『ヴィリエ・ド・リラダン全集 第三卷』 (齋藤磯雄 譯)

「今より後、生活を受け容れることは、もはや我々自身に対する冒涜にすぎまい。生きる? そんなことは下僕共がやつてくれるさ。」
(ヴィリエ・ド・リラダン 「アクセル」 より)


『ヴィリエ・ド・リラダン全集 
第三卷』 
齋藤磯雄 譯


東京創元社
昭和52年4月25日初版
昭和55年12月25日再版
665p 目次5p 口絵(モノクロ)i
A5判 丸背布装上製本 貼函 
定価6,000円
装釘: 日下弘


月報3 (6p):
思ひ出(佐藤正彰)/『アクセル』の世界(鷲巢繁男)/リラダン――詩想と形式(澁澤孝輔)/編集さ・え・ら/次回配本/図版(モノクロ)3点



本書「書誌・文獻」より:

「拙譯『アクセル』(三笠書房、昭和十八年)は、この度の東京創元社版全集收録に際して全面的に改譯した。」


正字・正かな。


リラダン全集III 1


目次:

アクセル
 第一幕 宗教の世界
  I ……彼等を強ひて連れきたれ!
  II 抛棄者
 第二幕 悲劇の世界
  I こよなき秘密の夜警たち
  II ヘル・ザシャリヤスの物語
  III 殺戮者
 第三幕 幽玄の世界
  I 閾(しきゐ)にて
  II 抛棄者
 第四幕 情熱の世界
  I 黄金と戀による試煉
  II 最後(いやはて)の選擇
 譯者註
 『アクセル』補遺

彼岸世界の話
 夢想界の選良
 ピエ先生
 崇高なる愛
 こよなき戀
 ミルトンの娘たち
 新舊問答
 小説の斷片

行路の人々
 驚くべきムートネ夫妻
 ニナ・ド・ヴィラール邸の一夕
 舞臺上の御主キリスト
 囘想
 ハムレット
 オーギュスタ・オルメス
 或る書物についての手紙
 法の前の暗示作用
 死刑に於る現實主義
 フローベール作『候補者』
 オペラ座休憩室の裝飾畫
 フローベール作『聖者アントワーヌの誘惑』
 フランシスク・サルセー氏の異常な立場
 彫像の臺座
 大統領冠
 名だたる婿に
 警告

遺文集
 ミュンヘンからの手紙
 エミール・オージエの或る芝居について
 ダナウスの娘たち ヒュペルムネストラ
 イザボー・ド・バヴィエール
 レディー・ハミルトン
 板の上の三十の首
 會食者

補遺
 遺稿斷章 I、II、III
 未發表短篇小説 貸家

書誌・文獻



リラダン全集III 2



◆本書より◆


「アクセル」より:

「あの子はあまりに冷やかに模範的なのです。私はあの子の節操を試すために、何度も罰してみました。あの子は何もかも受け容れました。けれど、神父さま、斷言して憚りませんが、あの子の服從はただ外見だけにすぎないのです。懲罰もあの子に對しては力が鈍り、却つてあの子を自負のなかに強めてしまふのです。」
「あの子はまるで鋼鐵(はがね)のやう。中心まで撓んで、それから元へ跳ね返るか、さもなければ折れてしまふ。あの子は(こんな言ひ方をしてよいものなら)劍(つるぎ)の魂、を持つてゐる。そして、一度ならず、あの子を見るとこの私自身が或る種のひそやかな苦悶に襲はれて氣もそぞろになつた。」

「萬民の福利か! 殊勝な目標だ、それを口實にして、あらゆる時代、あらゆる國家に於て、掠奪を好む王侯貴顯は、おのが快樂のためにする苛斂誅求を裁可したものだ。そして今以てこの目標を掲げれば、貧民を、彼等の利益といふ名目で冷酷に丸裸にしながら、むりやり彼等に感謝の表示を要求することが許されるのだ。――いやいや、この場合、《萬民の福利》の凡庸な擁護者共を誘つて、掠奪を恣(ほしいま)まにさせてはならぬ。」

「わたくしが喪に服してゐるのは人間のためではございません、――この悲しみのしるしに價するやうな人と識合つたことはありませんもの。――もつと目立たない――おお! とても慎しやかな! 色々な物の中にすつかり埋もれてしまつた或るお友達の喪に服してゐるのです!……
 御覽なさい、――あなただけがわたくしを理解して下さいますわ!
             胸から一輪の凋れた花を取出す。
 夢と人生のあはひに踏み迷つて、この地上にわたくしたち二人だけがゐるかのやうですわね、御覽なさい、アクセル、この神秘な花を!」

「生きる? 否(いな)、だ。――わたしたちの生命(いのち)は滿され、――その杯は溢れてゐる!――如何なる砂漏刻(すなどけい)が今宵の時を計り得ようか! 未来?……サラ、この言葉を信じておくれ、わたしたちは今やそれを汲み盡したのだ。二人が今生きて來たばかりの蜃氣樓と比較して、あらゆる現實は、明日、どのやうなものであらうか。過ぎ去つた昔の朋輩である陋劣な人類に倣(なら)つて、夢の似顏を刻んだその金貨を鑄造したところで何にならう、――我々の勝ち誇る手の中に煌く――三途の河の鐚錢(びたせん)だ!
 我々の希望の高い品格はもはや我々に地上の生活を許さない。わたしたちの憂愁がそこに苒々(ぜんぜん)として時を過してゐるこの淺ましい星に、あのやうな瞬間の蒼褪めた反映以外の、何を求め得よう? (中略)サラ、わたしたちは、この奇異な心のなかで、人生への愛をうち滅ぼしてしまつたのだ――そしてはつきりと事實に於て、わたしたちは自らの靈魂となつたのだ! 今より後、生活を受け容れることは、もはや我々自身に對する冒涜にすぎまい。生きる? そんなことは下僕共がやつてくれるさ。」
「わたしの額は熱くない。わたしは空虚な話をしてゐるのではない――そして、實際に、我々の癒さなければならぬ唯一の熱病は、生きるといふ熱病なのだ。」



「夢想界の選良」より:

「儂もまた……夢想家ぢや。……儂は夢を見ながら生涯を過しましたのぢや!……(中略)夢、夢!……さても美はしいものぢや。……だが、……一國の首都を、夜な夜な、街から街へとさまよひ歩いてゐると、……時には夢を……殆ど正夢にするだけのものが見つかるものぢや!」


「新舊問答」より:

「公爵(思ひに沈み)。――さうだ、墓は滿ち、城は荒涼! 今もなほ、唯ひとり、そこに住んでをられる女性にとつては、殊更に荒涼だ! では如何なる人をその方は失はれたのか。或る日のこと、今は昔! イタリヤで、宿命によつて定められたあの姫君は、燦(きら)らかな一宮廷のさなかに日を送つてをられたのだが、或る人が自分に結婚を申込んだといふ知らせを受けられたのだ。そしてこの、やがて婚約を結ぶべき人物が、世界の最も偉大な王座の一つの階段(きざはし)に生れながら、幼くして、故國の土から追ひやられたといふこと、そしてこの流謫(るたく)の子は、靑年になつても、依然として亡命者であり、その王者としての財寶はすべて彼の心の中、信仰の中、魂の中にあるといふことを、更に聞き知つたとき、(中略)――さういふ時に、そのうら若い姫君は微笑んでかう言はれたのだ、「わたくしはその方の伴侶たるにふさはしくならう」と。」

「――どういふ名目で、何の權利あつて、今この惱める寡婦に向つて、國家的利益を目的とせよなどと要求するといふのか。妃は慘澹たる生涯の代償として、自らの苦惱の中に尊くも閉ぢ籠る資格を、そして外部世界の何物をも見ず人類の如何なる偶發事件にも目を閉ぢる資格を、立派にかち得られたのだ。我々はあの方のことを語るときは脱帽して、子として親に捧げるやうな深い敬意を表すべきだ。」



「囘想」より:

「私の藝術は、私の祈りです。そして、これは信じて頂きたいが、およそ眞の藝術家たる者は、おのれの信ずることだけしか歌はず、おのれの愛することだけしか語らず、おのれの思ふことだけしか書かないのです。」


「ハムレット」より:

「天才は創造することを使命とするのではない。彼がゐなければ暗闇の中に放置されるものに照明を與へることがその使命である。」

「彼は、俗衆といふものを識り盡してゐるので、何らの拘束も受けずに行動しかつ語り、他の觀客たちには氣づかれることも悟られることもなしに、唯おのれの愛する人々にだけ想ひを告げるのである。」



「補遺」より:

祈祷。神よ、願はくは私をして生涯を通じ高貴なるもの美はしきものに欺かれてあらしめ給へ。」


リラダン全集III 3





















































































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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