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『江戸川乱歩全集 第7巻 黄金仮面』

「彼女はただ「人の血って、どうしてあんなに美しいのかしら」と考えながら、うっとりと即死少女の青白い死体を眺めているばかりだった。」
(江戸川乱歩 「江川蘭子」 より)


『江戸川乱歩全集 
第7巻 
黄金仮面』

光文社文庫 え 6-3

光文社
2003年9月20日 初版第1刷発行
665p+1p 
口絵(カラー/モノクロ)2p
文庫判 並装 カバー
定価933円+税
カバーデザイン: 間村俊一
カバーオブジェ・コラージュ: 勝本みつる
オブジェ撮影: 松浦文生



第2回配本。
昭和4年から7年にかけて発表された中篇1篇、長篇2篇、連作小説の第1回(乱歩執筆分)、計4篇が収録されています。
「何者」に現場見取図1点。


江戸川乱歩全集 第7巻 01


江戸川乱歩全集 第7巻 02


目次:

何者
 作者の言葉
 一、奇妙な盗賊
 二、消えた足跡
 三、金ピカの赤井さん
 四、病床の素人探偵
 五、逮捕された黄金狂
 六、「算術の問題です」
 七、砂丘の蔭
 八、THOU ART THE MAN
 自作解説

黄金仮面
 作者――江戸川乱歩氏曰く
 金色の恐怖
 大真珠
 恐ろしき喜劇
 黄金の守宮
 大空の縊死体
 怪しき声
 美子姫
 小美術館
 浴場の怪人
 A・Lの記号
 意外! 意外!
 鎧武者
 奇妙な呼吸器
 第二の殺人
 恐ろしき水罠
 名探偵の腹痛
 黄金仮面の恋
 怪賊現わる
 恋の魔力
 悪魔の妖術
 金色の戦
 金色の錯覚
 月光の怪異
 「モロッコの蛮族」
 名射撃手
 死体紛失事件
 大夜会
 「赤き死の仮面」
 金色の死
 アルセーヌ・ルパン
 ルパン対明智小五郎
 人体溶解術
 開けセザーム
 驚天動地
 アトリエの怪
 アトリエの銃声
 密室
 仏陀の聖堂
 白き巨人
 三ツのトランク
 闇の中の巨人
 白毫のガラス窓
 大爆発
 落下傘
 自作解説

江川蘭子
 赤き泉
 軽業師
 眠り薬
 自作解説

白髪鬼
 (作者申す)
 異様な前置き
 極楽世界
 いまわしき前兆
 生地獄
 暗黒世界
 大宝庫
 餓鬼道
 肉食獣
 白髪鬼
 恐ろしき笑顔
 二重の殺人
 美しき獣物
 朱凌谿
 奇妙な遺産相続
 五つのダイヤモンド
 奇妙な主治医
 地中の秘密
 二匹の鼠
 巨人の目
 不思議なる恋
 瓶詰めの嬰児
 黄金の秘仏
 幸福の絶頂
 奇怪なる恋愛
 十三人
 白髪の花婿
 陥穽
 秘仏の正体
 死刑室
 奇妙な約束
 卒倒
 穴蔵へ
 三つの棺桶
 恐ろしき子守唄
 自作解説

解題 (山前譲)
註釈 (平山雄一)
解説 (山前譲)
私と乱歩 (青柳いづみこ)




◆本書より◆


「黄金仮面」より:

「この世には、五十年に一度、或(あるい)は百年に一度、天変地異とか、大戦争とか、大流行病などと同じに、非常な奇怪事が、どんな悪夢よりも、どんな小説家の空想よりも、もっと途方もない事柄が、ヒョイと起ることがあるものだ。
 人間社会という一匹の巨大な生物(いきもの)が、何かしらえたいの知れぬ急性の奇病にとりつかれ、一寸(ちょっと)の間、気が変になるのかも知れない。それ程常識はずれな、変てこな事柄が、突拍子もなく起ることがある。
 で、あのひどく荒唐無稽(こうとうむけい)な「黄金仮面」の風説も、やっぱりその、五十年百年に一度の、社会的狂気の類(たぐい)であったかも知れないのだ。」

「燐光(りんこう)のスポットライトが、闇の中に、怪物の顔の部分を丸く浮き上らせた。舞台にはたった一点、金色のお能面の様な顔丈けが、燐光に燃えている。
 と、どこからともなく、シューシューという、変な音が聞え始めた。同時に、仮面の黒く割れた口が少しずつ形を変えて、遂に大きな三日月型の、笑いの表情になった。見物達が思わずギョッとして、耳をすますと、シューシューという音は、怪物の笑い声であることが分った。アア、何といういやらしい笑い声だったろう。いつまでもいつまでも笑っている。そして、見ると、笑いながら彼は血を吐いているのだ。細い細い糸の様な一筋の血が、ツーッと顎を伝って、その末は、顎の先から、ポタリ、ポタリと雫になって落ちているのだ。」

「夜とはいえ、降りそそぐ真昼の様な月光だ。どんな隅々でも、どんな遠方でも、人一人見逃す筈はない。生垣も検べて見た。その生垣のほかに、一町四方、樹木らしい樹木はない。あの一瞬間に、広い原っぱを突切って、向うの闇に隠れるなんて、人間業では出来ないことだ。
 黄金仮面の怪物は、魔法使の本領を発揮して、地面を突破り、彼の住家の地獄へと、姿を消してしまったのであろうか。
 明智は、敵の余りの離れ業に、何とも云えぬ不安を感じないではいられなかった。この様な魔法使のことだから、今の間に、どうかして地下室の不二子さんを盗み出してしまったのではあるまいか。そして、二人は手に手を取って、地獄へと姿を消したのではないかしら。夢の様に青白い月光が、ふと奇怪千万な幻想を起させた。」



「黄金仮面」自作解説より:

「黄金仮面の思いつきは、マルセル・シュオッブの短篇小説「黄金仮面の王」から来ている。私はあの奇怪なる幻想小説を限りなく愛するものである。」


「江川蘭子」より:

「卒業間際の十四歳の時、二度変なことがあった。一度は先生と四五人の同級生とで国技館へ菊見に行った帰りがけ、着物を着たまま両国橋(りょうごくばし)の上から隅田川(すみだがわ)へ飛込んだのと、もう一度は、ある百貨店の屋上から飛降りようとして、居合せた刑事に帯を摑まれて果さなかったのとである。
 無論、彼女は自殺を考えた訳ではなかった。赤ちゃんの時分石段を転がり落ちて笑ったのや、ダイヴィングがひどく好きなのと同じ、妙なやむにやまれぬ衝動からであった。」



「白髪鬼」より:

「思い出されるのは、昔ナイヤガラの大瀑布(だいばくふ)を、小さな鉄製の樽に入って流れ下った男の話だ。莫大な賭金を得る為の冒険であった。彼は首尾よく滝を下って、賭金をせしめたが、瀑布の下流で、救いの舟に拾い上げられた樽の中から、ヘトヘトになって這い出して来た男を見ると、人々はアッと驚きの叫声を立てないではいられなかった。ついさっき滝の上流で樽へ入る時までは、房々(ふさふさ)とした赤毛の若者であったのが、滝を落ちる一瞬間に、すっかり、白髪になってしまっていたからだ。
 世の常ならぬ恐怖が、瞬く間に人の髪を白くする一例として、わしはその話を読んだことがある。」

「「お前さんのお神(かみ)さんがどうかしたのかね」
 「家内ですか。家内は私がこの手で殺してしまったのです」」

「志村を傭入れて一週間もすると、わしは彼を大阪へやって、奇妙な品物を買求めさせた。当時日本に幾つという程珍らしかった実物幻燈機械――皆さん御存知じゃろう、生きて動いている蜘蛛(くも)なら蜘蛛が、そのままの色彩で、畳一畳敷程の大きさに写る、あの不気味な幻燈機械だ。もう一つは、大きなガラス壜の中にアルコール漬になっている、嬰児の死体――どこの病院にもある、解剖学の標本だ。」

「彼は両手で髪の毛を摑みながら、悪夢から醒めようともがいた。だが、夢ではないものが醒める道理はない。」



「私と乱歩」(青柳いづみこ)より:

「井伏鱒二を中心とした「阿佐ヶ谷文士」の仲間うちにいた祖父(引用者注: 青柳瑞穂)は、さながら、自然主義者に囲まれた反自然主義者、といったふうだった。ルソー『孤独な散歩者の夢想』を訳したときはみんなが手紙をくれたが、『マルドロールの歌』は沈黙をもって迎えられたらしい。わずかにこの翻訳を喜んでくれたのが、死の前の太宰治。祖父が書いた初めての小説「夜の抜穽」は、ポーの「リジイア」を自由に翻案したような怪奇譚だったが、純文学の雑誌「群像」に持ち込まれたものの、採用されなかった。」



◆感想◆


「何者」と『黄金仮面』はどうでもいいです。
「江川蘭子」は発想(主人公の人物設定)はすばらしいですが物語はつまらないです。
『白髪鬼』は黒岩涙香の翻案小説(およびその原作)のリライトです。復讐方法の非道さには目に余るものがあってよいですが(コンクリート造りの部屋に閉じ込めて屋根がだんだん下がってきて押し潰されちゃうとか、そのぺちゃんこになった死体をもう一人の復讐相手に見せて怖がらせるとか)、しかしそれもどうでもいいです。
たとえばテニソンの「イノック・アーデン」なんかと較べてみると、社交性のあるイタリア人は復讐するけれど個人主義のイギリス人はその場から立ち去る、という国民性(?)の違いは興味深いです。


















































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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