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『ヴィリエ・ド・リラダン全集 第二卷』 (齋藤磯雄 譯)

「――タダコノ幻ノ喪ニ服セム。――サラバ。
(― et je ne prends le deuil que de cette ombre. ― Adieu.)」

(ヴィリエ・ド・リラダン 「未來のイヴ」 より)


『ヴィリエ・ド・リラダン全集 
第二卷』 
齋藤磯雄 譯


東京創元社
昭和52年4月25日初版
昭和55年2月25日再版
595p 目次7p 口絵(モノクロ)i
A5判 丸背布装上製本 貼函 
定価5,500円
装釘: 日下弘

月報2 (6p):
齋藤子雲のこと(唐木順三)/錯覺(小堀杏奴)/昔のことなど(堀内規次)/勇者ついに起つ(大久保康雄)/書信(抄)(長谷川潔)/編集さ・え・ら/次回配本/図版(モノクロ)3点



本書「書誌・文獻」より:

「『至上の愛』には昭和二十三年十月三笠書房刊の拙譯があるが、このたび本全集收録に際して全篇悉くこれを改譯した。」
「拙譯『アケディッセリル女王』は最初雜誌「群像」(講談社、昭和二十五年四月號)に掲載されたが、このたび(中略)全文を改譯した。」



正字・正かな。


リラダン全集II 1


目次:

未來のイヴ
 緒言
 獻詞
 第一卷 エディソン氏
  第一章 メンロ・パーク
  第二章 蓄音機のパパ
  第三章 エディソンの歎き
  第四章 ソワナ
  第五章 獨りごとの概要
  第六章 神秘的な音響
  第七章 電報!
  第八章 夢想家夢想の一對象に觸る
  第九章 過去を顧みて
  第十章 世界史の冩眞
  第十一章 エワルド卿
  第十二章 アリシヤ
  第十三章 影
  第十四章 如何にして内容は形式と共に變化するか
  第十五章 分析
  第十六章 假定
  第十七章 解剖
  第十八章 對決
  第十九章 諫言
 第二卷 契約
  第一章 白魔術
  第二章 安全裝置
  第三章 出現
  第四章 奇蹟の前提
  第五章 茫然自失
  第六章 更に高く!
  第七章 わあつ! 學者はすばしこいぞ!
  第八章 小休止
  第九章 あやふやな戲言(ざれごと)
  第十章 スベテノ女人ノ爲スゴトク
  第十一章 騎士道的な話
  第十二章 「理想」への旅人――岐路!
 第三卷 地下の樂園
  第一章 黄泉ニ下ルハ易シ
  第二章 夢幻境
  第三章 鳥の歌
  第四章 神
  第五章 電氣
 第四卷 秘密
  第一章 ミス・エヴリン・ハバル
  第二章 浮氣の由々しき側面
  第三章 ユパスの葉蔭
  第四章 死の舞踏
  第五章 發掘
  第六章 思ひ邪(よこしま)なる者に禍あれ!
  第七章 眩暈
 第五卷 ハダリー
  第一章 人類に於るこの機械の最初の出現
  第二章 日の下には新しきものあらざるなり
  第三章 歩行運動
  第四章 久遠の女性
  第五章 均衡
  第六章 悚懼(しょうく)
  第七章 我ハ黑シ、サレド美ハシ
  第八章 肉
  第九章 薔薇の唇と眞珠の齒
  第十章 肉體の發散物
  第十一章 ウラニヤ
  第十二章 靈の眼
  第十三章 肉の眼
  第十四章 髪の毛
  第十五章 皮膚
  第十六章 さだめの時は鳴る
 第六卷 ……かくして《幻》は生れぬ!
  第一章 魔法使の家の夜食
  第二章 暗示作用
  第三章 榮譽の煩はしさ
  第四章 日蝕の日の暮方に
  第五章 女人スフィンクス
  第六章 夜陰に潛む物の姿
  第七章 天使との格鬪
  第八章 救援者
  第九章 反抗
  第十章 呪文
  第十一章 夜の牧歌
  第十二章 夢みる人
  第十三章 簡潔な説明
  第十四章 別離
  第十五章 宿命
 譯者註

至上の愛
 至上の愛
 明敏アスパシヤ
 斷頭臺の秘密
 神聖なる瞬間
 新職業
 黄金燭臺社
 白象傳説
 カタリナ
 クルークス博士の實驗
 過去の權利
 ツァーと諸大公
 ツェ・イ・ラ綺譚

アケディッセリル女王
 アケディッセリル女王
 譯者註

書誌・文獻



リラダン全集II 2



◆本書より◆


「未來のイヴ」より:

「それは紫がかつた絹のクッションに載せられた一本の腕であつた。血は上膊部の切斷面のまはりに凝結してゐるらしかつた。すぐそばに置いてあるバチスト麻の布屑についてゐる眞紅の斑點から判じてどうやらそれは最近手術したばかりと察しがついた。
 若い女の左の腕と手とであつた。
 華奢な手頸のまはりには七寶細工の黄金の蝮蛇(まむし)が卷きついてゐて、靑ざめた手の藥指にはサファイヤの指輪がきらめいてゐた。この上もなく美しい指は、恐らく何度か嵌めたことのあるらしい眞珠色の手袋を握つてゐた。
 肉は今でも實に生々(いきいき)とした色合を保ち、肌も實に淸らかな繻子のやうな色艷を帶びてゐたので、それは見るからに殘酷なしかも幻想的な感じを與へた。
 どのやうな未知の病のためにかうした絶望的な切斷手術が必要になつたのであらうか。――とりわけ、若々しい肉體の見本ともいふべきこの心地よい優雅な腕には、いとも健康な生氣がまだ馳せめぐつてゐるかとも見えるのに。」

「あのめぐりあひは不可避だつたのだと考へるやうになつてしまひました。『ペレグリヌス・プロテウス』の中でウィーランドが言つてゐるやうに、《偶然なるものはあり得ない、――私たちは會はねばならなかつた――そして私たちは會つた》といふことになるのです。」

「――しかし、……そんなものを作つたところで所詮、感覺もなければ知性もない人形以外の何物でもありますまい! (と彼は何事かを言はうとして、かう叫んだ。)
 ――エワルドさん(とエディソンは重々しく答へた)、これは斷言してもよろしいですが、出來上つたものとそのモデルとを並べてみて、雙方の言ふことを聽かれた場合、生きてゐる女の方が人形に見えないやうに(引用者注: 「生きてゐる」以下傍点)、御用心願ひたいものです。」

「あの戀人の裡に望ましいまぼろしだけしか認めまいとして、意志の力を働かせて(引用者注: 「意志の力を働かせて」に傍点)、あなたは眼を――精神の眼を閉ぢていらつしやるのであり、――御自身の意識の否定を揉み消していらつしやるのです。從つてあの女の眞の(引用者注: 「眞の」に傍点)人格は、あなたにとつては、あの女の美の閃きがあなたの全存在の裡に呼びさました「幻影」に他なりません。現實のアリシヤの致命的な、醜怪な、砂を噛むやうな空虚さのために、あなたが厭といふほど嘗めてをられる不斷の幻滅にも拘らず、あなたが最愛の女の存在の中に、是が非でも(引用者注: 「是が非でも」に傍点)、生かさうと努力してをられるのは、この「幻影」だけなのです。
 この影(引用者注: 「影」に傍点、以下同)だけをあなたは愛してをられる。この影のためにあなたは死なうとなさる。あなたが、絶對に、實在として認めてをられるのはこの影だけなのです! 要するに、あなたがあの女の中に、呼びかけたり、眺めたり、創り出したりしてをられるものは、あなたの精神が客觀化されたこの幻であり、あの女の中に二つに分けられたあなたの魂に他なりません(引用者注: 「あの女の中に」以下傍点)。さう、これがあなたの戀愛なのです。」

「自然は移ろひゆかん、されど「人造人間」は移ろふことなし。我々人間はみな、生きて、死にますな、――致し方ありませんよ! 「人造人間」は生も知らず、病も知らず、死も知りません。あらゆる不完全、あらゆる隷屬の上に超然としてゐるのです! 夢の美しさを失ひません。それは靈感を與へる存在(引用者注: 「靈感を與へる存在」に傍点)なのです。一人の天才の如くに語りかつ歌ひます。(中略)――斷じて心變りは致しません。心を持たないからです。」

「わたくしをお選びになるか……それとも、日毎にあなたを欺き、あなたにつけ込み、あなたを絶望させ、あなたを裏切る、あの昔ながらの「現實」をお選びになるか、それはあなたの御自由でございます。」

「暗澹たる偶像よ、私は世を避けてあなたと一緒に暮す覺悟を決めた! 私は人間を辭職する――時代も流れ去るがよい!」

「ロイド商船會社。――急報。海難ニュース。

 《昨日既報、汽船ワンダフル號の沈沒は先程確實になり、この凶事に關して次のやうな痛ましい詳報が入つた。」
「この恐るべき光景が展開されてゐる間に、或る奇怪な事件が中甲板に起つた。E***卿と名乘る若いイギリス貴族が、昇降口の鐵棒を掴んで離さず、あくまでも猛火を潛つて、炎上中の荷箱や行李の中に突入しようとしたのである。
 彼を取押へようとした副船長並びに副水夫長の一人を投げ倒したので、六人ばかりの水夫たちが襲ひかかつて、狂氣の如くに火焰の眞只中に飛び込まうとする彼を辛うじて引止めることが出來た。
 力の限り身をもがきながら、彼は、今や凄じい勢になつた火の中から、是が非でも一個の荷箱を持ち出したいのだが、その中には非常な貴重品が收めてあるから、これを火災から救ひ出すのに力を貸す人には十萬ギネ(引用者注: 「これを火災から」以下傍点)といふ巨額の金を提供しようと大聲で叫んだ、――しかし、これは到底出來ない相談であり、それに短艇には船客と船員を乘せるだけでも精一杯であつたから、所詮は無駄骨といふものであつた。
 人々は、(中略)散々てこずつた末、彼を縛りつけてしまひ、失神した彼を最後の小船に乘り移らせたのであつた。」

「エディソンは荒々しく新聞を投げ出した。その暗澹たる想念を表す言葉は一言もないままに五分間が過ぎ去つた。玻璃の釦につと手をさし伸べて、彼はらんぷの光を消した。
 それから、彼は暗闇の中を百歩ばかり歩き始めた。
 突然電信機のベルが鳴つた。
 電氣學者はモールス電信機のそばの豆らんぷに光を點じた。
 三秒の後、電報を手にした彼は、次のやうな文を讀んだのである。

   《リヴァプール發。アメリカ合衆國、ニュージャージー州、メンロ・パーク行。一七・二・八・四〇、技師エディソン氏宛。
    ハダリーノコトノミ痛恨ニ堪ヘズ。――タダコノ幻ノ喪ニ服セム。――サラバ。
                                       ――ロード・エワルド。》」



リラダン全集
































































































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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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