井上究一郎 『ガリマールの家』

「私の目に、前夜オランピア劇場の舞台で『リフレクションズ』を弾いていたセロニアス・モンクの黒い指先が、海豚(いるか)をさそうように、行きつもどりつしていた。」
(井上究一郎 『ガリマールの家』 より)


井上究一郎 
『ガリマールの家
― ある物語風のクロニクル』


筑摩書房
1980年9月25日 初版第1刷発行
1980年11月30日 初版第2刷発行
162p 別丁図版18p
四六判 並装 函
定価1,600円
装丁: 栃折久美子



本書「追記」より:

「この作品の初稿は、『ガリマールの「家」』と題して、中央公論社発行の文芸雑誌《海》、昭和五十一年(一九七六年)五、六月号に連載された。」
「私は初稿に全面的に朱筆を加え、説明の不足を補い、引用をゆたかにし、忽卒の懈怠を粛正しようと心がけた。枚数は、したがってだいぶ増加して、本稿は(中略)私の手を離れた。」
「素材はすべて事実に基き、本筋はおよそこの通りに、一年足らずの、ということは一九五七年秋から五八年夏までの、パリ、ガリマールの家に滞在中の――実質的には半年余の――時間内に経過したのであって、これはそれらの事実をつないだ私的な記録にすぎない。」



図版(モノクロ)30点。


井上究一郎 ガリマールの家 01


帯文:

「フランスの代表的出版社ガリマール書店の創設者の訃をきっかけに1950年代後半の滞欧体験が甦る。ネルヴァル、プルースト探索の旅で出会ったフランス人の孤独、芸術家の内奥への想いが、今ここに一篇の作品に結実した!」


帯裏:

「…おそらく、内的な真実は、長い時のあいだに、徐々に形成されるものであって、事実の早急でひからびた羅列のなかに宿るものではないのであろう。/それにしても、私がとったこのような形式を、従来のジャンルからは、どういえばいいのだろう?(著者追記)」


帯は元は青紫だったのですが褪せて空色になってしまいました。函も元は灰色だったのが焼けて茶色になってしまいました。


内容:

ガリマールの家――ある物語風のクロニクル
 一~一四
追記
図版
あとがき



井上究一郎 ガリマールの家 02



◆本書より◆


「私は約一年のあいだガリマールの「家」に住んだ。」
「つまり館であり、社屋であり、会社であり、何組もの一族の住まいであり、結局それらを一つにしたものであった。そのように、全館、全階を一族の会社と一族の住まいとにあてた、個人所有の大きな建物を、オテル・パルティキュリエ hôtel particulier というのである。一般にパリでは、誰も街のどまんなかに個人的に独立家屋を構えて住んでなどいないのが普通である。どんな貴族でも大ブルジョワでも、パリの住まいはすべてアパルトマンであり、そこが自宅または借家であって、だから「私の家」などとはいわずに「私のところ」 chez moi というのである。
 私がなぜそんなところに迷いこんだかは、まったくの偶然で、なんの計画も、なんの予想も立ててはいなかった。ある日突然実現したのでめんくらったほどである。第一そんなところに、そんな「家」が、そんな姿で存在することさえ知らなかった。はじめてパリに着いて「日本会館」に投宿した私が、郊外に疲れた足をひきずって挨拶に行った先の一教授が、ガリマール家と親しくて、ガストンの甥のミッシェルに相談してくれたのだった。」


「私は(中略)、ロワイヤル橋のたもとのカフェ・テルミニュスで、それまでもち歩いた D…氏からの手紙をひらいた。

  フレデリック・ド・マドラゾを知ったのはずいぶん昔のことで、私が画家になろうとし、これはと思う師匠をさがしていたときの偶然の機会からでした。それは一九二三年か二四年のころだったと思います。
  それはこの上もなく魅力ある社交人でした、ボヘミアンであるとともに大貴族であり、かがやかしいサロンに出入りするのとおなじ気安さで悪所通いができるのでした。無類の記憶力にめぐまれていた彼は、一九一四年以前の年代のまたとない証人という点で、えがたいものを身につけていたのです。あらゆる方面の教養にすぐれ、作曲家であり、ピアニストであり、声楽家であり、(もちろんすぐれた肖像画家であった上にです)、まえの世紀の「オネットム」が今世紀にもちこされたといった人で、あのような人はもうこんにちでは完全に消えさってしまいました。
 あなたは、あるいはごぞんじかと思いますが、病におかされ、ほとんど資力というものがなく、彼はみずからの意志でその生命に終止符を打ったのです、六十歳でした。
  そのことを事前には誰にもあかしませんでした。ただわれわれ弟子の親しい者が思いだすのは、六十年も生きればもう十分だといつかいったのをきいたことがあっただけです、それも冗談まじりだったので誰も信じませんでした。
  最後の晩、彼は私のもとに立ちよりました。私はボッカドール通の彼のところまで送ってゆきました。彼はいつもとおなじように、ていねいにおやすみを言いました、そのとき、彼はもう地上の人ではなくなろうとしていたのです。それが彼の流儀だったのです。人に迷惑をかけない、ということでした。」



井上究一郎 ガリマールの家 03


「短くて片側しかないセバスチアン=ボッタン通…五番地のガリマール出版社…」


井上究一郎 ガリマールの家 04


「右側の土塀の奥にあるのが、小説『シルヴィ』の舞台になった由緒ある「モルトフォンテーヌの古い館」であった。」













































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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