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種村季弘 『一角獣物語』

「たしかにユングの言うように、一角獣は一義的ではないのだ。それは悪であるとともに善であり、神の慈愛にあまねく覆われた光り輝く神の国の選ばれた生棲者であるとともに、そこから追われて野をさまよう異形の旅人でもある。」
(種村季弘 『一角獣物語』 より)


種村季弘 
『一角獣物語』



大和書房
1985年3月5日 初版発行
176p
20×15.5cm 
丸背紙装上製本 カバー
定価1,600円
装幀: 菊地信義
 


本書「あとがき」より:

「単行本編集に際しては季刊「is」連載(18号=昭和57年9月~24号=昭和59年3月)の原形にかなり大幅に加筆し、巻末にリルケを中心に一角獣小アンソロジーを編んだ。」


本文中図版(モノクロ)48点。



種村季弘 一角獣物語 01



帯文:

「一角獣は
世紀末の
救済に
なり得るか

伝説の
幻獣をめぐる
構想雄大な
歴史物語
三年越しの
達成
なる」



目次:

一角獣を連れた貴婦人
 クリュニーのタピスリー
 ジョルジュ・サンドの夢想
 ル・ヴィスト家の嫁資
 美しき獅子の騎士
一角獣狩り
 機械仕掛けの幻獣
 太陽の獅子、月の一角獣
 マクシミリアンの策謀
 少女アンヌの歎き
一角獣の死
 旧約聖書の誤訳
 信仰統一の象徴
 受胎告知と一角獣狩り
 民衆救済と偶像否定のあわいに
一角獣の帰還
 ヒルデガルドの宇宙救済史観
 ダニエル書と伝ヨアキム予言書
 一角驢馬の角の酒盃
 キリスト受肉のアレゴリー
幻獣目撃譚
 水を清浄化する力
 ブライデンバッハの聖地巡礼
 奇獣の現実的用途
 一角のヨーロッパ出現
薬用一角獣盛衰記
 秘薬一角獣
 海獣ナルヴァルの歯
 新井白石と〈うにこおる〉
 江戸期の一角獣表象
芸能者としての一角獣
 龍王と一角仙人
 美女に馬乗られた老賢者
 芸能者的ストレンジャー
 「鳴神」の成功
ヘルメス象徴としての一角獣
 カインとモーセの額の角
 魔女の宴と黒い一角獣
 黄金糞虫と麒麟
 メルクリウス的救済史観
一角獣アンソロジー
 モルゲンシュテルン 「一角獣」
 リルケ 「一角獣」「受胎告知」「オルフォイスに捧ぐるソネットIV」『マルテの手記』
 アンドレーエ 『化学の結婚』
 ホッケ 『迷宮としての世界』

あとがき




種村季弘 一角獣物語 02



◆本書より◆


「一角獣の帰還」より:

「いずれにせよ一角獣は、異教的古代の無敵の奇蹟獣からキリスト教的中世における受肉のアレゴリーへと変容し、その処女性の純潔無垢に力点を置いた聖ヒルデガルドのマリア崇拝的ヴァージョンを経て騎士道時代の貴婦人崇拝の構図(『一角獣を連れた貴婦人』)へと転じてから、ルネッサンスの古代趣味を経過して、さらにいくつもの変容を重ねながら近代の概ね異教的テーマとしてのエロチックな一角獣像にまで辿りつく。
 言い換えるなら、東方から受容した『フィジオロゴス』の、処女による捕獲という特性を俟(ま)ってはじめて受肉のアレゴリーとして完成された一角獣は、アレゴリー像として完成された瞬間に二つの探究の道標へと分裂するのである。一つは懐疑的な博物学者アルベルトゥス・マグヌスが指し示す自然学(引用者注: 「自然学」に傍点)の道であり、この道の行き着く先には、たとえば十五世紀の司教座聖堂参事会員ベルンハルト・フォン・ブライデンバッハが企てたような「存在しない獣」を地上に発見せんとする大がかりな探検旅行が実現する。もう一つの道はマリア崇拝の神秘主義(引用者注: 「神秘主義」に傍点)に通じており、そこからは「存在しない獣」を鍵とするアレゴリックな錬金術上の探究が開ける。そして両者ともその歩みの徹底の上に一角獣がやってきた故郷たるアジア(ペルシア・インド・中国)へといつしか帰路を辿って、母なるアジアに分裂の救済を求めはじめるのがまことに意味深長である。」



「ヘルメス象徴としての一角獣」より:

「たしかにユングの言うように、一角獣は一義的ではないのだ。それは悪であるとともに善であり、神の慈愛にあまねく覆われた光り輝く神の国の選ばれた生棲者であるとともに、そこから追われて野をさまよう異形の旅人でもある。これが一方では悪魔カインの額に、また一方では神に選ばれたモーセの額にも生えるという、善悪両極の象徴としてキリスト教世界で使いこなされてきた一角の宿命であった。とはいえそれは、「角を出す」という畸型的特性さえもがそこでは「光を放つ」と同義であるような、光輝く神の国の恩寵の絶対性を根拠にして設定された善悪の分別であり、その意味ではとりわけおぞましげな「カインのしるし」は、悪魔や魔女の異形とともに、特殊キリスト教的倒錯の生み出した一変種にほかならないといえよう。それかあらぬかキリスト教的禁忌を知らない東洋では、(中略)一角は一角仙人のナンセンスに近い諧謔につながっていた。空海の『三教指帰』には審判者として亀毛先生や虚亡隠士や仮名乞児の論戦を司会する、額に角の生えた兎(引用者注: 「額に角の生えた兎」に傍点)の兎角公が登場してくるが、これ以後「兎角」の語は、実在し得ないものを指す空無そのものの汚れを知らない名と化している。いみじくも東方では、それは罪の鎖につながれた重苦しく呪わしい存在ではなく、無のように軽やかで兎のように足の速い、さわやかな諧謔をたたえた何者かとして表象されたのである。」

「キリスト教的寓喩から洗い出され解き放されて本来の博物誌的特性を回復した一角獣は、その瞬間からめざましい変容をとげる。『心理学と錬金術』のなかでユングが「教会の寓喩に見られる一角獣」以外の、錬金術、グノーシス主義、スカラバエウス、ヴェーダ、ペルシャ、中国における一角獣表象を語っているくだりには、いみじくもこの種の多形的に変化するメルクリウス的形象が嬉々として野に戯れている。ユングは言う。
 「一角獣というのは明確な輪郭を持つ実在の動物ではなく、さまざまに姿を変えて現れる空想上の生きものである。たとえば角を一本持つ馬、驢馬、魚、龍、スカラバエウスなどが一角獣に数えられる。それゆえ正確に言えば、ここで取扱われるのは一角性(Einhörnigkeit)のモチーフである。」
「メルクリウス象徴としての一角獣は、しばしば単性生殖的な孤児としても思い描かれた。黄金糞虫(スカラベ・サクレ)たるスカラバエウスの第三の種属は一角(モノケロス)と呼ばれるが、それはこの神聖昆虫が一本の長い頭角を生やしているばかりではなくて、それ自身のなかに雌雄両性を併せ持っておのれみずからのなかから生み出される自己産出的な生物として「神のひとり児」でもあるためである。(中略)ちなみに錬金術にあっても、多形的に生成しながらも、結末の賢者の石へと変容する作業の出発点となるメルクリウス象徴の第一質料は、別名を「孤児(オルファヌス)」と称されるのである。
 メルクリウス(=ヘルメス)象徴として明らかにされた一角獣は、キリスト教の一元論的に分離され固定された美徳の囲われた庭にもはや囚われていない。またカインのしるしを烙印され呪われて野をさすらいもしない。それは善であると同時に悪でもあり、白かと思えば黒なのである。」







こちらもご参照ください:

Alain Erlande-Brandenburg 『La Dame à la Licorne』
リュディガー・ロベルト・ベーア 『一角獣』 和泉雅人 訳
Richard Barber 『Bestiary』 (MS Bodley 764)













































































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