小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅱ』 (全四巻)

「われわれはまた、人間狩りにも出かけて行った。人間、この退化した種族!」
(アンリ・ミショー 「昆虫の国での数日間のわが生活」 より)


小海永二 訳 
『アンリ・ミショー全集 Ⅱ』


青土社 
昭和61年12月10日 印刷
昭和61年12月20日 発行
1013p 
菊判 丸背布装(背バクラム)上製本 貼函 
定価7,800円
装幀: 高麗隆彦
限定八〇〇部



本書「解説」より:

「本巻には、アンリ・ミショー後半生の主要な詩集および詩的エッセー集(一九五四~一九八五)を収め、それらを刊行年順に配列した。」


小海永二個人訳『アンリ・ミショー全集』の新版(旧版は全三巻)。


ミショー全集Ⅱ


目次:

閂に向きあって
 I ムーヴマン
 II 力のための詩 
  おれは漕ぐ
  海と砂漠を横切って
  行動するのだ、わたしは来る
 III 知識の薄片
 IV 政治情勢の秘密
 V 見知らぬ人が語る
 VI 昆虫の国での数日間のわが生活
 VII 未知の人からの便り
 VIII 個人的なこと
 IX 雑報記事
 X ……だろう
 XI 亡霊たちの空間
 XII ある領地の最期
  アニマアルアの別れ
  ある領地の最期
  明日はまだ来ない……
  事故の後で
  彼女はこのような女なのだ
  いつももがいて
  死んだモロン女
  不可能な帰国
  若い女魔術師の破壊力のある輪の中で

夢の見方・眼覚め方
 I
 夢のカーテン
 夜の気質
 いくつかの夢 いくつかの備考
  I 水面下の歩行
  II オペラ座のそばの湖
  III ユグルタの新たな戦争
  IV シナでの試験
  V 檻の中のライオン
  VI 眠る大豹
  VII ヴェニスの溺死者
  VIII 部屋の中の山
 変形
  (a) 落ちた歯
  (b) 飛翔
  (c) 二度目の飛翔
  (d) 相変らず同じ計画
  (e) 犯罪?(犯罪の、また有罪性の、観念の形成)
  (f) 刺されるのを避けなければならない蜜蜂たち
  (g) 拡がってゆく居住区域
  (h) 裏切り(裏切りの夢の原因の一つ)
  (i) 満員のバスの中で
  (j) 獄中で
 考察
 II
 眼覚めて見る夢

様々の瞬間
 I The thin man (痩せた人間)(マッタの版画の上に投げた視線)
 II 解放された直線たち(マッタの版画の上に投げた視線)
 III 永遠としての影
 IV 線たち
 V 出現と消滅
 VI イニジ
 VII 完全性に向かって(差押えと剥奪)
 VIII 様々の場所、様々の瞬間、「時間」の横断
 IX 日、日々、日々の終わり(パウル・ツェランの最期に関する瞑想)
 X ヤントラ

逃れゆくものに向きあって
 折れた腕
 幻像たちとの関係
 反響の変化する水の中で
 熟視の到来
 アリカンテへの到着
 死なんとしている者

角の杭
 角の杭

求められた道・失われた道・違反
 I 気のふれた人たち
 II 打ち返し
 III 人間への旅の途中で
 IV ブルンジの猿少年
 V 先にやって来た女の使者
 VI 屋根が落ちる時
 VII 沈黙の日々
  上の空で叩かれて、リズムたちが
  地滑り
  沈黙の日々
  波
  意識
  超脱
  屍体発掘
  解放されて
  清澄なもの
  現実的なものがその信頼性を失った時
  ただ一隻の船がすべてのものに答えるだろう
 VIII 選ばれた手

移動と除去
 闇の中から出てくる群衆
 人を寄せつけない旅
 混乱した音楽
 頭をどこに置こう?
  怠惰
  人の飛ぶ平原
  上半身状態
  頭をどこに置こう?
  書き取り
  (襞もなく……)
  (遠くから……)
  (あらゆる方角に……)
  (何年かが……)
  (生まれるのに……)
  (彼らは比較する……)
  舳の上に
 子供たちの試み・子供たちのデッサン
 不意に
 熱狂的な庭
 姿勢
  特権的な姿勢
  姿勢Ⅱ
  姿勢Ⅲ
  姿勢Ⅳ

解説




◆本書より◆


「知識の薄片」より:

「わたしは、《自分は何よりも冬籠りをしたい》と言う生者だった。」

「八歳の時、わたしはまだ植物として認められることを夢見ていた。」



「昆虫の国での数日間のわが生活」より:

「われわれはまた、人間狩りにも出かけて行った。人間、この退化した種族!
 ぼくは、四枚羽の一匹の空飛ぶ毛虫の前胸部にまたがり、連中は、空を飛びながら、人間どもの頭をもぎ取ってみせるのだった、人間どもが、彼ら自身のものである、偽善の匂いのするあの歩き方、辛抱強く規則正しいあの滑稽な歩き方で、歩いている時に。」



「亡霊たちの空間」より:

「……地上よりもずっとひどく、ここでは、弱者たちが苦しんでいます……

 彼らが恐怖心を持つのはどんなに当然のことだったでしょう、その恐怖は不合理で根拠のないもののように見え、人々はその恐怖について彼らに尋ね、彼らを分析し、まるでその恐怖の起源が、原因が、核心が、「過去」の中に、子供時代のみじめな思い出の痙攣的な巣の中にあるかのように、彼らに他のいくつかの恐怖の中を通り抜けさせはしたのですけれど、実は、その恐怖の核心は、「未来」の中に、遠い未来の中にあって、正しい洞察力が彼らにそれを予感させていたのであり、それは、要するに最後のとっておきのものとして彼らを待っている恐ろしいもの、何とも言いようのない不快なものであったのです!」



「事故の後で」より:

「夜の問題はまだ手つかずのままだ。夜の中をどのように通り抜ければよいのだろう、毎回、夜の中をそっくり全部通り抜けるのには?」
「あらゆるものから遠く、見えるものは何もない、けれどもフィルターを通してざわめきのようなものが……」



「夜の気質」より:

「部屋のイメージは、引退者、秘め事、避難所、研究と瞑想の場所などをより良いものと感じる人間、《孤独な》という言葉の方が《相互の》という言葉よりも、また《家族の》という言葉よりもずっと多くを語っていると考える人間、内部の改造ということが何事かを語りかけ、外的な野心などは大して重要でないとする人間、そのような人間の中に示される。そのことは、直接的なコミュニケーションの方を特に向いてはいない人物、ちょっとでも外出するや否や、すべての仲間づき合いから(たとえそれが最良のものであっても)離れておのれを取戻し、立ち直ることが必要な、特に開かれた場所や集会やグループによる宣言などの外にいることが必要な人物に、あてはまる。
 従って、わたしはそこに、一種の有罪性を、《閉じこもってひとりで》生きることが心貧しく不完全なことであるかのようにわたしに示すために作られた一種のしるし(シーニュ)を、見るどころか、むしろわたしは、わたしがそこで安心していると主張する人間の言うことを信じるだろう。」

「多分、夜の暗黒の中で、わたしを腐らせた一日の後で、それは《安心していい、お前にはまだ一つの部屋があるんだ》と言っているのだ。」



「折れた腕」より:

「忘れてはならなかった。愚かにもそれを訓練して、第二の右腕にしようと試みることもまた、してはいけないことだった。特に、左手を右手の模造品にすることは。」
「わたしは左手の右手との違いを維持することを熱望していた。その個性をもっと十分に発揮させ、確立させなければならなかった。左手のダンス。左手のパントマイム。左手の様式(スタイル)。何と楽しいことだろう! 左手が自己表現をできるように、自分自身であるように、純粋の左、もっぱら《左》であるように、してやることは、何という勝利だろう。

 たとえ左手が今はまだどんなに能力に乏しくとも、それの進歩は無価値なことではなかった。だが、それをひとりの名人に仕上げることが問題になっていたわけではなかった。

 左手の役割は別なのだ。もしも左手が輝かしいものになれば、それは自らの存在(エートル)を失うだろう、そしてその存在(エートル)の方がずっと重要なのであり、左手はその存在(エートル)によってひそかにわたしと関係づけられているのである。わたしは確かに左手の存在(エートル)を必要としている。あまりにも活動的で、あまりにも有能な右手には(そしてその右手に関わる脳髄の地帯(ゾーン)には)感じ取れない現実の特殊な局面とも調和してゆくために、誰でも左手の存在(エートル)が必要なのである。

 人間は多分、目立たず、活動的でなく、ある不思議なやり方で控え目に感じ取り、遠くにいて、積極的に加わろうとせず、植物的なものやひそかなものや裏側やの近くにいようとする左手の性向を、必要としているのである。

 全く関心を持たず、干渉せず、深く入りこんでゆくもの。神秘的なものへの準備。潜在意識の中への滑りゆく下降。

 多分、左手は、あまりにも存在しすぎあまりにも直接的であまりにも力に味方しすぎる右手の、その効果を弱めるのを助け、また、征服と干渉と野心という価値への要求と夢想とを、収縮させるのに協力しているに違いない。」

「左側の諸性向は重要である。(中略)左側に忠実なままでいなければならない。」



「反響の変化する水の中で」より:

「アフリカに、人々が小屋の中で、あるいは小屋の外ででも誰にも迷惑をかけず誰の心をも捕えることなく、自分ひとりのためだけに演奏する、やっと聞こえるか聞こえないかぐらいの、ある楽器が存在する。村の鍛冶屋の手で、見たところ無造作に、思いのままに作られた、初歩的で古風なサンザス(それがこの楽器の名前だ)、他のものと同じものは一つとしてないこの楽器は、どんなメロディーでも多かれ少なかれ長く続くものには適せず、どんな音階にも支配されない。
 アナーキーな、つぶやきの音楽。競争用の音楽や構成された音楽とは正反対の音楽。夢見るようにうっとりと、世界中のすべての騒がしさから自分の気を静めるための、楽器。
 個人で聞く楽器。その楽器ならわたしの気に入るに違いなかった……」



「子供たちの試み・子供たちのデッサン」より:

「あらゆる種類の子供たちの中で、最も開かれ方の少ない子供たちがいる、そしてまさに彼らのデッサンは――運命の皮肉――他の子供たちの場合よりもずっと、彼らのかくされた内部を明らかにするだろう。」

「拒否。参加への、食べることへの、話すことへの、歩行への、遊びに対してすら、それへのノン。
 人々が思っているよりも強く、子供は、立ち止まりたいという気持ちを、人々が彼を導く発展への道の上に、果てしない努力へ、常により複雑な修業へと、連れて行かれるままにはもうなりたくないという気持ちを、知っている。彼は続けるのだろうか? それとも立ち止まろうとしているのだろうか?

 彼らが何の事件も起らない世界の中にいた時から、ほんの数十か月しか経っていない。そこでは、何の問題もなく、探求も、努力も不要だった。食べるために咀嚼用の筋肉を動かす必要もなかった。今では、昇り、降り、跳び、ふり返るために、あれこれのために、またぐために、運動の不断の調整を学ばなければならず、それを常にくり返し、完全なものにして行かなければならない。
 前には、何もせずとも、彼は常に、母なる島に、泉に、普遍的なものに、達していた。

 嫌悪。反発。肉体の何らかの漠然とした欠陥が、彼を当惑させ、彼をつかまえる。彼にはいくつかの故障がある。彼はそれらをさらにつけ加える。彼はそれらを選択する。拒否。抵抗。無言。」

「黙って彼は大人たちに、また彼と同年齢の屈服した少年たちと少女たちに、別れを告げた。
 彼にはもう仲間はいない、仲間たちは《成人社会に》加入するために行ってしまった。
 出発点への帰還、袋小路になった隠れ家。それは苦行でもある。それをそのように呼ぶことができる。ひとりの子供の不幸な苦行。そしてそれは何と長く続くのだろう! それが彼を今閉じこめられた状態にしている。」

「しかしながら、脳の活動はその全体が動かぬままでいることはできないので、こっそりと局部的な過剰活動に熱中した知恵おくれの子供が、ある日、誰もが驚くことに、中世の、あるいはプトレマイオス王朝期のエジプトの、ある一日から今日までに経過した時間のある巨大な数値を、求めに応じて、驚くべき早さで心の中で計算することのできる、並外れた計算家であることを、示してみせたりすることがある。彼は、全く別の空しい算術的壮挙にも成功する。
 全体的な無関心状態(アパシー)の下に、一つの局部的な動員がかくされていたのである。それは、沈黙のうちに維持され、発展し、彼が長い夜を過ごすのを助けていたのだった。
 孤立した、不十分な技量、だが、他の人々がそれに気づいた時、それでもやはり一つの旗が、彼の旗が、そこに、高くかかげられていたのである。」








































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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