には水の精の大種族が住んでいます。打てば響くような水晶の円天井の中は、お空から日や星の光もさして来て、本当に美しい住処(すみか)です。お庭には青や赤の実をつけた大きな珊瑚樹(さんごじゅ)が輝いています。みんなはきれいな砂や色とりどりの美しい貝殻の上を歩いています。今の世の人が持って楽しむのにはもったいないような美しいものが昔の世界にはありましたけど、それを波が、人目を避ける銀のヴェールに包んでおきます。その下には立派な記念碑が高く厳(いか)めしく優雅に輝いていて、波がそれを恋い慕って優しく露をおくものだから、そこから美しい苔の花や葦の穂が咲き出します。(中略)嫋(たお)やかな水の女が波から現われて唄を歌っているのを、うまい具合に竊(ぬす)み聴(ぎ)きしたという漁師も少なくはありません。その人たちは水の女の美しさをそれからそれへと語りひろめましたが、人間はそのような不思議な女たちをウンディーネと呼んでいます。そのウンディーネの一人を、あなたは今、目の前に見ていらっしゃるのです。」」

「「皆さん。皆さんは憎しみに溢れた、まるで正気とは思われない顔をして、私の大事な催しをさんざん毀(こわ)してしまいました。私は皆さんのそんな愚かな風習や厳しい性質は知りませんでした。おそらく一生それには慣れることができないでしょう。私のしたことがすっかり狂ってしまったのは、私の罪ではありません。皆さんにはそうは思われないかも知れませんが、みんな皆さんのせいです。だから皆さんにはあまり申し上げることもありませんが、ただ一つどうしても言っておかなければならないのは、私が嘘をついたのではないということです。これは本当のことだと自分で言うほかに、証(あか)しを立てることはできもせず、したくもありませんが、嘘でないということだけは誓って申し上げます。」」





























































































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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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