小海永二 訳 『アンリ・ミショー全集 Ⅳ』 (全四巻)

「さらば(アデュー)、人間たちよ」
(アンリ・ミショー 「深淵による認識」 より)


小海永二 訳 
『アンリ・ミショー全集 Ⅳ』


青土社 
昭和62年3月20日 印刷
昭和62年3月25日 発行
803p 
菊判 丸背布装(背バクラム)上製本 貼函 
定価7,800円
装幀: 高麗隆彦
限定八〇〇部



本書「解説」より:

「本巻には、アンリ・ミショーによるメスカリンの記録四冊を合わせて収め、それらを刊行の年代順に従って配列した。」


小海永二個人訳『アンリ・ミショー全集』の新版(旧版は全三巻)。
「全集」とはいうものの、本来なら本書に収められていてしかるべき『精神の大試煉』(小海氏の表記だと『精神の大いなる試練』)が、大人の事情で翻訳収録されなかったのはたいへん残念です。

本文中図版(モノクロ)61頁。


ミショー全集Ⅳ


目次:

みじめな奇蹟
 Ⅰ 序文
 Ⅱ メスカリンとともに
 Ⅲ メスカリンの諸特徴
 Ⅳ インド大麻
 Ⅴ 精神錯乱の実験
 反省的考察
 後記

荒れ騒ぐ無限
 第一部 メスカリンの効果
 第二部 八つの実験
  第一の実験 黒いヴィジョン
  第二の実験
  第三の実験
  第四の実験
  第五の実験
  第六の実験
  第七の実験
  第八の実験
 第三部 メスカリン領域と隣接領域
  L・S・D25
 幻覚剤におけるエロスの問題(一九六四年)

砕け散るものの中の平和
 デッサン
 デッサンの意味
 「砕け散るものの中の平和」について
 砕け散るものの中の平和

深淵による認識
 Ⅰ 麻薬はどのように効くか?
 Ⅱ サイロシビン(実験と自己批評)
  第一の実験
  第二の実験
 Ⅲ メスカリンと音楽
 Ⅳ インド大麻(カンナビス・インディカ)
  序章
  1 動いているベルト・コンベア
  2 言葉の背後に(いくつかの続き場面の分析の試み)
  3 ある時は大麻によって導かれ ある時は大麻を自分と一緒に連れて行き
  報告A 水入らずの集い
  報告B ヴォツェック
  報告C 巨人たち
  報告D 木霊、どの方向にも行なわれる交換
  報告E
  報告F 顔たちを解読する
  報告G ハシッシュの効力の下での読書
 Ⅴ 深淵状況
  精神病者が出会う様々の困難と諸問題
  1 不思議な未知の現象。その印象を作り出すもの。その延長。
  2 混沌。強烈さの悲劇。内部のヴィジョン。幻覚性のヴィジョン。
  3 内部の聴覚。様々の幻聴。声の問題。
  4 味覚の、嗅覚の、全感覚の幻覚。様々の感覚のバベルの塔。
  5 わかったという印象の増大。明白さの感覚。霊感のひらめきによる知識。
  6 彼が自分の思考のことで困惑するあれこれのこと。解散された急進主義者たち。消滅する思考たち。周期的に来る抹消たち。溶解させられる思考たち。揺れ動く思考たち。ゼノパティー性の思考たち。視野暗点症にかかった思考たち。精神の蝕たち。
  7 「無限」との交流。《形而上的人間》。宗教狂。
  8 精神病者たちが出会う困難と罠。ブレーキのきかぬ人間。精神的熱病。すさまじい狂気。
  9 速度の喪失。動揺。抑え難い誘導。観念たちの逃走。偏執狂。
  10 至上権妄想。最高妄想。誇大妄想狂。
  11 停止の精神病。緊張症。精神分裂病。人格分裂。
  12 拡張する宇宙との出会い。拡大。制限する力の喪失。浸透の犠牲者たち。
 Ⅵ 人格分裂と第二の意識とについて(ヒステリー、虚言症)

解説
年譜・書誌
訳者あとがき




◆本書より◆


「みじめな奇蹟」より:

「熱帯の海の岸べ、目に見えぬ月の銀色に輝く光の、無数のまばゆい閃きの中、絶え間なく変化しながら、揺れ動く波のうねりの中に……
 沈黙のうちに砕け散る波、閃く水面のかすかな震動の中に、光の斑点に苦しめられながら往復する急速な運動の中に、輝く輪と弓と線とによって引き裂かれる中に、かくれたり、ふたたび現われたりするものの中に、変形したり、ふたたび形をとったり、結合し合ったりしながら、わたしの前で、わたしとともに、わたしの中で、沈みかかった自分をふたたび立て直そうと拡がりながら、踊り続ける光の爆発の中に、耐え難い感情のいらだちの中に、わたしの冷静さが、振動する無限世界の言語によって千度も冒され、無数のひだを持つ巨大な流動状の線の群によって正弦曲線状に浸蝕される中に、わたしはいた、そしてわたしはいなかった。わたしはとらえられ、われを失い、最大の遍在状態(ユビキテ)の中にいた。幾千もの微かなざわめきが、わたしを無数の断片に切り刻んでいた。」



「深淵による認識」より:

「何世紀も前から、何千年も前から、どこででも、どの国ででも、精神病者は嘆いてきた。彼は、自分が自分の肉体のそばにいると言う。自分の肉体が別のところにあると言う。誰かが彼の肉体を彼から奪い取ったと言う。自分は屍体を身につけていると言う。自分の肉体が空洞だと言う。誰かが彼の肉体を変えてしまったと言う。自分は生きた死人だと言う。(中略)彼は言う、自分にはもはや重さがない、自分はひとりの天使だ、自分はもはや一個の風船もしくはボールにすぎない、と。さらにより適切に(彼が感じている質量と不透明さとの欠如の、見事な置き換え)、自分は透明だ、自分はガラスでできている! と。そして彼は壊れるのを恐れる……。彼はこうも言う、自分はからっぽだ、人形に変えられた、自分にはもう諸器官も、腸も、胃もない、だから自分はもう物を食べてはいけないのだ、自分は人工的なものだ、模造品だ、他人が自分の肉体を占めている……等々というわけだ。
 彼は、真実を認めることのできない人々に、本当のこと以上に本当のことを言う。彼はその人たちに自分を理解させようと空しく試みる。周知のように、金持ちほど他人の話に耳を傾けようとしない者はない。どの分野ででも、窮乏は裕福な者たちに実感させるのが最も難しいものだ。その上、彼は、彼の悲惨な状態が彼を立ち戻らせた基本言語としての、詩的な文体を使用する。ところが、その詩的な文体を、他人は理解することができず、例外的にしか、また単に《特殊性》としてしか、許容することができない。」

「彼はもはや親しい人々を見分けられない。彼は自分をよそ者だと感じる。彼は、自分の両親、自分の知人たちを《見知らぬ人々》だと感じる。彼にとって、彼らは別人になってしまった。不思議なことだが本当なのだ。あり得ないことだが確かなのだ。」

「不幸なことだが、精神病者の問題は、彼がいつでも、巨大で並外れた、ある突飛な事件に直面しているということだ。」

「自分自身から疎外された人間。周囲の人たちからも疎外された人間。」
「自分という存在の城をもはや全く識別できないということはまた、様々な事物をもはや以前のようには識別できないということでもある。(中略)自分自身から疎外された彼は、事物たちから疎外され、事物たちは彼から疎外されている。彼はもはやそれらを当てにすることはできない。(中略)事物の疎外が、事物の価値喪失、機能退化のようなものが、始まった。彼は、彼の体験するあの誰からも見捨てられた恐ろしい状態の時にでも、自分が非常に必要としている強固な世界への信頼のために、事物たちを、それらの物質(マチエール)を、当てにすることができない。」




こちらもご参照下さい:

アンリ・ミショー 『みじめな奇蹟』 (小海永二 訳)
アンリ・ミショー 『荒れ騒ぐ無限』 (小海永二 訳)
アントナン・アルトー 『神の裁きと訣別するため』 (宇野邦一 訳)






































































































































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