リュディガー・ロベルト・ベーア 『一角獣』 (和泉雅人 訳)

リュディガー・ロベルト・ベーア 
『一角獣』 
和泉雅人 訳


河出書房新社
1996年1月5日 初版印刷
1996年1月19日 初版発行
280p 索引vi 口絵(カラー)8p 
図版8p(うちカラー3p)
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価3,500円(本体3,398円)
装幀: 中島かほる



本書「訳者あとがき」より:

「本書は Rüdiger Robert Beer, Einhorn. Fabelwelt und Wirklichkeit. Verlag Georg D.W. Callwey München, 3, Aufl. 1977 の全訳である。」


本文中図版(モノクロ)多数。


ベーア 一角獣 01


帯文:

「毒消しの力を持つ一本の優美な角。
処女にしか捕まえられない凶暴な性質――ユニコーンとは何ものなのか?
一角獣(ユニコーン)の博物誌!
ヨーロッパ史上最も魅力的で多価値的な象徴である一角獣の歴史・イメージの全てを紹介した決定版、待望の翻訳。図版168点。」



帯裏:

「一角獣の辿った第一の道はヨーロッパ古典古代、つまりギリシャ人とローマ人である。第二の道は聖書であり、第三の道は初期キリスト教的色彩を帯びた自然学の書(『フィシオログス』)である。……本書はこれらすべての道について、つまりこの不思議な獣がヨーロッパ文化を駆け抜ける様子から、海の彼方で枝分かれしていくありさまに至るまで報告することになるだろう。
――一角獣は早くからイエス・キリストを表す記号であったが、同時に死と悪魔を表すものでもあった。
――一角獣の角は錬金術師たちの備品であったし、神秘主義はこの秘密に満ちた記号から逃れることはできなかった。
――処女による一角獣の捕獲は、まったくの牧歌的な話などでは決してない。一角獣の捕獲をキリストの受肉であると理解するなら、キリストの受難の道はここから出発しているからだ。」



ベーア 一角獣 02


目次:

凡例

序章 存在しない獣?
 一角獣の形姿と伝承経路
 多義的象徴としての一角獣
第一章 野性の驢馬とカルタゾーン
 インドの一角獣
 最初の報告者クテーシアス
 インド派遣大使メガステネス
 仏陀と一角獣
 中国の一角獣・麒麟
 「一角獣」の伝播者たち
 クラウディウス・アエリアヌス――古代ローマからヨーロッパ中世へ
 ギリシャ・ローマ時代の一角獣
第二章 七十人訳聖書と教父たち
 七十人訳聖書と誤訳「一角獣」
 予言者ダニエルの幻視
 教父たちと一角獣
 フルダの修道院
 楽園の一角獣図像
 一角獣絶滅の原因?
 インド航海者コスマス
第三章 博物学者
 『フィシオログス』
 ズボルドーネの校訂版
 『フィシオログス』とヨーロッパ中世
 処女による一角獣捕獲
 偽バシリウスの『フィシオログス』
第四章 東方の一角獣
 インドの苦行者
 日本の一角獣
 『バルラームの話』
 アラブの一角獣
 強大な一角獣・カルカダン
 水と一角獣
第五章 怪物――怪獣?
 異形の獣たち
 ホノリウスと怪物たち
 スヴィニー修道院の柱彫刻
 フロイデンシュタットの洗礼盤
 ホルツキルヒェン教会の一角獣レリーフ
 ホルプの礼拝堂
第六章 神秘主義への道
 ビンゲンの聖女ヒルデガルトと尼僧たち
 神秘主義と一角獣
 教父アルベルトゥス
 『フィシオログス』ルネサンス
 世俗的一角獣?
 メーゲンベルクの『自然の書』
 母子像
 聖女と聖人の表象
第七章 狩人ガブリエル
 ゲスの女子修道院長クニグンデ
 マリア神秘主義と神秘的一角獣狩り
 神秘的一角獣狩りの図像構成
 『マリアの無傷なる処女性の弁明』
 「神秘的一角獣狩り」モチーフの地理学
 トリエント公会議と一角獣図像の禁止
 一角獣の詩と歌謡
第八章 目撃者
 奇跡の水と一角獣
 ブライデンバハの『聖地への旅』
 一角獣目撃
 一角獣の化石
 絶滅した古代一角獣――エラスモテリウム
第九章 騎士と貴婦人たちの世界
 一角獣の騎士ララン
 紋章獣としての一角獣
 大英帝国の紋章獣
 諸都市の紋章獣
 一角獣を連れた貴婦人たち
 ピサネロのメダル彫刻
第十章 女の策略と野人
 一角獣捕獲のエロティシズム
 リシャール『愛の動物物語集』
 ミンネの小箱
 官能の獣
 野人と一角獣
 野人の乙女
 デューラー『一角獣上の誘拐』
第十一章 わがただひとつの望みに
 ブリュージュの大祝宴
 クリュニュー美術館の一角獣連作タピスリーと五感の寓意
 タピスリーの依頼主とその制作地
 聖ステファヌスのタピスリー
 ランコロンスカのテーゼ
 フランシス・サレのテーゼと文学者たち
第十二章 捕らわれの身にして自由?
 メトロポリタン美術館「ザ・クロイスターズ」
 「一角獣狩り」連作タピスリー
 寡婦の結婚式
 モノグラム
 一角獣芸術の最高峰
第十三章 高価な角
 医薬品としての角
 ヨーロッパ中世と角
 高価な角と詐欺師たち
 医薬品としての角とルター
 一角獣薬局
 代用角
 邪視と媚薬
 宗教と医学
第十四章 一角獣薬局の処方箋から
 聖ヒルデガルト・フォン・ビンゲン(一〇九八年~一一七九年)の処方箋
 コンラート・ゲスナー博士(一五一六年~一五六五年)、チューリヒ。「一角獣の角の真贋について」
第十五章 北の海の魚
 海獣イッカク
 一角獣論争
 フランス外科学の父アンブロワーズ・パレの戦い
 一角獣学者の一族
 角の鑑定書
第十六章 現実の一角獣
 失われし? 一角獣を求めて
 象徴としての一角獣
 言葉から図像へ
 シェイクスピアの一角獣
 星の一角獣
 デュルフェの十七世紀小説『アストレ』
 ドイツ・ロマン主義と一角獣
 装飾としての一角獣
 リルケ
 現代文学の一角獣表象
 一角獣、アメリカへ
補遺 二十世紀の一角獣詩
 オスカー・レルケ「銀アザミの森」
 ヴィルヘルム・レーマン「一角獣上の貴婦人」
 エッカルト・クレスマン「一角獣狩り」
 ゲルトルート・コルマル「一角獣」三作
 ヒルデ・ドミーン「一角獣」
 ヴォルフディートリヒ・シュヌレ「悲歌より」
 パウル・ツェラーン「シボレート〔合言葉〕」

一角獣研究文献案内
 (一) 一般文献案内
 (二) 各章別およびテーマ別文献注および文献案内
図版解説

訳者あとがき
索引



ベーア 一角獣 03



◆本書より◆


「序章 存在しない獣?」より:

「古代人は一角獣を相当冷静に、自然科学的な視線で捉えていた。一角獣がその幾重にも折り重なり、矛盾に満ちた、象徴的で神秘的な意義を獲得していったのは、本質的にはキリスト教を通じてであった。一角獣は早くからイエス・キリストを表す記号であったが、同時に死と悪魔を表すものでもあった。というのも、ここでもまたアジアからの影響力がその力を奮うことになったからだ。一角獣はあらゆるものに打ち勝つ主の力を意味し、同時に人間という罪ある衣に身を包む謙虚さをも意味していた。例えば、一角獣は紋章として騎士の力と勇気を示す徴であり得たし、しかしまた同時に修道院の特性である孤独さの象徴でもあり得たのである。一角獣が処女マリアの息子であるキリストを表すことから、一角獣は貞節の象徴となる。しかし馴致(じゅんち)しがたい力ゆえに、一角獣はまた制御のきかない欲望をも体現し、その結果ここでもまた、古代とは異なった仕方ではあるが、極めて古い時代からの催淫薬としての角の用法が出現してくるのである。一角獣はキリスト教徒とその教会の統一を意味することもあれば、一方でキリスト教徒の敵、異教徒とユダヤ人を意味することもある。中世では一つのモチーフを二重に表すことがある。つまり、深い厳粛な意味と粗野な茶番的な意味である。両義性、あるいはまた多義性というのは神話の領域では珍しいことではない。人間が本来もっている感情のなかでは、神的なものが不気味なものと隣り合わせているからだ。sacer という語はラテン語を話す者にとって、「聖なる」という意味の言葉であると同時に「極悪非道の」という意味ももっていた。獅子はキリストの支配力の象徴であるが、また悪魔も「咆哮する獅子のようにうろつきまわる」のである。」


「第六章 神秘主義への道」より:

「聖ベルナルドゥスと秘密めいたホノリウスの世紀、つまり十二世紀では、一角獣捕獲の物語がそれ以前も以後もなかったような魅力的な仕方で語られていた。それもある婦人によって語られていたのである。彼女の語る次のような話を読んだ読者は、ビンゲンの聖ヒルデガルトが神秘主義者であり、それどころか心理的に不安定な人物であったことなど信じられないかもしれない。彼女はむしろライン地方出身のお茶目な女性であるような印象を与える。
 動物の性質を研究していながら、まったく驚くべきことには、一角獣のことには思い及ばない学者がいた。しかしそれも、ある日この学者が男性や女性、少女たちを供に連れて散歩に出かけるまでのことである。少女たちが一行から離れ、花の間で遊んでいる。するとこの少女たちの姿が一角獣の目に止まる。そこで一角獣は跳躍したいのをこらえ、少女たちを見るためにとうとう後ろ脚で立つ。「というのも、もし一角獣が少女を遠くから目にすると、一角獣はこの存在が髭を生やしてもいないのに、人間のように見えることを不思議がるからである。しかしそれが二人あるいは三人の少女となると、一角獣はますます不思議に思い、したがってより早く捕まえることができる。なぜなら一角獣は身じろぎもせず彼女らをじっと見つめているからだ」このようにしてわれらの学者――アリストテレスのことを思い浮かべざるを得ないだろう――もまた驚愕している一角獣の後ろから近づいて、一角獣を捕まえてしまうのである。」



「第八章 目撃者」より:

「ユトレヒトのヨーハン・フォン・ヘッセは一三八九年パレスティナに滞在し、次のように報告している。「約束の地にあるヘーリオンの野の近く、メラと呼ばれる非常に苦い川が流れている。この川をモーゼはその杖で打ち、その川を真水となした。イスラエルの子らはその川から水を飲んだ。人の話では、今でもなお、悪しき獣が日没後この水に毒を混ぜると、人はもはやこの川から水が飲めないという。しかし翌早朝、太陽が昇るとすぐに、海から一角獣がやって来る。一角獣はその角を例の川に沈め、他の獣が日中その川から水を飲むことができるよう、そこから毒を追い払うのである。わたしが報告していることを、わたしはこの目で見た」」






















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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