種村季弘/高柳篤 『新版 遊びの百科全書② だまし絵』 (河出文庫)

「この世をかりそめのものと見るには、まずこの世の一切が遊戯(たわむれ)にすぎないという認識がなければならない。そうであるとすれば、一見深刻と見える現世のはかなさの認識、そこから希求される彼岸の絶対者への飢渇という信仰の根拠が、存在のはかなさに遊ぶ遊戯の精神と裏腹に成立しても一向に構わないはずである。」
(種村季弘 「視覚のトリック」 より)


種村季弘/高柳篤 
『新版 遊びの百科全書② 
だまし絵』
 
河出文庫 767B

河出書房新社
1987年8月4日 初版発行
1991年3月8日 6版発行
221p 口絵i 図版(カラー)i 
文庫判 並装 カバー
定価600円(本体583円)
デザイン: 粟津潔
本文・カバーデザイン: イエローバッグ
編集制作: カマル社/「遊びの百科全書」編集スタッフ



本書「はじめに」より:

「本シリーズは「遊びの百科全書」をコンパクト版として再編集した、新しいシリーズである。
 「遊びの百科全書」は、一九七九年から一九八〇年にかけて、日本ブリタニカから刊行された全十巻のシリーズだが、いまは絶版となっており、(中略)そこで(中略)あくまでも「遊びの百科全書」をベースにしながら、その後新たにファイルされた情報を加味して、(中略)新版「遊びの百科全書」を新たに編集した。
 本書[だまし絵]は「遊びの百科全書」第二巻[アイ・トリック](種村季弘編)の新版で、第一部「視覚のトリック」は、[アイ・トリック]巻頭に種村季弘氏が編者として執筆したエッセイであり、第二部「アイ・トリック事典」は、[アイ・トリック]巻末に編集した事典をもとに、あらたにこの新版のために書き下ろされたものである。」



本文中図版(モノクロ)多数。


種村季弘 だまし絵 01


カバー文:

「円筒型アナモルフォーズ
中央の円の上に、円筒型の鏡を置くと、奇妙な歪みを見せていた絵が、たちどころにその正体を現わすだまし絵である。」

「隠されたもの
アナモルフォーズは、あらかじめ決められた見方をしないと、何が描いてあるのかよくわからない。この特長を利用して、かなりきわどい絵も描かれた。」



カバー裏文:

「だまし絵は、人間の眼の能力とふかい関わりをもっている。透視図法などを駆使してリアルに描けば、人間の眼はそこから容易に現実の三次元の世界を読みとる。だましが巧みであればあるほど、人間の眼の潜在的能力をひき出すことができるのだ。」


カバーそで文:

「遊びから新しい技術が生まれる
三次元世界を二次元の平面に写しとるために生まれた透視図法。それはまさしく眼をあざむく“だまし”の技法であった。そこからさらに発展的に生み出されてきた技法の数々が、一層の“だまし”効果をもつものであったことはいうまでもあるまい。
歪んだ画像を描き出し、ある条件のもとではじめてそれが正しい画像として見られるアナモルフォーズは、透視図法の完全な裏返しである。
デューラー、ホルバイン、ニセロンらが遊んだアナモルフォーズは、人々にあざむかれることの楽しさを教えた。あざむかれることは、自分の眼の能力を確認することでもあったからだ。
本書に展開された“だまし絵”とその技術は、現代人にとっても十分に刺激的である。」



種村季弘 だまし絵 04


目次:

はじめに (カマル社「遊びの百科全書」編集スタッフ)

視覚のトリック (種村季弘)
 唯一ツノ世界ニテハ足ラズ
 逆転の構図
 空間を変える瞞し絵
 遠近法函という覗きからくり
 円筒アナモルフォーズの魔術

アイ・トリック事典 (高柳篤)
 選ばれた眼のみに見えるアナモルフォーズ
 見えることなき死が浮び上るアナモルフォーズの奇跡
 神の眼差しを伝えるアナモルフォーズ
 謎解きと諷刺のアナモルフォーズ
 アナモルフォーズを逆手にとったアナモルフォーズ
 偏見によってこそ正しく見えるアナモルフォーズ
 プリミティブなアナモルフォーズ作画法
 修道会で研究されたアナモルフォーズ作画法
 視点の位置とアナモルフォーズ
 壁面に描かれた大アナモルフォーズ
 壁面に使われたアナモルフォーズ作画装置
 アナモルフォーズは裏返しの遠近法
 「デューラーの窓」と呼ばれる遠近法作画装置
 アナモルフォーズで遠近画を描くアクロバティックな試み
 円筒型の鏡で復元するアナモルフォーズのバリエーション
 イリュージョン製造装置としてのだまし絵――トロンプ・ルイユ
 眼の「見ようとする」力が遠近法を成立させた
 遠近法が通用しなかった眼の話
 「浮き絵」「へこみ絵」と呼ばれた遠近法による浮世絵
 錯視することができる人間の眼
 「盆のような」月を見てしまう人間の眼
 意味ある形を見つけようとする人間の眼
 眼が意味を見つけられず混乱する「悪魔のフォーク」の図
 意味づけようとする眼をだます「ペンローズの三角形」
 エッシャーの「滝」実はペンローズの三角形
 見えないはずの輪郭を見てしまう眼の能力
 眼はばらばらの形から意味のある形を見つけ出す
 無意味な図形から意味を見つけるロールシャハ・テスト
 一つの絵なのに二つの絵「図地反転図形」
 古今東西、人間の眼を魅きつけた図地反転図形
 現代絵画に見る図地反転図形
 見せる力のバランスによって「図」と「地」は決まる
 「図」の中に二つの図を組みこんだ多義図の傑作「娘と老婆」
 眼の先入観を実証するフィッシャーの「男と少女」
 「だまし絵」や「隠し絵」は眼の能力への挑戦
 常識によって見え方が決まる
 アナモルフォーズも隠し絵も「意味ある図」を周到に隠す
 アナモルフォーズも隠し絵も同じ時代に栄えた兄弟
 科学と美術の結合が眼のメンタリティーをゆさぶる

主要参考文献
著者略歴



種村季弘 だまし絵 02



◆本書より◆


「視覚のトリック」(種村季弘)より:

「ホルバインの髑髏を一つの例とするアナモルフォーズはそもそもが遠近法の遊びである。ホルバインの場合には、たまたま髑髏の畸形化(アナモルフォーズ)によって、中世以来の「死ヲ忘レルコトナカレ」の現世の虚栄に酔う人へのいましめと、それゆえにこそはかない生にそれはそれとして戯れる人文主義者の現実肯定とが同時に表現されたわけだが、それほど深い意味をこめなくても、単純にアナモルフォーズの隠れん坊遊びを楽しんだ画家たちがこの時代(十六世紀)に入るとにわかに輩出してきた。十六世紀はフィレンツェ・ルネサンスにはじまる遠近法の研究がようやく本格的に普及しはじめた時代である。空間を一定の視点から自然らしく表現する遠近法が研究されれば、それにつれて遠近法を逆用するアナモルフォーズの表現技術も当然発達してくる。」

「それではアナモルフォーズとは何だろうか。ギリシャ語の ana は動詞と結びつくと「逆転」の意味になる。だから anamorphosis は「形を作る」(morpho)の逆転、裏返しであり、フォルムの変形、仕立直しの意味である。」
「まずある正常な形態を一定の方向へ誇張して歪ませる。それから歪みをもとに戻すための一定の視点を見つけると、歪みはもとに戻って正常の形態が浮び出てくる。この歪みを戻す一定の視点を見つけることがアナモルフォーズを楽しむ鍵になるのである。それが見つからなければ、問題の絵はいつまでも何が何だかわからない、もやもやした線と面の塊にしか見えないのである。」



種村季弘 だまし絵 03


















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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