『江戸川乱歩全集 第12巻 悪魔の紋章』

「君、あれは何だろう。あの藪の中にいる黒いものは……」
(江戸川乱歩 「悪魔の紋章」 より)


『江戸川乱歩全集 
第12巻 
悪魔の紋章』

光文社文庫 え 6-6

光文社
2003年12月20日初版第1刷発行
771p+1p 口絵(カラー/モノクロ)2p
文庫判 並装 カバー
定価1,000円+税
カバーデザイン: 間村俊一
カバーオブジェ・コラージュ: 勝本みつる
オブジェ撮影: 松浦文生



第5回配本。
昭和12年から13年にかけて発表された少年探偵もの2篇と長篇1篇が収録されています。


江戸川乱歩全集12


目次:

少年探偵団
妖怪博士
悪魔の紋章
 自作解説

解題 (新保博久)
註釈 (平山雄一)
解説 (新保博久)
私と乱歩 (田中芳樹)




◆本書より◆


「少年探偵団」より:

「そいつは全身墨(すみ)を塗ったような、恐しく真黒な奴(やつ)だということでした。
 「黒い魔物」の噂(うわさ)は、もう東京中にひろがっていましたけれど、不思議にも、はっきりそいつの正体を見きわめた人は誰もありませんでした。
 そいつは暗闇(くらやみ)の中へしか姿を現しませんので、何かしら闇の中に、闇と同じ色のものが、もやもやと蠢(うごめ)いていることは分かっても、それがどんな男であるか、あるいは女であるか、大人なのか子供なのかさえ、はっきりとは分からないのだということです。」

「又、こんなおかしい話もありました。
 ある月の美しい晩、上野(うえの)公園の広っぱに佇(たたず)んで、月を眺(なが)めていた一人の大学生が、ふと気がつくと、足元の地面に、自分の影が黒々と映(うつ)っているのですが、妙なことに、その影が少しも動かないのです。いくら首を振ったり、手を動かしたりしても、影の方はじっとしていて身動(みうごき)もしないのです。
 大学生はだんだん気味が悪くなって来ました。影だけが死んでしまって動かないなんて、考えてみれば恐しいことです。もしや自分は気でも違ったのではあるまいかと、もうじっとしていられなくなって、大学生はいきなり歩き始めたといいます。
 すると、ああ、どうしたというのでしょう。影はやっぱり動かないのです。大学生がそこから三米(メートル)五米と離れて行っても、影だけは少しも動かず、元の地面に横たわっているのです。
 大学生はあまりの不気味さに、立ちすくんでしまいました。そして、いくら見まいとしても、気味が悪ければ悪いほど、かえってその影をじっと見つめないではいられませんでした。
 ところが、そうして見つめているうちに、もっと恐しいことが起ったのです。その影の顔の真中が、突然パックリと割れたように白くなって、つまり影が口を開いて白い顔を見せたのですが、そして、例のケラケラという笑声(わらいごえ)が聞えて来たのです。」

「そういう風(ふう)にして、黒い魔物の噂は日一日と高くなって行きました。
 闇の中から飛び出して来て、通行人の頸(くび)を絞(し)めようとしたとか、夜子供が一人で歩いていると、まるで黒い風呂敷(ふろしき)のように子供を包んで、地面をコロコロ転がって行ってしまうとか、種々様々の噂が伝えられ、怪談は怪談を生んで、若い娘さんや小さい子供などは、もう脅(おび)え上ってしまって、決して夜は外出しないほどになって来ました。」



「悪魔の紋章」より:

「「それにしても、何という執念だったでしょう。この兄妹の心理は常識では全く判断が出来ません。恐らく幼時の類例のない印象が、二人の魂に固着したのです。残虐な殺人現場で、両親の流した血の海を這い廻った、あの記憶が彼等を悪魔にしたのです。
 仇敵の子孫を根絶やしにする為に、生涯を捧げるなどという心理は、(中略)我々には全く理解し難い所です。
 この二人は気違いでした。しかし、復讐という固着観念の遂行の為には、天才のように聡明な気違いでした」
 いつもにこやかな名探偵の顔から、微笑の影が全く消え失せていた。そして、その青白い額に、これまで誰も見たことのないような、悲痛な皺が刻まれていたのである。」









































































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本