レオノール・フィニ 『夢先案内猫』 (北嶋廣敏 訳/プラネタリー・クラシクス)

「私は答えた、「以前に私も猫を失くしたことがあります。それがもとで病気にさえなりました。私はただ猫のことばかり考えていました。そしてその猫を探しに、こうして旅にでたのです……」。」
(レオノール・フィニ 『夢先案内猫』 より)


レオノール・フィニ 
『夢先案内猫』 
北嶋廣敏 訳

プラネタリー・クラシクス

工作舎
1980年11月15日初版発行
1986年10月20日新装版第1刷発行
136p 訳者紹介1p 目次その他(別丁)8p
A5判変型 丸背紙装上製本 カバー
定価1,400円
エディトリアル・デザイン: 海野幸裕+西山孝司



本書「あとがき」より:

「本書はレオノール・フィニの『L'Oneiropompe』(一九七八年)の全訳である。」


本書「訳注」より:

「オネイロポンプ: Oneiropompe. これは本書のタイトルにもなっているが Oneiropompe は Oneiro と pompe の合成語で、その意味はフィニの弁によれば "Conducteur des rêves" すなわち「夢の指揮者」あるいは「夢の誘導者」を表わす。翻訳にあたっては、猫の固有名詞(名前)として用いられているために、タイトルでは「夢先案内猫」と意訳した。」


フィニ 夢先案内猫1


帯文:

「幻想画家の女王
フィニの
ワンダー・
トリップ
プラネタリー・クラシクス
第3弾!」



帯裏:

「二十世紀が
生んだ
最も独創的な、
最も豪奢な
空想力を
誇り得る
幻想画家の巨匠
――澁澤龍彦
『幻想の画廊から』」



カバー裏文:

「◆[著者紹介]◆
孤高の幻想世界を構築する美術家・作家。
一九〇八年、南米ブエノス・アイレスで生まれる。父親はアルゼンチン人、母親はイタリア人。幼年時代をトリエステで過ごし、この地で十七歳の時に個展を開き、それを機会に家族と離れ単身パリに出て、第二次大戦直前までとどまる。その間、ポール・エリュアール、マックス・エルンスト、ジョルジュ・バタイユらと親交を結ぶが、シュルレアリスムのグループに属することはなかった。その後、ローマ、パリ、コルシカと移り住みながら、最近ではコルシカの廃墟に居を定めた感がある。
彼女は画塾に通って教えを受けたことは一度もなくまったくの独学で、一九四〇年ごろからしだいに幻想性に深みと鋭さが現われ、つねに世人の注目の的となり、現代美術を代表する存在となっている。
なお、彼女の仕事には、バレー、オペラ、映画などの衣裳や装置や、小説や詩などの挿絵などがあるが、いずれも高い評価を得ている。また、最近では宝石のデザイン(限定版、首飾り用の、金製の角をあしらったもの)や小説なども手掛け、まさに動物界の王者の獅子(レオノール)ならぬ、芸術活動における獅子(レオノール)性を発揮している。」



フィニ 夢先案内猫2


目次:

[1章] 
猫は私の上に乗っかり、私に枕のひとつを取るのを許すと、
すかさずこう話しかけてきた
――「私は夢先案内人だ……」
[2章]
婦人は私の脚に軽く触れながら、猫の背中や腹部への愛撫を止めなかった。
そして、「パリの私の所へいらっしゃいな……」
[3章] 
しかも彼女が猫を自分にくれとでも言いだしたかのように、
私は内心いわれのない恐怖心にさいなまれるのだった。
[4章]
私は猫に夢の内容を話して聞かせた。
猫は注意深く話に聞き入った。
「それらの意味するものは明らかだ……」
[5章]
フリオは裸になって皮の長椅子の上に横たわり、
その上に猫が坐り、少年の胸、腹、
そして下腹部といった具合に順々になめていた。
[6章]
猫が姿を消してから七日目に、私は発熱した。だが、それにもかかわらず、私は彼女に同行する準備をしていた。
[7章]
その後、全員が顔をあげ、前方の小舟の形をした玉座に視線を向けた。
そこには静かにそして晴れやかに、「猫」が坐っていた。

訳注
あとがき (北嶋廣敏)



フィニ 夢先案内猫3



◆本書より◆


「私がRに到着したのは、夜中の十一時だった。街は静まりかえっていた。その街から想像できるものといったら、枕に顔をうずめぐったりと横になったり、口を大きくあけるか、またはポンペイの壁画にみられる恋人たちのようにずっと絡みあったままで眠っている人びとの姿だけであった。音という音はいっさいとだえ、黒い敷石の上には私の靴音のほかは、何も聞こえなかった。私が投宿を決めたホテルも、同じくひっそりとしていた。そのホテルは、昔はたいそう豪華であったようで、金の装飾品、箔(はく)がおおむねはがれ傷ついている薄汚れたシャンデリア、それに灯(ひ)のともったわずかばかりの電灯、毛がとれ擦(す)りきれている絨緞(じゅうたん)などに、その面影をとどめていた。一度ならずと二度、そして三度と、夜勤のドア・マンに来客を知らせるために、手を打ち鳴らさなければならなかった。」

「とそのとき、中庭に小さな家畜小屋があるのかもしれないという考えが、頭の中をよぎった。兎小屋特有の強い匂いが先ほどから鼻をついていたからである。兎が飼われているのだろうか? そんな優雅な動物の匂いが私の所までただよってきているのかと思っただけで、私は幸福にみちた気分になるのだった。窓をあけてみたいものだと思った。だがそれもすぐに思いとどまった。というのも、他人が私を見て、そのシルエットから自分以外の人物を想像され、あげくの果てにあれこれ余計な推量をされる……といったことに対する生来の恐怖心――この恐怖心は時には漠然とした形をとることもあるが、たえずつきまとっている――が先に立ったからである。」

「すると褐色と黒色の斑(まだら)模様の毛の長い大きな猫が歩み寄ってきて、私の膝の上に飛び乗った。私とすれば猫に何か話しかけたい気分になっていた。だがその猫ときたらあまりにもいぶかしげな視線を投げかけるもので、その勇気もいつしかしぼんでしまった。猫はやがて私のもとから離れていった。だが十メートルほど行ったか行かない所で立ち止まっては、振り返ってこちらをじろっと見つめた。そしてそれから地面に三度もでんぐり返しをした。昔から、すべて不意をつかれる動作、とりわけ動物の示す思いがけない動作には、私は重要な意味を認めている。」

「名前、それはもっとも重要なものだ。私は嫌いな人間に対しては、その人を名前で呼んだためしがない。名前というものは、思いもよらぬ不幸を招くことだってありうるのだ。」

「「潜水夫」館の大きな入口の前で長い時間待たされた末に、やっと扉が開き、白子(しらこ)の青年が姿を見せた。青年は黙ったままで、ただほほえみを浮かべていた。彼はイルカの鳴き声そっくりに、「ヒイッ…ヒイッ…」と声をあげ、後についてくるようにと私を誘い入れた。中庭を横切った。モザイク仕上げの壁には、クラゲやタコのほか、赤色と薄紫色によってナマコが描かれていた。アーケードを過ぎると、絡(から)みあった海藻模様の青銅の手すりがあり、その下はすぐ暗青色のプールで、水はオペラ座の地下で湖を形成している地下河川によってたえず一新されていた。底では、大男の潜水夫がふたり、ゆっくり動いていた。」

「猫は私と一緒に外出することにした。猫は私がほとんど足を踏み入れたことのない老朽化した界隈へと誘った。低くて暗い家々は、アムステルダムのいかがわしい一画を想わせるが、ただ空はこの界隈の方がもっと彼方にある。それらのなかの、とある家の扉の前までくると、猫がストップを命じた。狭い廊下を通ると、放ったらかしになっている中庭に出た。そこでは、箱や用途不明の錆びた古い機械しか眼にとまらなかった。猫は小さな扉をあけて、最初のとそっくりの廊下に招き入れたが、その廊下はこれまたさきほどよりいくぶん広い中庭に通じていた。片隅に、「乳を吸う蝸牛(かたつむり)」「糸巻玉を作る猫」「月の練り粉(パテ)」などと書かれた古い看板が山積みになっていた。エキゾチックな植物と色あせた木蔦(きづた)の茂みが一茎(くき)の小さなゼラニウムの脇で、壁の一部分を覆っていた。」

「前(プレ)ロマン主義者たち同様、猫というものは、廃墟とか、困難な窪みとか、ときおり尾の切れた青いトカゲなどが通る意外な通り道とかを好むものである。」



フィニ 夢先案内猫4









































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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