『ヴィリエ・ド・リラダン全集 第一卷』 (齋藤磯雄 譯)

「そこで私は、黙々として、再び硝子戸を閉めて、わが家に帰つた。――他人のお手本などは眼中に置かず、――たとへいかなることが身にふりかからうとも、――断じて実業には携はるまい、と固く決心して。」
(ヴィリエ・ド・リラダン 「思ひ違ふな!」 より)


『ヴィリエ・ド・リラダン全集 
第一卷』 
齋藤磯雄 譯


東京創元社
昭和52年3月25日初版
昭和53年9月25日再版
583p 目次7p 口絵(モノクロ)i
A5判 丸背布装上製本 貼函 
定価5,300円
装釘: 日下弘

月報1 (6p):
ヴィリエ・ド・リラダンについて(澁澤龍彦)/リラダン雑感(窪田般彌)/編集後記/編集さ・え・ら/次回配本/図版(モノクロ)3点

推薦のことば (2p):
渡辺一夫/小林秀雄/澁澤龍彦/ヴィリエ・ド・リラダン全集 全五卷総目次



本書月報「編集後記」より:

「四十九年十二月に第一巻を発行した前回の限定版は発売後一週間で一部もあまさず品切れになり、(中略)背皮製の限定製作であるため追加の増刷は不可能な状態でした。」
「しかしその後も読者からのご照会はひきもきらず、ここに新装版「リラダン全集」を刊行して、(中略)皆様のご要望にお応えする運びになりました。」



正字・正かな。


リラダン全集I 1


目次:

殘酷物語
 ビヤンフィラートルの姉妹
 ヴェラ
 民衆の聲
 二人の占師
 天空廣告
 アントニー
 榮光製造機
 ポートランド公爵
 ヴィルジニーとポール
 最後の宴の客人
 思ひ違ふな!
 群衆の焦躁
 昔の音樂の秘密
 サンチマンタリスム
 豪華無類の晩餐
 人間たらんとする慾望
 闇の花
 斷末魔の吐息の化學的分析機
 追剥
 王妃イザボー
 暗い話、更に暗い話し手
 前兆
 見知らぬ女
 マリエール
 トリスタン博士の治療
 戀の物語
  I 眩惑
  II 告白
  III 贈物
  IV 海邊にて
  V 覺醒
  VI 告別
  VII 邂逅
 幽玄なる囘想
 告知者(結びの物語)

新殘酷物語
 寄宿舎友達
 希望による拷問
 シルヴァベル
 賭け物
 不可解な女
 尼僧ナタリヤ
 自然味愛好
 鷄鳴

トリビュラ・ボノメ
 緒言
 白鳥殺害者
 地震の利用に關するトリビュラ・ボノメ博士の動議
 蓋然論者の祝宴
 クレール・ルノワール
  第一章 前口上と打明話
  第二章 サー・ヘンリー・クリフトン
  第三章 餘談
  第四章 奇怪なる記事
  第五章 瑠璃色の丸眼鏡
  第六章 晩餐の前に吾輩はひまをつぶす
  第七章 音樂並びに文學を語る
  第八章 交靈術
  第九章 憐むべきわが友の(信じがたき!)愚鈍、無鐵砲、阿呆らしさ
  第十章 哲學的愚論空談
  第十一章 ルノワール博士夫婦並びに吾輩浮かれ心の發作に襲はる
  第十二章 感傷的なる女論客
  第十三章 ルノワール博士の奇怪なる考察
  第十四章 靈體
  第十五章 偶々機を得て吾輩の友は直ちにその屈辱的なる學説を立證するに至る
  第十六章 いはゆる灼熱の不安
  第十七章 オッティゾール人
  第十八章 一周忌
  第十九章 身の毛もよだつ惡鬼の形相
  第二十章 極みなる畏怖
 トリビュラ・ボノメ博士の不可思議なる幻覺(結びの物語)
 逸話 及び 警句集
  惡ふざけのボノメ
  家長ボノメ
  裁判所にて、十字軍にて、戰爭にて
  議政壇上にて、パトモス島にて
  詩人、文士
  醫者、生體解剖者
  改悛者、悔い改めぬ男
  永遠なるボノメ
  ボノメと想ひ出の花
   照合
 譯者註

書誌・文獻



リラダン全集I 2


◆本書より◆


「ヴェラ」より:

「「戀」は「死」よりも強し、とソロモンは言つた。然り、その不可思議な通力は限りを知らぬ。」

「ダトールは、實に、全然、彼の鍾愛(しようあい)の女の死を意識せざる境地に生きてゐた! 彼にはつねに、彼女が現に傍らにゐるとしか思へなかつた。それほど、うら若き妻の容姿は、彼のそれと混り合つてゐた。ある時は、庭苑のベンチの上で、うららかな日に、彼は彼女の好んだ詩を高らかに朗誦して聞かせるのであつた。又ある時は、小夜(さよ)ふけて、煖爐のほとり、圓卓の上には二箇の紅茶茶碗が置かれ、彼の眼にはさしむかひの肱掛椅子に腰をおろしてゐるとも見ゆる、微笑を含んだ「幻」と言葉を交すのであつた。
 幾日、幾夜、幾週は飛び去つた。(中略)そして今や奇怪な現象が起つてゐた。すなはち、軌(き)を同じくせる空想と現實とは、その限界を識別することが困難になつて來たのである。一つの存在が空中に泛(うか)んでゐた。一つの形態が、すでに定義を絶した空間に透(す)き見え、織り成されようと努力してゐたのだ。
 ダトールは、幻に憑(つ)かれて、二重の生活を送つた。瞬(まばた)きのひまに、閃光のごとくに一瞥される、優しい蒼白の面影。ふと、ピアノの上に叩かれる、はかない和絃。」
「そして、夜は、現(うつつ)と夢の間に、極めて幽(かす)かに聞える言葉。すべては彼に、彼女の存在を知らせるのであつた。畢竟(ひつきやう)、それは、未だ知られざる力にまで高められた、「死」の否定であつた!
 一度、ダトールは、彼女が自分の側(そば)近くにゐるのを實にはつきりと見もし感じもしたので、兩腕のなかに彼女を抱きかかへようとした。しかしこの動作は彼女の姿を掻き消してしまつた。
 ――子供だなあ! (と彼は微笑みながら呟いた。)
 そして睡氣(ねむけ)に誘はれた笑上戸の女にたしなめられた戀する男のやうに、彼は再び眠りに落ちて行つた。
 彼女の(引用者注: 「彼女の」に傍点)守護聖人の祭の日に、彼は、興に乘じて、花環の中に不死草(むぎわらぎく)を一本插込んで、ヴェラの枕邊(まくらべ)に投げやつた。
 ――ヴェラは自分では死んでると思つてゐるのだからな(と彼は言つた)。」



「ポートランド公爵」より:

「數年前の年の暮、近東の旅から歸國した靑年貴族、かつてその不夜城の饗宴と、誇るべき純貴族の血統と、拳鬪の妙技と、狐狩りと、その數々の城館(やかた)と、物語のやうな富と、冒險的な旅と、戀の噂によつて、全英國に名を馳せてゐたポートランド公爵リチャードが、――突如として姿を晦(くら)ました。
 ただ一度、或る晩のこと、人々は、彼の古色蒼然たる金箔押(きんぱくおし)の四輪馬車(カロス)が、窓掛を垂れ、三頭の馬の早驅けで、炬火(たいまつ)をかざした騎手に取卷かれながら、ハイド・パークを通り過ぎるのを見かけた。
 次に、――唐突にして奇怪なる隱遁、――公爵は祖先傳來の城館に世を避けたのである。ポートランドの岬、仄暗い庭苑と茂樹(もじゆ)鬱蒼たる芝生のさなか、古りし世に築かれた、銃眼(はざま)のあるこの莊重な城館に、彼は寂寞として世を忍ぶ身となつたのである。
 この近邊(ほとり)にあるものとては、彼方(かなた)、燈臺の赤光(しやくくわう)のみであり、悠々とたゆたひながら水平線はるかに煙の幾すぢかを交叉する重い汽船に、夜となく晝となく、霧を通して光を投げかけてゐる。」



「思ひ違ふな!」より:

「そこで私は、默々として、再び硝子戸を閉めて、わが家に歸つた。――他人のお手本などは眼中に置かず、――たとへいかなることが身にふりかからうとも、――斷じて實業には携はるまい(引用者注: 「斷じて」以下傍点)、と固く決心して。」


「見知らぬ女」より:

「ド・ラ・ヴィエルジュ伯爵は、その翌日、再びブランシュランドの寂寞たる古城をさして歸つてゆき、――爾來、杳(えう)としてその消息は絶えてしまつた。」


リラダン全集I 3


リラダン全集




























































































































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ひとでなしの猫

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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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