『江戸川乱歩全集 第13巻 地獄の道化師』

「皆さん、僕は悪魔の子なんだ。復讐の一念に凝り固った悪魔の子なんだ。(中略)僕はその父の呪の血を受けて、復讐の機械としてこの世に生れて来た人外の生きものです。」
(江戸川乱歩 「暗黒星」 より)


『江戸川乱歩全集 
第13巻 
地獄の道化師』

光文社文庫 え 6-25

光文社
2005年8月20日初版第1刷発行
753p+1p 口絵(カラー/モノクロ)2p
文庫判 並装 カバー
定価1,048円+税
カバーデザイン: 間村俊一
カバーオブジェ・コラージュ: 勝本みつる
オブジェ撮影: 松浦文生



第24回配本。
昭和14年から15年にかけて発表された長篇3篇と少年探偵もの1篇が収録されています。


江戸川乱歩全集13


目次:

暗黒星
 作者の言葉
 自作解説
地獄の道化師
 作者の言葉
 自作解説
幽鬼の塔
 作者の言葉
 自作解説
大金塊

解題 (山前譲)
註釈 (平山雄一)
解説 (山前譲)
私と乱歩 (藤森照信)



◆本書より◆


「暗黒星」より:

「東京旧市内の、大震災の大火にあわなかった地域には、その後発展した新しい大東京の場末(ばすえ)などよりも、遙(はる)かに淋(さび)しい場所が幾(いく)つもある。東京の真中(まんなか)に、荒れ果てた原っぱ、倒れた塀(へい)、明治時代の赤煉瓦(あかれんが)の建築が、廃墟(はいきょ)のように取り残されているのだ。
 麻布区K町もそういう大都会の廃墟の一つであった。自然に朽(く)ち果(は)てて取毀(とりこわ)された数十軒の借家のあとが、一面の草原になっていて、その草原に取囲まれるようにして、青苔(あおごけ)の生(は)えた煉瓦塀がつづき、その中の広い地所に、時代の為(ため)に黒くくすんだ奇妙な赤煉瓦の西洋館が建っている。」

「「ホラ、僕の大写しだよ」
 器械を扱っていた黒い影が、又優しい声で云ったかと思うと、スクリーンの画面がパッと明るくなって、一間四方一杯の大きな人の顔が現われた。まるで女のように美しい二十歳(はたち)余りの青年の顔である。長い艶々(つやつや)した髪をオールバックにして、派手(はで)な縞(しま)のダブル・ブレストを着ている。真白なワイシャツの襟(えり)、大柄な模様のネクタイ。」
「スクリーンの美しい顔がニッコリした。睫毛(まつげ)の長い一重瞼(ひとえまぶた)が夢見るように細くなって、片頬に愛らしい靨(えくぼ)が出来て、花辨(かべん)のような唇(くちびる)から、ニッと白い歯が覗いた。だが、その笑いがまだ完成しない前に、どうしたことか、カタカタと鳴っていた歯車が、何かに閊(つか)えたように、音を止めて、同時にスクリーンの巨大な美貌が、笑いかけたままの表情で、生命を失ったかの如(ごと)く静止してしまった。」
「レンズの焦点の烈(はげ)しい熱が、忽(たちま)ちフィルムを焼きはじめ、先(ま)ず美青年の右の目にポッツリと黒い点が発生したかと思うと、見る見る、それが拡がって、目全体を空虚な穴にしてしまった。美しい右の目は内障眼(そこひ)のように視力を失ってしまった。
 一瞬にして眼球が溶けくずれ、眼窩(がんか)の漿液(しょうえき)が流れ出すように、その焼穴は目の下から頬にかけて、不気味に拡がって行き、愛らしい靨をも蔽(おお)いつくしてしまった。美青年の半面はいまわしい病(やまい)の為にくずれるように、目も眉も口も一つに流れ歪(ゆが)んで行った。」

「それは、血みどろになって手術を受ける恐ろしさ、我が顔が醜悪なる怪物になって汚(けが)されて行く不気味さ、イヤ、そういう現実的なものでなくて、思わずうめき声を立てるような悪夢の世界でのみ経験し得る戦慄(せんりつ)であった。」

「「でも、夢だけなれば、僕はそれ程に思わないのですが、もっと変なことがあるんです。僕はこの家(うち)に目に見えない魂みたいなものが忍び込んでいるんじゃないかと思うんです。そいつがいろんなことをするんです。今に僕達をみなごろしにするんじゃないかと思うと、ゾーッとしないではいられません。」」

「明智はこの美青年に不思議な興味を感じていた。その顔が異様に美しい為ばかりではない。今の世に珍らしいその性格に惹(ひ)きつけられたのだ。彼は肉体から遊離した心霊の存在を語った。そして呪詛(じゅそ)とか前兆とかいうものを、心の底から信じているように見えた。」

「「不思議な青年だ。胸の中に冷い美しい焰が燃えている感じだ。その焰が瞳に写って、あんなに美しく輝いているのだ」」



「大金塊」より:

「小学校六年生の宮瀬不二夫(みやせふじお)君は、たった一人、広いお家(うち)に留守番(るすばん)をしていました。
 宮瀬君のお家は、東京の西北のはずれに当る荻窪(おぎくぼ)の、さびしい丘の上に建っていました。」
「このお家を建てた叔父さんというのは、ひどく風変(ふうがわ)りな人で、一生お嫁(よめ)さんも貰(もら)わないで過(すご)し、その上人づきあいもあまりしないで、自分で建てた大きな家にとじこもって、骨董(こっとう)いじりばかりして暮していたのですが、このお家も、その叔父さんが建てただけあって、いかにも風変りな、古めかしい建て方でした。」




















































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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