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『江戸川乱歩全集 第8巻 目羅博士の不思議な犯罪』

「若し月光の妖術の助けがなかったら、目羅博士の、この幻怪なトリックは、全く無力であったかも知れません。」
(江戸川乱歩 「目羅博士の不思議な犯罪」 より)


『江戸川乱歩
全集 
第8巻 
目羅博士の
不思議な犯罪』

光文社文庫 え 6-12

光文社
2004年6月20日 初版第1刷発行
777p+1p 
口絵(カラー/モノクロ)2p
文庫判 並装 カバー
定価1,048円+税
カバーデザイン: 間村俊一
カバーオブジェ・コラージュ: 勝本みつる
オブジェ撮影: 松浦文生



第11回配本。
昭和6年から9年にかけて発表された長篇1篇、中篇3篇、短篇2篇、連作小説の乱歩執筆分1篇、中断した長篇の冒頭部分1篇、計8篇が収録されています。


江戸川乱歩全集 第8巻 01


江戸川乱歩全集 第8巻 02


目次:

目羅博士の不思議な犯罪
 自作解説

地獄風景
 全集の編輯について(抄)
 「地獄風景」もうひとつの結末
 自作解説

恐怖王
 作者の言葉
 自作解説


 自作解説

火繩銃
 作者の言葉
 自作解説

殺人迷路
 ここまでのあらすじ

悪霊
 「悪霊」についてお詫び
 自作解説

妖虫
 自作解説

解題 (新保博久)
註釈 (平山雄一)
解説 (新保博久)
私と乱歩 (上野正彦)



江戸川乱歩全集 第8巻 03



◆本書より◆


「目羅博士の不思議な犯罪」より:

「広い園内はガランとして、人っ子一人いなかった。茂った樹々の下陰には、もう夜の闇が、陰気な隈(くま)を作っていた。私は何となく身内(みうち)がゾクゾクして来た。私の前に立(たっ)ている青白い青年が、普通の人間でなくて、魔法使(まほうつかい)かなんかの様に思われて来た。
 「真似というものの恐ろしさがお分りですか。人間だって同じですよ。人間だって、真似をしないではいられぬ、悲しい恐ろしい宿命を持って生れているのですよ。タルドという社会学者は、人間生活を『模倣』の二字でかたづけようとした程ではありませんか」
 今はもう一々覚えていないけれど、青年はそれから、「模倣」の恐怖について色々と説を吐いた。彼は又、鏡というものに、異常な恐れを抱(いだ)いていた。
 「鏡をじっと見つめていると、怖(こわ)くなりやしませんか。僕はあんな怖いものはないと思いますよ。なぜ怖いか。鏡の向側(むこうがわ)に、もう一人の自分がいて、猿の様に人真似をするからです」
 そんなことを云ったのも、覚えている。
 動物園の閉門の時間が来て、係りの人に追いたてられて、私達はそこを出たが、出てからも別れてしまわず、もう暮れきった上野の森を、話(はな)しながら、肩を並べて歩いた。
 「僕知っているんです。あなた江戸川(えどがわ)さんでしょう。探偵小説の」」

「青年の言葉は、ともすれば急激な飛躍をした。ふと、こいつ気違いではないかと、思われる位であった。
 「今日は十四日でしたかしら。殆(ほとん)ど満月ですね。降り注ぐ様な月光というのは、これでしょうね。月の光て、なんて変なものでしょう。月光が妖術を使うという言葉を、どっかで読みましたが、本当ですね。同じ景色が、昼間とはまるで違って見えるではありませんか。あなたの顔だって、そうですよ。さい前(ぜん)、猿の檻の前に立っていらしったあなたとは、すっかり別の人に見えますよ」
 そう云って、ジロジロ顔を眺められると、私も変な気持になって、相手の顔の、隈になった両眼が、黒ずんだ唇(くちびる)が、何かしら妙な怖いものに見え出したものだ。」

「「若し月光の妖術の助けがなかったら、目羅博士の、この幻怪なトリックは、全く無力であったかも知れません。」」

「「目羅博士の殺人の動機ですか。それは探偵小説家のあなたには、申し上げるまでもないことです。何の動機がなくても、人は殺人の為に殺人を犯すものだということを、知り抜いていらっしゃるあなたにはね」」



「地獄風景」より:

「この世には、時々、何とも解釈のつかぬ、夢の様な、突拍子(とっぴょうし)もない事柄が、ヒョイと起ることがあるものだ。地球の患(わずら)う熱病が、そこへ真赤な腫物(しゅもつ)となって吹き出すのかも知れない。」


「恐怖王」より:

「「どこかに大きな間違いがあるのだ。僕等の頭が揃いも揃って、少し変になっているのかも知れない。」」

「京子が覗いて見ると、虫眼鏡の下に、丸太ん棒の様な巨大な指が二本、その間にはさまれて、大瓜(おおうり)程の米粒があった。そして、その表面に、
 恐怖王恐怖王恐怖王恐怖王………
 とビッシリ黒い字が並んでいた。」

「「あなたはどんな関係であいつを御存じなのです」
 「僕の親父(おやじ)が、香具師(やし)の手から買取ったのです。そして、十何年というもの、僕の家(うち)で飼っていたのです」
 「飼っていたんですって?」
 蘭堂はびっくりして叫んだ。
 「エエ、飼っていたんだよ。あいつはね。どうも純粋の人間ではない様に思われるのです」」

「「ホホウ、あなたは、あの殺人鬼が、我々と同じ様な善良な社交生活を営んでいるとおっしゃるのですか」」



「鬼」より:

「番小屋の仁兵衛爺さんは、二十何年同じ勤めを続けていて、色々恐ろしい鉄道事故を見たり聞いたりしていた。機関車の大車輪に轢死人(れきしにん)の血みどろの肉片がねばりついて、洗っても洗っても放れなかった話、ひき殺されてバラバラになった五体が、手は手、足は足で、苦しそうにヒョイヒョイ躍(おど)り狂っていた話、長いトンネルの中で、轢死人の怨霊(おんりょう)に出逢った話、その外(ほか)数え切れない程の、物凄い鉄道綺譚(きだん)を貯えていた。」


「悪霊」より:

「君は僕の「色眼鏡(いろめがね)の魔法」というものを多分記憶しているだろう。僕が手製で拵(こしら)えたマラカイト緑とメチール菫(すみれ)の二枚の色ガラスを重ねた魔法眼鏡の不気味な効果を。あの二重眼鏡で世界を窺(のぞ)くと、山も森も林も草も、凡ての緑色のものが、血の様に真赤に見えるね。(中略)あれだよ。僕がこの一月ばかりの間に見たり聞いたりしたことは、まったくあの魔法眼鏡の世界なのだよ。限界は濃霧の様にドス黒くて奥底が見えないのだ。しかしその暗い世界をじっと見つめていると、眼が慣れるにつれて、滲(にじ)み出す様に真赤な物の姿が、真赤な森林や、血の様な叢(くさむら)が、目を圧して迫って来るのだ。」


「妖虫」より:

「お嬢さん、ホラ、ここに面白いものがいる。よくごらんなさい」
 懐中電燈が、ヒョイと右側の竹藪の中にさし向けられた。
 アア、やっぱり悪夢にうなされているんだ。
 だが、夢にもせよ、まだうら若い少女は、それを一目見て、ハッと立ちすくまないではいられなかった。
 そこは竹藪が一間程の間途切(とぎ)れて、その向う側に、枕木の見える汽車の線路が長々と横わっているのが眺められた。三河島と云えば、大宮(おおみや)方面への鉄道の沿線に当るのだから、突然レールに出くわしても、別に不思議はないのだが、珠湖には、なぜかその鉄道線路さえ、現実のものではなくて、悪夢の中の光景の様に感じられた。
 無論、彼女を恐れ戦(おのの)かせたのは、鉄道線路そのものではなく、その線路の上に飛び散っている数個の白い物体であった。
 電燈の丸い光が移動するにつれて、人間の手が、人間の足が、人間の腿(もも)が、その切口をドス黒い血潮に染めて、次々と彼女の脅えた眼に。
 それから人間の胴体丈けが、大きな風呂敷包(ふろしきづつみ)のようにグッタリと横わって、その下腹部からは、何というむごたらしさ、小腸が、数百匹の蛇と、もつれ出していた。」
「最後に、丸い光の中に入って来たのは、髪振り乱した娘の首、青ざめた唇の隅から、紅絲(べにいと)のような血を吐いて、一本の枕木の上に、チョコンと、獄門(ごくもん)の形でのっかって、半白の目でじっとこちらを見つめている。」

「「お嬢さん、轢死人というものはね、汽車が通り過ぎてしまったあとで、離ればなれになった胴体や手足にね、ちょっとの間生気が残っているものと見えて、この線路の上を、その胴体や手足が、まるで操(あやつり)人形みたいに、ピョコピョコと踊り狂うって云いますぜ。」」

「一人の工夫が、下水の故障を調べる為に、そこの道路の真中に開いているマン・ホールの鉄の蓋を取りのけて、四ん這いになって、暗い地下道を覗いていたかと思うと、何(な)ぜか真青になって、ヨロヨロと立上り、近くにいた同僚の工夫をさし招いた。
 「オイ、ちょっと見てくんな。俺の目がどうかしているのかも知れない。変なものがいるんだ、こん中に」
 「なにがよ」
 「なにがって、マア覗いて見な。とてもシャンだからよ」
 「シャンだって? お前(めえ)夢でも見ているんじゃないか。下水だぜ、ここは」
 あとから来た工夫は、こいつ気でも違ったのかと、変な顔をして、そのマン・ホールを覗いて見た。
 小さい穴から射し入る空の光が、底を流れる黒い水を、薄ぼんやりと照らしている。その水の上に、(中略)一つの顔が、美しい女の顔が、流れもせずに浮んでいた。
 四ん這いになってマン・ホールを覗き込んでいる男の顔と、黒い水に浮ぶ夢の様な女の顔とが、上下(うえした)でじっと目を見合せていた。
 白昼の銀座近くの人通りだ。覗き込む工夫の眼の隅には、忙しそうに歩いて行く人影がチラチラと映っている。地上の世界は、何の変りもなく、昨日も今日も同じ様に運転しているのだ。その慌しい現実世界から、ヒョイと頭(こうべ)をめぐらして、この暗い地底の流れを覗いて見ると、そこには、地上とは全く縁のない、青白く美しい別世界が開けていた。」

「彼女の繊細な神経は、恐怖の余り、変調を来たさないではいられなかった。品子はその夜から、えたいの知れぬ悪夢にせめさいなまれた。
 見る限り灰色の大空に、何かしら途方もなく巨大な生きものが、朦朧(もうろう)と覆いかぶさって、不気味なスロー・モーションで蠢(うごめ)いていた。
 そいつの身体は、大空の果(はて)から果まで伸びて、天日を遮(さえぎ)りながら、黒雲の如く横わり、八本の曲りくねった巨大な脚が、モゾモゾと蠢きながら、豆粒の様に小さい品子の上に、摑みかかって来るかと思われた。」

「「さて、そういう小っぽけな不具者と云えば、忽ち聯想されるのは、例の豆蔵(まめぞう)じゃ。所謂一寸法師じゃ。よいかな。そこで、一寸法師というものは、普通どんな所におる。無論家庭にもおるに違いない。併し、奴等は家庭から、いつとはなく、見世物小屋に集まって来るのじゃ。因果物師に高い金で買われるのじゃ。」」




◆感想◆


表題作にもなっている「目羅博士」は、たいへんすばらしいです。
「地獄風景」はパノラマ島でみなごろしです。
「恐怖王」は乱歩版「恋する悪魔」(カゾット)であります。
「鬼」「火縄銃」「殺人迷路」「悪霊」はどうでもいいです。
「妖虫」は恐怖の蝎団、というか復讐の蝎団であります。最も極悪非道なのは探偵です。
















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ねたきり読書日記。

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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