『日夏耿之介全集 第二卷 譯詩・翻譯』

「誠に、かれは近代そのものゝ姿である。」
「ワイルドは断じて大詩人ではない。しかしかれは多くの問題を帯びて現出した近代の卓越した詩人の一人であつた。」

(日夏耿之介 『ワイルド全詩』「解題」 より)


『日夏耿之介全集 
第二卷 譯詩・翻譯』

監修: 矢野峰人/山内義雄/吉田健一

河出書房新社
1977年6月27日初版発行
1991年11月30日2版発行
644p 目次1p 
B5判 丸背布装上製本 貼函
装本: 杉浦康平・辻修平
装画: 長谷川潔

月報 7 (8p):
一つの見方 (飯島耕一)/『鴎外文學』以後 (大岡信)/官能的な言葉 (金井美惠子)/『唐山感情集』の刺戟 (清岡卓行)/日夏先生の思い出 (原卓也)/詩碑・句碑その他 (井村君江)



本書「解題」より:

「本卷には日夏耿之介の全譯詩作品及び評論を除く全散文翻譯作品、特に必要と考へた「大鴉」の初出と決定譯、譯詩集前記・後記を收録し、譯詩作品一覽及び譯詩集收録作品一覽を付した。
 譯詩については主な七つの譯詩集を刊行年代順に各々その集の構成を重んじそのまま全篇收録した。拾遺篇としてその他の譯詩集において初めて收録されたもの、雜誌等に發表されて譯詩集に未收録のもの、原稿のまま殘されてゐた未發表のもの等は各々刊行、發表年代順に收録した。
 散文翻譯作品については年代順は避け、日夏耿之介の生前の意志を推慮して收録順序を定め、原稿のまま殘されてゐた未發表の一篇を拾遺篇とした。」



本文二段組。
正字・正かな。


日夏耿之介全集


目次:

英國神秘詩鈔
 小引
 アマージン (無名氏)
 生きながらに死す (ロバアト・サウスウェル)
 父 (ジョシュア・シルヱ゛スタ)
 作者等最後に獨逸に赴く時の基督頌 (ジョン・ドン)
 永遠 (ロバアト・ヘリック)
 對話 (ジョオジ・ハアバアト)
 復活祭の歌 (〃)
 うた (リチャアド・クラショウ)
 探索 (ヘンリ・ボオン)
 驚異 (トマス・トレハアン)
 無辜の徴 (ヰリアム・ブレイク)
 虎 (〃)
 疾める薔薇 (〃)
 稚き時を憶ひ出でて永生を識る頌 (ヰリヤム・ウァヅウァス)
 墻の罅隙の花 (アルフレッド・テニスン)
 サウル 第十七章 (ロバアト・ブラウニング)
 サウル 第十八章 (〃)
 幻想する人 (エミリ・ブロンテ)
 哀祈 (アン・ブロンテ)
 こゝろの美 (ゲブリエル・チャールズ・ダンテ・ロゼッティ)
 降來節 (クリスティナ・ジョージナ・ロゼッティ)
 臨終哀祈 (フレデリック・ヰリヤム・ヘンリ・マイヤズ)
 白き平野 (ヰリヤム・シャアプ)
 のぞみ (〃)
 パンテア (オスカア・ワイルド)
 天の獵狗 (フランシス・トムスン)
 龍動に於けるプラトーン (ライオネル・ジョンスン)
 ふたつの樹 (ヰリヤム・バトラア・イェエツ)
 魔法 (エイ・イイ)
 隱者 (〃)
 祈禱 (〃)
 解題――英國神秘詩謠の鳥瞰景
 解説

海表集
 譯詩海表集敍
 凡例
 〔古今詩〕
 希臘古甌賦 (ジョン・キイツ)
 靈性美 (ゲブリエル・ロゼッティ)
 肉性美 (〃)
 マグダラの瑪利亞さま (クリスティナ・ロゼッティ)
 アッシシュ (アアサァ・シモンズ)
 永貞童女生神母瑪利亞讃歌 (セルヰン・イメイヂ)
 うた (アアサァ・クロオススヱイト)
 夢御堂 (ライオネル・ジョンスン)
 夢幻時代 (〃)
 酒ほがひ (ヰリヤム・バトラァ・イエイツ)
 睿智は時と偕に來る (〃)
 戀のあはれ (〃)
 落葉のうた (〃)
 皓禽歌 (〃)
 アンダルシヤの月かげ (アアサァ・オウショネシ)
 昔のなじみ顏 (チャアルズ・ラム)
 わが星 (ロバァト・ブラウニング)
 海表望郷歌 (〃)
 至高汎神教 (アルフリッド・テニスン)
 愛 (サミュエル・テイラァ・コオリッヂ)
 皐月の朝のうた (ジョン・ミルトン)
 銘文 (ダンテ・アリギェリ)
 批評家 (リヒャルト・デェメル)
 顏の上 (マキシミリヤン・ダウテンダイ)
 疇昔の美姫の歌 (フランソワ・ヰ゛ヨン)
 レスボスの島乙女 (サッポオ)
 綠銀の月かげ (〃)
 銀笛 (〃)
 後園 (〃)
 枸杞の樹 (〃)
 美童 (〃)
 金髪 (〃)
 憂鉢羅の葉 (〃)
 愛の伊吹 (〃)
 人の世をゆく (〃)
 幸あるひと (〃)
 死と戀と (〃)
 〔散文詩〕
 水上白宵記 (ルヰ・ベルトラン)
 鐘樓輪舞 (〃)
 ドゥ・モンバゾン夫人 (〃)
 椰子樹 (ポオル・クロオデル)
 海のおもひ (〃)
 榕樹 (〃)
 鬱悒の水 (〃)
 三人童子の話 (マルセル・シュオブ)
 〔大鴉〕
 大鴉 (エドガァ・アラン・ポオ)
 〔唐代詩〕
 樹を種ゑてはいけない (李賀) 
 小夜の貴公子のうた (〃)
 むかしむかし (〃)
 招隱 (〃)
 秋の夜にひとり坐して (王維)
 山居 (〃)
 なが雨 (〃)
 寒食の日 (〃)
 秋のとのゐ (〃)
 嵩山にかへりて (〃)
 人にこたへて (〃)
 終南山別業 (〃)
 渭川風物詩 (〃)
 秋の夜 (〃)
 わかれ (〃)
 人をおくる (〃)

ポオ詩集 (エドガア・アラン・ポオ)
 小引
 凡例
 陪蓮に餽るうた
 えふ――エスえす、おう――でぃいにおくる
 鈴鐸歌
 ユウラリイの歌
 イズラフェル
 アナベル・リイ
 エフなにかしに似す
 幽鬼宮
 頌
 く・れ・が・しに似す
 睡美人
 幽谷不安
 捷利の屍蛆
 黄金郷
 うきゆひのうた
 海中都府
 沈默小曲
 リノア
 湖
 夢幻境
 夢の夢
 アニイがため
 ヘレンにあたふ
 ツァンテ島の曲
 死靈
 えむ・える・えすの君にまゐらす
 羅馬渾圓扮戲場
 なにかしに寄す
 夢
 大鴉
 ユウラリウム
 ポオ作詩發表年月表
 しりへかき

マンフレッド (ジョオジ・ゴオドン・バイロン)

ワイルド全詩 (オスカア・ワイルド)
 ワイルド全詩敍
 ラヱ゛ンナ
 詩集
    (嗟乎)
   〔自由女神〕
    自由に付へる小曲
    女帝王福哉
    ミルトンに
    ルヰ・ナポレオン
    小品
    轉變多趣
    自由の聖餓
    理論體
   エロオスの花園
   〔奇しき玫瑰花〕
    魂鎮めの祈り
    伊太利亞に近づく歌
    歌聖ミニアト
    聖寵滿せ給ふ瑪利亞よ御身に御禮を成し奉る
    伊太利亞
    小曲
    訪はざりし羅馬
    聖久遠城
    小曲
    復活祭
    復活祭前の歌
    新生
    わが聖母像
    新らしきヘレン
   イティスの歌
   〔莬蕟〕
    朝の印象
    モウダリン徜徉
    不滅
    戀慕夜曲
    エンデュミオォン
    心の美女
    うた
   ハルミデエス
   〔黄金の花〕
    印象
     一 黑法師
     二 月の遁走
    キイツの墓
    テオクリツス
    黄金の室のなか
    マルグリイトの唄
    王女の愁ひ
    睿智愛
    聖デッカ
    幻想
    航海の印象
    シェリイの墓
    アルノ河のほとり
   〔劇場の印象〕
    フランクのファビヤン
    フェエルド
    ライシウム戲場にて作る
     一 ポオシャ
     二 ヘンリエッタ・マリヤ女王
    カムマ
   パンテア
   〔第四樂章〕
    印象
    エロォナにて
    辯疏
    われ多く愛せし故に
    緘默愛
    きみの聲
    わが聲
    人生倦怠
   人性の歌
   愛の華
  集外詩篇
    春より冬へ
    悲しみをうたへ! 悲しみをうたへ! されど善に榮えよ!
    眞知識
    忘れ草の葉
    單調時代
    印象
     一 園
     二 海
    露臺のもと
    娼家
    トゥヰールリ宮苑
    キイツが戀文競賣に附せらる
    新しい悔恨
    美飾の幻想
     一 パネル
     二 風船
    小唄
    花交響樂
    森林の中
    わが妻に
    『柘榴の家』の冊子にそへて
  未刊の詩
    エル・エルに
  譯詩
    雲の乙女らの合唱
    薤露
    エスキロスがアガメムノンよりの斷章
    藝術家の夢
  スフィンクス
  レディング牢獄の歌
  散文詩
    藝術家
    善を行ふ者
    使徒
    主
    審判の廷
    智慧の教師
 譯者註
 解題

唐山感情集
 敍
 二十四女花品 (清 馮雲鵬)
  蘭 水際立つた女です
  水僊 すぐれた女です
  蓮 しとやかな女です
  梅 をんな仙人ぢや
  桃 はすはをんなさ
  杏 やしよ女だ
  梨 いろじろ女だ
  牡丹 金滿の貴族の女である
  菊 ものしづかな女です
  芍藥 ゆさんの女だ
  桂 學ある女です
  薔薇 たをやかな女です
  夜合 あそび女さ
  茉莉 ちつちやい女の子です
  蝋梅 みさをある女です
  海棠 醉うた女だ
  山茶 なまめく女だ
  玫瑰 なさけ知る女です
  李 たにがはの女だ
  秋葵 風雅な女ぢや
  玉蘭 きよらかな女です
  芙蓉 わらふ女だ
  楊花 まひひめだ
  朱蓼 むらむすめだ
 わが庭こそわびしけれ (宋 李清照)
 尋め來れど (〃)
 かへり船 (〃)
 春のあけぼの (〃)
 醉花陰 (〃)
 武陵春 (〃)
 つひのわかれ (晩唐五代 張泌)
 劉十九に (唐 白居易)
 金縷衣 (唐 杜秋娘)
 酒ほがひ (唐 李白)
 盆荷 (宋 僧居簡)
 むかしの月 (清 金農)
 銅駝かなしむ (唐 李賀)
 川の雪 (唐 柳宗元)
 その月かげ (清 陳見鑨)
 ちよんのまに (清 汪森)
 いくひらひら (清 堵霞)
 さつてもうつくし (宋 蔡伸)
 花もちる (清 李佩金)
 からころと (清 曹溶)
 たたかひに (宋 張孝祥)
 たそや (清 呉藻)
 をこなれや (清 錦初)
 つやめき (明 陳子龍)
 ねてゐると (宋 周邦彦)
 君とわかれて (清 朱彝尊)
 わがうた (清 馮雲鵬)
 あきの月 (清 呉藻)
 すずしさよ (清 繆珠蓀)
 尋ねるは (清 朱彝尊)
 身はさむく (清 呉藻)
 春逝くと (宋 歐陽烱)
 逝く春は (南唐 李煜)
 わかれて春も (〃)
 夏けしき (晩唐五代 張泌)
 秋 (清 秦雲)
 ねやのはる (清 潘雲赤)
 ねやうた (五代 顧夐)
 はつなつ (清 呉棠禎)
 旅の夕 (明 姚廣孝)
 スケッチ (清 周禹吉)
 はるのこころ (宋 黄庭堅)
 うたひめ (宋 張元幹)
 おもへる (明 陳沅)
 うたげのむしろにて美人に (明 孟稱舜)
 大内うた (元 王蒙)
 辛未大とし晩 (明 葉小鸞)
 さむい晩 (清 呉綺)
 ねやのおもひ (民國 趙近賢)
 あきのおもひ (清 納蘭性德)
 春のくれ (宋 無名氏)
 江南はすばらしい (清 王士禎)
 ねやのうらみ (宋 向鎬)
 ねやの夜 (清 張淵懿)
 つがひのつばめ (明 高啓)
 わかもの (五代 馮延巳)
 村げしき (宋 蔣捷)
 なしの花 (宋 巖蘂)
 月の夜 (五代 馮延巳)
 ねやのあき (南唐 李煜)
 江のみんなみ (明 高啓)
 席上にて (清 汪世泰)
 邊土の草 (唐 戴叔倫)
 秋の夜 (清 梁清標)
 ねやのおもひ (南唐 李煜)
 春をおくる (清 顧春)
 ねやのはる (清 陳見鑨)
 人をおくる (清 錢芳標)
 ねやの秋 (宋 秦觀)
 雨きく夕 (清 黄鴻)
 春げしき (宋 秦觀)
 旅けしき (五代 李珣)
 草 (明 葛一龍)
 ねやのおもひ (清 朱彝尊)
 秋の夜の (五代 顧夐)
 春をおくる (清 項級)
 みたまま (明 王世貞)
 ねやのおもひ (明 商景蘭)
 はるのうらみ (唐 温庭筠)
 ねやの春 (宋 張輯)
 句あつめ (清 葛秀英)
 南郷 (五代 歐陽烱)
 大内うた (唐 王建)
 畫に題して (明 劉基)
 畫に題して(異作) (明 劉基)
 月待ち (明 呉鼎芳)
 屋形船 (五代 歐陽烱)
 大内うた (唐 王建)
 春けしき (宋 曹組)
 風情 (元 姚雲文)
 ねやのおもひ (清 秦清芬)
 江南よけれ (唐 白居易)
 ねやのうらみ (唐 温庭筠)
 夜の思ひ (唐 李白)
 琴を聽く (〃)
 花ちる里 (唐 李商隱)
 春さめ (〃)
 谷間 (唐 韋應物)
 竹と肉と (宋 蘇軾)
 草 (唐 白居易)
 題知らず二首 (唐 李商隱)
 月下獨酌のうた (唐 李白)
 茉莉の歌 (宋 尹煥)
 暗香 (宋 姜夔)
 疏影 (〃)
 鳳凰臺に簫聲を憶ひいで (宋 李清照)
 桃 (宋 韓元吉)
 春の夜 (五代 韋莊)
 春のうらみ (五代 顧夐)
 人の東遊を送る (唐 温庭筠)
 子をしかつて (晉 陶潛)
 むかしむかし (唐 李賀)
 くろがみ (唐 温庭筠)
 水龍吟 (宋 蘇軾)

零葉集
 客至る (唐 杜甫)
 旅の夜のおもひ (〃)
 宿直の歌 (〃)
 歳の暮れ南山にかへる (唐 孟浩然)
 山房の宴 (〃)
 友人の別莊にて (〃)
 馮著に逢つて (唐 韋應物)
 全椒山中道士に寄す (〃)
 陸羽を尋ねて遇はず (唐 皎然)
 楊君に (唐 錢起)
 旅宿 (唐 杜牧)
 春のおもひ (五代 韋莊)
 ねやのあき (明 楊愼)
 ねやの春 (清 王頊齡)
 
譯詩拾遺篇
 〔譯詩集拾遺〕
  街上零雨 (ポオル・ヱ゛ルレエヌ)
  叡智 (〃)
  萬法照應 (シャルル・ボオドレエル)
  美神 (〃)
  煤はらひ (ウヰリアム・ブレイク)
  花憂鉢羅 (ツルゲーネフ)
  ふたりの天使 (〃)
  麗はしく鮮かなりし花憂鉢羅 (〃)
  モナ・リイザ (ウォルタア・ペイタア)
  こころの聲 (トマス・ホレイ・チヴァス)
  心まづ快樂を覓む (エミリ・ディキンスン)
  生 八十九 (〃)
  生 二十一 (〃)
  時間と永劫と 七十四 (〃)
  黑衣騎者 (スティイヴン・クレエン)
  家藏本唄 (オウスティン・ドブスン)
 〔未收録〕
  麗人ヘレナの歌 (ダンテ・ロゼッテイ)
  形と影とたましひ (晉 陶靖節)
  七月 (唐 李賀)
  夢に李白を見る (唐 杜甫)
  北靑蘿 (唐 李商隱)
 〔未發表〕
  樂園のうちなる君に (エドガア・アラン・ポオ)
  骸骨の手 (〃)
  魔法使 (〃)
  陵敲臺 (唐 李白)
  謝公の宅 (〃)
  夏日間坐 (宋 徐璣)

サロメ 一幕 (オスカァ・ワイルド)
 院曲撒羅米上演の際に註すべき國譯者の注意
 解説
 『サロメ』解題

アラビアンナイト 魔法の馬
 序
 魔法の馬

翻譯拾遺篇
 〔單行本拾遺〕――「サバト恠異帖」より
  椿説 嘛喣陀羅、聖尼瑪利亞傳
  羅馬人事績(GESTA ROMANORUM)
   天露の事
   御主の化身の事
   姦婬の事
   善業を嫉みの事
   愛憐は不足の事
   御苦難によつて、われらを地獄から救はせられた御主の事
   世の光と榮耀との事
   靈の手負ひの事
 〔未發表〕
  アッシャア屋形崩るるの記 (エドガア・アラン・ポオ)

「大鴉」初出及び決定譯
 「大鴉」初出
 「大鴉」決定譯

譯詩集前記・後記
 東西古今集解説
 「名詩名譯」――後書
 「イギリス抒情詩集」――後記
 「アメリカ抒情詩集」――阿米利加の詩に就て
 「東西詩抄」――はしがき

譯詩作品一覽
譯詩集收録作品一覽
解題 (井村君江)
詳細目次




◆本書より◆


「銘文」(ダンテ・アリギェリ):

「斯門(ここ)踰(す)ぎて 趠(ゆ)くところ惆悵(なげき)の城市(まち)ぞ、
斯門(ここ)踰(す)ぎて 趠(ゆ)くところ永遠(とは)の懊歎(なやみ)ぞ
斯門(ここ)踰(す)ぎて 趠(ゆ)くところ泯滅(ほろび)の甿庶(たみ)ぞ、
夫れ 義(ぎ)は至崇(いとたか)き造化翁をも撼(うご)かして
全能の上帝(かみ) 至高(いとたか)き睿智 さてはまた
原初の愛など斯(こ)の玄門(げんもん)にしつらへしか。
永劫(とは)なるものを除きては斯門(ここ)のみまへに被造物(つくられしもの)とてあるなし。
かくありて、斯門(ここ)ぞ久遠(くをん)に存立(ながら)へてあるなる。
斯門(ここ)に入る衆庶(もの) 一切の宿望(のぞみ)を捨離(すて)よ。
――地獄篇第三歌」



「疇昔(そのかみ)の美姫(やしょめ)の歌(うた)」(フランソワ・ヰ゛ヨン):
 
「羅馬(ろま)の麗人(あてびと)フロオラの姫(ひめ)は
いづこにおんわたり候らむ。
そのいと似かよへるタイイスと
アルキピアアダなど阿嬌(あけう)いづちゆきけむ。
水沼(みぬま)幽澗(せゝらぎ)に身がくりて
木魅(こだま)するエコオの姫(ひめ)は
麗容(れいよう)うつし世のものならず
   さはれ故歳(ふるとし)の雪(ゆき)やいづくぞ。
 
閨秀エロイイズ尼いづくにある
サン・ドニにてピエル・エスバイヤアルの得度(とくど)なせしは
その宮(きゅう)せられしが故とかや、
げにげに恋草(こひぐさ)こそはうらみつらみの種(たね)ぞかし。
ビュリダンを嚢中にとり籠(こ)め
セエヌ川に投じされと
宣(の)り給ひけむ女王(にゅわう)の君はいづれぞや。
   さはれ故歳(ふるとし)の雪(ゆき)やいづくぞ。
 
海妖(ジレエヌ)の歌口(うたぐち)をなせしてふ
白百合(しらゆり)の女王(にょわう)ブランシュの君(きみ)
玉筍(ぎょくじゅん)ベルタ、ビヤトリイス、アリスの姫(ひめ)、
メエヌを領ぜしアレムブルギスの公主(こうしゅ)
はた、ロレエヌ方(がた)貞婉(ていゑん)の乙女(をとめ)ジャンヌは
英吉利びとこれをルウアンに焚殺(ふんさつ)せりき。
聖貞童女(せいていどうにょ)よ ここらなべての女人(にょにん)だち今いづくにかある。
   さはれ故歳(ふるとし)の雪(ゆき)やいづくぞ。
 
 反歌
ふるとしの雪やいづくとあざかへし
   このとしこの日趾(あと)とふなゆめ。」



「ワイルド全詩」「解題」より:

「オスカア・ワイルドは初めに詩人であつた。そして最終に詩人であつた。その一生は詩を行動に翻譯せんとして自ら顛倒した夢想者(ヰ゛ジョナリー)の傳記である。彼に對する批判はこゝからのみ成し得よう。
 彼は美的服裝をして「バルガーハード」を攻撃し、夢の値を知る事に鈍な英國紳士に公憤の種を蒔き、その作品で公憤に火を點じ、入獄事件で、公憤に油をそそいだ。當初の華美な社會的成功は痙攣的、衝動的のものであつた。後年彼に對する批難もそれであつた。其連續として今日尚實の値以下に蔑視されてゐる。バイロンがそれであつた。バイロンを正しい位置に据ゑたのは、予の知る限りでは最近メレジコフスキーで、かれが初めて確かな公正な言を吐いたと思ふ。これは浪漫派の詩人の通性で英國なればこそ社會的に人目を牽いたのである。ヱルレーヌが酒徒となつて浪々しても「罪の家々」を漁つても(彼は社會的に抗勢にこそ出なかつたが)フランス人には笑つて見てゐる程の雅量があつたらしい。其上、ワイルドと類似してさらに激しい殺人未遂で入獄しても英國程罵詈は加へなかつたらしい。ヱルレーヌが大詩人であつたのみの故ではない。」
「ワイルドはアモーラルであるのか。いや、かれほどモーラル・トンのある人はない。」
「しかし、人はかれが眞摯を疑ふ。之れは問題である。普通の常識に照して見て誰れもさう思ふ。(中略)かれは英國で氣狂ひ沙汰の服裝で押歩いた。かれは「大言壯語」を好む。かれは小さい嘘言も吐いたらう。威張つても見たらう。氣どつても見たらう。日常道德の惡事も隨分としたであらう。彼は又大模倣家だ。「小娘のセンチメンタルな夢」を思索した。小供じみた男だ。反省が少ない男であつた。
 しかし、之れらは必ずしも眞摯でない證左にはならぬ。しかも多くの人は此等を基礎として「何となき不眞面目なきざな」ワイルドを造るのである。而も眞摯ならざるが如く思はせた最大原因は彼が人格の人では必ずしもなかつた點に存する。かれは自分の行爲を眞面目にした、かれは夢を眞面目に誇つた。これが世間に飜譯されると不眞面目になり、虚言になる。この僞りが彼を有名にし彼を顛倒した。彼が夢を談るといふその僞はりに於てかれは他人よりも誠は自己を最も多く僞はり寂しい心を包んで華やかに暮らした。若し彼が眞摯でないならばこの意味でかれは宿命的に不眞摯な氣の毒(ミゼラブル)な男であつた。そしてかの「樣々な姿勢(ポーズ)」をとつて人生の大街道を漫歩した。狹量な日本人が彼を見たらば定めし氣障な男に見えるだらう。しかし若しこゝに眞面目な博大の愛心ある人物がかれを見たならば涙を以て愛憐するだらう。かれはロマンチック派の缺點を凡て握つてこの派と共に倒れたる、詩を業爲に飜譯せんとして敗れた夢想者である。
 故に彼の詩は、誇張がある、すきがある、血が笑と交り、涙が飽滿と抱擁する。しかしかれは正義の「覺悟」を見せびらかせて正義な人間と假稱する怯懦な者(日本の青年の如く)よりはモーラルな偉大な而して眞摯な詩人である。自己の主義感情に徹底して宿命的に殉じえた人である。」
「誠に、かれは近代そのものゝ姿である。各人はかれを通じて、己が假面せる醜惡な心を「くだかれた」るものとせよ。かれの詩が止めどもなく放出する Causerie Intime の裡に各人自らの叫びを撰びとれ。(中略)夢の如き唯美主義、(中略)が、人格の偉大性を將來し來るときは嚴然たる實在性を帶び、鐵の如き倫理的定言の命令を發言し宣言するであらう。」
「ワイルドは斷じて大詩人ではない。しかしかれは多くの問題を帶びて現出した近代の卓越した詩人の一人であつた。」















































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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