ヘルベルト・フォン・アイネム 『風景画家フリードリヒ』 藤縄千艸 訳

「芸術のただ一つの真実の源泉はわれわれの心である」
(フリードリヒ)


ヘルベルト・フォン・アイネム 
『風景画家フリードリヒ』 
藤縄千艸 訳


高科書店
1991年10月30日 初版第1刷発行
205p xiii
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,800円+税84円



本書「訳者あとがき」より:

「本書は Herbert von Einem ; Caspar David Friedrich. 3. Auflage. Berlin 1950. の全訳である。」
「この翻訳は、(中略)フォン・アイネム先生から直接お勧めを受け、訳業は終えたものの、なかなか出版の機会が得られず、二十年近くが過ぎてしまった。」



アイネム 風景画家フリードリヒ 01


帯文:

「肉体の目を閉じよ。
ここに風景の悲劇を発見した男がいる…」



帯背:

「ドイツ・ ロマン派の最高峰」


帯裏:

「風景にひそむ
生と死

フリードリヒの芸術の中心には死の問題がある。死の経験に対して彼は永遠への宗教的確信を対照させる。この確信は彼に自然との対話を教えた。
しかしフリードリヒの絵では、廃墟は単なる無常の象徴より以上のもの、明確な過去の象徴である。古い信仰に対する反対、古い信仰を再び確立しようとするシュレーゲルやナザレ派の試みに対する拒否を、この絵以上に明確に示すものはあるまい。
――本文より

第1章 歴史的状況
第2章 生涯
第3章 作品
第4章 結語
図版解説
年譜

カラー図版8点
モノクロ図版107点」



カバーそで文:

「中世以来のキリスト教的世界が崩壊した後の荒野に忽然とあらわれた孤高の画家フリードリヒ。それはまた、近代は獲得したのではない喪失したのだという深い諦念から出発し、芸術の蘇生を夢見て試行錯誤をくり返したロマン主義者たちの時代でもあった。
北ヨーロッパの厳しい風土に育まれたフリードリヒは、ロマン主義運動の喧噪から一歩離れ、自然との孤独な対話のなかから、木々や岩や廃墟がひっそりと佇む、信仰告白ともいうべき独特の作品を生み出した。
ドイツの美術史研究の碩学フォン・アイネムは、深い学識と作品への確かなまなざしによってフリードリヒのもつ神秘をとき明かす。
本書は20世紀に始まったフリードリヒ再評価の代表作であり、また、ナチス勃興期の1938年という困難な時代に書かれたにもかかわらず、第2次世界大戦後も信頼性を失うことなく、戦後新たに起きたフリードリヒ再評価の出発点となった。」



目次:

日本語版への序 (1977年3月)

第一章 歴史的状況
第二章 生涯
第三章 作品
第四章 結語

図版解説
年譜
訳者解説
訳者あとがき

主要参考文献
収録図版一覧
人名・地名索引



アイネム 風景画家フリードリヒ 02



◆本書より◆


「日本語版への序」より:

「ロマン主義者、カスパール・ダーヴィト・フリードリヒにとっては、このような客観的な所与の世界は、前提ではあるが、もはや表現目的ではない。彼を風景詩に導いたものは、人間の内面における外的自然の反響である。彼がまず忠実に写生した自然と風景は、彼においては人間感情の比喩となる。感動、憂愁、憧憬が彼の芸術の本来的なテーマである。
 彼の絵のモチーフは全く異例のものである。眺望図的風景画や南欧的な理想的風景画の代わりに、フリードリヒは、比喩的な象徴や十字架やゴシック建築の廃墟や墓碑などを伴った北方的風景画を、およそ人間の住む所ではない原自然のような孤独な淋しい自然を、登場させた。彼の好みは原初的なもの、海や山、北方的な暗さに向けられている。彼は好んで個々のモチーフを、対象として認められる範囲を越えて、不滅化し、絶対化している。朝の絵は、彼にとっては、世界の誕生、生命の夜明けの比喩となり、冬景色の絵は、孤独と死の比喩となる。人間、木、建物、石は、それらの限定された対象物としての存在を越えて、無限な普遍的な意味へと成長する。しかも、あらゆる対象物は、この芸術家の体験を反映した一つの総体的気分に包まれているのである。
 このようなモチーフの世界に、彼の絵の形式は合致している。例えば、枠のない広がり、とりなしようのない対立、広く遠い遠景に対して極度に近く見られた近景、有限と無限の対立からその静かな力を引き出す装飾的な線、感覚的な魅惑を除外して素描の象徴的発言を強めている薄い鋭く塗られた色。特に特徴的なのは、いろいろな階調の灰色がかったヴァイオレットである。それは対象を非物体化して、掴み難いものにしている。しかし個々の色彩は、必ず色調の統一によって支えられているのである。
 この本は、フリードリヒのモチーフの世界と形式の世界を個々に解き明かし、それらをドイツ・ロマン主義の世界観との関係において解明しようとする試みである。」



「第一章 歴史的状況」より:

「フリードリヒの風景画の中では、ルンゲが予言的に語ったあの新しい芸術が具体化されている。そこでは風景というものが、ルンゲが風景画に賦与した意味、つまり人物芸術の代わりに宗教的表現の担い手になること、にまで達している。もちろんルンゲが共同体芸術として新しい風景画を切望したのだとするならば、この点ではフリードリヒはルンゲの道から離れていた。確かにフリードリヒにおいても共同体思想はまだある役割を演じてはいるが、しかし彼の表現形態には、共同体思想は何の影響も与えなかった。フリードリヒにおいては、連帯の絆たるべき象形文字の代わりに自然の形象が、無限なものとの孤独な対話の中で姿をあらわし、登場してくる。つまり、神話的なものの代わりに象徴的なものが登場するのである。フリードリヒは、ルンゲがなお固く保持していた共同体への志向を犠牲にすることによって、最初の、徹底的に主観的な芸術の創造者となった。」


「第三章 作品」より:

「すでに一八〇七年に、ある批評家が次のように書いている。「フリードリヒのファンタジーは、南方の明るい暖かい空によって、また草木の繁茂した豊かな楽しい地方によって形成されたものではない。詩人や芸術家の気分を悲しみにまで、否、メランコリックな憂鬱にまで容易に導いていく、北方的な崇高さや偉大さが彼に影響していたのであった。フリードリヒはファンタジーによって、例えば個々の岩、山、水面など、一般の芸術家がそれら全体で風景として表現するものを、特に好んで孤立させてあつかっている。また深く感動する感性によって、墓、十字架上のキリスト、聖像に特別な愛着をもって没頭し、それらを常に驚くべき方法で、すばらしい風景画の中に織り込んだ。」」

「フリードリヒの絵の中に使われている人物像は、たいてい一人ぽっちである。」
「しかし時折フリードリヒも数人の人物を描いている。その場合にはもちろん、複数の人がただ無意味に並んでいるのでは決してない。むしろそれらの人間は無限性の同じ体験で結ばれている。孤独の経験に、同じ運命による結合の経験が呼応している。フリードリヒは極めてこまやかな感情によって、計り知れないものの秘密を前にした自己発見を暗示している。」



「第四章 結語」より:

「ルンゲは共同体芸術としての未来の芸術を追求した。フリードリヒの芸術は自然との孤独な対話以外の何ものでもあり得ない。」
「フリードリヒの芸術の中心には死の問題がある。彼は言う。
  「問いがしばしば私に向けられる、
  なぜ君は絵画の対象に
  かくもしばしば死、無常、墓を選ぶのかと。
  いつか永遠に生きるために、
  人はしばしば死に身を委ねなければならないのだ。」
 フリードリヒは単にキリスト教的基盤を前提にしているだけでなく、常にそれと結びついている。彼の創作は、被造物同士の親愛感、個別化の悩み、内面的同族性の予感、万有との一体化、帰郷の切望などのキリスト教的経験に根ざしている。彼の芸術の象徴は後ろ向きの人物像であって、この人物像は無限なものに向かって憧れながら、しかし有限性に囚われつづけている。ロマン派の詩人の中ではノヴァーリスに比較される。
 ルンゲとフリードリヒの、かかる根本的経験の対照は、彼らの性格の対照に反映している。ルンゲは偉大な芸術家のあらゆる活動にたずさわり、ロマン主義の常として、あらゆる深淵に魅了されてはいたが、世間に対してあけっぴろげで、明るく、素朴であった。フリードリヒは仲間たちの描写では一致して人間嫌いのメランコリックな人間であった。しかしこの人間嫌いは自然との親密な交流の裏面にすぎない。これについても彼自身が打ち明けている。
  「君たちは私を人間嫌いだと言う、
  私が社会を避けているから。
  君たちはまちがっている。
  私は社会を愛しているのだ。
  人間を憎まないためにこそ、
  私は交際を思いとどまらねばならないのだ。」」

「「私は自然を完全に見つめ、感ずるために、一人でとどまり、自分が一人であることを知らねばならないのです。私は、私があるところのものであるために、私をとり囲むものに献身し、私の雲や岩と一つにならねばならないのです。」」



アイネム 風景画家フリードリヒ 03























































































































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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

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尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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